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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.15.Sat
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2013'10.07.Mon
「……おい、本を置け」

「うん」

さっきから何度、このやり取りをしただろうか。ジャンの言葉は彼に届く気配がなく、読書を続けるアルミンの前に並べられた食事も減る気配がない。班別の夜間訓練でエレンとミカサがいないだけで、彼はこんなにも面倒な存在になるのか。聞こえるように深く溜息をつくが、アルミンの耳には届いていないようだった。

「はぁ……」

もう食堂に残っているのはアルミンだけだ。さっさと退散していればよかったものを、雑魚寝の男部屋に戻るのが嫌で残っていればこのざまだ。アルミンが食事をとらないのは構わないが、ここは兵舎、団体行動が基本である。このまま放置して消灯時間にでもなれば連帯責任で叱咤が飛ぶのは目に見えていた。

「アルミン!」

「うん」

「……」

舌打ちをして立ち上がる。アルミンの隣に音を立てて座り、食事のトレイを引き寄せた。スープ皿とスプーンを取り、ひと匙すくってアルミンの口元に運ぶ。

「はーいアルミンちゃん、あーん」

唇にスプーンが触れるとアルミンは視線は本に向けたまま口を開けた。からかいにも反応しないアルミンに顔をしかめ、そのままスプーンを口に差し込む。もうやけくそになってパンとスープを口に運んでやれば、アルミンは何も言わないままどんどん食事を続けた。

もう半分ほどを食べた頃、惰性でアルミンの口に運び続けていたスプーンからスープのしずくが本に落ちる。

「あっ!ちょっと、気をつけてよジャン!」

「はぁ!?」

「あーあ、借り物なのに」

「テッメェ……」

「あ……」

ページを布で叩いたあと、アルミンはしまった、とばかりに肩をすくめた。ジャンが睨みつけていると恐る恐るこちらを見る。

「……ごめん、どうするかなと思って、思わず」

「思わずじゃねーよ!さっさと食え!」

「ごめん」

アルミンは観念したように苦笑して本を閉じた。黙って食事を押しつければ、今度は大人しく食べ始める。

「クッソ、遊んでんじゃねえぞ」

「意外と面倒見がいいね」

「下らねえことで怒られたくねえんだよ」

「大丈夫だよ。僕の経験したところだと、罰に関しては訓練兵より開拓者の方が辛い」

「……お前開拓地にいたのか」

「訓練兵になる前はね。うっかり時間に遅れでもしたら大変だった。だから今ここで食べる食事には感謝してる」

「……だったら早く食ってくれ」

丁寧にスープを口に運ぶアルミンは、今まで意識したことはなかったが姿勢よく、きちんと躾をされていたことが見て取れた。ジャンの家も決して裕福ではなかったが、世間的に見ればまだ余裕のある方だったので、こんなことになる前は食べ物で困った記憶などない。きっと土地のある頃は、アルミンのいたシガンシナ区であっても食事に困るということはなかっただろう。

「何か、食べたいものってある?」

「あ?」

「好きな食べ物」

「肉食いてぇ」

「あー、それはね、みんなそうだろうなぁ……」

「あと甘いもの」

「好きなの?」

「別に。全然食ってねえと食いたくなる。お前は?」

「うーん、食べたいものなぁ」

「自分で言ったのにないのかよ」

「どうしようもないものは、たくさんある」

「どうしようもないもの?」

「エレンのお母さんが焼いたパン、とかね」

アルミンは最後のパンを口に入れた。表情はいつも通りの穏やかなものだ。しかしなぜか少しぞっとして、ジャンはじっとアルミンを見る。

「まあ、でも、何でもひとりで食べるのは味気ないね」

「……だったら今度からくだらないことしてないでさっさと食えよ」

「でも本は読みたいから、またジャンが食べさせてくれると助かるけど」

「もう二度としねえ」

「ジャンは優しいね。エレンとも仲良くできたらいいのに」

口を開けばすぐエレン、だ。ミカサも同じく、誰も彼もがエレンを呼ぶ。

彼に影響力がないとは思わない。だけどそれはジャンが認めたくないことでもある。

「おい、食ったらさっさと片付けろ」

「うん。ありがと、つき合ってくれて」

「どーせオレは点数稼ぎしかしてませんよ」

「随分卑下するなぁ」

肩を揺らして笑うアルミンはとても兵士を目指しているようには見えない。教官たちも視線をくぐった猛者ばかりで、いつかアルミンもああなるのかと思うと全く想像ができなかった。多分ああなる前にくたばるんだろうな、と漠然と思う。

