言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
食欲の秋ということで、まあ、あんまり食べ物に集中できなかった感じだけど。
何となく落ち込んで美味しいものを食べる、というのが一番わかりやすい気がして書いてしまいますね。
焼き芋と栗ご飯とさんま。おいしいねー。
おなかがすいたのでお昼ご飯を食べてきます。
10月①
「芋があるなら焼くしかねえだろ」
「あるならじゃねえだろ、買ってきたの俺だよ」
「また、面倒なことしよるのう……」
「遅刻者にはなし!」
「いらんわい」
面倒な学校行事の中でもダントツで人気のない、地域清掃活動。地域との交流をなんて都合よく理由をつけるが地域の参加者など嫌々出てきた役員の保護者ばかりで、暇を持て余す老人会がお揃いのゼッケンで出てくるだけまだましというものだ。
私立のくせに、と散々騒いでいた昨日の丸井はどこへやら、今日は鮮やかな山吹のジャージの代わりに学校のジャージ姿で竹ぼうきを握っている。
そして少しずつ山にされていく落ち葉のそばには、さつまいもの飛び出したレジ袋があった。
「ジャッカルもお守りばっか大変じゃのう」
「あ、やっと来たね」
落ち葉を集めたゴミ袋を持ってきた幸村は楽しそうだ。復帰後最初の学校行事の体育祭はだいたいを夏前に決めてしまっていたため、ほとんど出番がなかった。そのせいか今回は妙に気合いが入っている。
「仁王!なんだその格好は!」
「うっさいのう、ジャージで来ただけましじゃろ」
「自分で言うか。しかもそれ、パジャマだろぃ」
「どーでもいいが何度見ても真田はそのジャージ似合わんのう」
やかましい!と一喝し、真田はくどくどお説教を始めた。適当に聞いているふりをしながら真田の全身を眺める。紺をベースにしたよくある学校指定のジャージで、学年色の緑が腕と腿にデザインされている。確かにださいことに変わりはないが、丸井辺りだとそれなりに着こなしてしまうのに、それが真田だとどうしてこうも似合わ
ないのだろうか。こんなもの、大抵の人間には似合うはずなのだが。
「おや仁王くん、結局来たんですね」
柳生の助け舟に振り返る。似合わないのがもうひとりいた。ゴルフよりもゲートボールをさせたくなる。
「そんな姿ですから、どこのご老人が紛れ込んだのかと思いましたよ」
「やかましわい。ジャージ行方不明なんじゃ」
「まだ見つかってないのですか。あきらめて購入されては?」
「あと半年じゃけんええよ」
「盗まれたんだっけ、仁王のジャージ。もてるのも大変だね」
「幸村が言っても嫌味だな」
「どうせなくしただけだろう。まったく、たるんどるな」
「幸村くん葉っぱもっと!」
「はいはい」
うやむやになったので真田から逃げ出し、丸井のそばへ寄る。動き回っている彼は額に汗を浮かべているが、仁王は少し肌寒い。
「火をもらってきた」
「柳サンキュー!つけてつけて、ジャッカル新聞は?」
「ほらよ」
「それからアルミホイルも」
「おーっ、いいねいいね!わくわくしてきた!」
「元気じゃのう……こんなとこで火ィつけてええんか?」
「ばっか、子ども会のアイドル丸井ブン太様を舐めんなよ」
「ブン太を気に入ってる大人は多いからな。挨拶がてらにお願いしていたんだ」
「でもちゃんと消火器借りてきたぜぃ。真田が大人みたいなもんだからいいだろ、って言ったらみんな納得した
し」
「弦一郎はあのジャージでなければ間違いなく保護者にしか見えないだろうな」
「さっきあのジャージでも間違えられてたよ」
山になった落ち葉の中に、火をつけた新聞紙を入れて幸村は笑う。部活を引退して、こうして揃って笑い合うの
