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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'05.10.Sat
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2014'05.25.Sun
ジャンアル♀+捏造娘、ライクリ含むよ。



「ああ、そうだ」

店員として会計をしている最中に、ユミルは釣り銭を渡しながらアルミンを見た。顔見知りではあるが今はあくまでも客と店員で、ユミルがそうしたことはあまりしないので珍しい。彼女の同僚がやや顔をしかめたことも気にせずに、ユミルは事も無げに口にする。

「結婚したわ」

「誰が?」

「私」

「えっ!?」

アルミンが驚くよりも先に声を上げたのは、ユミルの隣に立つ店員だった。ユミルの腕を掴んで何か言いたげに口を開くが、はっとアルミンに気づいて手を離した。アルミンも聞きたいことは沢山あるが、何よりも動揺している店員が気の毒になる。

「ユミル、あとで詳しく聞かせて!」

「ああ、もうそのうち上がるんだ。ライナーの店に寄るんだが」

「先に行って待ってる!」

商品を受け取り、アルミンは足早に本屋を後にした。高校の時からの友人であるユミルは自由な人で、およそ社会の仕組みとは馴染まない生き方をしている。高校を卒業してから半分以上は海外で暮らしているのではないだろうか。一所に落ち着くのは性に合わない、と言っていた彼女が、一体どうした心境の変化だろう。

――いや、それよりも、相手は一体誰なんだ!

ユミルの浮いた話などこれまで聞いたことがない。アルミンは事情を聞けそうな人を求めて、共通の友人であるライナーが店長をつとめるカフェバーへ急ぐ。少し重たいドアを押し開けて中に入ると、カウンターの中にライナー、その前にベルトルトの姿がある。ライナーが気づいて挨拶をするその返事ももどかしく、アルミンは簡単に挨拶をしてベルトルトの隣に座った。彼もやはり高校時代からの友人だ。立派な体格に似合わず少し気が弱いように感じることもある。普段は大学の研究室に引きこもっている彼が出てきていることは珍しいが、アルミンはそれどころではなかった。

「ねえライナー」

「いつものでいいか?」

「うん。それよりも、ユミルのこと知ってる?」

「ユミル?あいつまだ国内で資金調達中だろ?」

「そうじゃなくて、ユミルにはさっき会ったんだ。そのときに、彼女に結婚したって聞かされて」

「はぁっ!?」

ライナーの声が大きくなり、彼はすぐにはっとして声を潜めた。どういうことだ、と静かに聞かれるが、アルミンもただ首を振る。

「そもそもつき合ってる人がいることも知らなかった。ライナーは?」

「いや、オレも初耳だ」

アルミンに水を差し出しながら、ライナーは動揺を隠せていないようでグラスは濡れている。しかしアルミンもそれを気にすることなく手に取った。

「クリスタは?何も言ってなかった?」

「いや、何も……ユミルにはしょっちゅう会ってるはずだが」

ライナーの妻はユミルの親友だ。過去にはつき合っているのではないかと噂されるほどの関係であったので、彼女が知らなければ誰も知らないだろう。

「あっしまった、お迎え」

動揺のあまり忘れていたが、買い物の帰りに幼稚園に娘を迎えに行く予定だったのだ。アルミンは慌てて携帯を取り出し、家にいるはずの夫へ連絡する。娘を溺愛している彼は少しも嫌がらず、それどころか喜んでお迎えを頼まれてくれた。その間にライナーがコーヒーを入れてくれる。

「それはなんだ、どういうことだ」

「僕もわからない。ユミルは仕事中だったし、結婚したとだけ聞かされて」

「わからんやつだな……こっちに帰ってきてたのは先月か?それなら旅先で知り合ったってこともないか」

「どうだろう……ユミルの交友関係が全くわからない」

ユミルはアルバイトで資金を貯めて海外に旅行に行き、金が尽きれば帰ってくるということを繰り返している。結婚をした、ということは、その生活もやめるのだろうか。どれほど考えても結局は彼女が来るまでは何もわからず、ユミルを待つ時間がもどかしい。

グラスの氷が半ば溶けた頃、やきもきするアルミンたちの前にようやくユミルが現れた。ユミルの挨拶はあっさりしたもので、こちらの気持ちなど気にも留めずに大きな体をちぢこませているベルトルトの背中を叩いてその隣に座る。