食器を手に立ち上がったアルミンが行きかけて、ふと戻ってくる。

「手を出して」

「は?」

「お礼」

不審に思いつつも手を出せば、アルミンがポケットから包みを取り出し、その手に乗せる。

「あげる。先輩にいただいたんだけど、実は苦手なんだ」

「何?」

「干しぶどう」

半ば押しつけるようにしてアルミンはそれを手放し、本を脇に抱えて出て行った。残った包みを開いてみれば、言葉通り小粒の干しぶどうが包まれている。ひとつつまんで口に運ぶと、甘酸っぱい風味が広がった。欲していた甘さとは少し違うが、いくらかは満たされるような気がした。

部屋に戻ると夜間訓練に行った班が戻ってきていた。疲れた、と仲間と笑いあうエレンを見ていると不愉快になって、眉を寄せて自分のベッドに向かう。しかし訓練の内容は聞きたいので聞き耳を立てていると、比較的スタンダードなものだったようだ。ジャンは来週だから同じ内容かどうかはわからないが、参考にはなるだろう。

手持無沙汰にさっきもらった干しぶどうを口にする。目ざとく見つけたコニーが寄ってきて、何も言わずに包みから取っていったが面倒で特に追求しない。

「いいもの持ってんじゃん」

「これどうしたの?」

「アルミンがくれた」

寄ってきたマルコにも分けながら答えれば、コニーから受け取っていたエレンが目を丸くする。

「ほんとにアルミンか?」

「あ?あいつがやるって言ったんだよ」

「お前が脅したんじゃないだろうな」

「そこまで好きじゃねえよ」

「……なんでだろ。アルミンぶどう好きなのに」

突っかかってはこなかったが、エレンはわずかに眉をひそめて呟いた。その言葉に驚くが、ジャンは顔に出ないように気をつけ、まだ残る干しぶどうを包み直す。

――あの、不器用が。

やがて消灯ぎりぎりにアルミンが部屋に戻ってきた。明かりを消してしまえば即座に寝入ってしまう野郎ばかりの中で、アルミンだけは窓辺の月明かりでまだ粘ろうとしている。一度は布団に潜ったジャンだが、いびきがいくつか聞えた頃布団から出てアルミンの側に立った。こちらを向きもしないがもう騙されない。その開いた本の上に包みを投げれば、ぱっとこちらを見上げる。

「お前の分」

「え、でも」

「何にでも感謝して食えよ」

「……ありがとう」

ふっと顔をほころばせるアルミンに無性に恥ずかしくなる。

「あとな、夜は寝ろ!」

「うん、もう少し」

「ベッドに投げ込んでやろうか」

「ごめん、行く」

アルミンは笑って本を閉じた。布団に潜りこむまでしっかり見届け、ジャンも布団をかぶって丸くなる。

――あいつの世話を焼くのはもう今日で最後だ。

決意をして目を閉じたジャンは、次の朝目の当たりにする寝癖のついた頭を放っておけないのだった。
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2013'10.06.Sun
ファンブックのif幼稚園ネタを引っ張っておりまするよ。あとアルミン女体化ですよ。











*** Twenty years ago ***



「せんせえぇ」

「ジャン!またテメェか!」

「ちげーよばーか!」

泣きじゃくるアルミンを置いてリヴァイはジャンを追いかけた。スモッグを翻して走る子どもを本気で追いかけると捕まえるのは一瞬で、がしりと脇を掴んで担ぎ上げたときにはジャンはアルミン以上に泣きわめいている。アルミンを引き受けたペトラが苦笑しているが、気にせずジャンの顔を覗きこんだ。

