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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.04.Sat
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2015'06.20.Sat
「随分賑やかだな、どうした?」

通りかかった部屋をのぞけば、粟田口の短刀たちが折り重なってじゃれている。その声の中には呻き声も混ざっていたのでひとりずつ短刀をはがしていくと、その一番下にいたのは薬研であった。かけていた眼鏡は頭の方へ上がってしまい、少し疲れた顔で鶴丸に礼を言う。

「だってー、薬研ずるいんだよ!」

「ひとりだけ大将から褒美もらったんだぜ!」

「だから、話聞けって」

体を起こした薬研は溜息をつき、乱れた髪を直す。ふてくされた様子の弟たちが薬研を襲った原因は、彼の手の中にある小さな包みであるらしい。それは、と問えば、饅頭だと返ってきた。

「大将がたくさん抱え込んでてな、ちょっとおねだりしてみたらいつも頑張ってるからってくれたんだ」

「ずるいですー!」

「僕たちだって薬研と同じように日々の仕事に勤めております!」

「ははぁ、それで薬研が饅頭にされていたのか」

面倒見のいい薬研でも、自分の得た戦利品を手放すつもりはないらしい。この隙にとばかりにポケットに隠している。

「おねだりなら、主に直接してくればいいんじゃないか?」

鶴丸の言葉に行儀のいい短刀たちはそれぞれ顔を見合わせた。どうも子どもらしい素直さは憎めない。こらえきれずに頬を緩めて、お茶を入れて待っていなさい、と声をかける。首を傾げた短刀たちを残した、鶴丸は審神者の部屋へ向かった。



舌先三寸で言いくるめるのは何も狐の特技ばかりではない。今日の戦で鶴丸が誉を取ったこともあり、鶴丸は饅頭を人数分手に入れた。そもそも審神者は短刀がかわいくて仕方がないのだから、彼らが自らおねだりに来た方が本当は喜んだだろう。あるいは、鶴丸が来た経緯も説明しておいたら伝聞だけでかわいさのあまり突っ伏していたので、これでよかったのかもしれない。

戦利品を抱えて部屋に戻ると、彼らは行儀よくそれぞれの茶の前に並んで座っている。あまりにもぴしりと並んでいるのでどこかの展示会場のようだ。そんなにかしこまった場ではないが、真面目な彼らの前に鶴丸も真剣な顔で座り、ひとつずつ饅頭を配ってやる。ぱっと目を輝かせた彼らだが、鶴丸が黙り込んでいるので手も出せずにいた。

「これは俺が主からいただいてきた饅頭だ」

緊張を見せた彼らを見て、鶴丸は笑う。

「あとでお礼を言いに行けよ」

「あっ、ありがとうございます!」

「悪いな鶴丸、手間かけさせた」

「何、薬研も潰れる前にポケットのそれを食べてしまえ」

賑やかな声を上げて饅頭に手を伸ばす短刀たちを見届けて、鶴丸は立ち上がった。

「あっ」

「ん?」

「あの……鶴丸さまの分は」

「ああ、もらってあるさ。鶯丸に茶を分けてもらって堪能してくる」

優しい子たちに笑いかけ、鶴丸は懐を叩いた。薬研辺りにはばれたかもしれないと思いながらも、茶ぐらいはつき合わせようと鶯丸を探そうとする。しかし部屋を出ると、隠れるように一期が立っていて足を止めた。その顔では完全にばれている。しい、と口を閉じさせ、一期の肩を押して場を離れた。

「すみません、ご迷惑をおかけいたしました」

「何、かわいいものだ。粟田口はみんなおねだりが下手だな?」

歩きながら一期を見ると困った顔で鶴丸を見る。兄がこの様子では兄弟たちのあの様子も納得できた。笑って肩を叩くと一期は足を止め、つられて鶴丸も立ち止まった。

「一期?」

「……おねだりをしたら、聞いていただけますか」

「お、おお」

そう返されるとは思わなかった。一期にじっと見つめられ、少しどきりとする。何を言うつもりだろう。この男の求めるものが何も思いつかない。

「触れても」

「……は?」

「あなたに触れても、いいですか」

「か……構わんが」

それは、おねだりというのだろうか。

一期の手が伸びて身構える。思わず背を正したが、手袋が覆った彼の手が触れたのは、鶴丸の羽織の飾り鎖だった。ちゃり、と軽い音が廊下に落ちる。

ふっと、一期の表情が緩んだ。

そして一期は手を離し、鎖はまたとろりと垂れる。

「ありがとうございます」

それは――それはおねだりか?