「あー、つっかれた!あれから店長に捕まっていろいろ聞かれてよ、なんか書類も書かされて」

「ユミル、その結婚の話を詳しく聞きたいんだけど」

「あ、書類に書かなきゃなんねぇからベルトルさんちの住所教えてくれよ。家電も引いてたよな」

「う、うん」

「あとなんだったかな、振込先の名義変更か。めんどくせぇな」

「ユミル、……え?」

ユミルを追求しかけ、アルミンははたと気づいて間に挟まれたベルトルトを見上げた。アルミンの視線から逃げるように顔を逸らしたベルトルトは、しかしライナーの視線とぶつかって俯く。

「ベルトルト、どういうことだ?」

「何?ベルトルさん言ってねえの?」

ユミルが隣の肩を叩いてくつくつ笑う。

「これが旦那様だよ」

ユミルの言葉から一拍。ライナーがすうと息を吸う。

「言えよ!オレとアルミンの話聞いてただろ!?」

「だ、だってあの状況で言ったら僕が問いつめられるじゃないか」

「当たり前だ!」

ベルトルトの幼馴染みであるライナーはアルミン以上の衝撃だろう。カウンター越しではまどろっこしくなったのか、店の奥に姿を消したと思えばすぐにエプロンを引きちぎるように外してカウンターから出てくる。ベルトルトを捕まえて開いているテーブルに押し込む姿を、ユミルはげらげら笑い飛ばした。アルミンは状況を理解しきれずに頭を抱える。

「えーっと……まず、ユミルがベルトルトとつき合ってたなんて知らなかったよ」

「そりゃあ先月からだしな」

「……は?」

「帰ってきてからだから丁度1ヵ月ぐらいか」

「なんでそれで結婚……」

「借りてたアパートがさぁ、大家さんが年だからもう潰すって言っててよ。流石にこっちでホテル暮らしはコスパ悪すぎるし、ベルトルさんちに転がり込んでたんだ。荷物なんてあってないようなもんだしな」

「な、なんか途中を省略された気がするけど」

「そしたらベルトルさん来年海外の大学で教える予定あるらしくてさ、妻って名目なら便乗してついていけるかと思って」

「う、うーん」

どう控えめに聞いてもユミルの都合に合わせて強引に押し切ったようにしか聞こえない。ライナーに問いつめられるままこちらには聞こえない小さな声で返しているベルトルトを振り返り、アルミンは精一杯頭を働かせる。明るいニュースであるはずなのに真っ青になっているベルトルトを見て、ユミルはにやりと笑った。そしてアルミンにも同じように笑いかけ、顔を寄せて小声で囁く。

「片思いが得意なのは自分だけだと思うなよ」

「えっ」

ユミルはそれ以上何も言わず、ライナーの代わりに出てきた店員に飲み物と軽食を注文した。瞬きを繰り返すアルミンを見て、ユミルは再び笑う。アルミンはゆっくり溜息をついた。

「久しぶりにこんなにびっくりした」

「そりゃ何より」

「……それ、ベルトルトは知ってる?」

「さあな。10年後ぐらいに聞いてみるわ」

「……おめでとう。お幸せに」

「どーも」

まもなく出てきたサンドイッチとコーヒーを受け取るユミルはいつもと何も変わったところは内容に見える。アルミンは自分の夫がかなりのロマンチストであったことは理解しているので、みんながそうだとは当然思っていない。それでも、結婚と言うものはこれほどあっさりしたものだっただろうかと考えてしまう。

賑やかな客が入ってきて視線を向ける。アルミンに気づいて駆け寄ってくるのは娘のメアリーだ。続いて入ってきたジャンがすぐメアリーを捕まえる。

「ジャン、ごめんありがとう」

「いや。でも急にどうした?」

アルミンに声をかけてから、ジャンはユミルに気づいてやや眉をひそめた。仲が悪いわけではないが、アルミンとユミルの組み合わせが珍しかったからだろう。人懐っこいメアリーはユミルに気づいて手を伸ばす。ユミルはジャンの腕に抱かれたメアリーと手を合わせた。

「メアリーは相変わらずかわいいな。ベルトルさんは子どもほしいか?」

ユミルが振り返るとベルトルトはぱっと顔を赤く染めた。その様子をいぶかしがるジャンに簡単に説明すると、メアリーをアルミンに託してジャンもテーブルに向かってライナーと共にベルトルトを囲い込む。アルミンはメアリーをユミルとの間に座らせた。

