言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'05.25.Sun
ジャンアル♀+捏造娘、ライクリ含むよ。
「ああ、そうだ」
店員として会計をしている最中に、ユミルは釣り銭を渡しながらアルミンを見た。顔見知りではあるが今はあくまでも客と店員で、ユミルがそうしたことはあまりしないので珍しい。彼女の同僚がやや顔をしかめたことも気にせずに、ユミルは事も無げに口にする。
「結婚したわ」
「誰が?」
「私」
「えっ!?」
アルミンが驚くよりも先に声を上げたのは、ユミルの隣に立つ店員だった。ユミルの腕を掴んで何か言いたげに口を開くが、はっとアルミンに気づいて手を離した。アルミンも聞きたいことは沢山あるが、何よりも動揺している店員が気の毒になる。
「ユミル、あとで詳しく聞かせて!」
「ああ、もうそのうち上がるんだ。ライナーの店に寄るんだが」
「先に行って待ってる!」
商品を受け取り、アルミンは足早に本屋を後にした。高校の時からの友人であるユミルは自由な人で、およそ社会の仕組みとは馴染まない生き方をしている。高校を卒業してから半分以上は海外で暮らしているのではないだろうか。一所に落ち着くのは性に合わない、と言っていた彼女が、一体どうした心境の変化だろう。
――いや、それよりも、相手は一体誰なんだ!
ユミルの浮いた話などこれまで聞いたことがない。アルミンは事情を聞けそうな人を求めて、共通の友人であるライナーが店長をつとめるカフェバーへ急ぐ。少し重たいドアを押し開けて中に入ると、カウンターの中にライナー、その前にベルトルトの姿がある。ライナーが気づいて挨拶をするその返事ももどかしく、アルミンは簡単に挨拶をしてベルトルトの隣に座った。彼もやはり高校時代からの友人だ。立派な体格に似合わず少し気が弱いように感じることもある。普段は大学の研究室に引きこもっている彼が出てきていることは珍しいが、アルミンはそれどころではなかった。
「ねえライナー」
「いつものでいいか?」
「うん。それよりも、ユミルのこと知ってる?」
「ユミル?あいつまだ国内で資金調達中だろ?」
「そうじゃなくて、ユミルにはさっき会ったんだ。そのときに、彼女に結婚したって聞かされて」
「はぁっ!?」
ライナーの声が大きくなり、彼はすぐにはっとして声を潜めた。どういうことだ、と静かに聞かれるが、アルミンもただ首を振る。
「そもそもつき合ってる人がいることも知らなかった。ライナーは?」
「いや、オレも初耳だ」
アルミンに水を差し出しながら、ライナーは動揺を隠せていないようでグラスは濡れている。しかしアルミンもそれを気にすることなく手に取った。
「クリスタは?何も言ってなかった?」
「いや、何も……ユミルにはしょっちゅう会ってるはずだが」
ライナーの妻はユミルの親友だ。過去にはつき合っているのではないかと噂されるほどの関係であったので、彼女が知らなければ誰も知らないだろう。
「あっしまった、お迎え」
動揺のあまり忘れていたが、買い物の帰りに幼稚園に娘を迎えに行く予定だったのだ。アルミンは慌てて携帯を取り出し、家にいるはずの夫へ連絡する。娘を溺愛している彼は少しも嫌がらず、それどころか喜んでお迎えを頼まれてくれた。その間にライナーがコーヒーを入れてくれる。
「それはなんだ、どういうことだ」
「僕もわからない。ユミルは仕事中だったし、結婚したとだけ聞かされて」
「わからんやつだな……こっちに帰ってきてたのは先月か?それなら旅先で知り合ったってこともないか」
「どうだろう……ユミルの交友関係が全くわからない」
ユミルはアルバイトで資金を貯めて海外に旅行に行き、金が尽きれば帰ってくるということを繰り返している。結婚をした、ということは、その生活もやめるのだろうか。どれほど考えても結局は彼女が来るまでは何もわからず、ユミルを待つ時間がもどかしい。