「お前お友達を泣かせるなって何回言えばわかるんだコラ」

「リヴァイは園児に本気で凄むなと何度言えばわかるんだい」

涙と鼻水で顔をドロドロにしたジャンが手の中から奪われる。その向こうにいたのは園長のエルヴィンだ。舌打ちをしたリヴァイにジャンが縮み上がり、エルヴィンにすがりつく。

「アルミン泣かせるなって言っても聞かないそいつが悪い」

「言い方を考えてくれ。ジャン、アルミンに謝ろうか」

「やだ!」

「……えーと」

「おいエルヴィン、ジャン寄越せ、逆さにつるす」

「やめてくれ」

「あの、アルミンが別の意味で泣きそうなのでその辺で」

ペトラの声に振り返れば、アルミンは彼女にしがみついて不安げにリヴァイたちを見上げている。ぼろぼろと涙を零すアルミンと視線が合えば、ぷるぷると首を振った。

「じゃ、じゃんをいじめないでください」

「……お前がいじめられてたんだろうが。ったく」

リヴァイは意識して気持ちだけ表情を緩め、ペトラの腕からアルミンを引き受けて抱き上げる。エルヴィンに抱かれたままのジャンの前に、抱いたアルミンの手を取って突き出した。

「仲直りしろ」

「ジャンも、ほら」

エルヴィンも同様にジャンの手を取り、アルミンに向けた。不安げなアルミンにジャンは仏頂面を向け、されるがままに手を合わせるが握ろうとはしない。

「仲直りだ。ジャン、もうアルミン泣かせるんじゃないよ」

「そいつがわるいんだよ!あしおせーしすぐこけるし!」

「うう、ごめんねぇ」

「あーもう……」

ペトラが苦笑しながら、リヴァイからアルミンを引き受けた。もう間もなくお迎えが来る時間だ。アルミンの迎えはまだもう少し遅いので、教室で待つことになる。

ジャンはふてくされたまま、エルヴィンにと一緒に園庭に向かうのでリヴァイもついていく。ジャンの親はもう迎えに来ていて、エルヴィンが降ろすとすぐに母親の足元に駆けて行った。

「かーちゃん、リヴァイせんせいがおこった!」

「あらやだ、すみません〜、今度は誰を泣かせたの?」

「あいつがかってにないたんだぜ」

「ジャン!」

すかさず母親の拳が飛ぶ。こいつ家でもこうなんだろうな、リヴァイは半ば呆れてジャンを見送った。

「……昔のリヴァイを見ているようだね」

「エルヴィン何か言ったか」

「何でもないよ」



*** Ten years ago ***



「うだうだぐだぐだ言ってんじゃねーよ!しつけえな」

「しつこいのはジャンでしょ!もう、なんで僕がとばっちり受けてるのさ……」

幼稚園のそばを通る男女の声に、園児が興味津々に顔を上げる。5歳でも女は女だ、こんなところで痴話げんかは勘弁してほしい。リヴァイが溜息をついて砂場から立ち上がり、フェンスに近づいていく。通りかかったふたりは中学生ぐらいだろうか。それが見たことのある顔で、リヴァイは思わずふたりに声をかける。

「おい」

「あっ……リヴァイ先生!お久しぶりです」

「やっぱりアルミンか。ということはそっちはジャンだな」

「うわ、リヴァイ先生老けましたね」

「お前らが通ってたの何年前だと思ってんだ」

思った通り、昔この幼稚園に通っていたふたりだ。アルミンは大人しかったが少し泣き虫で、その原因は大体ジャンだった。誰彼かまわず無差別にいじめていたわけではないが、アルミンと仲のいいエレンと仲が悪かったというわけでアルミンはただのとばっちりだ。どうやら10年経っても彼らの関係はあまり変わっていないらしい。

「ジャン、お前まだアルミンいじめてるのか……」

「なんで同情的なんだよ!」

「うわ、リヴァイ先生のそんな顔初めて見た……」

「ほっとけよ!」

「どうしたんだ?人参不足か」

「馬じゃねえよ!」

「はは……エレンとミカサが、遂につき合い始めたんです」

「エレンとミカサ……それは……どうせミカサがゴリ押したんだろう」

「はは、エレンが折れました」

「そうか」

幼稚園に通っている頃からミカサのアプローチは熱烈で、ついからかったこともあったが、エレンが10年あのアプローチに耐えたことも意外だった。もっと早く諦めるかと思っていたが、意外と慎重であるようだ。

