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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'05.10.Sat
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2013'11.03.Sun
パラレル注意







「アルミン?」

鍵がかかっていたのだから不在だろう。わかってはいたがつい探さずにはいられず、ジャンは合い鍵をポケットにしまいながら、部屋の中を探して歩いた。

アルミンが暮らすこの部屋は、ひとりで過ごすには広すぎる。しかし他界した家族の思い出の残るこの部屋を離れることはできなかった。ジャンにはアルミンの孤独はわからない。だからこそ、彼女の笑顔が愛おしくてならなかった。

ジャンがこの部屋の合い鍵を渡されたのは半年ほど前だ。ずっと確信させてくれなかったアルミンの気持ちをはっきりと口にしてくれた日でもある。

ポケットに潜ませたプレゼントを撫でる。今日はアルミンの誕生日だ。ジャンが来ることは知っていたはずだが、買い物にでも出ているのだろうか。

手持ち無沙汰に時間を持て余し、勝手にコーヒーを入れる。アルミンが飲まないのにここに置かれるようになった意味がわからないほど野暮ではない。

会ってすぐ!のつもりでいた勢いを殺がれ、ソファーに沈んで深く息を吐く。もう少し落ち着けと言うことだろうか。改めて言葉を探すうちに玄関で物音がして、覗きに行くとアルミンがやはり帰ってきたところだった。

「おかえり」

「あ、ジャン来てたんだ。ただいま。ありがとう」

荷物を取ると微笑むアルミンに笑い返す。落ち着いて、と思ったことなどすぐに頭から消え去って、ジャンはアルミンの手を引いた。どうしたの、というアルミンの問いには答えないままソファーに座らせる。

「ジャン?」

「アルミン、誕生日おめでとう」

「……ありがとう」

頭の中でのシミュレーションは完璧だったはずなのに、いざとなると言葉が出てこない。緊張を飲み込み、アルミンの手を取る。片手をポケットに入れて取り出したものが合い鍵で、それは慌ててそばのローテーブルに置き、改めて目的のものを探した。ようやく見つけたそれを握り、アルミンの左手を撫でる。彼女はまだわからないようで、首を傾げてジャンを見ていた。

薬指に指輪を通す。ただそれだけだというのにかっと体中熱くなった。サイズはこっそりはかったのでぴったりだ。それに安心して息を吐く。

「……ジャン」

「オレと結婚して下さい」

戸惑うアルミンをじっと見る。目をそらしてしまいたいがぐっとこらえる。彼女の目にみるみるうちに涙が浮かぶが、それがどういう意味なのかわからない。

「アルミン」

「違う、ごめん」

慌てたように涙を拭い、彼女はじっと指輪を見た。やっぱりこういうものはふたりで選びに行くべきだったのだろうか、と少し不安になる。恋人としてのつき合いは確かに長くはないが、幼稚園に通っていた頃から知る仲だ。いずれ結婚はと、口にしなくともふたりともわかっていたはずだ。

「……僕、ジャンに言わなきゃいけないことがあって」

「え」

「……さっき、……」

言葉を口にする前に、ぼろぼろとこぼれる涙がそれを遮る。慌てて手を握ったり背を撫でたりするが、アルミンは顔を覆ってしまった。何か不味いことがあっただろうか。ジャンがつき合った相手はアルミンが初めてだ。手探りの恋でもまじめに取り組んできたつもりだ。

ゆっくり息を吐き、少し落ち着いたアルミンは涙を拭いながら顔を上げた。ジャンを見上げ、唇を震わせる。何か言ったようだが聞き取れず、口元に耳を寄せた。濡れた吐息が触れる。