は久しぶりだ。
「あっ、仁王!」
「げっ!」
担任教師に見つかってとっさに走り出す。サンダルで来た自分を恨みながら全力を出したが、結局体育教師に捕まった。真田に聞いたお説教と似たようなことを再び聞かされ、挙げ句主婦に混ざってゴミ分別をさせられてしまった。休んで後日反省文の方がよっぽどましだったかもしれない。
(しんど……)
トイレに、と逃げ出して車の陰に座り込む。軍手を投げ捨てて頭をかいた。あのババァども、好きにこき使いや
がって。こんな姿の仁王が案外愛想よく振る舞うので、便利だとわかったらしい。そう動いたとも思えないが、
暑くてジャージを脱ぎ捨てる。
「仁王」
「……好きなだけ笑えー」
「うっわ卑屈!はい」
配られた、と差し出された缶ジュースを受け取る。疲れた様子の仁王を笑いながら、丸井も隣に座り込んだ。
「焼き芋食う?」
「ええわ」
「何だよー、マジうまいんだぜ」
ビニール袋から取り出した焼き芋を半分に割り、ほら、と見せつけてくるのでやんわり顔をそらす。コーラを開
けて喉に流し込んだ。丸井は湯気を立てる焼き芋にかぶりつく。
「しやわせ……」
「……簡単じゃのう」
「ばーか、お前の隣にいるから幸せなんだぜ」
「……ほんま、かなわん……」
「赤也も来てんだ、後で戻ろうぜ」
「後でな」
口に出せない同じ気持ちの代わりに肩を抱き寄せた。
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10月②
「栗?」
「そう、今日うち栗ご飯なんだぜぃ」
机の上に置かれたざるから栗をひとつつまみ上げる。どんぐりではない栗を久しぶりに見た。いや、どんぐりもしばらく見ていない。最近は甘栗も剥いてあるから珍しがって見ていると、丸井はさっさと机にスペースを開けてホットプレートを出してくる。
「ばあちゃんちから送ってきてさ、さっきまで剥いてたんだ。そこ、はさみあるだろ。暇ならやっといて」
「えー、なんそれ」
「お前の方が器用じゃん」
ざるに入っていたはさみを持ち上げる。はさみと言うよりもはさみの部分はペンチに近いように思える。工具のようだ。
「これどうやんの」
「普通に」
「わからんから聞いとるの」
「だから、貸して」
栗とはさみを渡すとそばにあったビニール袋を引き寄せ、その上ではさみを使い出す。外の固い殻を割り、さっさとそれをはがしてしまって削るように渋皮を剥いていく。生まれ変わったようなクリーム色が見えてきたが、生の栗はおいしそうには見えない。もっとも、見た目で言うなら甘栗も似たようなものだ。剥けたものはざるとは別のボールに入れて、丸井ははさみを返してくる。
「じゃあ、俺昼飯作るから」
「客にさせるか~?」
「家族みてえなもんじゃん。やべ、早く焼かねえと帰ってくる」
高校生になった丸井はいつも忙しそうにしている。母親が働きに出ることになったようで、中学のときよりも時間に余裕のできた丸井がその分家の仕事をすることが増えた。──否、時間に余裕ができたわけじゃない。そうと気づかせていないが、時間を作っているのだ。クラスメイトと遊ぶ時間を減らし、テニスの自主トレを夜から朝にして。
ホットプレートに落とされたのはホットケーキのタネだ。黒いぶつぶつしたものが無数に入っていてぎょっとすると、かぼちゃ入れたんだ、と笑う。
「皮入れようか迷ったんだけど、入ってりゃ何かわかるじゃん。にんじんもあるからさ」
「また細かいことを……」
「すりおろして入れるだけだぜぃ」
「ブンちゃんはいいお嫁さんになるぜよ」
「栗ぐらい剥いてくれる旦那じゃねえともらってやらねえぞ」