グラスの氷が半ば溶けた頃、やきもきするアルミンたちの前にようやくユミルが現れた。ユミルの挨拶はあっさりしたもので、こちらの気持ちなど気にも留めずに大きな体をちぢこませているベルトルトの背中を叩いてその隣に座る。
「あー、つっかれた!あれから店長に捕まっていろいろ聞かれてよ、なんか書類も書かされて」
「ユミル、その結婚の話を詳しく聞きたいんだけど」
「あ、書類に書かなきゃなんねぇからベルトルさんちの住所教えてくれよ。家電も引いてたよな」
「う、うん」
「あとなんだったかな、振込先の名義変更か。めんどくせぇな」
「ユミル、……え?」
ユミルを追求しかけ、アルミンははたと気づいて間に挟まれたベルトルトを見上げた。アルミンの視線から逃げるように顔を逸らしたベルトルトは、しかしライナーの視線とぶつかって俯く。
「ベルトルト、どういうことだ?」
「何?ベルトルさん言ってねえの?」
ユミルが隣の肩を叩いてくつくつ笑う。
「これが旦那様だよ」
ユミルの言葉から一拍。ライナーがすうと息を吸う。
「言えよ!オレとアルミンの話聞いてただろ!?」
「だ、だってあの状況で言ったら僕が問いつめられるじゃないか」
「当たり前だ!」
ベルトルトの幼馴染みであるライナーはアルミン以上の衝撃だろう。カウンター越しではまどろっこしくなったのか、店の奥に姿を消したと思えばすぐにエプロンを引きちぎるように外してカウンターから出てくる。ベルトルトを捕まえて開いているテーブルに押し込む姿を、ユミルはげらげら笑い飛ばした。アルミンは状況を理解しきれずに頭を抱える。
「えーっと……まず、ユミルがベルトルトとつき合ってたなんて知らなかったよ」
「そりゃあ先月からだしな」
「……は?」
「帰ってきてからだから丁度1ヵ月ぐらいか」
「なんでそれで結婚……」
「借りてたアパートがさぁ、大家さんが年だからもう潰すって言っててよ。流石にこっちでホテル暮らしはコスパ悪すぎるし、ベルトルさんちに転がり込んでたんだ。荷物なんてあってないようなもんだしな」
「な、なんか途中を省略された気がするけど」
「そしたらベルトルさん来年海外の大学で教える予定あるらしくてさ、妻って名目なら便乗してついていけるかと思って」
「う、うーん」
どう控えめに聞いてもユミルの都合に合わせて強引に押し切ったようにしか聞こえない。ライナーに問いつめられるままこちらには聞こえない小さな声で返しているベルトルトを振り返り、アルミンは精一杯頭を働かせる。明るいニュースであるはずなのに真っ青になっているベルトルトを見て、ユミルはにやりと笑った。そしてアルミンにも同じように笑いかけ、顔を寄せて小声で囁く。
「片思いが得意なのは自分だけだと思うなよ」
「えっ」
ユミルはそれ以上何も言わず、ライナーの代わりに出てきた店員に飲み物と軽食を注文した。瞬きを繰り返すアルミンを見て、ユミルは再び笑う。アルミンはゆっくり溜息をついた。
「久しぶりにこんなにびっくりした」
「そりゃ何より」
「……それ、ベルトルトは知ってる?」
「さあな。10年後ぐらいに聞いてみるわ」
「……おめでとう。お幸せに」
「どーも」
まもなく出てきたサンドイッチとコーヒーを受け取るユミルはいつもと何も変わったところは内容に見える。アルミンは自分の夫がかなりのロマンチストであったことは理解しているので、みんながそうだとは当然思っていない。それでも、結婚と言うものはこれほどあっさりしたものだっただろうかと考えてしまう。
賑やかな客が入ってきて視線を向ける。アルミンに気づいて駆け寄ってくるのは娘のメアリーだ。続いて入ってきたジャンがすぐメアリーを捕まえる。
「ジャン、ごめんありがとう」
「いや。でも急にどうした?」
アルミンに声をかけてから、ジャンはユミルに気づいてやや眉をひそめた。仲が悪いわけではないが、アルミンとユミルの組み合わせが珍しかったからだろう。人懐っこいメアリーはユミルに気づいて手を伸ばす。ユミルはジャンの腕に抱かれたメアリーと手を合わせた。