「で、そいつが落ち込んでるってわけか」

「その通りです」

「うるせーよ。あーもー、ミカサ……あんな馬鹿のどこがいいんだってんだ……」

「少なくとも10年アルミンをいじめてるやつよりエレンの方がいくらかましだろう」

「いじめてねーし!」

「いじめられてます!もうすっごいいじめてきますから!」

「ふざけんなよムネタイラ」

「それが!」

じゃれ合うふたりにしみじみ息を吐く。絶対に向いていないと思っていたこの仕事も、こうして見送った子どもたちの姿を見ると満更でもない。ジャンはもう少し更生させてやるべきだったような気もするので、今の園児たちはもっと気をつけてやろう、と静かに決意する。

わらわらとリヴァイの足元に近づいてきた女の子たちが、興味津々にフェンスの向こうのふたりを見た。

「せんせぇ、ちわげんか?」

「うわき?」

「りこんするの?」

「……」

5歳でも、女は女だ。リヴァイは深く溜息をついた。



*** Last year ***



庭の掃除をしている最中に、門前に立つ女性を見つけた。園児募集のチラシを見ているようなので、箒を手にしたまま門に近づく。彼女はリヴァイに気づいて顔を上げ、それをみてリヴァイは驚いた。

「リヴァイ先生!」

「お前、アルミンか」

久しぶりに見るアルミンは随分と女らしくなった。近所ではあるが大学にも進学した頃からは園が開いているような時間に通りかかることは滅多になく、久しぶりに姿を見た。

「リヴァイ先生、まだこの幼稚園にいらっしゃったんですね」

「まあな。もうそのうち辞めてやるつもりだ」

「そうなんですか?残念」

「……」

懐かしさに隠れていたが、ふと彼女の腹部に気がついた。リヴァイの視線に気づき、彼女は少し前にせり出した腹を撫でる。

「リヴァイ先生にならお任せできると思ったのになぁ」

「何か月だ」

「5か月です」

「そうか……子どもの成長は早いもんだな、ずっと泣いてたアルミンが母親とは」

「自分でもびっくりです。あ、エレンとミカサも結婚したの、知ってますか?」

「そうなのか」

「そうか、引っ越したからこの辺りあまり通らないのかもしれませんね。ふたりもすごく楽しみにしてくれてて」

幸せそうに笑うアルミンに思わず頬を緩めた。アルミンが驚いた顔をして、リヴァイ先生が笑った顔初めて見ました、などと言う。そんなわけがあるか、と返そうとすると、誰かが近づいてきてそちらに視線を遣った。やはりどこかで見たことのあるその顔は、アルミンに笑いかけたかと思えばリヴァイに気づいて顔を強張らせる。

