言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'02.28.Fri
あと3日で2月が終わる。ジャンが避けているうちにアルミンはもう終わりと決めたのか、ジャンを見ることもしなくなった。それが無性に悔しかった。
たまたま通りかかった誰もいなくなった食堂で、勉強をしていたアルミンを見つけた。他に誰もいないことに気がつくとジャンは反射的に近づき、前の椅子に黙って座る。顔を上げることすらしなかったアルミンは、あまつさえ「エレン?」と声をかけ、ジャンは苛立ち任せに机の下で足を蹴った。臑にきれいに蹴りが決まって、アルミンは低くうめいて悶絶し、キッと目元をつり上げてこちらを睨む。しかしすぐにジャンだと気づき、はっとして肩をすくませた。どこか怯えているようにも見える仕草に舌を打ちそうになるのをどうにかこらえる。ジャンを見る目はどこかこわばっていた。それでどうしてジャンを好きなどと言ったのだろう。
「どうしたの?」
「別に」
「痛いよ」
「悪かったな」
端的に言葉を吐くと会話はそれだけで終わってしまい、お互い気まずくなって目をそらす。アルミンも勉強どころではなくなって、結果的に邪魔しただけになった自分にも苛立った。こうしたかったわけではない。かといって何をしたかったのかもう自分でもわからなかった。
ただ、アルミンと話をしたいと思っただけだ。
今までふたりきりで何の話をしていたのか、思い出せなくなってしまった。渇いたのどを潤そうと唾を飲む。アルミンが手持ちぶさたにペンをもてあそぶのをただ見つめた。どうしてこんなに自分が苛つかなければならないのだろう。
「あの」
アルミンの声がかすれていて、驚いて顔を上げればアルミンも戸惑ったように喉を撫でた。ジャンの視線に気づいて少し笑い、こほんと喉を鳴らした。
「あのね、最後の日だけ、話がしたいんだ」
どきり、としたきり、心臓が止まったような気がした。しかしジャンの心臓はどくどくと脈打ち、その存在を主張してくる。
2月は、まだ3日あるのだ。否、もう今日は終わったも同然だ。それでも、まだ明日だってあるというのに。
「もう……ジャンは飽きちゃったかもしれないけど、最後にするから」
明日だってあるというのに、ジャンにはそれを伝えることもできなかった。うるさい心臓を押さえつける術も、アルミンに気持ちを伝える術も、――何よりも、何を伝えたいのかも、ジャンにはわからなかった。
次の日、アルミンを目にしても、近づくことができなかった。アルミンはいつも通りで、ジャンもいつも通り過ごした。この1ヶ月はなんだったのかを考える。考えても、時間が過ぎるだけだった。声をかけることも、近づくこともできたはずなのに、それができなかったのは勇気がでなかったからだとは思いたくなかった。
時間が過ぎるのはあっと言う間で、夜になって、最後の朝になった。
「おはよう」
「……おはよう」
支度を終えたアルミンは、普段はそんなことをしないのに、ジャンに声をかけて部屋を出た。窮屈なベルトも体に合わせて、ジャンよりひと回りは小さそうなジャケット。寝癖なのか毛先が一部外側にはねている。
少しでも名残惜しいと思っているのだろうか。先に部屋を出ていったアルミンは余韻も残さなかった。
最後だからと言っても特別なことは何もない。今日までと同じように訓練をこなし、当番がある。
夜になるにつれてジャンは落ち着かなくなってきたが、アルミンを見るといつもと何も変わらない。
結局ジャンは何ができたのだろうか。恋人のふりと言いながら、ジャンがしたのは夜にふたりで話をしただけだ。アルミンからもらった焼き菓子は直ぐに食べてしまったが、考えてみればあのお礼もまともにしていない。何かお返しでもすればいいのかと思ったが、今更そんな時間もなかった。ジャンに後悔する暇も与えずに、2月は終わりへ近づいていく。