「ユミルなにたべてるの?」

「サンドイッチ」

「メアリーはもうすぐご飯だからだめ」

「え〜」

ユミルは誤解されがちだが面倒見がよく、子どもも好きである。メアリーもユミルが好きでよく懐いていた。

「幼稚園で今日は何したの?」

「おえかき!」

メアリーのジュースだけ注文し、背負ったままの幼稚園のバッグや帽子をとってやる。メアリーはユミルの食べているものに興味津々で、仕方なくアイスクリームを頼んだ。テーブルではライナーとジャンに囲まれたベルトルトが隠しようもないサイズの体を小さくし、問いつめられる言葉に頷いたり首を振ったりしている。

「クリスタには?」

「ちゃんと言ったさ。当然だろ」

「怒らなかった?」

「怒ってたな」

けらけら笑う彼女に悪気はなさそうで、実際そうなのだろう。やられた方はたまったもんじゃない、と他人事のように思う。

「なんのおはなし?」

「ユミル結婚したんだって。ベルトルトと」

「ほんとに?すごい!」

目を輝かせたメアリーの反応を笑うユミルの表情に、アルミンはやっと信じることができた。メアリーの手放しの感動をくすぐったそうに受け止めて、口元を緩めて幼い子どもの祝福を受けている。

「……式挙げるならメアリー貸してあげるよ」

「挙げねえよ」

スレンダーな彼女ならどんなドレスも似合うだろうと思うが、返事は予想通りだった。

「ユミルいいなぁ。メアリーもはやくおっきくなりたい」

「メアリーも好きな子いんのか。ませてんなぁ幼稚園児は」

「あ〜、それね……」

「結婚したいのはパパか?」

「メアリーはマルコと結婚するの!」

「マルコ?マルコって、マルコか?」

アルミンが頷くとユミルは弾けるように笑いだした。そして勢いよく立ち上がったかと思えばジャンにちょっかいを出しにいく。マルコはジャンの親友だ。娘が父ではなくその友人を選んだというこの話は、ジャンを落ち込ませるのでそこそこ手加減してあげてほしいが、ユミルはそうしないだろう。案の定ターゲットはベルトルトからジャンに移った。からかわれている夫を見るのは見慣れてしまって、フォローする気にもならない。自分の言葉が父を傷つけているとは少しも知らず、メアリーは届いたアイスに夢中だった。



*



「あ〜楽しかった!」

靴を脱ぎ捨てて部屋に入り、ユミルは真っ先に広いソファーに飛び込んだ。鍵をかけてゆっくり続いたベルトルトは溜息をつき、長身を持て余すように揺らしながら近づいてくる。ソファーの下に座り込み、ユミルの腹に頭を預けて再度深く溜息をついた。

「疲れた……」

「お前がライナーに何も言ってなかったからだろ」

「ユミルがクリスタに話したって言ってたから、伝わってると思ってたんだよ」

本当に疲れた声のベルトルトを笑い、ユミルは手を伸ばして乱暴に髪をかき回す。されるがままのベルトルトは低く呻いただけだった。

「アルミンには漏らしたから教えてやろう」

「何?」

「実は、私は高校のときからベルトルさんのことが好きだ」

一拍考え、ベルトルトはがばりと頭を上げる。目を丸くしてこちらを見る表情は心底驚いていて、ユミルは陽気に笑った。

「あんたがアニのことを好きだったことも知ってる」

「あ、う」

「だからまぁ、なんだ。別に私は、この結婚が酒の勢いでのやけくそだったとしても構わないよ」

「ちょっと、どういう……」

「人を求めるのはあまり得意じゃないんだ。好きだっていっても、あんたが幸せでいるなら別に私のものじゃなくていい。ただ、私のものだってんなら拒む理由はないってことだ」

ベルトルトは言葉をなくし、ぽかんと口を開けたままだ。いい年をした男が子どもに見えて、ユミルは笑う。体を起こして顔を寄せ、開いたままの唇の端にキスを落とした。
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2014'05.21.Wed
右ジャン要素を含みます。クリスタも腐女子。