「お前、ジャンか」

「リヴァイ先生……老けましたね……」

「第一声がそれか」

「帰ろうアルミン」

「挨拶しなよ」

「……どうも」

「お前まだアルミンいじめてるのか」

「いじめてませんよ!」

「ふふ、いじめられてません。優しい旦那様です」

アルミンが顔を綻ばせて笑う。その笑顔に少し気が抜けたが、引っ掛かるものがあって聞き返した。

「何だって?」

「旦那様です」

アルミンが笑う隣で、リヴァイの視線から逃げるようにジャンが顔をそらした。

「何だって?」

「素敵な旦那様です」

「……すまん、オレがきちんと男の選別も教えておけば……」

「あんたの中でオレはどんな奴なんですかッ!もう帰るぞ、体冷えるだろ」

ジャンがアルミンの手を取った。それに微笑みかけるアルミンに、わからんものだな、と思わず溜息をつく。

「あれほど泣かされてたのにな」

「最近ジャンに泣かされたのは、プロポーズの時ぐらいです」

「ほう」

「もう行くぞ!」

見ればジャンの方は顔を真っ赤にしている。どうやら嘘ではないらしい。

「……しょうがない、あと5年ぐらいは園にいてやる」

「ほんとですか?」

「ああ。ジャンみたいなクソガキだったらしばき倒してやる」

「お願いします」

終始笑顔だったアルミンを見送り、リヴァイは掃除の最中だったことを思い出した。振り返るとジャンはずっとアルミンを気遣って歩いている。

「馬鹿も年を重ねれば大人になるということか」

深く溜息をつき、リヴァイは箒を握りなおした。
2013'10.04.Fri
「ただいま〜……」

ジャンが静かに玄関に足を踏み入れると、リビングにはまだ明かりがついていた。しかし部屋は静かで出迎えもない。今日も間に合わなかったか、と肩を落とし、音を立てないよう靴を脱いだ。持ち帰ってきた仕事の入った鞄が重く感じる。

リビングにアルミンの姿はない。着替えるために寝室に向かうと、ベッドで眠る愛しい姿がある。

まだ1歳にもならない娘の無垢な寝顔に頬を緩ませる。柔らかい頬に触りたいが、起こしてしまうとことだ。

代わりに隣で眠るアルミンの額を撫でる。寝かしつけているうちに一緒に寝てしまったのだろう。いつでも変わらない愛しい寝顔だ。布団を掛けてやり、着替えを持って部屋を出る。さっさと着替えてキッチンに入れば夕食はあたためるだけだ。よくできた嫁に感謝をし、コンロに火をつける。あたたまるのを待ちながら食器を出していると、アルミンが起き出してきた。寝ぼけた声でお帰り、と言われ苦笑する。

「ただいま。寝てていいぞ」

「ん、大丈夫」

アルミンが冷蔵庫からもサラダなどを出してテーブルに並べていく。あたたまったシチューをついでジャンはテーブルについた。

「ジャン、あのね」

キッチンからアルミンが顔を出す。その手できれいなグラスがふたつ、ぶつかってちりんと鳴った。

「久しぶりに、どうですか?」

「……マジで?」

「その、あのね、せっかくワインをいただいたから」

「……もらう」

「う、うん」

一度消えたアルミンがワインボトルも手にして戻ってきた。コルクを開けようとするのを制してジャンがボトルを手にする。以前起こった惨事はまだ記憶に新しい。

無事にコルクを抜いてワインをつぎ、アルミンと向かい合ってグラスを合わせる。

「一週間お疲れさまでした」

「お母さんもお疲れさまでした」

「ふふ」

笑い合ってワインを口にする。昼間来ていたミカサの土産らしい。頓着しなさそうに見えて彼女の舌は優秀で、彼女にすすめられて外れだったことがなかった。

「今日はどうしてた?」

「1日いい子にしてたよ。大人しいわけじゃないけど、よく食べてよく寝てくれて、母は助かってますよ」

「誰に似たんだか」

「僕らふたりとも、手の掛かる子だったって散々脅されたのにねえ」

アルミンはワインを含んで笑う。やはり少し眠いようでどこか舌っ足らずだ。すこし緩んだ目元にどきりとしながら、平静を装って食事を詰め込む。

ジャンの食事につき合ってワインをあけたアルミンは、ジャンが食べ終えると食器を片づけに立った。その後ろ姿を見て、我慢できずに立ち上がる。シンクに立つアルミンを後ろから抱いて首筋に顔を埋めると身をすくませた。

「ジャン、お風呂沸いてるから」

「誘ったのお前だろ」

「……だめ」

唇を当てるとアルミンは身をよじり、濡れたままの手でジャンの肩を押し返す。

「……ま……待ってる、から」

「じゃあ一緒に」

「僕もう入ったよ。……メアリーが泣いても、聞こえないから」

「……ソッコー上がってくるから覚悟してろ」

「うう……」

名残惜しいアルミンの体温を手放して風呂に向かう。

アルミンからアルコールを持ち出してくるのは、いつからか合図のようになっていた。お互い淡泊ということはないが子どもができてからはやはりふたりきりの時間は減り、ゆっくり抱き合うということはなかなか難しい。