ここ数日で季節は一気に春に近づいた。昼間の日差しはあたたかく、夜でも震えるような寒さはない。早々にベッドにこもる人も減ったせいか、どこに行っても人の姿があった。食堂を覗いて諦めて、ジャンが他の場所を探し始めると前からアルミンがやってきた。ジャンを見るとアルミンはわずかに緊張を滲ませ、ジャンもつい喉を鳴らしたのはその緊張がうつったせいだと思いたい。
「倉庫も人がいたんだ」
「そうか」
「……少し寒いかもしれないけど外でもいい?」
「ああ」
ほっとしたように息を吐いたアルミンと兵舎を出た。さすがに少し風が冷たい。きっと外に出るような物好きは他にいないだろうから、そのままドアに寄りかかった。
「今日の訓練どうだった?」
「お前がビリだったやつか?」
「……ほんとに見られたくないところ見てるよね。持久走は正直辛いなぁ」
「お前は頭動かす以外はいつもダメじゃねえか」
「事実ですから否定はできません」
肩を揺らして笑うアルミンはこちらを見なかった。それでもいつも通りの当たり障りのない話に、いつも通り嬉しそうに笑う。ジャンのつまらない話でも自分の失敗の話でも。アルミンはこんな時間だけでよかったのだろうか。
話が座学に渡るとアルミンの話は止まらなくなってしまい、いつもならうっとうしくなって遮るのだが、今日はそうせず聞いていた。むちゃくちゃなようで理論的な彼の話は嫌いではなかった。子どもがおもちゃをみつけたように目を輝かせるアルミンを、かわいいと思い、手を取るとアルミンの口はぴたりと止まってしまった。
アルミンの手は冷えきってしまって、繋いでもその体温はあまりわからない。彼の体温はいつもどうだっただろうか。
アルミンを呼ぶ声がして、ふたりで視線を交わす。あれはエレンの声だ。どうしてあいつはいつも人の邪魔をするのだろう。思いながらつないだ手に力を込める。声はすぐに遠ざかったが、きっと場所を変えても探し続けているだろう。それはだんだんうるさくなるに違いない。
「はは……行かなきゃ駄目かな」
アルミンは苦笑混じりに肩をすくませた。幼馴染みの方が大事か、と悪態をつきそうになったが、アルミンが手をつなぎ返してきて飲み込んだ。指先が絡まり、訓練兵の手であることを今更実感する。毎日の努力と、自分の夢。きっとアルミンはまだ考えていることはたくさんあって、短い2月ではほとんど聞くことができなかっただろう。
「なあ、アルミン」
「何?」
「オレのどこが好きなんだよ」
それはアルミンが一度も口にしなかった。ジャンの問いにアルミンはちらりと視線をこちらに上げて、また困ったように笑った。
「……わからない」
「は?」
「ずっと考えてたんだけど、やっぱりわからなかった。不思議だね、それでも恋だって、わかるんだ。……君の声も、仕草も、優しいところも好きだった……ありがとう。1ヶ月、とても楽しかった」
小さく言葉をつむぐ唇に、震える手に、ジャンは応えることができたのだろう。ただこみ上げるものがあって、アルミンに顔を近づける。逃げようとしたがそれは背中側のドアに阻まれ、アルミンは驚いた目でジャンを見ていた。唇が触れそうなほど近づける。きゅっと唇の端がこわばり、アルミンの視線が泳ぐ。
唇に触れたら、何か変わるだろうか。
息を吐いて、アルミンから離れる。瞬きを繰り返したアルミンを笑って、絡めた指先を解いた。
「あとは本当の恋人としろ」
「……びっくりした。されるかと思った」
「しねぇよ」
「そうだよね。……ちょっと、惜しかったかな」
ふっと笑うアルミンに苦しくなる。それを隠してドアを開け、押し込むようにアルミンを中に入れた。エレンの声はまだ聞こえている。
「早くあのうるせえの黙らせろ」
「うん。……ジャンは?」
「後で戻る」
「……うん、そうだね」
不器用な笑顔を、こんな近くで見ることはもうないだろう。アルミンが離れるより早くドアを閉めて、ジャンはその場にしゃがみ込む。
2月は終わった。アルミンとの関係も終わった。ジャンは頼まれてつきあっていただけなのだから、ようやく解放されたのだとも言える。
もし2月でなければ、あと2、3日あれば、ジャンのこの胸のわだかまりの理由もわかったのだろうか。2月の寒さはアルミンの体温さえ忘れさせる。手のひらは自分の体温さえ感じない。