「……ほんとかっ!?」

どうにか聞こえた言葉に興奮してアルミンの肩を引く。つい声が大きくなったせいでアルミンが怯えた表情を見せ、すぐに手を離して謝った。

「……ほんとなのか」

アルミンは小さく頷いた。感情が言葉にならないのがもどかしく、我慢できずにアルミンを抱きしめる。

「あっ、あの!でも、まだ病院には行ってないから」

「じゃあ一緒に行く」

「ッ……嫌じゃない?」

「なんでだよ。……お前嫌なのか?」

「まさか!」

「返事は?」

手を取って見つめるとアルミンははたと思い出したように指輪を見た。じわりと頬が赤くなる。

「……うん」

「ん?」

「ジャンのお嫁さんに、して下さい」

「……はぁ」

緊張が途切れてアルミンを抱きしめる。戸惑うようにゆっくり抱きしめ返すアルミンがくすぐったい。

「お前の誕生日なのに、オレがもらってばっかになっちまった」

「そんなことない。すごく嬉しい……」

お互いの体温を感じて深く息を吸い込む。思いがけないプレゼントだ。

「……いつ、だろうな……」

「はは……気をつけてたのにね……」

「あっ!結婚式急いだ方がいいか!?」

「も、もう式の話する?」

「だってしんどい時期にはできないだろ」

「無理にしなくても」

「やだ。絶対する。子どもに見せてやらねえと」

「……ジャンに似た、素敵な子になるといいね」

微笑むアルミンにじわじわと実感がこみ上げる。見上げてくる赤い頬を両手で包み、隠れるようにキスを落とした。
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2013'10.24.Thu
「あれ、男じゃないか?」

連れの声に反応し、ジャンもほとんど反射でそちらを見た。それなりの乗車率だった金曜日の最終電車も今はもう人もまばらだが、彼女は座らずにドアの側に立っていた。彼女――否、「彼」と言うべきか。

こちらの声が聞こえたのか、すぐに窓の外に背を向けてしまったが、確かにかわいらしくはあったが骨格は男と言えなくもないような気がした。

「なんか結構いるらしいよな、女装が趣味ってやつ」

「お前も高校の時してたじゃん」

「文化祭だろ、あれ。ないわ、あんなときじゃなきゃしねえよ」

悪いやつではないが飲み会帰りで、彼もかなり出来上がっている。ジャンは顔をしかめたが、友人はそれにも気がつかなかった。

ジャンはまたドアを見る。きれいにアイロンのかけられたブラウスに細身のなジャケット、やはり座り皺さえないキュロットスカート。ぴかぴかの靴だって、傷ひとつない。ドアに触れている「彼」の指先が震えている。

「……別に、好きな格好すりゃいいんじゃねえの。お前の彼女だって、髪切って男みたいになってたじゃねえか」

「もーやめろよその話すんの」

「お前が怒らせたせいなんだろ」

「反省してます。ジャンまで口挟んでくんなって」

彼の降りる駅に着き、突き飛ばすように電車から降ろす。足取りはやや覚束ないが、家は駅の近くだから帰れるだろう。

「またな」

「おー、またー」

ふらふらと改札に向かう彼がこれ以上誰かに迷惑をかけたとしても、ここからはもうジャンには関係のないことだ。飲み会の会場だった居酒屋を出てからつきっきりでもう疲れた。

しかしここまでくると最後まで面倒見なければならない気にもなってくる。ドアの前で肩を落としている被害者に近づき、肩を叩いた。過剰に驚いて振り返られたが、そうひどい女装ではない。ともすれば素直にかわいいと思えるほどだ。

「悪かったな。酔っぱらいだから許してくれ」

「あ……」

口を開きかけた「彼」はすぐに言葉を濁して俯いた。咄嗟に出たらしい声は少し低い。そのストールは喉仏を隠すためか、と気がついて、なるほど、女装と言うものも大変らしい。

「似合ってるから気にするなよ」

ジャンの言葉にはっと顔が上がる。鳩が豆鉄砲を食らったような、とはこういう時に使うのだろうか。

すぐに電車は次の駅に止まり、目の前のドアが開いたのでジャンはそこで電車を降りてさっさと改札に向かった。ぽかんとした彼女の目の前でドアが閉まっていく。すぐにジャンを追い越していく電車の中に見えた「彼」に手を振った。