「人使いの荒い嫁じゃ……」
たまの休みも弟の世話で、しばらくデートらしいことはしていない。それでも不満はなかった。中学の頃の丸井はなかなか捕まらなくて、嫉妬を見せるのが恥ずかしかった仁王はいつでも楽しんできて、と見送ってばかりだったのだ。今こうしていられることは、独り占めをしているようで居心地がいい。
手を切るなよ、とからかわれながら栗を剥いていく。慣れの違いか丸井のようにきれいにはいかず、随分身を削ったがそれでも手を動か続けた。ホットケーキを焼く甘い匂いが静かな部屋に広がる。
「……にお、」
「ただいまー!」
「……なんでもない」
笑ってホットケーキをひっくり返し、丸井は玄関に弟を迎えに行く。明るい声と笑顔でおかえりー!と出迎え、自分によく似た幼い弟を抱きしめている。
「おなかすいた!」
「今ホットケーキ焼いてる」
「やった!」
「その前にお願いがある。帰ってきたとこで悪いけど、お使い行ってきてくれよ」
「え……ブンちゃんは?」
「俺はホットケーキ作る係。だからお前は、シロップを買ってくる係」
「……ひとりで?」
「そう。この間ふたりで行ったから大丈夫だよな」
「……わかった!」
「よぉし!じゃあお金はこれな。シロップの場所わからなかったら店員さんに聞けよ。まあ、多分今なら田中くんちのお母さんいるから聞きな」
「うん」
「行ってらっしゃい」
ラケットを受け取って弟を見送る。気をつけろよ、と声をかけて戻ってきた丸井は笑顔だ。弟がかわいくて仕方ないのだろう。今日はテニスクラブに行っていたはずだ。腹も減っているだろうがスーパーは目と鼻の先、すぐに帰ってくるだろう。
「何言いかけたん?」
「なんでもねえよ。バターならあるけど先に食う?」
「後でええ」
キツネ色の表面を確認して、次々とホットケーキを焼き上げていく。丸井はこちらを見ない。
「ブン太」
「何?」
「俺こんなに頑張っとるんじゃから、栗ご飯食ってもええよな」
「え、マジで食う?でも今日おやじも早いって言ってたから」
「やけん、うちまで持ってきて」
「……はあ?」
「そんで、ついでにブン太も食えたら文句ないんじゃけど」
「……俺がついでかよ」
怒るよりも吹き出してしまった丸井は笑いながらにんじん入りのホットケーキをひっくり返した。ほんのりオレンジに色づくホットケーキは、にんじん嫌いの次男のためのものだ。
「そんで、ブン太はついでに俺に甘えたらええよ」
「……そうする」
口元を緩めて笑う丸井は随分大人っぽくなった。周りの評価も同様で、久しぶりに中等部に顔を出せば教師が落ち着いた、などとよく言っている。でもそれは、同じように演技をしてきた仁王ならばわかる、精一杯の虚勢だ。ブン太、テニスは難しいな。
丸井が部活をさぼったのは高校へ上がってから初めてだった。楽しくテニスをしている弟の帰りはもうすぐだろう。
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10月③
放っておくとすぐこうだ。洗い物のたまった台所に立ち、顔をしかめてどこから手をつけようか考える。ともかく新しい生命体の生まれていそうな鍋は後回しにするとして、お湯だけ注ぎ込んで食器を片づけ始めた。この様子だと数日カップめんで生活していそうだから、ポットのお湯だけは新しいだろう。
せめて水につけていてくれればまだましだというのに。汚れのこびりついた皿をこすっていると、がちゃりとドアが開いた。家主が帰ってきたようだ。
「誰~?泥棒さん盗るもんないじゃろ……ああ、この靴ブンちゃんか。結局あのブーツ買ったんか」
「お帰り」
「来るなら来るって言っといてよ~、ゴムきれとるのに~」
