言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'10.15.Tue
学校に行きたくない、とはっきり言ったのは、そのときが初めてだった。夏休みの間にすっかり忘れてしまっていたのに、始業式の日制服に着替えたら、頭が割れるように痛くなった。次の日も、また次の日も。どうするの、と聞かれて、初めて学校に行きたくないのだと口にした。
深く追求されない代わりに、親の実家に送られた。祖父がひとりで住んでいるのは、人口も少ない田舎だった。
古い田舎の家に引きこもって1日中本を読んでいた。祖父も何も聞いてくることもなく、昼間はほとんどの時間、畑仕事に出ている。アルミンは簡単な食事を作る意外は読書に没頭し、2日3日と時間が経つのはすぐだった。
都会はまだ暑さの残る頃でも、田舎は秋の気配を漂わせていた。静かな縁側に追いやられた壊れたマッサージチェアが最近の定位置になっている。いつものように本を開いていると、からりと玄関の扉が開く音がした。祖父は普段裏口から出入りしている。誰だろうか、息を潜めるとドアを開けた人物は遠慮なく足音を立てて中に入った。あの足取りは近所の老人ではない。車の音はしなかったから役場や農協の人でもないだろう。
「アルレルトさーん!おーい!」
若い声に身をすくめる。来客なのだから顔を出すべきだとは思うのだが、どうせアルミンに用があるわけではない。黙っていればそのうち帰るだろう、と本もめくらず静かにしていれば、やがてまた扉の閉まる音がしてほっと息を吐く。誰だったのか知らないが、祖父に用があるのならまた来るだろう。ほっとして読書を再会しようとした耳に、砂利を蹴る音が滑り込む。
「いるじゃん」
「……」
縁側の網戸越しにアルミンを見た彼に、蛇に睨まれたように硬直した。眉間にしわを寄せてこちらを睨みつけてくる若い男に縮みあがる。無遠慮に網戸を開けてくるので悲鳴を上げそうになった。
「じいさんは?」
「はっ、畑に」
「裏の畑いなかったけどな……下の畑か。……あんた誰?
「ま、孫です」
「学校は?」
「……」
ストレートな言葉に黙り込む。しかし彼は大して気にしないようで、まあどうでもいいけど、と返事を待たない。
「じいさんに稲刈り終わったっつっといて」
「あ、はい。えっと」
「上の家のジャンって言えばわかる」
「はい」
不意に顔を寄せてきたジャンに息を飲む。彼はじっとアルミンを見た。お世辞にもいいとは言えない目つきは威圧感を与え、しかし目をそらすことも許さない。
「お前、暇?」
「……何か」
「栗拾い行くからつき合え」
「えっ」
「靴履いて出てこい」
「あの」
「早く」
「はいっ!」
怒鳴られたわけではないのに彼の語気は強く、アルミンは飛び上がって転がるように玄関に走った。スニーカーを履いて恐る恐る扉を引けば、さっきの男はそこで待っている。
「行くぞ」
顎でしゃくられて後込みしながらついていく。訳がわからないが、逆らうとまた凄まれる気がした。
この田舎に来てから祖父や両親と同年代の大人しか見ていない。前を歩く彼は高校生ぐらいだろうか。確かに小学校から高校まで、近くではないにせよあることはあるから、子どもがいないということはないだろう。
前を歩く彼は汚れたジャージにくたびれたTシャツ姿だが、髪や眉などは整えている。
家の前を道なりに行った先にある家に彼は入っていく。アルミンは庭先で足を止めたが、呼ばれたので渋々庭に足を踏み入れた。祖父が時折剪定をしているだけのうちの庭と違い、こちらはもう少し手入れがされている。彼がどこに消えたのかわからずに戸惑っていると、家の奥から大きな犬が飛び出してきた。逃げる間もなく犬に突き飛ばされてひっくり返る。押し倒されたまま恐怖で硬直するアルミンにはお構いなしに、犬はアルミンの顔をなめ回した。自分より大きいのではと思われる獣にこのまま食われるのかと泣きそうになっていると、叱咤が飛んで荒い息が離れていく。