宣言通り体を洗うだけで風呂を出た。がっついてると思われても、今更アルミンに見られて恥ずかしい姿もなかった。ソファーでワインを楽しんでいたアルミンが、上半身は服も着ず出てきたジャンにぎょっとする。隣に座って腰を抱けば、グラスに歯を当てて視線をそらした。

「……もうちょっと、飲みたいんだけど」

「体あったまったろ」

グラスを奪ってテーブルに置き、そのままソファーに倒した。首を撫でて唇を吸う。アルコールが入った体は普段より少しあたたかい。柔らかい唇にキスを繰り返すと、アルミンの手がジャンの首に回される。

「ん……ジャン、疲れてない?」

「……疲れてるって言ったら、動いてくれるか?」

「馬鹿!」



*



目を開けると部屋の中はもう明るくなっていた。どうやら起こされたらしく、腹の上に娘がのぼっている。

「おはようメアリー」

「あう」

「わかってんのかねえ」

体を起こし、転がり落ちかけたメアリーをそのまま抱き上げた。寝室を出るとアルミンがすでにキッチンに立っている。

「おはよう」

「あ、おはよう。メアリーも起きたの、おはよう」

近づくとアルミンは包丁を離してメアリーの頬にキスをした。ジャンも顔を寄せると、笑って同様にキスをくれる。同じようにキスを返して、改めてアルミンを見た。

「何?何かついてる?」

「……足腰立たないぐらいしてやりてぇなぁ」

「……メアリー、パパにパンチして、パンチ」

何もわからないかわいい子は、無邪気に笑い声をあげた。
2013'10.04.Fri
「嫌な天気になってきたな」

「うん、風が出てきたね」

マルコと窓の外を見て、ジャンは溜息をつく。これでは予定していた弓の練習は延期だ。するとなると面倒だと思うのに、できないとなるとどこか惜しい。

風で窓がカタカタと鳴り出した。授業を終えた教室で、解散しかけた生徒たちを教師が引き留める。

「台風が近づいてるって情報がきた!対策の配置をするから一旦待機!」

「マジかよ」

かったるいな、とジャンがぼやくのをマルコがたしなめた。ジャンは再び窓の外を見る。今朝は澄んだ秋晴れであったが、徐々に風が強くなると同時に厚い雲が垂れてきた。ひと雨来るかと思ったが、雨より厄介なことになりそうだ。

「参ったな、部屋の窓開けてきちゃったよ。窓辺で本読んでたのに」

マルコのつぶやきに思わず笑う。降り出すまでに部屋に帰れるといいな、とからかっていると、一度姿を消した教師が戻ってきた。

「水を扱える者はエルヴィンと共に川へ!あとエレン!君は医務室で待機だ!」

「またかよ」

「エレン」

露骨に顔をしかめたエレンをアルミンが慌てて制した。エレンの隣で私も、と立候補しかけたミカサはすかさず門の警備を言い渡されて仏頂面になり、やはりアルミンにたしなめられている。面倒な幼なじみを持つと大変だな、と横目で見ていると、マルコの名が聞き取れてそちらを見た。少し目を見開いた表情に、姿勢を直して顔をのぞきこむ。

「マルコ、どこだって?」

「……ジャン」

少し泣きそうになった親友の顔を見たのは初めてで、――きっとそうでなければ、ジャンは担当を代わってやることなどしなかっただろう。



*



「大丈夫か」

「う、うん」

マルコに割り当てられた仕事、それはアカデミーから遙か離れた壁の近く、食料備蓄倉庫の補強だった。対してジャンに与えられたのはいざと言うときの避難所の用意であったので、寮に帰る余裕ぐらいはある。大切な本を濡らすわけにはいかないと焦るマルコが珍しく動揺していたので、さほど能力との関わりがない仕事を割り振られていたため役割を交代したのだ。

――それがまさか、アルミンと一緒だとわかっていたら、もう少しためらっていたかもしれないが。

決して嫌いとまでは言わないが、ジャンはあまりアルミンをよく思っていなかった。頭脳は優秀だが実技は大したこともなく、足手まといになることもある。何より、ジャンと馬の合わないエレンにいつもくっついている存在であり、エレンの味方というだけで気に食わなかった。