「……ま、あれぐらいなら見苦しいもんでもないよな」

結局のところ、ジャンも友人と変わらない。もう二度と会わないだろうからこそ適当なことを言ったが、あれが知人なら止めるか縁を切るだろう。

「あれぐらいかわいい彼女できねーかなー」

そう言うジャンにかわいい彼氏ができるのは、まだ誰も知らぬことである。
2013'10.19.Sat
「あらら、メアリーちゃん、スカート上げないでー」

娘の小さな手がワンピースの裾をたくし上げ、おむつで膨らんだお尻が丸見えになっている。もうすぐ1歳になる娘は、歩けるようになってから自分で歩くのが楽しいらしい。メアリーはぷっくりとした足で今日も元気よく歩いているが、今日は妙に尻餅をつくと思えばスカートを握っているせいだ。

アルミンがワンピースを離すように手をほどくと、けらけらと無邪気に笑ってまた裾を握る。アルミンも思わず笑い、また裾を直した。

「恥ずかしいからパンツないないしといて」

「うぶ」

「ああ、よだれが」

アルミンがハンカチを取る間にメアリーはまた生地を上げてしまう。

「もー、そんなにお母さんの作ったお洋服は嫌?」

「ぶー」

「ひどいなぁ、結構かわいいと思うんだけど。おなか冷えちゃうからなーいない」

ワンピースと同じ生地でパンツも作ってはいたが、転けてばかりは困る。暇に任せて作ったものだが、それなりに苦労はしたのだ。

「アルミン、車のキーは?」

「あっごめん、鞄に入れたまま!」

「ああ」

アルミンが立ち上がるのを制してジャンが自分で取りに行く。その間にもメアリーはまたワンピースの裾を握って歩きだしてしまい、せめてフローリングでは転けないように見ておこう、と追いかける。メアリーはジャンを追いかけていったようで、戻ってきたジャンが危うくぶつかりそうになってまた尻餅をついた。

「うわ、ごめん。大丈夫か?」

「あう」

「お前ほんっとに泣かねえな」

「あー」

「やっぱりワンピース着替えさせよう。転けちゃう」

「すぐ飽きるだろ」

「そうかなぁ。ほらメアリー、お父さんに見られちゃった。恥ずかしーなぁ」

「見ーちゃった」

理解はしていないのだろうが、ジャンにくすぐられてメアリーは笑い声をあげる。勢いでのけぞった娘をアルミンが慌てて支えた。

「出かけるの?」

「DVD返しにいくだけだ。行くか?」

「メアリー、お出かけする?お靴ちゃんとはいてくれる?」

アルミンを見上げた瞳は純粋だが、靴嫌いのこの子はいまいち信用できない。すでに片足だけになった靴が二足もある。

「もう靴諦めれば?」

「だって歩きたがるんだもん」

「まぁ、オレもいるしなくさねえだろ」

「じゃあついでにスーパー寄ってもらってもいい?買い忘れたものがあって」

「ああ」

メアリーに靴をはかせて、しばらくは機嫌よく歩いてくれるので3人で家を出た。よちよちとした歩みに合わせてエレベーターホールに向かう。よく見ればジャンが言った通り、ワンピースを握ることはやめていた。アルミンが構ったせいでよけいに気になっていただけなのかもしれない。

突然尻を触られてアルミンは廊下で悲鳴を上げた。慌てたジャンが手を上げる。

「ちょっと!びっくりした!」

「そんなに驚くなよ!こっちがびっくりしたわ!」

「何!?」

「いや、そこに尻があったから」

「……ジャンってどんどんオヤジくさくなるよね」

「オレは少年の心を忘れないんだよ」

「メアリーに嫌われても知らないから」

エレベーターホールが近づいたのでメアリーを抱き上げる。エレベーターを待っている間、静かになっていたジャンが不意に顔を寄せた。

「アルミンは嫌いにならないでいてくれるってことか?」

囁かれた言葉を少し送れて理解して、じわりと頬が熱くなる。

「……馬鹿じゃないの」

それでも否定できないことが悔しい。抱いた娘で顔を隠して、ジャンの笑い声も聞こえていないふりをした。
2013'10.15.Tue
学校に行きたくない、とはっきり言ったのは、そのときが初めてだった。夏休みの間にすっかり忘れてしまっていたのに、始業式の日制服に着替えたら、頭が割れるように痛くなった。次の日も、また次の日も。どうするの、と聞かれて、初めて学校に行きたくないのだと口にした。