「そッ」

店の一角であがった素っ頓狂な声に、ジャンも連れと一緒に振り返った。視線を集めてしまって半端な会釈で誤魔化す彼は見ない顔だ。

年齢確認をされてしまいそうな幼い顔立ちは、もしかしたら未成年なのかもしれない。前に置かれたオレンジ色で満ちたグラスはアルコールが入っているかどうかはわからなかった。同じテーブルのスタッフが何か言ったのに大きく頷く彼を、隣の女が笑う。おい、とカウンターのバーテンに呼ばれ、ジャンはやっと体を戻した。

「ジャン、お前見すぎ」

「かわいくねぇ?」

「お前好きだな、ああいうタイプ」

「かわいいよな。オレ色に染めたいっつーの?」

「馬鹿」

カウンターを挟んで肩を揺らして笑いあう。空になったグラスを指さされ、少し考えてもう一杯同じものを頼んだ。

この店は繁華街のずっとマニアックな一帯にある。小さくも常連ばかりでつないでいるこの店は、いわゆるゲイバーだ。ジャンが店の常連になってから、ここでいろんな客を見た。やってくるのはゲイばかりではない。ネタ半分友達感覚半分の女の客も珍しくなく、あのテーブルもそうだろう。どんな話も興味深そうに聞いてうなづく男を再び見て、ジャンは新しく出されたグラスを持って立ち上がった。

「おい」

「後でな」

カウンターに残るバーテンの手に自分の手を重ねて笑う。呆れたように肩をすくめられたが、ジャンは気にせず店の隅のテーブルに向かった。客と一緒にいるのも顔見知りのスタッフで、彼に声をかける素振りでするりとテーブルに滑り込む。

「マルコ何飲んでんの?」

「ジャン」

隣に座ったジャンにマルコは驚いたが、すぐに笑顔を見せた。ちなみにマルコは三年つきあっている彼女のいるノンケで、ジャンは昔振られている。正面に視線を流すと、驚いた表情は彼をなおさら幼く見せていた。隣の女には見覚えがある。

「クリスタ、久し振り」

「久し振り、ジャン。彼氏できた?」

「そっくり返す」

こちらもやはりこんな薄暗いバーの似合わないようなかわいらしい女だ。繁華街を歩くそこらのホステスよりも圧倒的にかわいいが、ジャンの視線はその隣に向いてしまう。隣の男は顔も服も野暮ったいが、興味に目を光らせている様子はジャンの目には魅力的に見えた。

「クリスタの友達か?」

「そう、アルミン!こっちはジャン、常連さん」

「はっ、初めまして」

「どうも」

ノンケだろうなぁ、と少し惜しく思いながらアルミンを見る。こんなところにくるのだから嫌悪はないのだろうが、ジャンの直感は外れたことがない。下手に手を出してこじれるのはごめんなので、今日は会話を楽しむだけにしよう、と乾杯を持ちかける。慌ててグラスを持つ様は小動物を思わせた。

「ジャン、この間の話クリスタに聞かせてあげなよ」

「女が乗り込んできた話?」

「そうそう」

「何!?新しいネタ!?」

「オレは芸人じゃねぇんだよ」

きらきらと目を輝かせるクリスタとは反対に、ジャンは露骨に顔をしかめた。詳しいことは知らないが、クリスタは「腐女子」であるらしい。世間にはボーイズラブというジャンルが流行り、それは要するに男同士の恋愛を扱ったものである。クリスタと知り合ってからいくつかそれを目にしたが、性別が違うだけで少女漫画と同じという印象だ。ただ少女漫画と違うのは、過激な性行為の描写があったところだろうか。中には楽しめるものもあった。クリスタはボーイズラブが好きなだけではなく自分で書くこともするようで、ここに来るのはネタ探しも兼ねているらしい。

その「ネタ」という言葉に、アルミンが反応したのを見逃さない。クリスタと同じ青い目を輝かせ、ジャンの様子をうかがっている。

「あ〜……この間中学んときの友達と偶然会ってさ、イケメンってことはねえけどチャラくなっててさ」

「うんうん」

「オレ地元じゃ一部にはゲイだってバレてんだよ。学校の先生とつき合っんのバレて」

「ちょっ、その話知らないんだけど!?」

「だって不倫の話はクリスタ怒るだろ」

「あっ不倫はやだ」

アルミンがわずかに指先を跳ねさせた。クリスタとは違い、その反応は悪いものではなさそうだ。

「まあそんで、その同級生も仲よかったわけじゃないけど、久しぶりに会ったら普通に接してくれて、飯食いに行ったんだ。懐かしい昔の話ばっかりしてたら結構酒回って、終電逃したからうちに泊めたんだ」