硬直した鶴丸に構わずに、一期は弟たちの部屋へと歩き出した。鶴丸はゆっくり頭を抱え、ただ深く、溜息をついた。
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2015'06.06.Sat
「似合うんじゃないですか?」

それはまったくもって無責任な一言だった。王子然と笑った男の後ろで、カメラマンやスタイリストたちがにわかに色めきだつ。いやいや、鶴丸はただ首を振る。

「あのな、ただの女装ならまだしも、着れるわけがないだろう」

男の俺が、ウエディングドレスなど。

一期が着ないんですか、とがっかりしてみせるが、それにほだされてやる気は一切なくて頑なに断った。



ちょいちょいと花の角度を直し、鶴丸は数歩下がった。真正面から主役ふたりの席を眺めて、満足げに頷く。とはいえ今日は主役がいない。

この結婚式場に勤めて何年だろう。ブライダル業界は存外忙しい。人の結婚ばかりを祝っていたら自分のことはどうでも良くなってしまい、両親も鶴丸の孫を見るのをそろそろ諦めた。そんな頃、鶴丸が入社したときからほとんど変わらなかった式場パンフレットを一新することになったのだ。

「鶴丸殿、そちらはいかがですか?」

鶴丸に声をかけたのは一期だった。その手にはヴェールがあり、そのまま本番さながらにセッティングしたパーティ会場を眺めながら鶴丸の方へ向かってくる。客がいなくともきっちりネクタイを締めている男は、表情こそ柔らかいものの、クロスの皺ひとつさえ見逃さんばかりに目を見張らせていた。

「ああ、テーブルは完璧だ。あとは料理さえ来たらそこからはカメラマンの仕事だな。『花嫁』は間に合ったんだろう?」

「ええ、残念ながら。今は外で撮影しています」

「そうか」

「間に合わなければあなたに代理をお願いしたんですけどね」

「だから、それはいい加減諦めないか」

花嫁役のモデルが渋滞で遅れるという連絡があり、外での撮影ができないかもしれない、とにわかにスタッフはざわめいた。今月は忙しく、撮影できる日が限られている。ましてや日本には梅雨というものがあるのだ。今日のように天候に恵まれた日は逃したくない。

そんなときにこの男は、他にも女性スタッフがいるにもかかわらず、鶴丸が代理をしたらなどと言い出した。周囲は冗談だと受け取っただろうが、この男が本気で言っていたことを鶴丸だけは知っている。

鶴丸とてこんな生業であるのだ、美醜の判断は人並みにつく。自分がそれなりに見目がよく、服装や振る舞いを整えれば女に見える顔であることも知っている。しかし骨格というものは男女ちがうもので、ましてやウエディングドレスなど、腰から下はともかく上半身の男らしさを隠せるはずもない。

「ドレスは諦めました」

「……ドレス『は』、ってか」

嫌な予感しかしない。鶴丸が苦笑するのを気にも留めず、一期はヴェールを広げてみせる。そんなことだろうとは思ったが、一体どんな理由をつけて持ち出してきたのだろうか。あくまで進んで受けるのではないという精一杯の抵抗に腕を組み、一期が広げたヴェールを鶴丸の頭上にかざすのを見送る。

「白がよくお似合いで」

「……君は普段組み敷かれておきながら、よくもまぁ俺を女扱いできるな」

「それとこれとは別の話でございましょう」

「別か?」

一期の理論はいつもよくわからない。ふわりと降りてきたヴェールの薄い生地の向こうで一期が微笑んでいる。まぁ楽しそうなら好きにさせてやるか、とされるがまま一期を見た。

「そういえば、先日の式のサプライズ、成功したようで」

「ああ、ちいとやりすぎないかと懸念していたがそんなこともなかった」

先日のカップルを思い出す。結婚式の日がふたりの恩師の誕生日であるということなので、ちょっとしたお祝いを一緒にしたのだ。勿論主役はふたりであるし、他の客がみんなその恩師を知っているわけではないから本当にささやかなものだ。それでも軽く提案したときにふたりが目を輝かせたので、大事な人だろうと思ったのでプランに織り込んだ。結婚式当日のカップルは食事もままならないほど忙しいが、それでも最後に鶴丸にひと言お礼をかけてくれた。