深く追求されない代わりに、親の実家に送られた。祖父がひとりで住んでいるのは、人口も少ない田舎だった。

古い田舎の家に引きこもって1日中本を読んでいた。祖父も何も聞いてくることもなく、昼間はほとんどの時間、畑仕事に出ている。アルミンは簡単な食事を作る意外は読書に没頭し、2日3日と時間が経つのはすぐだった。



都会はまだ暑さの残る頃でも、田舎は秋の気配を漂わせていた。静かな縁側に追いやられた壊れたマッサージチェアが最近の定位置になっている。いつものように本を開いていると、からりと玄関の扉が開く音がした。祖父は普段裏口から出入りしている。誰だろうか、息を潜めるとドアを開けた人物は遠慮なく足音を立てて中に入った。あの足取りは近所の老人ではない。車の音はしなかったから役場や農協の人でもないだろう。

「アルレルトさーん!おーい!」

若い声に身をすくめる。来客なのだから顔を出すべきだとは思うのだが、どうせアルミンに用があるわけではない。黙っていればそのうち帰るだろう、と本もめくらず静かにしていれば、やがてまた扉の閉まる音がしてほっと息を吐く。誰だったのか知らないが、祖父に用があるのならまた来るだろう。ほっとして読書を再会しようとした耳に、砂利を蹴る音が滑り込む。

「いるじゃん」

「……」

縁側の網戸越しにアルミンを見た彼に、蛇に睨まれたように硬直した。眉間にしわを寄せてこちらを睨みつけてくる若い男に縮みあがる。無遠慮に網戸を開けてくるので悲鳴を上げそうになった。

「じいさんは?」

「はっ、畑に」

「裏の畑いなかったけどな……下の畑か。……あんた誰?

「ま、孫です」

「学校は?」

「……」

ストレートな言葉に黙り込む。しかし彼は大して気にしないようで、まあどうでもいいけど、と返事を待たない。

「じいさんに稲刈り終わったっつっといて」

「あ、はい。えっと」

「上の家のジャンって言えばわかる」

「はい」

不意に顔を寄せてきたジャンに息を飲む。彼はじっとアルミンを見た。お世辞にもいいとは言えない目つきは威圧感を与え、しかし目をそらすことも許さない。

「お前、暇?」

「……何か」

「栗拾い行くからつき合え」

「えっ」

「靴履いて出てこい」

「あの」

「早く」

「はいっ!」

怒鳴られたわけではないのに彼の語気は強く、アルミンは飛び上がって転がるように玄関に走った。スニーカーを履いて恐る恐る扉を引けば、さっきの男はそこで待っている。

「行くぞ」

顎でしゃくられて後込みしながらついていく。訳がわからないが、逆らうとまた凄まれる気がした。

この田舎に来てから祖父や両親と同年代の大人しか見ていない。前を歩く彼は高校生ぐらいだろうか。確かに小学校から高校まで、近くではないにせよあることはあるから、子どもがいないということはないだろう。

前を歩く彼は汚れたジャージにくたびれたTシャツ姿だが、髪や眉などは整えている。

家の前を道なりに行った先にある家に彼は入っていく。アルミンは庭先で足を止めたが、呼ばれたので渋々庭に足を踏み入れた。祖父が時折剪定をしているだけのうちの庭と違い、こちらはもう少し手入れがされている。彼がどこに消えたのかわからずに戸惑っていると、家の奥から大きな犬が飛び出してきた。逃げる間もなく犬に突き飛ばされてひっくり返る。押し倒されたまま恐怖で硬直するアルミンにはお構いなしに、犬はアルミンの顔をなめ回した。自分より大きいのではと思われる獣にこのまま食われるのかと泣きそうになっていると、叱咤が飛んで荒い息が離れていく。

「サシャ!ンなもん食ったら腹壊す!」

助けてくれたのは先ほどの目つきの悪い少年だ。アルミンには犬種まではわからないが、猟犬を思わせるしなやかな犬に飛びつかれては突き飛ばしている。そのうち首輪を捕まえて、暴れる犬を引き留める。

