忍者ブログ

言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.04.Sat
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2014'10.15.Wed
最近めっきりご無沙汰だったが、そういえば全く女と縁のないタイプではなかった、などと、マルコは今しがた届いたメールを見て思い出していた。

自画自賛をするつもりではないが、人当たりは悪くなく、よほど馬が合わない限り誰とでもつき合えるタイプだと自負している。事実明確に負の感情を向けられたのは、初めに勤めた会社を辞めたときに上司に睨まれたときぐらいなもので、あのときも周囲からは同情的な目を向けられた。遊んできたつもりはないが女性関係もそれなりで、ここ数年は珍しく縁がないが、高校時代からあまりひとりでいたことがない。

それはさておき。

今はフリーライターをしているマルコが先日取材したカフェのオーナーから、忘れ物をしていないかという旨のメールが送られてきた。貼付されていた写真は、まさしく探していた携帯のストラップだ。気づいたときには紐だけが寂しく垂れており、どこかで落としたのだろうかとあきらめていたのだが、見つかってマルコは安心した。近いうちに取りに行かせてほしいと送ったメールの返事から、冒頭に至る。

『よかったらお食事に行きませんか?この間はお仕事の話しかできなかったので、いろいろお話聞きたいです』

マルコじゃなくともある程度の社会経験があれば誰だって、それが社交辞令かどうかぐらいはわかるだろう。

ショートカットのよく似合う、さっぱりした女性だった。手作り雑貨の販売もする小さなカフェをひとりで切り盛りしていて、マルコとは10歳ほど離れていただろうか。40も越えれば10ぐらいは大した差には思えなかった。気が合えば関係は続くだろうし、合わなければ一度で終わる。そんなことはそれなりに社会で過ごせば何度かあることだった。



店の場所はマルコが決めた。前から少し気になっていたレストランは雑誌でも見たことがあり、いつか行こうと思っていた店だ。金曜日の夜でも待ち時間なく入ることができたが、料理を待つ間に客は増えてきたようで、タイミングが良かっただけのようだ。

「そうだ、忘れないうちにお渡ししておきますね」

簡単に挨拶と天気の話などをした後に、彼女は先にマルコの忘れ物を取り出した。店で使っているものか、小さなクラフト紙の袋に入れられたそれを受け取る。封を開けて中身を取り出し、確認すると間違いなくマルコのものだ。

「ありがとうございます。お手数おかけしてすみません」

「いいえ、大したことでは。大切なものでしたか?」

「え?」

「顔が緩みました」

「……はは」

マルコは誤魔化すように口元に手を当てた。無意識にどんな表情をしたのかわからないが、やたらと恥ずかしい。

間もなく1品目が運ばれてきて、マルコはストラップを袋に戻して鞄にしまう。今度はなくさないようにしなければ。

気を取り直してスープを口にする。冷たいスープはさっぱりとして、好きな味だ、と思いじっくり味わう。

「それより、よく僕のだとわかりましたね」

「取材中に携帯取り出したとき、意外なストラップつけてるなと思って見てたんです」

「意外ですか?」

「んー、というか、ストラップをつけてることが意外で。他の持ち物は全部シンプルでしたから」

「女性はよく見てますね。確かに、もらいものです」

「あら、じゃあ見つけてよかった」

「諦めていたので嬉しかったです」

「いいえ、大したことじゃ。それに、お話したかったのは本当ですから」

「そうですねぇ、どちらも会社が合わずに辞めた同士ですし」

「ですねぇ」

料理はおいしく、話は弾む。久しぶりの感覚で、新鮮に思える時間だった。



*



次の日、マルコは友人のジャンからの連絡を受けて、待ち合わせ場所に立っていた。高校時代からの友人は家庭を持った今でもマルコと親しくつき合ってくれている。彼らの微笑ましい家族の姿を羨ましいと思うことはないことはないが、まるで親戚のようにつき合っているからか、自分には手が届かないと諦めてしまっているのか、自分でも定かではないがとにかくいい関係だった。仲のいい、理想的とも言える家族だろう。それでもマルコが自分で家族を持つことを考えられないのは何故なのか、立ち止まって考えれば結婚もあったのかもしれないが、もう過ぎた話だ。

昨日のことを思い出し、悪くない人だったな、と考える。それでも、また機会があれば食事でも、と口にした言葉は、マルコにとっては社交辞令以上のものにはならなかった。

昨日は楽しかったです、という旨のメールに何と返すか迷っているうちに、待ち合わせの相手がやってきた。マルコは寄りかかっていた車から体を離し、彼女に向かって手を挙げる。