「あなた自身の結婚式なら、もっとやりたい放題サプライズを仕込むのでしょうね」

「そうだなぁ、ロッキーのテーマででも入場するか」

「喧嘩でも始まるのでしょうか」

「ははっ、入場して夫婦喧嘩から始めるか!」

「あまり好き放題するなら私の意見も聞いてもらわねば」

「俺の結婚相手は君か」

「他にどなたを想像したんです?」

「さぁな」

ヴェール越しに笑いかけると一期は溜息をついた。そっとヴェールを持ち上げて、めくりきらずに顔を寄せる。何も隠せない布一枚に隠れてそっと唇が重なった。

「……順番が違わないか?」

「驚きました?」

「驚いたな」

一期の左手を取って引き寄せる。ヴェールがほとんど落ちかかったその内側で、鶴丸はポケットに手を入れてそれを取り出す。何か言われる前に薬指に指輪を通した。男の指だ。関節に少々引っ掛かったが、根元まで入れてしまうとサイズは合っている。ちらりと一期の様子を伺うと、じっと指輪を見て硬直していた。滑ったかな、と思っていると、左手に添えたままの手をぎゅっと握られた。

「……あなたも順番を間違えてませんか」

「驚いたか?」

「驚きました。……こんなものを、無防備にポケットに入れていたのですか」

「そこか」

「……あなたのドレス姿、楽しみにしてますよ」

それはさっさと諦めてくれ。笑ってヴェールを引きおろし、一期の頭にかけてやった。それを上げるのは、また今度。

「6月の花嫁だからな、きっと幸せにしてやろう」
2015'02.10.Tue
薬「さあ今夜も始まりした『薬研ニキの柄まで通さNight』、こんばんは、お相手は薬研籐四郎です。数日前から大将が本丸にあまり現れないって思ってる刀剣たちは多いんじゃないか?俺っちの大将も今は『ちんじゅふ』が忙しいってんで、毎日の日課をこなしに来るばかりだ。でもそんな大将を支えるのが俺っちにできることだからな。『ちんじゅふ』がどんな場所か知らないが、大将が戻るまできっちり本丸を守ってみせるさ。今日のゲストはそう言い聞かせて頭ではわかっていても、感情が追いつかず、今にも泣きそうな……って、もう泣いてるな。おい本番だぜ、泣くなよ。あー、大将がいなくて寂しくて、泣いてしまったのが今夜のゲスト、加州清光だ。まったく、今日まともにできないかもな。えー、この番組は生放送だ。放送中リアルタイムで大将のメールを読んでいくから、よかったら公式ホームページのメールフォームから送ってくれ。ジングルの間に出てくるから焦らずリロードしてくれよ。それじゃあもしよかったら、おやすみ前のちょっと間に、俺っちのおしゃべりにつきあってくれ」



(ジングル)



