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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2008'05.15.Thu

なんかしら悩んでる丸井が書きたかったのですが消化不良。
6月分で解決できればいいな……別に続けるつもりがあったわけじゃないんですが。

ふたつめえろにしようと思ってたけど力尽きました。
暗い方暗い方になってしまった。ちょっと……うーん、やっぱり消化不良です。お礼になりませんでした。



 

5月①  



連休が明けると急に不安になった。3年になってレギュラーの座も揺るぎないものになり、毎日学校へ行きテニスをしてばかな話をして帰ってきて、そんな繰り返しに不満を感じているわけじゃない。むしろ以前よりもずっとそんなことが幸せなのだと感じている。それなのにどうしてだか落ち着かなくて、どこにいても尻の座りが悪かった。
ブンちゃん帰ろう、仁王の明るい声におうと答え、鞄を手にする。最近丸井が落ち着かないのを知っていながら、仁王は何も言わない。言われても答えられないのだからありがたいが、それもまた丸井をそわそわとさせる一因だった。

「お疲れ様です」 
「お疲れー」 

後片付けをする後輩に声を返し、仁王と校門を出た。もう昼間は半袖でいいぐらいだが夕方は少し肌寒く、着ていなかったベストを引っ張りだして頭から被る。

「男子テニス部って何で部長いないの?」

 耳に飛び込んできた言葉に凍りついた。ゆっくりベストに袖を通して振り返ると、後ろを1年らしき生徒が数人歩いている。その中のひとりがテニス部のようだ。仁王が黙って丸井の手を取った。何も言わずそのまま歩き出す。冷たい指の感覚が丸井を少しずつ覚醒させた。今、何と。

「仁王」 
「気にせんの」 

心なしか仁王は早足だったが丸井はそれに逆らうように足を止めた。あの恐い人部長じゃねえんだ、恐い人ってあの帽子?顧問じゃねえの?笑い声が恐いなんて初めてだった。丸井にとって絶対的な存在の幸村がいないと、改めて突きつけられる。

「あの人は副部長」 
「マジで!あれが?」 
「あれ中学生かよ」
「あれが副部長なら部長はもっとおっさんなんじゃねえの?」
「違うみたいだけど……今は入院してんだって」「えー、部長が?大丈夫なのかよテニス部」

仁王が止める声は耳に入らなかった。手を振り払い、きびすを返して後輩につかみかかる。捕まえた部員以外の生徒は突然のことに数歩ひいたまま動けず、丸井が引き寄せて睨んでいる部員の目には怯えが浮かんでいた。

「ま……丸井先輩」 
「お前1年か。あんま舐めたこと言ってんじゃねえぞ」
「ブン太」 

仁王に引き剥がされて今度は仁王を睨む。その間に仁王が手振りで後輩を追い払い、彼らは仁王を見てすぐに逃げていった。仁王はその外見のせいか本人をよく知らない新入生からは避けられている。その仁王に睨まれれば逃げ出すだろう。同じ3年でも、違う。自分と仁王は違う。そして、幸村とも。

泣き出しそうになって自分の頬を張る。そうだ。あんなに大きな存在だった幸村がいない。ここにいないのにテニスをしていることが不思議でならなかった。丸井がテニスを始めたのは幸村と出会ったのと同時だ。幸村のいないテニスは丸井には考えられないと思っていたのに、新学期がやってきて、3年になり新入生が入ってきて、大会に向けての練習を始めているのに、幸村がいない。

「……仁王、お前んちいっていい」 
「ええよ」

いつの間にか落としていた丸井の鞄も持って手を引いて、仁王はいつからこんなに頼れる男になってしまったのだろう。以前なら丸井の小さなわがままでも喧嘩して、時には殴り合いもした。仁王だけが大人になってしまったようで悲しくなる。時は移り変わりのに、丸井だけが成長できていないのか。幸村が欠けた動揺をみんなは冬の間に克服して、それを成長につなげた。それなのに、どれだけ考えても丸井は前に進めない。

「……幸村くんに会いたい」 
「……面会謝絶も、そのうちあけるじゃろ。柳生言うとった」
「俺は今すぐ会いたい」 
「……俺で我慢しとってよ」



 * 



セックスしても大人になれない。あんなに気持ちよくても終わった後にむなしくなる。仁王が怒れば怒れるのに、と勝手なことを思った。抱きしめた裸の体から汗が引くと少し寒くなって、肩を震わせると仁王が布団を引っ張り上げる。

「まだちょっと寒いの。あったかくなってはきたけど」
「なあ、どうして幸村くんだったんだろう」 
「……ブン太」
「だって、幸村くんが苦しむ意味がわかんねえよ」
「……やから、昔の人は、前世のせいにしたんじゃろうな。病気は平等で、不平等なんじゃ」
「……幸村くんとテニスがしたい」 
「だから、何もできない俺らは祈るんじゃろ」