たまたま通りかかった誰もいなくなった食堂で、勉強をしていたアルミンを見つけた。他に誰もいないことに気がつくとジャンは反射的に近づき、前の椅子に黙って座る。顔を上げることすらしなかったアルミンは、あまつさえ「エレン?」と声をかけ、ジャンは苛立ち任せに机の下で足を蹴った。臑にきれいに蹴りが決まって、アルミンは低くうめいて悶絶し、キッと目元をつり上げてこちらを睨む。しかしすぐにジャンだと気づき、はっとして肩をすくませた。どこか怯えているようにも見える仕草に舌を打ちそうになるのをどうにかこらえる。ジャンを見る目はどこかこわばっていた。それでどうしてジャンを好きなどと言ったのだろう。
「どうしたの?」
「別に」
「痛いよ」
「悪かったな」
端的に言葉を吐くと会話はそれだけで終わってしまい、お互い気まずくなって目をそらす。アルミンも勉強どころではなくなって、結果的に邪魔しただけになった自分にも苛立った。こうしたかったわけではない。かといって何をしたかったのかもう自分でもわからなかった。
ただ、アルミンと話をしたいと思っただけだ。
今までふたりきりで何の話をしていたのか、思い出せなくなってしまった。渇いたのどを潤そうと唾を飲む。アルミンが手持ちぶさたにペンをもてあそぶのをただ見つめた。どうしてこんなに自分が苛つかなければならないのだろう。
「あの」
アルミンの声がかすれていて、驚いて顔を上げればアルミンも戸惑ったように喉を撫でた。ジャンの視線に気づいて少し笑い、こほんと喉を鳴らした。
「あのね、最後の日だけ、話がしたいんだ」
どきり、としたきり、心臓が止まったような気がした。しかしジャンの心臓はどくどくと脈打ち、その存在を主張してくる。
2月は、まだ3日あるのだ。否、もう今日は終わったも同然だ。それでも、まだ明日だってあるというのに。
「もう……ジャンは飽きちゃったかもしれないけど、最後にするから」
明日だってあるというのに、ジャンにはそれを伝えることもできなかった。うるさい心臓を押さえつける術も、アルミンに気持ちを伝える術も、――何よりも、何を伝えたいのかも、ジャンにはわからなかった。
次の日、アルミンを目にしても、近づくことができなかった。アルミンはいつも通りで、ジャンもいつも通り過ごした。この1ヶ月はなんだったのかを考える。考えても、時間が過ぎるだけだった。声をかけることも、近づくこともできたはずなのに、それができなかったのは勇気がでなかったからだとは思いたくなかった。
時間が過ぎるのはあっと言う間で、夜になって、最後の朝になった。
「おはよう」
「……おはよう」
支度を終えたアルミンは、普段はそんなことをしないのに、ジャンに声をかけて部屋を出た。窮屈なベルトも体に合わせて、ジャンよりひと回りは小さそうなジャケット。寝癖なのか毛先が一部外側にはねている。
少しでも名残惜しいと思っているのだろうか。先に部屋を出ていったアルミンは余韻も残さなかった。
最後だからと言っても特別なことは何もない。今日までと同じように訓練をこなし、当番がある。
夜になるにつれてジャンは落ち着かなくなってきたが、アルミンを見るといつもと何も変わらない。
結局ジャンは何ができたのだろうか。恋人のふりと言いながら、ジャンがしたのは夜にふたりで話をしただけだ。アルミンからもらった焼き菓子は直ぐに食べてしまったが、考えてみればあのお礼もまともにしていない。何かお返しでもすればいいのかと思ったが、今更そんな時間もなかった。ジャンに後悔する暇も与えずに、2月は終わりへ近づいていく。
ここ数日で季節は一気に春に近づいた。昼間の日差しはあたたかく、夜でも震えるような寒さはない。早々にベッドにこもる人も減ったせいか、どこに行っても人の姿があった。食堂を覗いて諦めて、ジャンが他の場所を探し始めると前からアルミンがやってきた。ジャンを見るとアルミンはわずかに緊張を滲ませ、ジャンもつい喉を鳴らしたのはその緊張がうつったせいだと思いたい。