薬「改めて、薬研籐四郎です」

清「……かしゅうきよみつです」

薬「おい、元気出せよ」

清「だってさ〜本丸にきても俺のわかんないことばっかり言ってるんだぜ。ゆーちゃんって誰?香取って誰?俺よりかわいいの!?」

薬「まあまあ、俺っちはあんたをきれいな刀だと思うぜ。とりあえず落ち着いて自己紹介をしてくれよ。まだあんたに会ったことがない大将もいるかもしれないからさ」

清「……加州清光、川の下の子。扱いにくいって言わないでくれよ、頑張るからさ。だから今の主より俺をかわいがってくれる主がいたら連絡下さい」

薬「おい、帰ってきて清光がいなかったら大将泣くぜ」

清「泣かないよ!あんな浮気者もう知らない!」

薬「困ったな。ほら思い出してみろよ、大将がどれだけかわいがってくれてるかさ」

清「……主はさ〜、俺に特上の刀装くれるんだ」

薬「へえ、いいじゃないか」

清「傷ついちゃったときだってすぐに手入れ部屋に連れていってくれるし、遠征だってほとんど行ったことないんだぜ。俺が本丸にいないと寂しいんだって!」

薬「なんだ、愛されてるじゃないか」

清「だよね!?」

薬「そんなに愛されてるなら、大将が清光を捨てるはずがないってわかるだろ?だったら大将が帰ってくるまで、どーんと構えてればいいさ」

清「そうだよね!そうする!」

薬「よし、その意気だ。じゃあ清光が立ち直ったところでメールを読んでいくことにしよう。まずはいつの間にか毎週恒例になってた『じじい回収情報』からだ」

清「じじい回収?」

薬「なんでもなかなか姿を現さない『三日月宗近』が、このラジオをききながらだと現れるっていうジンクスがあるらしいぜ。今日は相模国からの情報だ。『薬研くん、清光くん、こんばんは、いつも一週間のご褒美にこのラジオを聴いています』こんばんは、ありがとな。仕事か?学校か?お疲れ様」

清「こんばんは〜、お疲れ様」

薬「『鶴丸さんゲスト回も楽しく聞かせてもらいました。聞いているこっちはおもしろくてずっと笑っていたのですが、薬研くんが疲れていないか心配です』」

清「あの人来たの」

薬「ああ。まあ、なんだ……ちょっと疲れたな」

清「薬研が言うなら相当だな」

薬「それはさておき、続けるぜ。『ところでこの回を聞きながら出陣したら、出ました!三日月おじいちゃん!山の中で徘徊しているところを無事回収することができました。何度も探しに行った場所なのに、ラジオがあると一発だったので、ラジオのジンクスは本当だったみたいです。薬研様々ですね、ありがとうございます!まだおじいちゃんを見つけられていない大将たちのところにも現れるように、それから、まだまだ寒い日が続くので、薬研くんたちが風邪をひきませんようにお祈りします』……ってことだ。ありがとな。なに、大将のところに三日月宗近が現れたのは、じいさんも大将に会いたかったってことさ。それだけ大将が魅力的だったんだ、俺は何もしてないぜ」

清「薬研の本丸には三日月いる?」

薬「大将の話だと、うちの本丸には『未実装』らしい」

清「現実逃避じゃん」

薬「そっちはどうだ?」

清「よくわかんないけど『ちんじゅふ』にいるって。なんでか会わせてくれないんだよなぁ」

薬「それも多分現実逃避だと思うぜ」

清「そうなの?」

薬「何度か聞いたことがあるが、まったく別の『三日月』だ。じじいではないらしい」

清「何それ。あーあ、主は『ちんじゅふ』で何してるんだろ」

薬「じゃあ次のメールだ」

清「これすごいいっぱいメール来るね」

薬「そうなんだよな。いつも読み切れなくて大将たちに申し訳なくてな。あ、ラジオが終わってから全部じっくり読ませてもらってるからな!」

清「あっ、これ読んで!これ!」

薬「ん?ああ……いいのか?じゃあ読むぞ。『薬研くん、清光くん、こんばんは!審神者じゃないけど毎週楽しみに聞いています』こんばんは、楽しめてるといいんだが」

清「こんばんは!」

薬「『友達に教えてもらってこのラジオを聞き始めてから、金曜日に早く家に帰るようになってしまいました。あまり審神者や刀剣男子について詳しくない私でも笑ってしまうことばかりです。ずっと忙しくてなかなか踏ん切れなかったけど、さっきの清光くんの言葉で決めました。私、審神者になります。だから清光くん、うちに来て下さい!私なら絶対清光くんをないがしろにしないで大切にするから!考えておいて下さいね。それではお体ご自愛下さい』だと。熱烈なラブコールだな」

清「ふふ〜ん、どう?どう?主が聞いたら嫉妬しちゃう?」

薬「そりゃあ清光みたいな立派な刀がなくなったら大将は悲しむだろうさ。清光はきれいでかっこいいだけじゃなくて強いからな」

清「でも全然構ってくれないんだけど」

薬「それは大将が清光を信じて本丸を任せてる証拠だろ?だったら清光も大将を信じるのが筋ってもんだ。清光が新しい場所を選ぶってんなら俺っちに止める権利はないが、大将が悲しむんじゃないかと思って心配だな」

清「……薬研ってなんかずるいよね。あーあ、せっかくメールくれたのにごめんなさい!俺はかわいくてかっこよくて強いから、ちゃんと主が帰ってくるのを待っとくことにする!」