「メアリー!」

きょろきょろと辺りをうかがっていた彼女はマルコに気づき、ぱっと明るい笑顔を見せて走り寄ってくる。中学校の制服を翻してマルコの胸に飛び込む、無邪気な少女を受け止めた。

「マルコ!お迎えありがとう」

「お姫様のためならいつだって」

「うふっ」

メアリーは上機嫌だが、帰宅中の中学生に視線を向けられ、マルコは彼女を離した。助手席のドアを開けてメアリーを車に乗せ、自分もすぐに運転席に回った。

「じゃあ行こうか」

「はぁい。マルコありがとう」

「おやすいご用です」

笑って答え、車を走らせる。

メアリーの祖母が旅先でぎっくり腰になり、迎えに行くことになったと慌てた様子のジャンから連絡が入ったのは昼過ぎだ。母親を大事にしている彼にとっては一大事だっただろう。平静を装ってはいるが言葉の端々に動揺が見え、そのためだろう、電話を代わったジャンの妻が、ふたりで迎えに行くことにしたと説明する。要するにマルコのところに電話があったのは、その間中学生の娘を預かってほしいという話だった。いつ帰れるのかはっきりわからない状態で、娘を溺愛するジャンはこの子にひとりで留守番をさせる選択肢は頭にないだろう。

「おばあちゃんには悪いけど、マルコのうちにお泊まり嬉しいな」

「久しぶりだもんね。中学生になったら忙しくなっちゃったから」

「また試合見に来てね」

「もちろん」

父親譲りの運動神経を発揮、メアリーはバスケ部で活躍中だ。小学生の頃は毎週のように遊んでいたが部活を始めてからはなかなか気軽に会えなくなっていた。泊まりになるかはわからないが着替えは念のため預かってきている。

ポケットで携帯が振動し、運転しながら取り出してちらりと画面を見るとジャンからの電話だった。メアリーと合流したら連絡する約束だったことを思い出して苦笑し、助手席のメアリーにそのまま横流しする。

「パパからだ。代わりに出てもらえる?」

「うん。……もしもし、パパ?」

怒鳴ったやろうと意気込んでいたに違いないジャンは、メアリーの声を聞いてどんなリアクションをしただろうか。メアリーは父親の愛の深さを知っているので、過剰な心配にも慣れている。怒鳴られたところで笑うだけで、ショックを受けるのはジャンだろう。

「うん、マルコが迎えにきてくれたよ!……え〜、いいよ〜急がなくて〜。マルコと一緒だから大丈夫!ねえ、おばあちゃんは?代わってよ」

電話口から聞こえる声が女性のものに変わった。明るく話し続けるメアリーと違い、しゅんと落ち込むジャンの姿を想像して笑ってしまう。まもなく話が終わったのか、メアリーが一度マルコを見たが運転中なのでそのまま電話を切ってもらった。

「ねえマルコ」

「何?どこか寄る?」

「ううん。あのね、ストラップどうしたの?」

「ああ、この間取れてしまって。大丈夫、家にはあるよ」

「よかった。じゃあつけ直してあげるね」

「ほんとに?ありがとう。でもまたなくすの嫌だから、もう家においておこうかな」

「え〜、なくなったらまた作るから使ってよ〜」

メアリーが膝に抱いたスクールバッグで、ビーズ細工のストラップが揺れる。それはマルコが家に残してきたものと色違いだ。手先の器用なメアリーの作ったおそろいのストラップを、一度でもなくしたことが悔やまれる。あのサプライズのプレゼントは本当に嬉しかったのだ。

「じゃあストラップを直してくれるメアリーにはお礼をしないとね」

「何?」

「おいしいレストラン見つけたんだ。メアリーの口に合うと思うから、一緒に行こうと思って」

「楽しみ!」

「まだ早いからお茶でもしにいく?」

「おうちがいいな。宿題あるし、マルコ教えてよ」

「えー、わかるかなぁ」

下見ができていてよかった、と思いながらマルコは車を走らせる。ひとりのときよりも安全運転を心がけているドライブは、短い距離でも楽しいものだった。
PR
2014'09.15.Mon
「飽きない?」