「う、うん」

「そのときは次の日普通に帰っていったんだ。あ、何もしてねえよ、ほんと普通に泊めただけ。でも次の週ぐらいか?夜中にそいつが女とふたりで押し掛けてきて」

「うんうん」

「女はそいつの彼女でさ、うちに来るなり怒鳴り散らして、要するにそいつに別れ話をされて、理由を聞いたらオレとつき合ってるって言われたって。どういうことだこの泥棒猫、みたいなことで攻められたけど、オレまったく身に覚えがねえの。好みじゃねえしな」

「うわぁ、修羅場……」

「それがガチで修羅場でよ、女の方が包丁持ってて」

「えっ!」

「小さいやつだったけど。そいつが死ぬのも後味悪いけどオレは絶対死にたくないし、必死でなだめてどうにか座らせてお茶出して、その間にこっそりライナーにメール入れたんだ」

ジャンは少し振り返り、カウンターのバーテンを指さした。格闘技でもやっているのかと思うようながっちりした体型は、実用できるかはわからなくともはったりにはかなり有効だ。

「ライナーが来てしまえば女もビビったし、警察呼ぶぞって脅して外に放り出した」

「それで?」

「あとで話聞いたら、つきあいだしてからぶっ飛んだ女だってわかって、別れたいと思ってたところにオレが現れたから都合よく利用したんだってよ」

「何それ!最低!」

「でもちゃんとオチついてよ」

「うん」

「別れることには成功して、そのあとオレに惚れたっつって今ストーカー状態」

「ジャンってほんと、いつか刺されそうだよね……」

クリスタの言葉にマルコが大きく頷いた。何だよ、と口をとがらせて見せる。聞きたがるのはそちらのくせにいつもこうだ。

「アルミンはクリスタと同じ?」

「えっ」

「こういう話好き?」

「う、なんというか、すごすぎて……」

「ジャンの話、おもしろいけどすごすぎるんだよね。ネタにできないよ」

「いっとくけどオレいつも巻き込まれてるだけだからな」

「クリスタそろそろ終電じゃない?」

「あっ、ほんとだ!アルミンもだよね!」

「うん」

「なんだ、帰っちまうのか」

結局自分の話をしただけで終わってしまった。物足りなさを感じながら手を振って見送るとアルミンもはにかんで手を振り返してくれる。それが見れただけでよしとしておこう。

「また来る?」

誘うつもりで立ち上がったアルミンを見上げたが、困ったようにクリスタを見て、首を傾げた。

それからは元々少なかった客は減るばかりで、ジャンがひとり残った頃、ライナーがクローズの看板をかけにいく。ちびちびと酒を舐めていたジャンは酩酊とまではいかなくとも気分はかなり良く、カウンターの端でグラスの中の氷をつついていた。椅子を直しながら戻ってきたライナーはジャンの隣に座り、ちらと視線を送ると顔が近づく。力強い腕がジャンの腰を引き寄せ、厚い唇が重なった。

「ん」

腰を撫でた無骨な手がカットソーの下に滑り込んだ。くすぐったさを笑って息を漏らす。熱っぽいライナーの視線と目があって、ジャンは少し考えた。

「オレ、やっぱ帰るわ」

「……お前、ここまできてそれはねえだろ」

「気分乗らねぇ。また今度な」

わざと子どもじみた仕草で頬にキスをして、ジャンはライナーの胸を押す。しばしの沈黙の後、溜息と同時に体が離れた。

「送るか?」

「タクシー捕まえる。じゃな、おやすみ」

「おやすみ」

物わかりのいい友人に感謝して、ジャンは店を出た。



ジャンが塾講師という仕事を選んだのには、大それた信念や崇高な理由はなかった。仕事の相手が子どもであることと、面接のときの人事担当が好みであったからだ。残念ながら人事担当はジャンの就職とほぼ同時に異動になったが、他の講師も悪くはなかった。元々職場で恋愛をする気はなく、過ごせるならば何事も問題を起こさずに暮らしたい。受験勉強で大忙しの生徒たちは自分の恋愛のための余力しかなく、個人経営の塾の数少ない講師はみな真面目だった。ジャンが明け方まで遊び回っていようと、仕事以外で関わりそうもない。変装というわけではないが仕事中は伊達眼鏡で、気持ちの切り替えをしているつもりだ。