薬「それを聞いて安心したぜ。お次は……おっ、男の人だ、これにしよう」

清「へー、男の人も聞いてんだ」

薬「ああ、俺っちにはわからねえが、審神者になるには適正なんかもあるんだろうな。このラジオを聞いているのは特に女性の方が多いらしいぜ。これは……山城国からだな。『こんばんは、回りに同姓がおらず、寂しく審神者をしている男です』こんばんは。まあ女性の輪に男はなかなか入りにくいよな」

清「こんばんは〜。なんで?むしろ女の子と仲良くなれるチャンスじゃん。どうせ普段そんな機会ないんでしょ?」

薬「……清光」

清「何?俺何かまずいこと言った?」

薬「あー、大将すまなかった、俺っちに免じて許してくれ」

清「ねえ何?」

薬「『初めはなんとなくで始めたことだったけど、今は本丸も賑やかになって、審神者業にも慣れてそれなりに過ごしています。薬研もうちの本丸で大活躍です。今回メールをしたのは、加州清光に聞きたいことがあるからです』」

清「俺?何なに?」

薬「『うちにも加州がいて、やっぱり活躍してくれています。でもひとつ問題があって、夜寝ていると必ず布団に潜り込んでくるんです。これってどこの加州もするんですか?審神者の性別は関係ないですか?今は追い出してますが、そのたび説得して帰すので寝不足で、そろそろ疲れてきました。これ俺の操ヤバいですか?どうしたらいいですか?同じ加州清光の話が聞きたいのでよろしくお願いします』……だそうだ。これはまた、何やら切実なメールだな。同じ清光としてどうだ?」

清「え〜、俺は……あ、いや、何回か一緒に寝てもらったことあるけど、でも俺は勝手に布団に入ったりしねーよ!そいつ甘やかしたり、なんか勘違いさせたりしたんじゃねーの?」

薬「男同士ってのは?」

清「んー、それはあんまり関係ない。結局刀って男社会にあったもんだし」

薬「まあな……」

清「薬研とこの加州清光は?」

薬「うちの本丸では大将の周りは短刀ばかりだな。例外は蛍丸ぐらいか。だから清光はあまり近づけないみたいだ」

清「それ多分違う意味でやばいやつだよ、大将がやばいやつ」

薬「そうか?いい大将だぜ」

清「お前にかかったらどんなやつでも『いい大将』になっちまう」

薬「で、このメールに何かアドバイスは?」

清「ん〜、誰か他のやつと寝たら?加州清光追い出せるようなやつ」

薬「それは解決になるのか……?ちょっと心配だが、大将の健闘を祈ってるぜ」



(中略)



薬「じゃあいくぞ」

清「よっしゃこい!」

薬「せーのっ」

 「「にーらめっこしーましょ、わーらうーとまーけよ、あっぷっぷ!」」

清「ブハァッwww」

薬「かーった勝ったァ」

清「それ蛍丸ッ、てか、wwwないwwwその顔はwww」

薬「なかなかだろう?」

清「ラジオだからってお前さwww駄目だろあの顔はwww」

薬「今週の『負けた方が変顔さらすにらめっこ』も俺っちの勝利!俺っちを負かせて変顔さらさせてやるって自信のある刀剣の挑戦、いつでも待ってるぜ」

清「くっそ〜!」

薬「ちなみに清光の変顔チェキは番組終了後にホームページに公開されるから楽しみにしててくれ」

清「あ〜!嫌だ〜!乗せられた〜!」

薬「さて最後は石切丸さんに聞いてきた、なんちゃって占いのコーナーだ。今日は血液型だな」

清「このコーナー当たるの?」

薬「石切丸はお遊びだから出任せだって言ってるぜ。でもメール見てると当たったって話はよくあるみたいだ」

清「ふーん」

薬「まあ実は石切丸じゃないときすらあるんだけどな。あ、今日は石切丸だぜ」

清「適当だな〜」

薬「正座や干支のときは抜粋になっちまうが、今日は血液型だからみんな読めそうだな。まずA型の大将!恋愛運急上昇だってよ。ラッキースポットは安土!そこで出会いがあんのかな?お次はB型の大将。刀装作るなら今!運気が高まってるから特上チャンスだってよ。でも出陣はいまいちらしいぜ、気をつけてな。それからO型の大将。うっかりミスに気をつけな。それさえなければ、全体的に問題ないってよ。ラッキー刀剣は石切丸。任せろって言ってたけど、これっていない本丸はどうすんだ?まあ代わりに俺っちで我慢してくれ。最後はAB型の大将。いつもとちょっと違うやり方を試してみれば?だとさ。新鮮な気持ちでいると新しいものを見つけやすいらしいぜ。試しに隊長を俺にしてみるなんてのはどうだ?柄まで通すぜ」