近くにある体温を求めて抱きしめる。仁王の体はあたたかい。幸村が倒れた後、パニックになった丸井を落ち着かせたのもこの体温だった。あの時はひっぱたかれたのだが、その時の仁王も戸惑ったような目が忘れられない。幸村とも話をして部員たちとも意志をかたくし、一旦は落ち着いた。それでも春がきて環境が変わる中で、どうしても幸村の不在が気にかかる。

「幸村が好きなんやね」 
「……お前とは違うぜぃ」
「わかっとるよ。自信はないけど」 
「なんでそういうこと言うんだよ!」

腕を叩いて体を起こし、仁王を覗き込む。苦笑する仁王にむっとしてその頬をつまんだ。

「恋愛と一緒にするほどばかじゃねえぞ!」 
「わかっとるって。幸村とセックスされたら困るわ」
「ばか!」 

ぎゅっと抱きしめると仁王が布団をあげて、寝よう、と囁いた。眠ったあとに来る朝が何も変えないと知っているけれど、とにかくそうすることしかできなくて頷いた。

強くなりたい。できるだけ早く、強くなりたい。 






 ---------- 



5月②  


「ごめんね、心配かけて。大袈裟なんだよなあ、ちょっと風邪こじらせたぐらいで面会謝絶って。まあ、しょうがないのかもしれないけど」
「もう大丈夫なの?」 
「うん。この間腹筋してて怒られたよ」
「ははっ」 

自分を笑わせてくれようとしているのがわかって笑い返す。幸村の落ち着いた声と笑顔に、丸井の心はよけいにざわついた。それをできるだけ表に出さないようにしながら、ひとりで来るのではなかったと後悔した。どうしても会いたくなって部活を抜けて来てしまったのに、後悔するなんて。

「……幸村くん、いつ戻れるの?」 
「んー、そうだね……まだ検査の結果次第なんだけど、手術するみたい」
「すれば治るの?」 
「それはお医者さんでもわかんない」
「……大丈夫なの?」
「しないよりはいいみたい」
「そっか……」 

無力な手を握り締めてうつむいた。幸村の病気がわかってから少しだけ世界が変わった気がする。はっきりとはわからないが、おぼろげに命の意味もわかりかけてきた。丸井には何もできないことが、一番身にしみてる。

「ブン太、俺は大丈夫だよ。大会には間に合わないかもしれないけど、お前たちが全国に連れて行ってくれるって信じてるから。全国では一緒に戦おう」
「……うん!」 

ドアが開いて振り返ると、幸村の妹が顔を出した。丸井を見て目を細めたが、どういう意味なのかよくわからない。

「こんにちは」 
「こんちは。あ、じゃあ、帰るよ」
「うん、ありがとう。またおいで」 
「うん」

幸村の笑顔に笑い返した。すれ違った妹に会釈をされて慌てて返し、病室を後にする。ひとりで病院に来るのは初めてだった。そう頻繁に来ることはできない場所だと感じる。病院は元気な人間も病気にしてしまうような気がして好きではなかった。
どうしてみんなは平気なのだろう。真田は部長が欠けている間は部長としての仕事をこなし、柳がその補佐をしている。柳生もジャッカルも今まで通りにテニスをし、後輩への指導も熱心だ。切原は少し自分と近いかもしれない。がむしゃらにテニスをしている。仁王は、いつも変わらない。腹が立つほどに、気まぐれに優しい。みんな自分なりに納得して時を進めているのに、丸井ばかりが足踏みをしている気がして焦る。

小学5年生のときだ。テニス教室のチラシを見つけた母親と何となく体験教室に行き、そこで幸村に出会った。あのときから他者を寄せつけぬ強さがあり、絶対にではなかったが大人に勝つこともあったようだ。それまでの友人たちとは違う、対等であるのに揺るがぬ位置関係を築き、しかし「威張る」わけではなかった幸村は丸井に大きく影響を与えた。彼がいないことは、どれだけ落ち着こうとしても丸井を惑わせる。早く、早く。幸村が戻ってくればいいのに。
とにかく、幸村が帰ってくると約束した今、丸井には勝利を目指すことしかできない。待ってると言われれば期待に答えるだけだ。今から戻れば真田の鉄拳は食らうかもしれないが、少しだけでも部活へ戻ろうか。しばらく迷い、結局今日はこのまま家へ向かう。着替えて走りに行こう。仁王に会うと弱ってしまう気がする。

ああ、仁王といるせいなのか、とふと気づいた。どれだけ強く決意しても揺らいでしまうのは、仁王がすべて見抜いてしまうせいだ。丸井が見ないようにしているごまかしを、何も言わずに見つめているあの目が怖い。隣に並びたい。再び思いを強くし、丸井は走り出した。

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