「サシャ!ンなもん食ったら腹壊す!」
助けてくれたのは先ほどの目つきの悪い少年だ。アルミンには犬種まではわからないが、猟犬を思わせるしなやかな犬に飛びつかれては突き飛ばしている。そのうち首輪を捕まえて、暴れる犬を引き留める。
「わりぃ、逃げ出した。怪我は?」
「だ、大丈夫」
「つないでくる。だから散歩じゃねえって!」
はしゃぐ犬に怒鳴りながら再び消えていく少年を見送りながら、立ち上がって服を払った。顔がべとついて気持ち悪い。少年はすぐにバケツを手にして戻ってきて、今のうちに逃げ出せばよかったと後悔した。
「ほら」
投げられたものを慌てて受け取れば濡らしたタオルだ。礼を言うより早く手を引かれ、慌ててついていきながら顔を拭った。彼はアルミンに構わず家の前の坂の上を目指す。
「あっ、あの」
「何」
「名前、すみません、もう一度」
「ジャン。あんたは?」
「アルミンです」
「アルミン」
「はい」
「栗拾ったことは?」
「ないです……わぁ!」
目の前に広がる光景に思わず歓声を上げた。坂はそのまま山につながり、その山裾に栗の木がある。足下一面に広がるのはいがぐりだ。ジャンはアルミンの手を離した代わりにバケツを押しつける。
「足でいが押さえて、中の栗だけ回収」
「あ、はい」
「こう」
「はい」
ジャンはスニーカーをはいた足を器用に操り、元々割れていたいがの口を広げて中の栗を取り出す。それをアルミンの持つバケツに無造作に投げたので、空のバケツに反響した音に驚いた。
「それ、いっぱいにするまで帰さねえから」
「あ、はい……」
さっとアルミンから離れて仕事を始めたジャンを見て、アルミンも見よう見まねで始めてみる。しかしろくにやらぬうちに、はたと気がついた。自分は一体、なぜこんなことになっているのだろう。
顔を上げてジャンを見る。視界にそれが映ったのか、ジャンもちらとアルミンを見た。その睨むような目に言葉は喉から先に出てこなくなり、アルミンは黙って足下を見る。
――殴られないだけましか。
幸い作業をし続けることは苦痛ではない。とにかく解放されるために、アルミンは黙々と栗を集め続けた。
深く追求されない代わりに、親の実家に送られた。祖父がひとりで住んでいるのは、人口も少ない田舎だった。
古い田舎の家に引きこもって1日中本を読んでいた。祖父も何も聞いてくることもなく、昼間はほとんどの時間、畑仕事に出ている。アルミンは簡単な食事を作る意外は読書に没頭し、2日3日と時間が経つのはすぐだった。
都会はまだ暑さの残る頃でも、田舎は秋の気配を漂わせていた。静かな縁側に追いやられた壊れたマッサージチェアが最近の定位置になっている。いつものように本を開いていると、からりと玄関の扉が開く音がした。祖父は普段裏口から出入りしている。誰だろうか、息を潜めるとドアを開けた人物は遠慮なく足音を立てて中に入った。あの足取りは近所の老人ではない。車の音はしなかったから役場や農協の人でもないだろう。
「アルレルトさーん!おーい!」
若い声に身をすくめる。来客なのだから顔を出すべきだとは思うのだが、どうせアルミンに用があるわけではない。黙っていればそのうち帰るだろう、と本もめくらず静かにしていれば、やがてまた扉の閉まる音がしてほっと息を吐く。誰だったのか知らないが、祖父に用があるのならまた来るだろう。ほっとして読書を再会しようとした耳に、砂利を蹴る音が滑り込む。
「いるじゃん」
「……」
縁側の網戸越しにアルミンを見た彼に、蛇に睨まれたように硬直した。眉間にしわを寄せてこちらを睨みつけてくる若い男に縮みあがる。無遠慮に網戸を開けてくるので悲鳴を上げそうになった。
「じいさんは?」
「はっ、畑に」
「裏の畑いなかったけどな……下の畑か。……あんた誰?