清「俺もおすすめだよ!」

薬「そんなわけで、俺っちのおしゃべりも終わりの時間だ」

清「あっという間なんだな」

薬「でももういい子は寝る時間だからな。ラジオを聞いてる間に大将たちもおやすみの用意はできただろ?楽しい時間はおしまいだ。今週の『薬研ニキの柄まで通さnight』、本日のゲストは」

清「加州清光!」

薬「お相手は薬研籐四郎でお送りしました。おやすみ大将、また明日」
2015'01.14.Wed
嫌がる声も無視してカメラアプリのシャッターを押そうとして、菅原ははたと手を止めた。スマートフォンを持つ手を下ろして月島を見る。



「月島、眼鏡変えたんだな」

見上げた横顔でようやく気がついた。菅原の言葉に反応した月島がハンガーを手にしたままこちらを見下ろす。正面から見るとあまりわからないのは以前と同じ黒のセルフレームの眼鏡だからだが、横から見ると目を隠すラインが太くなっていることに気がついたのだ。

「変えたっていうか、変えざるを得なくて。つるが折れたんです」

「つるってどこ?」

「……ここです」

腰掛けたベッドの片側が沈む。そう思ったときにはもう、月島の唇がこめかみに触れていた。ベッドに片膝をついた月島が半ば菅原に影を作り、離れて菅原を見下ろす視線をぎこちなく見上げる。指先から力が抜けてスマートフォンが落下して、ラグ越しに鈍い音を立てた。月島がハンガーにかけていたジャケットがどこに消えたのか、そんなことを考えようとしても、菅原の顔は熱を集め、今月島にされたことばかりが頭を占める。月島はいつも通りのポーカーフェイスで菅原を見下ろしていた。

「菅原さん」

月島の声でばちっと我に返る。菅原のあからさまな動揺に呆れたように月島は少し首を傾け、菅原が口を開くより早く唇を塞いだ。一瞬のキスに菅原はまたすべてを奪われて、ただ目を見張る。

「あなた、僕がただの後輩だと思ってたでしょう」

「な、何、言って」

「後輩に東京案内してもらってる気分じゃなかったですか?」

「そんなこと」

そんなことはない。見知らぬ町をふたりで歩いたあのわくわく感は、そうではなかった――そう、言い切れなくて、菅原は言葉を続けなかった。久しぶりに会ったせいだろうか。触れ方を忘れている。感じ方を忘れている。距離感を忘れている。

「別に、言いたいなら幾らでも好きなだけ僕をかっこいいと言ってくれていいです。僕は久しぶりにあなたに会うからそれなりに時間もお金もかけたんだ、そう思ってもらわなきゃ困る」

「あ、うん」

「だからそこらの女と同じように僕を見ないでくれますか」

どきりとした。それが否定できなかった。

戸惑っていると肩を押され、油断していた体は後ろに倒れた。慌てて起きあがろうとした頃には半ばのしかかられていて、のぞき込まれて両手で顔を隠す。自分は今どんなみっともない顔をしているのだろう。

