言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'10.24.Thu
「あれ、男じゃないか?」
連れの声に反応し、ジャンもほとんど反射でそちらを見た。それなりの乗車率だった金曜日の最終電車も今はもう人もまばらだが、彼女は座らずにドアの側に立っていた。彼女――否、「彼」と言うべきか。
こちらの声が聞こえたのか、すぐに窓の外に背を向けてしまったが、確かにかわいらしくはあったが骨格は男と言えなくもないような気がした。
「なんか結構いるらしいよな、女装が趣味ってやつ」
「お前も高校の時してたじゃん」
「文化祭だろ、あれ。ないわ、あんなときじゃなきゃしねえよ」
悪いやつではないが飲み会帰りで、彼もかなり出来上がっている。ジャンは顔をしかめたが、友人はそれにも気がつかなかった。
ジャンはまたドアを見る。きれいにアイロンのかけられたブラウスに細身のなジャケット、やはり座り皺さえないキュロットスカート。ぴかぴかの靴だって、傷ひとつない。ドアに触れている「彼」の指先が震えている。
「……別に、好きな格好すりゃいいんじゃねえの。お前の彼女だって、髪切って男みたいになってたじゃねえか」
「もーやめろよその話すんの」
「お前が怒らせたせいなんだろ」
「反省してます。ジャンまで口挟んでくんなって」
彼の降りる駅に着き、突き飛ばすように電車から降ろす。足取りはやや覚束ないが、家は駅の近くだから帰れるだろう。
「またな」
「おー、またー」
ふらふらと改札に向かう彼がこれ以上誰かに迷惑をかけたとしても、ここからはもうジャンには関係のないことだ。飲み会の会場だった居酒屋を出てからつきっきりでもう疲れた。
しかしここまでくると最後まで面倒見なければならない気にもなってくる。ドアの前で肩を落としている被害者に近づき、肩を叩いた。過剰に驚いて振り返られたが、そうひどい女装ではない。ともすれば素直にかわいいと思えるほどだ。
「悪かったな。酔っぱらいだから許してくれ」
「あ……」
口を開きかけた「彼」はすぐに言葉を濁して俯いた。咄嗟に出たらしい声は少し低い。そのストールは喉仏を隠すためか、と気がついて、なるほど、女装と言うものも大変らしい。
「似合ってるから気にするなよ」
ジャンの言葉にはっと顔が上がる。鳩が豆鉄砲を食らったような、とはこういう時に使うのだろうか。
すぐに電車は次の駅に止まり、目の前のドアが開いたのでジャンはそこで電車を降りてさっさと改札に向かった。ぽかんとした彼女の目の前でドアが閉まっていく。すぐにジャンを追い越していく電車の中に見えた「彼」に手を振った。
「……ま、あれぐらいなら見苦しいもんでもないよな」
結局のところ、ジャンも友人と変わらない。もう二度と会わないだろうからこそ適当なことを言ったが、あれが知人なら止めるか縁を切るだろう。
「あれぐらいかわいい彼女できねーかなー」
そう言うジャンにかわいい彼氏ができるのは、まだ誰も知らぬことである。
連れの声に反応し、ジャンもほとんど反射でそちらを見た。それなりの乗車率だった金曜日の最終電車も今はもう人もまばらだが、彼女は座らずにドアの側に立っていた。彼女――否、「彼」と言うべきか。
こちらの声が聞こえたのか、すぐに窓の外に背を向けてしまったが、確かにかわいらしくはあったが骨格は男と言えなくもないような気がした。
「なんか結構いるらしいよな、女装が趣味ってやつ」
「お前も高校の時してたじゃん」
「文化祭だろ、あれ。ないわ、あんなときじゃなきゃしねえよ」
悪いやつではないが飲み会帰りで、彼もかなり出来上がっている。ジャンは顔をしかめたが、友人はそれにも気がつかなかった。
ジャンはまたドアを見る。きれいにアイロンのかけられたブラウスに細身のなジャケット、やはり座り皺さえないキュロットスカート。ぴかぴかの靴だって、傷ひとつない。ドアに触れている「彼」の指先が震えている。
「……別に、好きな格好すりゃいいんじゃねえの。お前の彼女だって、髪切って男みたいになってたじゃねえか」
「もーやめろよその話すんの」
「お前が怒らせたせいなんだろ」
「反省してます。ジャンまで口挟んでくんなって」
彼の降りる駅に着き、突き飛ばすように電車から降ろす。足取りはやや覚束ないが、家は駅の近くだから帰れるだろう。
「またな」
「おー、またー」
ふらふらと改札に向かう彼がこれ以上誰かに迷惑をかけたとしても、ここからはもうジャンには関係のないことだ。飲み会の会場だった居酒屋を出てからつきっきりでもう疲れた。
しかしここまでくると最後まで面倒見なければならない気にもなってくる。ドアの前で肩を落としている被害者に近づき、肩を叩いた。過剰に驚いて振り返られたが、そうひどい女装ではない。ともすれば素直にかわいいと思えるほどだ。
「悪かったな。酔っぱらいだから許してくれ」
「あ……」
口を開きかけた「彼」はすぐに言葉を濁して俯いた。咄嗟に出たらしい声は少し低い。そのストールは喉仏を隠すためか、と気がついて、なるほど、女装と言うものも大変らしい。
「似合ってるから気にするなよ」
ジャンの言葉にはっと顔が上がる。鳩が豆鉄砲を食らったような、とはこういう時に使うのだろうか。
すぐに電車は次の駅に止まり、目の前のドアが開いたのでジャンはそこで電車を降りてさっさと改札に向かった。ぽかんとした彼女の目の前でドアが閉まっていく。すぐにジャンを追い越していく電車の中に見えた「彼」に手を振った。
「……ま、あれぐらいなら見苦しいもんでもないよな」
結局のところ、ジャンも友人と変わらない。もう二度と会わないだろうからこそ適当なことを言ったが、あれが知人なら止めるか縁を切るだろう。
「あれぐらいかわいい彼女できねーかなー」
そう言うジャンにかわいい彼氏ができるのは、まだ誰も知らぬことである。
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