教室の一角で女子生徒がにぎやかな話をしている。今までは気にしたことはなかったが、ジャンはクリスタと知り合ってから彼女たちの会話の断片がわかるようになった。つまり彼女たちも腐女子なのだ。ホワイトボードを消しながらこっそり聞き耳を立てているジャンには気にもとめず、彼女たちは楽しそうに、ある種の共通言語を使いこなす。どうやらクリスタと同じ「ジャンル」らしい。有名私立の清楚な制服に身を包み、涼しい顔で勉強しながら、彼女たちも頭の中ではお気に入りのキャラクターたちによる乗算式を繰り広げているのだ。成績が落ちない程度に好きにしてくれ、と思いながらテキストを手に、ジャンは帰るようにと声をかける。

「あっ先生、今日言ってた参考書なんだっけ?」

「あ〜?わざわざ書いてやってただろうが」

「本屋寄って帰るから教えて〜!」

甘える声色にわざとしかめっ面をする。別にゲイだからと言って女が嫌いなわけではないが、単純に同じことの繰り返しは面倒だ。ふと自分もほしい本があることを思い出す。

「俺も本屋寄るから一緒に見てやる。ちょっと待ってろ」

彼女たちが顔を見合わせたが特に気にせず、ジャンは控え室に戻って帰り支度を手早く済ませた。ロビーで待っていた生徒と合流し、駅前の本屋に向かう。特に大きいわけではないが品ぞろえがよく、なかなか重宝する店だ。

「この店のコーナーならあのBL見つかるよね」

小さく囁きあう彼女たちの言葉が聞こえ、なるほど、とこっそり苦笑した。趣味に勉強にと忙しいことだ。さっさと目当ての参考書を見つけてやり、ジャンも目当ての本を探して生徒と別れた。本棚にはジャンの目当てのものは見つからず、帰ってインターネットで探す方が早いだろうかと思案する。丁度背後を店員が通りかかったので、ついでなので声をかけた。

はい、と振り返った顔を見て驚く。柔らかな金髪のボブカット、それは昨日バーで見た顔だ。薄暗い店内ではわからなかった青い瞳がジャンを見上げる。

「お探しですか?」

どうやらジャンに気づいていないらしい。そんなにインパクトがなかっただろうか、と思ったが、恐らく他人に興味のないタイプなのだろう。

「あの」

「ああ、『落窪物語』、岩波のありますか」

「少々お待ち下さい」

一度棚に視線を送り、ぱっと離れた彼はカウンター向かった。パソコンのキーボードを叩いて、スタッフルームに姿を消す。ジャンがどうしてやろうかと思っているうちに、文庫本を持って戻ってきた。

「こちらでお間違いないですか?」

「ありがとう。それと、あんたのオススメのBLある?」

すぐに理解ができずにぽかんと口を開けたアルミンを笑い、眼鏡を外してのぞき込む。時間をかけて思い出したようで、アルミンは視線をさまよわせた。

「えっ、と、あの……」

「終電間に合った?」

「は、はい……」

「よかった。また来いよ、もっと話聞きたいからさ」

「あ、う」

「あんたが知りたいような話も、できると思うぜ?」

ジャンの言葉に、アルミンが目を光らせたのを見逃さなかった。
2014'05.15.Thu
ミルク、卵、シャボン玉。青い積み木は三角で、丸い積み木は赤い色。車のタイヤは外れてしまって、うさぎは綿がもうかたい。一番あったかくて柔らかいのは、母の手だった。



ジャン、と優しく呼ぶ声に、今すぐ飛び出していきそうになる。それでも驚いた顔が見たいという一心で、ジャンはじっと大人しくして息を潜めた。洗濯物の山の中、一際大きなシーツですっぽり体を覆ってうずくまる。母の声は近づいたり遠ざかったりして、そばを通る気配がするたびおかしくなった。

「ジャーン?どこに行っちゃったのかなぁジャンは。お顔が見たいな〜」

困った声に思わずくすくす笑いをこぼし、ジャンは「ばあっ!」と大きな声を上げて自分を覆っていたシーツから飛び出した。母は驚いて声を上げる。

「ああびっくりした!」

「びっくりした?」

「心臓が止まるかと思った」

胸をさする母に飛びついた。いたずらっ子ね、と頭を撫でられてけらけら笑う。エプロンからは甘い匂いがして、ジャンはあたたかい胸に顔を埋めた。



死体を燃やす炎が小さくなっていく。燃えるものがなくなってくすぶりゆく炎のように、自分の感情も治まってくれるならどれほどいいことだろう。ちらちらと空気を舐める炎を見つめ、ジャンはただ立ち尽くしていた。