「違うんだ、俺、ほんとは月島のことあんまり考えないようにしてて」

「……知ってましたけど」

「その……月島が、東京がすごく楽しいんじゃないかって」

「楽しんでますけどね」

「だから……」

「だからってあなたに会いたくないとは言ってない」

息を飲む。月島はずるい。いつもはっきり言わないくせに、こんなときばかりストレートに向けてくる。

「今日楽しみにしてたんで、顔見せてくれますか」

「俺……」

「どうせもっと恥ずかしい顔してもらうんで、気にしなくていいですよ」

「……え?」

指の隙間からわずかに視線を向ければ、月島は今日一番の笑みを向けていた。

「あの、月島クン」

「ちょっと怒ってます」

「うっ、わぁあッ」



*



目が覚めて、見知らぬ天井に一瞬迷い、すぐに状況を思い出す。隣に人の気配を感じながらも菅原はそちらを見ることができなくて、現実の代わりに天井を見つめた。

天井の照明に、星が飾られている。小さいオーナメントが無造作に引っかけるように垂れていた。統一感のある室内の中で少しだけ子どもっぽく見えて、まだ眠る月島の横顔を見る。死んでいるんじゃないだろうかと思ってしまうほど静かだ。思わず指先を伸ばして鼻息を確かめる。生死を確認して改めてじっと見ているとこめかみに小さな傷跡があることに気がついた。こんな傷はあっただろうか。もう治ってはいる薄い傷跡は、このまま消えないかもしれないと思わせる。

突然高い電子音が鳴り響き、菅原は跳ね起きて音源を探す。しかし菅原より先に布団から伸びた手がベッドサイドの目覚まし時計を止めた。月島がこちらを見る前に、菅原は布団に潜り込む。今更逃げるつもりはないが、まだ覚悟はできていない。

「おはようございます」

「……」

「すいません、アラーム消すの忘れてました、起こしましたね」

寝起きのかすれた声が謝るのを寝たふりで流すわけにはいかず、菅原は渋々顔を出す。月島は目元をこすり、まだ少し眠そうだった。

「……おはよう。……大丈夫、アラームより先に起きてた」

「それで人の顔観察してたんですか」

「……性格悪い」

「知ってます。何か発見ありました?」

「……こめかみの傷」

月島は少し考え、唸るようにああ、と低く声を吐きながら指先を傷跡に這わせた。触れてわかるのだろうか。思わず手を伸ばすと明け渡すように月島は手を離し、菅原の指先にかすかな凹凸が触れる。

「眼鏡が折れたときにぶつかって」

「えっ!?」

「練習で、ゴーグル忘れた日に運悪くチームメイトとぶつかったんです」

「なっ、そんな危ない……俺聞いてないし……」

「わざわざ言わないでしょ。傷跡は残ったけど、ちょっと血が出たぐらいで」

「言ってよ」

「……じゃあ」

「う、わ」

するりと背中に手が回り、抱き寄せられて自分たちがまだ裸だと実感する。焦って引き離そうとするも月島に逃がす気は少しもなく、がっちり脚まで絡みとられた。

「うっとうしいぐらい連絡してきていいですよ」

「……うっとうしいんだろ」

「いいですよ」

月島は小さくあくびをして、菅原の胸にすり付けるように頭を寄せた。もぞりと丸くなる姿は大型犬を思わせる。眠いのだろうか、と思ってから、月島越しに目覚まし時計を見た。デジタル数字が刻むのはまだ6時過ぎだ。

(あれ……?)

菅原は新幹線のチケットを早めに予約して、到着は12時頃だと伝えていた。アラームをセットしたままだというのなら、月島は昨日6時に起きたのだろう。

「月島、もしかして昨日午前中に用事あった?」

「ん、ないですよ。掃除してただけ……」

少しずつ声が小さくなり、月島が更に顔を深く沈める。熱がじわりと菅原にうつり、菅原も恥ずかしくなった。

本当は。

本当は、月島が東京へ行ってほしくないと思ったことがある。例え戯れでも、それを拒まれたらと思うと口にはできなかった。

天井を見上げると、星が朝日を受けて瞬いていた。
2015'01.07.Wed
小春を駄目にしてしまいたい。

小春の後ろ姿を見送って、ユウジは机に上体を倒した。回転した世界で見る小春も学生服がよく似合っていて最高にかわいい。その視線の先にいる財前と謙也などかすんで見える。財前を腕の中に抱きこんで、謙也はその手を両手に挟んで擦っている。大方指先が冷たいとでもわがままを言ったのだろう。時に恋人と言うより祖父と孫かとつっこみたくなるほど謙也は財前に甘く、目に入れても痛くないどころか目潰しをされても怒るまい。いや怒るかもしれない、かわいい光が見られへんくなるやんか、みたいなそんな理由で。