「わりぃ、逃げ出した。怪我は?」

「だ、大丈夫」

「つないでくる。だから散歩じゃねえって!」

はしゃぐ犬に怒鳴りながら再び消えていく少年を見送りながら、立ち上がって服を払った。顔がべとついて気持ち悪い。少年はすぐにバケツを手にして戻ってきて、今のうちに逃げ出せばよかったと後悔した。

「ほら」

投げられたものを慌てて受け取れば濡らしたタオルだ。礼を言うより早く手を引かれ、慌ててついていきながら顔を拭った。彼はアルミンに構わず家の前の坂の上を目指す。

「あっ、あの」

「何」

「名前、すみません、もう一度」

「ジャン。あんたは?」

「アルミンです」

「アルミン」

「はい」

「栗拾ったことは?」

「ないです……わぁ!」

目の前に広がる光景に思わず歓声を上げた。坂はそのまま山につながり、その山裾に栗の木がある。足下一面に広がるのはいがぐりだ。ジャンはアルミンの手を離した代わりにバケツを押しつける。

「足でいが押さえて、中の栗だけ回収」

「あ、はい」

「こう」

「はい」

ジャンはスニーカーをはいた足を器用に操り、元々割れていたいがの口を広げて中の栗を取り出す。それをアルミンの持つバケツに無造作に投げたので、空のバケツに反響した音に驚いた。

「それ、いっぱいにするまで帰さねえから」

「あ、はい……」

さっとアルミンから離れて仕事を始めたジャンを見て、アルミンも見よう見まねで始めてみる。しかしろくにやらぬうちに、はたと気がついた。自分は一体、なぜこんなことになっているのだろう。

顔を上げてジャンを見る。視界にそれが映ったのか、ジャンもちらとアルミンを見た。その睨むような目に言葉は喉から先に出てこなくなり、アルミンは黙って足下を見る。

――殴られないだけましか。

幸い作業をし続けることは苦痛ではない。とにかく解放されるために、アルミンは黙々と栗を集め続けた。
2013'10.08.Tue
「初めのお店に戻る?」

「あー、そうすっか……」

もう何を見たかも思い出せない。溜息をつくジャンを見てアルミンは肩を揺らして笑う。

「悪いな、つき合わせて」

「いいよ、僕は楽しい」

言葉通り楽しげな様子でアルミンが笑うので、ほっとしてジャンも少し頬を緩めた。職場の上司が結婚することになり、みんなでお祝いをしよう、というところまではよかった。どういうわけかお鉢が回ってきたのがジャンのところで、何だかんだと都合をつけて逃げられた結果、ジャンが休日を潰してお祝いを買いに行くことになったのだ。決して嫌いではないしお世話になった上司だ、祝いたい気持ちは本物である。しかし改めて祝いの品をと言われても、気を使うばかりでなかなか決められない。助けてもらうつもりでアルミンをつき合わせているが、決定打になるようなものに出会えないまま休憩となった。

頼んだ食事が届いて姿勢を正す。テーブルに並べられたランチセットにふたりで手を合わせた。よく行く店は満席で、休むことを優先して初めて入る店だった。旬のパスタにフォークを絡めて口に運ぶ。ひと口目で、ジャンは少しためらった。咀嚼もそこそこに呑み込んで、アルミンを見る。

「……アルミン、そっちは」

「うーん、とね……」

アルミンはドリアを崩したスプーンを手に、苦笑いを浮かべてジャンを見る。

「……た、食べられなくはない、かな」

「食べられなくは、ないな」

外れだ。後悔しても今更遅いが、食べられないというほどまずいわけではない。しかし空腹すらもフォローしてくれない食事はなかなか進まず、どうにか食べた後にはふたりも言葉少なになっている。食後のコーヒーはまだおいしいと思えたので、それだけが救いだった。アルミンがメニューを振り返る。