「メアリーは相変わらずかわいいな。ベルトルさんは子どもほしいか?」
ユミルが振り返るとベルトルトはぱっと顔を赤く染めた。その様子をいぶかしがるジャンに簡単に説明すると、メアリーをアルミンに託してジャンもテーブルに向かってライナーと共にベルトルトを囲い込む。アルミンはメアリーをユミルとの間に座らせた。
「ユミルなにたべてるの?」
「サンドイッチ」
「メアリーはもうすぐご飯だからだめ」
「え〜」
ユミルは誤解されがちだが面倒見がよく、子どもも好きである。メアリーもユミルが好きでよく懐いていた。
「幼稚園で今日は何したの?」
「おえかき!」
メアリーのジュースだけ注文し、背負ったままの幼稚園のバッグや帽子をとってやる。メアリーはユミルの食べているものに興味津々で、仕方なくアイスクリームを頼んだ。テーブルではライナーとジャンに囲まれたベルトルトが隠しようもないサイズの体を小さくし、問いつめられる言葉に頷いたり首を振ったりしている。
「クリスタには?」
「ちゃんと言ったさ。当然だろ」
「怒らなかった?」
「怒ってたな」
けらけら笑う彼女に悪気はなさそうで、実際そうなのだろう。やられた方はたまったもんじゃない、と他人事のように思う。
「なんのおはなし?」
「ユミル結婚したんだって。ベルトルトと」
「ほんとに?すごい!」
目を輝かせたメアリーの反応を笑うユミルの表情に、アルミンはやっと信じることができた。メアリーの手放しの感動をくすぐったそうに受け止めて、口元を緩めて幼い子どもの祝福を受けている。
「……式挙げるならメアリー貸してあげるよ」
「挙げねえよ」
スレンダーな彼女ならどんなドレスも似合うだろうと思うが、返事は予想通りだった。
「ユミルいいなぁ。メアリーもはやくおっきくなりたい」
「メアリーも好きな子いんのか。ませてんなぁ幼稚園児は」
「あ〜、それね……」
「結婚したいのはパパか?」
「メアリーはマルコと結婚するの!」
「マルコ?マルコって、マルコか?」
アルミンが頷くとユミルは弾けるように笑いだした。そして勢いよく立ち上がったかと思えばジャンにちょっかいを出しにいく。マルコはジャンの親友だ。娘が父ではなくその友人を選んだというこの話は、ジャンを落ち込ませるのでそこそこ手加減してあげてほしいが、ユミルはそうしないだろう。案の定ターゲットはベルトルトからジャンに移った。からかわれている夫を見るのは見慣れてしまって、フォローする気にもならない。自分の言葉が父を傷つけているとは少しも知らず、メアリーは届いたアイスに夢中だった。
*
「あ〜楽しかった!」
靴を脱ぎ捨てて部屋に入り、ユミルは真っ先に広いソファーに飛び込んだ。鍵をかけてゆっくり続いたベルトルトは溜息をつき、長身を持て余すように揺らしながら近づいてくる。ソファーの下に座り込み、ユミルの腹に頭を預けて再度深く溜息をついた。
「疲れた……」
「お前がライナーに何も言ってなかったからだろ」
「ユミルがクリスタに話したって言ってたから、伝わってると思ってたんだよ」
本当に疲れた声のベルトルトを笑い、ユミルは手を伸ばして乱暴に髪をかき回す。されるがままのベルトルトは低く呻いただけだった。
「アルミンには漏らしたから教えてやろう」
「何?」
「実は、私は高校のときからベルトルさんのことが好きだ」
一拍考え、ベルトルトはがばりと頭を上げる。目を丸くしてこちらを見る表情は心底驚いていて、ユミルは陽気に笑った。
「あんたがアニのことを好きだったことも知ってる」
「あ、う」
「だからまぁ、なんだ。別に私は、この結婚が酒の勢いでのやけくそだったとしても構わないよ」
「ちょっと、どういう……」
「人を求めるのはあまり得意じゃないんだ。好きだっていっても、あんたが幸せでいるなら別に私のものじゃなくていい。ただ、私のものだってんなら拒む理由はないってことだ」
ベルトルトは言葉をなくし、ぽかんと口を開けたままだ。いい年をした男が子どもに見えて、ユミルは笑う。体を起こして顔を寄せ、開いたままの唇の端にキスを落とした。