「飽きない」

至って自然に答えたはずが、アルミンはなぜか吹き出した。ジャンが睨むとごめんとあっさり謝り、ベッドのそばへ寄ってくる。シーツのど真ん中で眠る愛娘はぷうぷうと鼻を鳴らしながらも健やかに眠っており、ジャンはさっきからずっとそばに肘を突いてその姿を眺めていた。小さな手足が時折何かを掴もうとするかのように動くだけで、ジャンが多少頬をつつこうが足の裏をくすぐろうが、起きる気配は全くない。ジャンと子どもを挟むようにアルミンもベッドに腰掛け、指先でそっと前髪を払った。柔らかい毛色はジャンに似た。ジャンはそれが嬉しくて仕方がない。

「さっきまで泣いてたのが嘘みたい」

「ほんとによく寝るんだな。ちょっとつまんねぇ」

「起こさないでよ」

「わかってるよ」

「今のうちに買い物行ってくる。よろしくね」

「おう」

アルミンが部屋を出るのを見送り、ジャンはまた娘に視線を戻した。手の掛からない赤ん坊で、寝ているところを夜泣きで起こされた経験はほとんどない。四六時中一緒にいるアルミンは初めての子どもがいい子で安心しただろうが、ジャンが面倒を見ようと張り切って週末を迎えても、できることは精々おしめを変えることぐらいで少々物足りない。子育てに苦労した親には怒られそうだが、もう少しぐらい困らされたいと思ってしまう。

ふっくらと盛り上がった頬を指先でなぞる。何とも形容しがたい柔らかさはいくら触っていても飽きがこない。緩く握られた小さな手の中に指を差し入れる。大人の男の指を握るのがやっとという小ささに頬が緩んだ。

昔から子どもが好きだったわけではない。決して嫌いではないが、結婚するまではそこまで深く考えたことがなかった。アルミンと結婚してからも、難しく考えることなく、自然とほしいと思えたのだ。生まれてからは日々この小さな命が愛おしくて仕方がない。案の定、とでもいうのか、この子が誰かを選ぶ日が来るのだと思うとやるせない。せめてパパを嫌いにならないでくれよ、と戯れにつぶやき、身を乗り出して小さな額に唇を当てた。指を握られた気がして体を離せば、つぶらな瞳がくるんとジャンを見上げている。

「やべ、起きた」

しかしジャンの頬は緩んだ。おはよう、と囁いても返事はないが、泣き出しもせずジャンを見ている。

自分の子が生まれる前に友人のところに、男の子が生まれた。それを見に行ったときにもかわいいと感じたが、自分の子はその比ではない。やっぱり男より女だよなぁ、と娘の一挙一動に振り回されている。

いつでも、どんなときでも、守ってやろうと強く誓った。きっとそれは一生続くだろう。

ドアの音がして、はっと我に返った。アルミンが静かに気をつけて入ってくる気配に、ジャンはとっさにベッドに伏せて寝た振りをする。足音が近づいてくるのを緊張しながら聞いた。

「あら、起きちゃったの。いつもはぐっすりなのにね」

アルミンが娘を抱き上げ、ジャンの指から娘の体温が離れていってしまった。余計なことを、と思っていると、背中に重力がかかって思わず肩が跳ねた。しまったと思ったときにはもう遅い。

「駄目なパパだね〜娘の睡眠時間を奪っちゃって」

「ご、ごめんなさい」

「もう一回寝かせるから洗濯物入れてきて」

「はい、すいません」

子どもを生んでからアルミンが強くなった気がする。笑顔で繰り出される言葉に逆らえないのはジャンが変わったからではないはずだ。

「あ、オレが寝かせるって手も」

「起こした人は信用しません」

「起こしたわけじゃねーし……」

起きてしまったんだ、という言い訳は通用しないと知りながら、ジャンはつい口にしてしまうのだ。
2014'07.23.Wed
「わっ、懐かしい」

娘が小学校へ上がりしばらく経つ。前から話し合っていた通り、子ども部屋はまだ先にすることにしていたが、先日友達のところへ行ってから、娘はすっかり自分だけの部屋が羨ましくて仕方なくなってしまったらしい。いずれは部屋を分けるつもりであったので、先日から少しずつ、物置状態だった部屋の片づけを進めている。今日は仕事が休みのジャンがおばあちゃん孝行として実家に帰っているので、この機会にとタンスの奥まで手を伸ばしているところだった。

そこから出てきたのは高校の制服だった。特にこれと言って特徴があるわけではなかったが、モスグリーンのチェックのスカートはそれなりに人気はあったのだ。今では変わってしまっているので新鮮にも見える。

今となっては随分昔のことのように思えてしまう。懐かしくもあるが、楽しいことばかりではなかった。今でこそ夫婦と呼べる関係だが、この制服を着ていた頃はまだアルミンの片思いで、他に好きな人がいるジャンを思う日々だった。改めて思うと何が自分を支えていたのか思い出せない。