「倉庫も人がいたんだ」
「そうか」
「……少し寒いかもしれないけど外でもいい?」
「ああ」
ほっとしたように息を吐いたアルミンと兵舎を出た。さすがに少し風が冷たい。きっと外に出るような物好きは他にいないだろうから、そのままドアに寄りかかった。
「今日の訓練どうだった?」
「お前がビリだったやつか?」
「……ほんとに見られたくないところ見てるよね。持久走は正直辛いなぁ」
「お前は頭動かす以外はいつもダメじゃねえか」
「事実ですから否定はできません」
肩を揺らして笑うアルミンはこちらを見なかった。それでもいつも通りの当たり障りのない話に、いつも通り嬉しそうに笑う。ジャンのつまらない話でも自分の失敗の話でも。アルミンはこんな時間だけでよかったのだろうか。
話が座学に渡るとアルミンの話は止まらなくなってしまい、いつもならうっとうしくなって遮るのだが、今日はそうせず聞いていた。むちゃくちゃなようで理論的な彼の話は嫌いではなかった。子どもがおもちゃをみつけたように目を輝かせるアルミンを、かわいいと思い、手を取るとアルミンの口はぴたりと止まってしまった。
アルミンの手は冷えきってしまって、繋いでもその体温はあまりわからない。彼の体温はいつもどうだっただろうか。
アルミンを呼ぶ声がして、ふたりで視線を交わす。あれはエレンの声だ。どうしてあいつはいつも人の邪魔をするのだろう。思いながらつないだ手に力を込める。声はすぐに遠ざかったが、きっと場所を変えても探し続けているだろう。それはだんだんうるさくなるに違いない。
「はは……行かなきゃ駄目かな」
アルミンは苦笑混じりに肩をすくませた。幼馴染みの方が大事か、と悪態をつきそうになったが、アルミンが手をつなぎ返してきて飲み込んだ。指先が絡まり、訓練兵の手であることを今更実感する。毎日の努力と、自分の夢。きっとアルミンはまだ考えていることはたくさんあって、短い2月ではほとんど聞くことができなかっただろう。
「なあ、アルミン」
「何?」
「オレのどこが好きなんだよ」
それはアルミンが一度も口にしなかった。ジャンの問いにアルミンはちらりと視線をこちらに上げて、また困ったように笑った。
「……わからない」
「は?」
「ずっと考えてたんだけど、やっぱりわからなかった。不思議だね、それでも恋だって、わかるんだ。……君の声も、仕草も、優しいところも好きだった……ありがとう。1ヶ月、とても楽しかった」
小さく言葉をつむぐ唇に、震える手に、ジャンは応えることができたのだろう。ただこみ上げるものがあって、アルミンに顔を近づける。逃げようとしたがそれは背中側のドアに阻まれ、アルミンは驚いた目でジャンを見ていた。唇が触れそうなほど近づける。きゅっと唇の端がこわばり、アルミンの視線が泳ぐ。
唇に触れたら、何か変わるだろうか。
息を吐いて、アルミンから離れる。瞬きを繰り返したアルミンを笑って、絡めた指先を解いた。
「あとは本当の恋人としろ」
「……びっくりした。されるかと思った」
「しねぇよ」
「そうだよね。……ちょっと、惜しかったかな」
ふっと笑うアルミンに苦しくなる。それを隠してドアを開け、押し込むようにアルミンを中に入れた。エレンの声はまだ聞こえている。
「早くあのうるせえの黙らせろ」
「うん。……ジャンは?」
「後で戻る」
「……うん、そうだね」
不器用な笑顔を、こんな近くで見ることはもうないだろう。アルミンが離れるより早くドアを閉めて、ジャンはその場にしゃがみ込む。
2月は終わった。アルミンとの関係も終わった。ジャンは頼まれてつきあっていただけなのだから、ようやく解放されたのだとも言える。
もし2月でなければ、あと2、3日あれば、ジャンのこの胸のわだかまりの理由もわかったのだろうか。2月の寒さはアルミンの体温さえ忘れさせる。手のひらは自分の体温さえ感じない。
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