「ああ、そうだ」
店員として会計をしている最中に、ユミルは釣り銭を渡しながらアルミンを見た。顔見知りではあるが今はあくまでも客と店員で、ユミルがそうしたことはあまりしないので珍しい。彼女の同僚がやや顔をしかめたことも気にせずに、ユミルは事も無げに口にする。
「結婚したわ」
「誰が?」
「私」
「えっ!?」
アルミンが驚くよりも先に声を上げたのは、ユミルの隣に立つ店員だった。ユミルの腕を掴んで何か言いたげに口を開くが、はっとアルミンに気づいて手を離した。アルミンも聞きたいことは沢山あるが、何よりも動揺している店員が気の毒になる。
「ユミル、あとで詳しく聞かせて!」
「ああ、もうそのうち上がるんだ。ライナーの店に寄るんだが」
「先に行って待ってる!」
商品を受け取り、アルミンは足早に本屋を後にした。高校の時からの友人であるユミルは自由な人で、およそ社会の仕組みとは馴染まない生き方をしている。高校を卒業してから半分以上は海外で暮らしているのではないだろうか。一所に落ち着くのは性に合わない、と言っていた彼女が、一体どうした心境の変化だろう。
――いや、それよりも、相手は一体誰なんだ!
ユミルの浮いた話などこれまで聞いたことがない。アルミンは事情を聞けそうな人を求めて、共通の友人であるライナーが店長をつとめるカフェバーへ急ぐ。少し重たいドアを押し開けて中に入ると、カウンターの中にライナー、その前にベルトルトの姿がある。ライナーが気づいて挨拶をするその返事ももどかしく、アルミンは簡単に挨拶をしてベルトルトの隣に座った。彼もやはり高校時代からの友人だ。立派な体格に似合わず少し気が弱いように感じることもある。普段は大学の研究室に引きこもっている彼が出てきていることは珍しいが、アルミンはそれどころではなかった。
「ねえライナー」
「いつものでいいか?」
「うん。それよりも、ユミルのこと知ってる?」
「ユミル?あいつまだ国内で資金調達中だろ?」
「そうじゃなくて、ユミルにはさっき会ったんだ。そのときに、彼女に結婚したって聞かされて」
「はぁっ!?」
ライナーの声が大きくなり、彼はすぐにはっとして声を潜めた。どういうことだ、と静かに聞かれるが、アルミンもただ首を振る。
「そもそもつき合ってる人がいることも知らなかった。ライナーは?」
「いや、オレも初耳だ」
アルミンに水を差し出しながら、ライナーは動揺を隠せていないようでグラスは濡れている。しかしアルミンもそれを気にすることなく手に取った。
「クリスタは?何も言ってなかった?」
「いや、何も……ユミルにはしょっちゅう会ってるはずだが」
ライナーの妻はユミルの親友だ。過去にはつき合っているのではないかと噂されるほどの関係であったので、彼女が知らなければ誰も知らないだろう。
「あっしまった、お迎え」
動揺のあまり忘れていたが、買い物の帰りに幼稚園に娘を迎えに行く予定だったのだ。アルミンは慌てて携帯を取り出し、家にいるはずの夫へ連絡する。娘を溺愛している彼は少しも嫌がらず、それどころか喜んでお迎えを頼まれてくれた。その間にライナーがコーヒーを入れてくれる。
「それはなんだ、どういうことだ」
「僕もわからない。ユミルは仕事中だったし、結婚したとだけ聞かされて」
「わからんやつだな……こっちに帰ってきてたのは先月か?それなら旅先で知り合ったってこともないか」
「どうだろう……ユミルの交友関係が全くわからない」
ユミルはアルバイトで資金を貯めて海外に旅行に行き、金が尽きれば帰ってくるということを繰り返している。結婚をした、ということは、その生活もやめるのだろうか。どれほど考えても結局は彼女が来るまでは何もわからず、ユミルを待つ時間がもどかしい。
グラスの氷が半ば溶けた頃、やきもきするアルミンたちの前にようやくユミルが現れた。ユミルの挨拶はあっさりしたもので、こちらの気持ちなど気にも留めずに大きな体をちぢこませているベルトルトの背中を叩いてその隣に座る。