制服を肩に当てて鏡の前に立ってみる。変わらないと思っているつもりでもそうはいかない。いつまでも若くいたいと日々努力するジャンに遅れをとるわけにはいかずアルミンもどうにか若くあろうとするが、さすがに高校時代の若さとは比べられない。それでもふと、まだいけるんじゃないだろうか、と思ってしまった。

制服を置いていても仕方ないから、これはもう捨ててしまおう。今は誰も家にいなくて、わずかな懐かしさがアルミンを後押しする。

最後にもう一度、袖を通してもいいのではないだろうか。



そうして、アルミンは激しく後悔した。身長はさほど変わっていないし、上半身は問題ない。

「嘘だぁ……」

――まさか、ウエストのホックが止まらないとは思いもしなかったのだ。

考えてみれば、高校時代は一番細かった頃だ。ホックの位置がつけ直してあるほどだが、そうであっても、ショックは隠せない。腰でスカートを押さえて鏡を見る。虚しくなって溜息をついた。痩せよう、と改めて決意する。同時に、不要な服を選別したときに残したボトムの中にも着られないものがある可能性が出てきた。季節はちょうど夏、ダイエットにはもってこいだ。

戒めのためにもう一度鏡を見直して、……アルミンは硬直した。鏡に映り込む人の影。

振り返ると人影はすぐに逃げ出したが、アルミンはためらわず追いかける。寝室に逃げ込み背中に飛びつくように捕まえるが、バランスを崩して一緒にベッドに倒れ込んだ。笑う男、ジャンを睨み、彼が背中に押し込むものを奪おうと手を伸ばすがいなされる。

「携帯貸して!」

「やだ。永久保存する」

「やめて!」

顔が熱くなっている。ジャンは余裕の表情で笑ってアルミンを見上げた。

「いい眺めだな」

ジャンの言葉に少し考え、アルミンははっとして体を引いた。しかしわずかに早く腰を引き寄せられ、ジャンをまたいだまま動けない。

「ちょっとッ!」

「せっかく着たんだからオレにも楽しませろよ」

「やだ!ちょっと……メアリーは!?」

「寝ちゃったから母さんが見てる。一緒に飯どうかって言われたから予備に来たんだけど、戻るのはもうちょっと後でもいいな?」

「よくない!」

「それともオレも制服探してくるか?」

「バカ!」

アルミンが拳を振り上げるとジャンはようやく手を離した。名残惜しげではあるジャンを睨み返し、アルミンは着替えるために立ち上がる。

「お前なんでスカート押さえてんの?」

「……ホックが」

「止まらない?」

「取れてるだけ!」

自分の声が必死すぎることはわかっている。ジャンもアルミンのなけなしの乙女心を理解してくれようとはしたが、結局こらえきれずに吹き出したので、アルミンは今度こそ握った拳を振りきった。
2014'07.13.Sun
「お帰りなさい」

「ただいま」

アルミンが出迎えると、ジャンはいつもと変わらない様子で顔を上げた。目を細めて口角を少し上げる、それが様になることを知っている。それでもアルミンは眉を下げて、ジャンの荷物を受け取った。ジャンはそのまま寝室へ向かっていったが、またすぐに様子を見に行かねばならないだろう。

荷物を置いて夕食を温めようか迷い、アルミンは先にジャンの様子を見に行くことにした。案の定ジャンは着替えることもせず、ベッドに突っ伏して脱力している。ジャン、と呼べばかすかに呻き声がして、ジャンは顔を上げてその正面を見た。

規則正しく、小さな寝息を繰り返す愛娘。そのふっくらとした手のひらに指先を握らせ、ジャンは深く息を吐く。

「お父さんお疲れ様」

ベッドに腰掛けて肩を抱く。少し酒の匂いがする。宴会の場は嫌いではないだろうが、ここしばらく仕事も忙しくしていたようなので流石に疲れていたのだろう。小さな体の温もりにまぶたの下がっていく様子を笑い、肩を叩いた。

「もうご飯いいね、着替えて寝ちゃいなよ」

「ん……風呂行く」

「え?」

「なんかいろんなにおいがする」

「……じゃあほら、沸いてるから」

ジャンを促して背を撫でればのそりと顔を上げる。体を起こし、縋るようにアルミンに顔を寄せてくる。確かに酒と香水、いろんな匂いがしてつい笑ってしまった。ジャンの頬を撫でて額を寄せる。