見守っていた人間は随分減った。肉の焼けるにおいや高ぶる感情に耐えきれずに、ひとりまたひとりと離れていった。ジャンはどんな一瞬も捨てることができない気がした。

小さな火花がはぜ、燃えて組み木は崩れる。風は煙を遠く遠く、知らせのように運んでいった。

あの中にはジャンの親友もいた。冗談にしたいほどのくすぐったい言葉を平気で口にする男だった。ジャンのことを強い人ではないと言った男は、ジャンより先に死んだ。

「オレはな、昔から運はいい方だ」

近くにいた同期が動いた気配がしたが、話しかけたわけではなかった。しかしジャンは気にせず口を開く。

「運がいいだけだ」

ずっと炎を見ていたので、兵舎に戻ってからも目の奥がちかちかしているようだった。

煙は星を隠し、四散する。壁の外にも流れただろう。



新しいジャケットに袖を通した。気分は何も変わらない。背中に背負ったものは、自分には何も見えないからだ。



騒々しい、嫌な喧噪を走り抜ける。ちらちらと感じる視線はみな怒りに満ちて、悲しみをたたえて、あるいは無感情だ。

誰かの生活の欠片を蹴って、ジャンがまっすぐ目指したのは生まれ育った自分の家だ。巨人たちが好き勝手に暴れ回った街は人々を絶望させるには十分な光景だった。兵士の中には昔の悪夢を思い出して取り乱したまま、今も不安定な感情を持て余している者もいる。ジャンとて、昔の遊び場や通い慣れた店の変わり果てた姿に何も感じないはずがなかった。

全身の筋肉を意識して走る。そう考えていなければ、体が動かなくなる。右足を地面から持ち上げて体を前に、そうしながら左足で地面を踏みしめ、腕を大きく振りあげる。どんな一瞬の力さえ自分が指示をしなければ、糸が切れてしまう気がした。



ジャンの部屋はなくなっていた。天井のなくなった家の中で、母親が背中を丸めて、食卓を撫でていた。

「母さん」

今まで、自分はどんな声で母親を呼んでいただろうか。振り返った母親はひどく疲れていて、喜怒哀楽の豊かな母親を思い出して悲しくなった。

少しずつ変わっていくものばかりではないのだと思い知った。

「ジャン、よかった。訓練兵も参加したと聞いたから」

早足に母親に近づいた。背丈を抜いたのはいつのことなのか思い出せない。

「怪我は」

「私は何も。父さんが少しね。でも大丈夫よ」

母親はジャンを見上げ、困ったように小さく笑う。この変わり果てた家の中で見る、確かに知っている日常をかいま見た。それが嬉しいのか悲しいのかわからなかったが、ジャンは震える息を吐いた。

「あんた、兵士なのね」

伸ばされた手がジャンの胸のエンブレムに触れた。そこで母親ははっとして、ジャンを見る。荒れた手の下にあるのは、一角獣ではなく自由の翼だ。

「似合わねえだろ」

「……そうね、よく似合う」

あたたかい手が胸を撫でる。

空は青く、鳥は鳴く。しかし風が運んでくる声やにおいは知らないもので、ジャンは深く息を吐いてこみ上げるものを自分の中に散らせた。

シーツを被ってやり過ごせたら、どんなによかっただろう。自分を隠す術すら持たず、見て見ぬふりも許されない。

「ほんとに、よく似合う」

泣き出したジャンを、母親はいつものように抱きしめた。



切り傷、擦り傷、打ち身に捻挫。怒号に息を潜め、憤りは殺して鉄を嗅ぐ。ブレードがしなる視界の向こうはもう見えない。なくしたもののために戦うのか、なくしたくないもののために戦うのか、未だ道は見えなかった。
2014'05.08.Thu
「はいど〜も〜、エレンです」