「ほんで、練習試合もう月末なんで、できれば早めにデータほしいんですけど」

「任しといて〜、ちゃんと対策含めてまた渡すわ」

「すいませんね、受験生やのに」

「あらあら、光はアタシをなんやと思ってるの?」

「変態」

「おい」

鋭い低音を向けられても財前は少しも気にしない。そういえばとまた別の話題を引っ張り出して、小春を引き留める。謙也はその間話題に入るでもなくひたすら財前に奉仕を続けていて、ふたりの指紋はなくなってしまうのではないだろうかと思うほどだった。

財前は荷物ひとつ持つのも自分では満足にほとんどしない。三年が部活を引退してからも謙也は財前が部活を終えるまで図書館で勉強して待っていて、財前を自転車の後ろに乗せて帰る。朝も勿論謙也は迎えに行くので、財前は謙也とつき合い出してから自分の足で通学路を通ったことは数えるほどしかないだろう。来年からは学校が別れることになるが、そうなったらどうするのかと聞いたら謙也は何を聞かれたのかわからないと言った様子で首を傾げた。

「ちゅーわけで、白石先輩に伝言お願いします」

「ええけど、なんで謙也くんやなくてアタシなん?」

「何回か言ったんですけどこの人全然役に立てへんくて」

「教室帰ったら忘れんねんもんー、俺光と受験勉強でいっぱいやから白石とかどうでもええやん」

「俺のお願い事もきけへん悪い子なんですわ」

「ちゃんとしつけときー」

「えー、お仕置きされたい人どうやってしつけたらええんかわかりませんわ」

ちらりと財前が視線をあげれば、謙也はふいと視線を外した。不器用に口笛など吹いている。

あのふたりは、本当は違うらしい。

ユウジはずっと、財前が謙也をいいように使っているのだと思っていた。つき合っているのだから確かに年齢は関係なくなるかもしれないけれど、だからといって甘えると言うには度を超えていて、それは主従関係と思えるほどだ。しかし小春は違うのだと言う。あの関係を作ったのは謙也の方で、財前が謙也なしにいられないようにしているのだという。

それがそうなら、きっと恐ろしい。それは、謙也が手を離せば終わりだということだ。

財前の視線がこちらに向いた。目が合っても無視していたら小春が振り返って、ユウジに手を振る。それに頬を緩めると小春も笑った。

小春を駄目にしてしまいたい、か?

小春が自分なしでは立てなくなることを考えて、その背中を見る。姿勢よく伸びた背筋。財前にほどほどにしときや、と声をかける甘い音。

謙也が光を引っ張るようにして教室を離れていき、小春がユウジのところへ帰ってくる。自分たちがユウジから小春を奪ったくせに、謙也はきっと小春が光るとの時間を奪われたなどと考えているのだ、腹立たしい。

机に頬をつけたままのユウジの視線に合わせるように小春が覗き込んで、その笑みに頬が緩むのが抑えられない。

「結局一問も解いてないやないの」

「おう。ずっと小春見てたわ」

「もう、今日の目標まで遠いわぁ。この章終わらせるんやろ」

「おう」

小春が前の席に座り直してユウジも顔を上げる。開いたままの問題集はユウジの体重でしっかり開かれて主張してくるが、もはやユウジの目には映らない。

「卒業アルバムの部活の写真撮り、いつにするか蔵リンと相談しといて〜やって。もうそんな時期やねんなぁ」

「あっほんまか。めっちゃおもろい写真撮ってもらわんとなぁ」

「去年の先輩ら、絶対バスケ部に負けとるもんなぁ」

「去年のバスケ部ずるいでなぁ、顧問でドリブルはあかんで」

「うちらもオサムちゃんつこてなんかやろか」

笑う小春に見とれているとユウジの視線に気づき、もう、と指先が問題集を叩く。

「こっち見なさい」

「でも俺の目は小春が見たいって言うんやぁ」

「あーかーん」

ぺしんと額を叩かれてめろめろになる。ユウくんやっぱり電子辞書やめて紙の辞書にしぃ、なんて言葉にただうんうん頷いた。ちゃんと聞いとる?とユウジを見た小春の手を取って、ぐいと自分の胸に引き寄せた。

「小春!」

「何よ」

「好きや!」

一氏またやっとるんか、なんて言いながら、教室に担任が入ってくる。それも無視して小春を見つめていると、小春はぱちりと一度瞬きをして、また笑った。

小春に駄目にされたい。

もう駄目なのかもしれない。小春がいないと世界の色が違うのだ。
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