「お前な」
台所から顔を出すと大きなあくびを隠さず仁王が入ってきた。丸井が片づけをしていたと気づき、よう触るな、と言うので蹴ってやる。
「食器貯めるなら料理すんなよ!」
「たまーに目玉焼きが食べたくなるときってあるじゃろ?やけん」
「片づけられないのに出すなっつってんの!」
「だってブンちゃんが片づけてくれるからー」
「……ダメ男……」
「晩ご飯何?」
「マジむかつく!」
洗い物に戻ると仁王がついてきたが無視をする。出来もしないのにひとり暮らしなどと、よく親が許したものだ。学生とはいえ親に甘えすぎだろう。
泡を飛ばしながら食器を洗う丸井を、背中に張りつくように仁王が抱きしめた。特にリアクションもせずに受け入れてやる。仁王も何も言わず、小さな溜息をついたり丸井の髪に鼻先をうずめたりしていた。
何も言わなくてもわかる、だなんて言うつもりはない。それでも、求められていることだけをしていればいいとわかっている。気にかけたところで余計なお世話、で終わりだ。
「……ブンちゃん、俺、ちょっと落ち込んどるん」
「そうかよ」
「ひと晩飲み明かして、それでも持ち上がらん」
「うまいもん食えば元気になるよ」
「そらブンちゃんはな。何奢ってくれんの?」
「柳生が夜には帰るだろうってメールくれたからさ、晩飯の材料買ってきた。食うだろ?」
「……柳生はなんでもてんのかのう」
「よすぎて気持ち悪いんじゃねえの?あ、大根」
「は?」
「大根買ってきて」
「……大根」
「そう。やっぱ大根ないとなー。その間に準備しとくからよ」
「……りょーかい」
背中を見送って溜息をつく。落ち込んでいる、と伝えてくるようになっただけましか。仁王の不機嫌の理由がわからずに喧嘩をしたことは1度や2度ではないが、この年になってようやく弱みを見せてくるようになった。それでもまだ相談相手として選ばれないことに不満がないわけではないが、きっと仁王の悩み事に的確なアドバイスはできないだろう。
さっさと台所を片づけ、グリルを見るとここはきれいだ。大体予想はついていたので、夕食はさんまを焼くつもりにしている。コンロが汚いがそれは後回しにしよう。ご飯は家から炊きたてを持ってきた。卵焼きを焼いて味
噌汁、それでいいだろう。
支度をしながらふと思い立ち、ゴム買ってくれば?とメールを送ってやる。返信は早く、じっくり選んで帰る、の文面に口元を緩める。それでいい。どうせ泊まるつもりだったし、丸井にはこれ以外に時間の埋め方を知らない。
仁王が帰ってきた頃にはほとんど夕食はできていて、味噌汁、とつぶやいて仁王が入ってくる。
「お帰り」
「味噌汁食ってええ?」
「いいよ。大根貸して」
仁王が鍋の前に立ち、椀に注いで立ったまま口をつける。受け取ったレジ袋には大根しか入っていない。行儀が悪いと口では言いながら、隣で大根を切って大根おろしを作り始める。
「……いい匂い。うまい。他は何?」
「さんま焼いてる」
「……ああ、秋なんじゃな」
「秋だよ。食欲の秋だ」
「……今度、なんか食いに行こうか」
「お前の奢りな」
さんまも焼き上がり、改めてテーブルに着く。会話はあまりなかったが、仁王が文句を言わずに食べたがらいいだろう。魚を食べるのが面倒と言わないから、まだ落ち込み方もましだ。
「泊まれるん?」
「いいよ」
その日はただ抱きしめられただけの夜を過ごした。そんな日もあるだろう。
「……ブン太、したい?」
「ちょっとね。でも眠いからもう寝ようぜ」
「おいしかったよ」
「たりめーだ」
仁王の体を抱き返して胸元に額をすりつける。
仁王が食を楽しんだならかまわない。
「……ありがと」