「ま、孫です」
「学校は?」
「……」
ストレートな言葉に黙り込む。しかし彼は大して気にしないようで、まあどうでもいいけど、と返事を待たない。
「じいさんに稲刈り終わったっつっといて」
「あ、はい。えっと」
「上の家のジャンって言えばわかる」
「はい」
不意に顔を寄せてきたジャンに息を飲む。彼はじっとアルミンを見た。お世辞にもいいとは言えない目つきは威圧感を与え、しかし目をそらすことも許さない。
「お前、暇?」
「……何か」
「栗拾い行くからつき合え」
「えっ」
「靴履いて出てこい」
「あの」
「早く」
「はいっ!」
怒鳴られたわけではないのに彼の語気は強く、アルミンは飛び上がって転がるように玄関に走った。スニーカーを履いて恐る恐る扉を引けば、さっきの男はそこで待っている。
「行くぞ」
顎でしゃくられて後込みしながらついていく。訳がわからないが、逆らうとまた凄まれる気がした。
この田舎に来てから祖父や両親と同年代の大人しか見ていない。前を歩く彼は高校生ぐらいだろうか。確かに小学校から高校まで、近くではないにせよあることはあるから、子どもがいないということはないだろう。
前を歩く彼は汚れたジャージにくたびれたTシャツ姿だが、髪や眉などは整えている。
家の前を道なりに行った先にある家に彼は入っていく。アルミンは庭先で足を止めたが、呼ばれたので渋々庭に足を踏み入れた。祖父が時折剪定をしているだけのうちの庭と違い、こちらはもう少し手入れがされている。彼がどこに消えたのかわからずに戸惑っていると、家の奥から大きな犬が飛び出してきた。逃げる間もなく犬に突き飛ばされてひっくり返る。押し倒されたまま恐怖で硬直するアルミンにはお構いなしに、犬はアルミンの顔をなめ回した。自分より大きいのではと思われる獣にこのまま食われるのかと泣きそうになっていると、叱咤が飛んで荒い息が離れていく。
「サシャ!ンなもん食ったら腹壊す!」
助けてくれたのは先ほどの目つきの悪い少年だ。アルミンには犬種まではわからないが、猟犬を思わせるしなやかな犬に飛びつかれては突き飛ばしている。そのうち首輪を捕まえて、暴れる犬を引き留める。
「わりぃ、逃げ出した。怪我は?」
「だ、大丈夫」
「つないでくる。だから散歩じゃねえって!」
はしゃぐ犬に怒鳴りながら再び消えていく少年を見送りながら、立ち上がって服を払った。顔がべとついて気持ち悪い。少年はすぐにバケツを手にして戻ってきて、今のうちに逃げ出せばよかったと後悔した。
「ほら」
投げられたものを慌てて受け取れば濡らしたタオルだ。礼を言うより早く手を引かれ、慌ててついていきながら顔を拭った。彼はアルミンに構わず家の前の坂の上を目指す。
「あっ、あの」
「何」
「名前、すみません、もう一度」
「ジャン。あんたは?」
「アルミンです」
「アルミン」
「はい」
「栗拾ったことは?」
「ないです……わぁ!」
目の前に広がる光景に思わず歓声を上げた。坂はそのまま山につながり、その山裾に栗の木がある。足下一面に広がるのはいがぐりだ。ジャンはアルミンの手を離した代わりにバケツを押しつける。
「足でいが押さえて、中の栗だけ回収」
「あ、はい」
「こう」
「はい」
ジャンはスニーカーをはいた足を器用に操り、元々割れていたいがの口を広げて中の栗を取り出す。それをアルミンの持つバケツに無造作に投げたので、空のバケツに反響した音に驚いた。
「それ、いっぱいにするまで帰さねえから」
「あ、はい……」
さっとアルミンから離れて仕事を始めたジャンを見て、アルミンも見よう見まねで始めてみる。しかしろくにやらぬうちに、はたと気がついた。自分は一体、なぜこんなことになっているのだろう。
顔を上げてジャンを見る。視界にそれが映ったのか、ジャンもちらとアルミンを見た。その睨むような目に言葉は喉から先に出てこなくなり、アルミンは黙って足下を見る。
――殴られないだけましか。
幸い作業をし続けることは苦痛ではない。とにかく解放されるために、アルミンは黙々と栗を集め続けた。
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