「ジャンです」

「エレンとジャンです。よろしくお願いしま〜す」

「こっちの悪人面がエレンです」

「こっちの悪人面がジャンなので、間違えんとって下さいね〜」

「いやいや、エレンさんの悪人面にはかないませんて」

「ああ、悪人面やなくて馬面やったな」

「誰が馬やねん」

「あとで人参やるからな。顔は怖いけど怖くないんでよろしくお願いしま〜す」

「オレらなんて言われてるか知っとる?」

「何?」

「ヒーロー物に出てくるしょぼい敵」

「はぁ!?アンパンマンで言うところのばいきんまんってこと?」

「いや、アンパンマンで言うたらカビルンルンや」

「ショッカーやん!」

「雑魚やで雑魚!」

「誰が雑魚やねん!もーほんなら本気で行きましょ。オレヒーローやるから自分敵やって」

「いやいや悪人はエレンやろ」

「あとで馬役やらせてやるから!」

「せぇへんわ!」

「ええからやって!」

「しゃーないな〜、ほなやるで?……やいお前ら!痛い目に遭いたくなかったら大人しくしろ!」

「銀行強盗みたいやな」

「ヒーローやれや!」

「出たなウマヅラー!この駆逐マンが駆逐してやる!」

「やれるもんならやってみやがれ!」

「お前ら恥ずかしくないのか!そんな全身タイツで!」

「うっさい!制服や!親切で敵アピールしてんねや!」

「派遣か?バイトか?母ちゃん泣いてんで!」

「ほっとけや!社保入っとるわ!」

「時給なんぼなん?儲かる?」

「月の出勤によるけど平均こんなもんやな」

「マジで!?オレよりもうてるやん!」

「人は足りとるから残業もないし有給も取れるしな、あと上司の姉ちゃんがおっぱいデカい」

「うっわ〜ほんまか、オレ転職しよかな」

「いやいや困るわ、あんたらがおらんとこっちの仕事かてなくなるやん」

「せやけどオレら休みでも呼び出されるしやなぁ、土日は遊園地に出張やしなぁ」

「いや〜大変やとは思うけど、こっちもあんたらに倒されな給料出ぇへんしな、こないだローン組んで車買ったし倒してくれな」

「もー嫌んなった、オレヒーローやめるわ。どうしたら就職できる?」

「まずは馬面に整形やな」

「……」

「……」

「ちゃんちゃん♪」

「締めんな!」

「まぁなんしかやるならやっぱりヒーロー物は男子として燃えるよな!今ヒーローっていったらあれでしょ!進撃の巨人!」

「あ〜、ヒーローか?」

「みなさん知ってはります?進撃の巨人!全裸の巨人に襲われるんですけどね、全裸の巨人がそいつら倒していくんですよ」

「それ誤解されへんか?」

「もうめっちゃダイナミックにね、ヒーローの裸の巨人が敵の裸の巨人をちぎっては投げちぎっては投げ」

「相撲か」

「ほんでもう家もばんばん壊れていって」

「ゴジラか」

「実はそのヒーローの巨人は主人公で、ピンチになると巨人になんねん」

「それヒーロー物の敵ちゃうか」

「巨人になるとき自分の手ェ噛むんやけど」

「ルフィか」

「その主人公のセリフがめっちゃかっこええねん!」

「まぁヒーローには大抵あるわな」

「『チュクチュクしてやる!』」

「それキューティーハニーや!」

「いちいちうっさいなぁ。ほな自分はなんか好きなヒーロー物ないんか」

「今ヒーロー物っていったら進撃の巨人やろ!」

「もうええて」

「「どうも、ありがとうございました〜」」
2014'04.23.Wed

てんてんと春がくる。こけつまろびつ生き物たちが動き出し、風を回し、土を起こす。やれどっこいしょと盛り上がり、ぞろぞろと染めあげていく。甘い風に乗って産声は広くこだまし、叫ぶものもわらうものもみな明日にはひとかたまりになる。さかまきに風が踊るのも湖面が割れるのも春のせいにして、芽吹くものは姿を隠した。途方もなく絶望感に覆い尽くされ、もう後戻りはできない。月だろうが雨だろうが声を上げて拒むものを燃やしていった。どろりと這いあがってくるものは四散し、あまやかなぬくもりに包まれる。奔流に巻き込まれ身を委ねたものはやがて散り散りになり、白や黄色になってとろりと木々を染めた。あますことなく広がってやがてはひとつになるものはその一端に不安を孕み、一方では真水に毒を溶かしていく。嗚呼、声を高く、羽ばたきがそれを消していく。落ちては浮かび、また溶ける。てんてんと春がくる。
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