「こんなおっきい子どもお風呂に入れられないから。ちゃんと自分で立ってくれる?」

「ん」

一度力を抜き切ってしまったせいか、余計に体が重くなったようだ。そのまま寝てしまえば楽だったのだが、ジャンは立ち上がって浴室へ向かっていく。アルミンは娘にタオルケットをかけ直し、ジャンの着替えを持って追いかける。脱ぎ散らかされたスーツを拾って、ふと物音がしないことに気がついた。浴室のドアの向こうに肌色の影は見えるが、そのまま動かない。溜息をつき、アルミンはスーツだけハンガーにかけて再び浴室へと戻る。

アルミンが服を脱いでドアを開ける間もジャンはびくともせず、ドアを開けて始めてはっとして顔を上げた。

「あのねぇ、水場で寝ないでよ。怖いなぁ」

「……何これ、サービス?」

「はいはい、今回だけのサービスですよ」

汗と匂いだけ流してやれば十分だろう。椅子に座ったまま、眠い目をこするジャンの頭を越えてシャワーをひねる。手で温度を確かめてジャンの頭からシャワーをかけた。唸り声がするが気にせず髪を濡らし、適当に髪をかきまぜる。

「おい、オレ犬じゃねえんだけど」

「似たようなもんでしょ。目覚めた?」

「あー、自分でやる、悪い」

アルミンの手からシャワーを取って、ジャンは笑ってアルミンを見上げた。先ほどよりも覚醒した目に、わざと大きく溜息をついて見せる。

「おっきい赤ちゃんだこと」

「悪かったって」

「もういい?」

「なんだよ、折角脱いだんだから一緒に入ろうぜ」

「僕もう入ったの」

「いいじゃねえか。……つーか、できれば、見張ってて」

「……僕もまだ片づけ残ってるんだからねー」

「すぐ済ませる」

しぶしぶアルミンは浴槽に入り、体を洗い始めたジャンを見た。すぐに手が泊止まりそうになるので話しかけて、今日の飲み会で聞いた話や友人の話などを聞き出してどうにか睡魔を追い払う。

「そんなに眠いなら、もうお風呂諦めて寝ちゃえばいいのに」

「かわいい娘に臭いって言われたくねえだろー」

「……ああ、そう」

誰かの香水の匂いに嫉妬できない女でごめんなさいね。思わずぼやくとジャンは驚いた顔をして、すぐに肩を揺らして笑い飛ばした。

「何?」

「信用されてて何よりです」

「わかってていただいて何よりです」
2014'06.28.Sat
「メアリー」

愛しい相手を呼ぶ声は甘く、それはかつて自分に向けられていたものだった。男なんて結局若い女の方がいいんでしょ、とアルミンがからかえば、当然、と堂々とした答えが返ってくる。その頬がみっともないほど緩んでいて、アルミンは怒る気も失せて笑ってしまった。

ジャンの腕の中に収まった小さな娘は両親のやりとりなど知らず、親指を吸ってうとうとと舟をこいでいる。それを邪魔するようにジャンが額に唇を落とせば丸い瞳はジャンを見上げるが、すぐにまた瞼が下がった。

「もうすぐ幼稚園なんて信じられないな」

「いじめられたりしねぇかな」

「ジャンみたいな子がいたらいじめられちゃうかも」

「ぜってー許さねえ」

「自分のこと棚に上げて」

「覚えてねえよ」

「僕はちゃぁんと覚えてるからね」

ジャンとは幼稚園からのつきあいだ。その頃はアルミンに興味がないどころか、鈍くさいだのなんのとアルミンをいじめていたことはしっかり覚えている。知らねえな、と嘯くジャンは笑っていた。

名残惜しげに、ジャンは眠りに落ちた娘をベッドにおろした。自分のものより高い体温の生き物を手放すときに感じるもの悲しさを、アルミンも知っている。体に合わないほど大きく上下する腹に布団をかけて、ジャンは指先で娘の額を撫でた。

「もし、僕とメアリーのどちらかしか助けられない状況になったら、ジャンはどうする?」

「そりゃ、メアリーを助けるな」

「あっそう」

「だってお前、怒るだろ」

こちらも見ずに、いう男を。

好きでいられることを、幸せだと思う。
[1] [2] [3] [4
 HOME : Next »
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新CM
[08/03 mkr]
[05/26 powerzero]
[05/08 ハル]
[01/14 powerzero]
[01/14 わか]
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
アクセス解析

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP

忍者ブログ[PR]