「……多分、ここ、甘いものは美味しいんだと思う」

「あー、なるほどな……」

ここでいいと思えたのは、人が入っていたからだ。店内を見回せば、それぞれのテーブルの注文はデザートがほとんどのようである。完全にしくじった食事を忘れようとコーヒーを口にし、ジャンは深く息を吐く。

「夜はうちで食おうぜ」

「賛成。もう今日は冒険したくない」

「今日つき合わせたし、オレ作るわ」

「和食がいいです」

「賛成」

そうと決まればあとはしなければならないことを終わらせるだけだ。ピッと伝票を取り上げ、立ち上がってレジに向かう。出遅れたアルミンが慌ててついてきて財布を出した。

「いい」

「いいよ、出す。今日はイーブンにさせて下さい」

「……だな」

素直においしいと言えたなら、ジャンとしても喜ばせ甲斐があるというものだ。会計を済ませ、気分を変えて、といきたいが、まだ仕事は何も終わっていない。

「やっぱ無難に食器にしとくか」

「いいんじゃないかなぁ。多分インテリア系はお嫁さんの方が結構もらうんじゃない?」

「だな。最初の店どこだった?」

「上の階」

素直に始めに目をつけたもので決めてしまっておけばよかった。シンプルな雑貨をそろえた店に戻り、さっき見ていたペアの食器をもう一度確認する。特に変わったデザインでもなく使い勝手もよさそうで、少し気になるのは重さだが、上司は車で持ち帰るだろうからこの際ジャンが持ち運ぶ手間は忘れることにしよう。

店員に声をかけて新しいものを出してもらっているうちに、アルミンは何か別の物に興味を惹かれたようで、ふらふらと離れて行った。

「こちらでお間違いないですか?」

「あ、はい」

丁寧な手つきで取り出された食器を確認する。欠けやヒビがないかも一緒に確認し、先に会計を済ませてラッピングも頼むことにした。それを待つ間にジャンも食器の棚をまた振り返る。使っていたカップの取っ手が取れてしまったことを思い出したのだが、いくつか見てもっと安物でもいいだろうかと考える。誰か客が来るわけでもなしに、とアルミンを思い出し、彼の姿を探すと何か熱心に見ているので近づいていく。

「何かあったか?」

「んー、マグカップ。見てると欲しくなるんだけど、うちにたくさんあるし別にいらないんだよね」

「……うちに置いとけば?」

「え?」

アルミンが手にしていたカップと色違いのカップを手に取った。重すぎないそれを手の中で遊ばせて黙ってしまったアルミンを見ると、ほのかに頬を染めている。どう答えるのか待とうかと様子を見ていたが、時間がかかりそうなのでアルミンの手の中のカップを奪い、ふたつ手にしてレジに向かった。

「ジャン!」

「あ、こっちも追加で、自宅用です」

「ジャン、待って、自分で買うから!」

「鯖の味噌煮が食べたい」

「……わかった。晩ご飯僕が作る」

どう見ても納得していない顔でアルミンが渋々手を下げた。すねたような反応に笑いをこらえ、改めて会計を済ませてプレゼントと一緒に受け取る。カップの方をアルミンに持たせて店を出た。その間ずっとアルミンは無言で、思った以上に機嫌を損ねたのかと少し不安がよぎる。そのつもりは全くないのだが、アルミンは時々子ども扱いされているようでジャンの行為が気になることがあるらしい。

様子を伺うように呼びかければ、こちらを見ないまま下げた手にそっとアルミンの手が触れてきた。滅多にない行動に驚いてアルミンを見る。

「アルミン?」

「……ジャンがかっこよくてずるい……」

「……お前ぐらいだぜ、それだけべた褒めしてくれるの」

「絶対嘘だもん」

突然すねたアルミンを笑い、つないだ手に力を込める。隣の恥ずかしがり屋は耳まで赤くして俯いた。

「あ、あと色紙も買わなきゃなんねえんだ」

「うん」

「お前も本屋行くって言ってたな」

「……う、うん」

「それからスーパー行って」

「……や、やっぱり手」

「離さない」

「うう……」

変な汗かく、と言うアルミンのぼやき通りつないだ手には熱がこもっている。しかし勿論その程度では逃がしてやる気にはならなかった。
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