「あー、つっかれた!あれから店長に捕まっていろいろ聞かれてよ、なんか書類も書かされて」
「ユミル、その結婚の話を詳しく聞きたいんだけど」
「あ、書類に書かなきゃなんねぇからベルトルさんちの住所教えてくれよ。家電も引いてたよな」
「う、うん」
「あとなんだったかな、振込先の名義変更か。めんどくせぇな」
「ユミル、……え?」
ユミルを追求しかけ、アルミンははたと気づいて間に挟まれたベルトルトを見上げた。アルミンの視線から逃げるように顔を逸らしたベルトルトは、しかしライナーの視線とぶつかって俯く。
「ベルトルト、どういうことだ?」
「何?ベルトルさん言ってねえの?」
ユミルが隣の肩を叩いてくつくつ笑う。
「これが旦那様だよ」
ユミルの言葉から一拍。ライナーがすうと息を吸う。
「言えよ!オレとアルミンの話聞いてただろ!?」
「だ、だってあの状況で言ったら僕が問いつめられるじゃないか」
「当たり前だ!」
ベルトルトの幼馴染みであるライナーはアルミン以上の衝撃だろう。カウンター越しではまどろっこしくなったのか、店の奥に姿を消したと思えばすぐにエプロンを引きちぎるように外してカウンターから出てくる。ベルトルトを捕まえて開いているテーブルに押し込む姿を、ユミルはげらげら笑い飛ばした。アルミンは状況を理解しきれずに頭を抱える。
「えーっと……まず、ユミルがベルトルトとつき合ってたなんて知らなかったよ」
「そりゃあ先月からだしな」
「……は?」
「帰ってきてからだから丁度1ヵ月ぐらいか」
「なんでそれで結婚……」
「借りてたアパートがさぁ、大家さんが年だからもう潰すって言っててよ。流石にこっちでホテル暮らしはコスパ悪すぎるし、ベルトルさんちに転がり込んでたんだ。荷物なんてあってないようなもんだしな」
「な、なんか途中を省略された気がするけど」
「そしたらベルトルさん来年海外の大学で教える予定あるらしくてさ、妻って名目なら便乗してついていけるかと思って」
「う、うーん」
どう控えめに聞いてもユミルの都合に合わせて強引に押し切ったようにしか聞こえない。ライナーに問いつめられるままこちらには聞こえない小さな声で返しているベルトルトを振り返り、アルミンは精一杯頭を働かせる。明るいニュースであるはずなのに真っ青になっているベルトルトを見て、ユミルはにやりと笑った。そしてアルミンにも同じように笑いかけ、顔を寄せて小声で囁く。
「片思いが得意なのは自分だけだと思うなよ」
「えっ」
ユミルはそれ以上何も言わず、ライナーの代わりに出てきた店員に飲み物と軽食を注文した。瞬きを繰り返すアルミンを見て、ユミルは再び笑う。アルミンはゆっくり溜息をついた。
「久しぶりにこんなにびっくりした」
「そりゃ何より」
「……それ、ベルトルトは知ってる?」
「さあな。10年後ぐらいに聞いてみるわ」
「……おめでとう。お幸せに」
「どーも」
まもなく出てきたサンドイッチとコーヒーを受け取るユミルはいつもと何も変わったところは内容に見える。アルミンは自分の夫がかなりのロマンチストであったことは理解しているので、みんながそうだとは当然思っていない。それでも、結婚と言うものはこれほどあっさりしたものだっただろうかと考えてしまう。
賑やかな客が入ってきて視線を向ける。アルミンに気づいて駆け寄ってくるのは娘のメアリーだ。続いて入ってきたジャンがすぐメアリーを捕まえる。
「ジャン、ごめんありがとう」
「いや。でも急にどうした?」
アルミンに声をかけてから、ジャンはユミルに気づいてやや眉をひそめた。仲が悪いわけではないが、アルミンとユミルの組み合わせが珍しかったからだろう。人懐っこいメアリーはユミルに気づいて手を伸ばす。ユミルはジャンの腕に抱かれたメアリーと手を合わせた。
「メアリーは相変わらずかわいいな。ベルトルさんは子どもほしいか?」
ユミルが振り返るとベルトルトはぱっと顔を赤く染めた。その様子をいぶかしがるジャンに簡単に説明すると、メアリーをアルミンに託してジャンもテーブルに向かってライナーと共にベルトルトを囲い込む。アルミンはメアリーをユミルとの間に座らせた。
「ユミルなにたべてるの?」
「サンドイッチ」
「メアリーはもうすぐご飯だからだめ」
「え〜」
ユミルは誤解されがちだが面倒見がよく、子どもも好きである。メアリーもユミルが好きでよく懐いていた。
「幼稚園で今日は何したの?」
「おえかき!」
メアリーのジュースだけ注文し、背負ったままの幼稚園のバッグや帽子をとってやる。メアリーはユミルの食べているものに興味津々で、仕方なくアイスクリームを頼んだ。テーブルではライナーとジャンに囲まれたベルトルトが隠しようもないサイズの体を小さくし、問いつめられる言葉に頷いたり首を振ったりしている。
「クリスタには?」
「ちゃんと言ったさ。当然だろ」
「怒らなかった?」
「怒ってたな」
けらけら笑う彼女に悪気はなさそうで、実際そうなのだろう。やられた方はたまったもんじゃない、と他人事のように思う。
「なんのおはなし?」
「ユミル結婚したんだって。ベルトルトと」
「ほんとに?すごい!」
目を輝かせたメアリーの反応を笑うユミルの表情に、アルミンはやっと信じることができた。メアリーの手放しの感動をくすぐったそうに受け止めて、口元を緩めて幼い子どもの祝福を受けている。
「……式挙げるならメアリー貸してあげるよ」
「挙げねえよ」
スレンダーな彼女ならどんなドレスも似合うだろうと思うが、返事は予想通りだった。
「ユミルいいなぁ。メアリーもはやくおっきくなりたい」
「メアリーも好きな子いんのか。ませてんなぁ幼稚園児は」
「あ〜、それね……」
「結婚したいのはパパか?」
「メアリーはマルコと結婚するの!」
「マルコ?マルコって、マルコか?」
アルミンが頷くとユミルは弾けるように笑いだした。そして勢いよく立ち上がったかと思えばジャンにちょっかいを出しにいく。マルコはジャンの親友だ。娘が父ではなくその友人を選んだというこの話は、ジャンを落ち込ませるのでそこそこ手加減してあげてほしいが、ユミルはそうしないだろう。案の定ターゲットはベルトルトからジャンに移った。からかわれている夫を見るのは見慣れてしまって、フォローする気にもならない。自分の言葉が父を傷つけているとは少しも知らず、メアリーは届いたアイスに夢中だった。
*
「あ〜楽しかった!」
靴を脱ぎ捨てて部屋に入り、ユミルは真っ先に広いソファーに飛び込んだ。鍵をかけてゆっくり続いたベルトルトは溜息をつき、長身を持て余すように揺らしながら近づいてくる。ソファーの下に座り込み、ユミルの腹に頭を預けて再度深く溜息をついた。
「疲れた……」
「お前がライナーに何も言ってなかったからだろ」
「ユミルがクリスタに話したって言ってたから、伝わってると思ってたんだよ」
本当に疲れた声のベルトルトを笑い、ユミルは手を伸ばして乱暴に髪をかき回す。されるがままのベルトルトは低く呻いただけだった。
「アルミンには漏らしたから教えてやろう」
「何?」
「実は、私は高校のときからベルトルさんのことが好きだ」
一拍考え、ベルトルトはがばりと頭を上げる。目を丸くしてこちらを見る表情は心底驚いていて、ユミルは陽気に笑った。
「あんたがアニのことを好きだったことも知ってる」
「あ、う」
「だからまぁ、なんだ。別に私は、この結婚が酒の勢いでのやけくそだったとしても構わないよ」
「ちょっと、どういう……」
「人を求めるのはあまり得意じゃないんだ。好きだっていっても、あんたが幸せでいるなら別に私のものじゃなくていい。ただ、私のものだってんなら拒む理由はないってことだ」
ベルトルトは言葉をなくし、ぽかんと口を開けたままだ。いい年をした男が子どもに見えて、ユミルは笑う。体を起こして顔を寄せ、開いたままの唇の端にキスを落とした。
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