そんなアルミンと連れだって、壁の近くの倉庫までようやくたどり着いた。馬は使えないので己の足だ。結局途中で雨が降り出し、たどり着いた頃にはすでにふたりは濡れ鼠だった。

「クッソ、さっさと片づけるぞ!」

「うん」

預かった鍵で倉庫に入ると、むっと埃の匂いが舞い上がる。定期的に人の手は入っているはずだが、多少は仕方ないのだろう。備蓄の食料には防水性のある布がかけられているが、建て直しを予定されていた古い倉庫ではすでに雨漏りが始まっている。

「わ、急がないとまずいね」

「誰かさんの足が遅いせいだろうが」

「だから置いていっていいって言ったじゃないか」

少し拗ねた様子のアルミンを急かし、梯子を取り出す。アルミンを見るとここまで来るだけですでに疲弊している様子が見て取れ、呆れて中からの処置を任せることにした。

そうしている間に風は強くなる。水や風を操ることのできる者もこの国には何人かいるが、ここまで大きな自然現象に人は太刀打ちできない。

ジャンは屋根に上がって壁を見上げた。この国は壁に囲まれている。その外は人間の驚異となる魔物がはびこる恐ろしい世界だ。人はどうにか自分たちの領分を広げようとアカデミーを作り、そこに外でも生き抜くことのできる技術を集めている。平和な壁の中で人口は増え続け、国は食糧不足に悩まされてきた。少しでも土地を広げることができれば、と誰もが思うことだ。アカデミーを卒業し、壁の外へ向かう者たちは未来の英雄だ。

屋根を掴んで強風をやり過ごし、目立つ箇所の修理をする。小さな穴はこの際無視だ。気にしていたらジャンが吹き飛ばされてしまう。

ひと通り終えて中から確認しようと振り返り、ジャンはそこに梯子がないことに気がついた。風の抵抗を受けなさそうな形をしているが、これほどの風ではそんな形も無意味らしい。吹き飛ばされて倒れた梯子に青くなり、慌ててアルミンを呼ぶ。声は風でかき消されてしまうので何度も呼ぶことになり、風と雨でむせ返った。ようやくアルミンが気づいて出てきた頃には梯子はかなり遠くに行っており、アルミンが梯子を取って戻ってくるのはひと苦労だった。

ジャンがようやく屋根から降りると彼は謝ってくるが、そのアルミンが飛ばされそうになってとにかく倉庫の中に入る。大まかに塞いだだけだが、雨漏りはもうほとんどないようだった。

「ありがとう、ごめんね、危ないのにひとりでさせてしまって」

「お前に上がられる方が落ち着かねえよ」

「うう……何も言い返せません……」

「中は?」

「少し濡れてる物もあったけど、ほとんど大丈夫」

ごうっと唸るほどの風が倉庫を軋ませて、ふたりで顔を見合わせる。

「……こりゃ帰れねえな。帰る途中でお前が吹き飛ばされる」

「流石にそこまで情けなくないよ……」

冗談も通じない堅物の濡れた髪を払ってやる。水滴が飛び散るのに慌て、アルミンは荷物から布を取り出した。ジャンもほとんど役に立っていなかった合羽を脱ぎ、水を払って髪を撫でつける。

「風がましになるまでここで待つか。おい、駄目になったやつ食っちまおうぜ」

「えっ」

「どうせ保存できねえんだろ」

「あ、うん」

幸い倉庫にはくつろげる程度のスペースはある。一時避難所も兼ねているのだろうか、毛布も見つかったので一枚アルミンに投げ、ジャンもそれを体に巻いて、倉庫の床に腰を下ろす。やや遠慮がちにアルミンもそばに座り、封の隙間から水の入ってしまった食糧をいくつか前に並べた。光源はアルミンが作業に使ったランプだけだが、どうせできることもほとんどない。

「……台風、久しぶりだね」

「最近これほど大きいのは来てないからな」

「ジャンは台風平気?」

「あ?怖いのか」

「ちっ、違うよ!怖くない。ただ、家がちょっと心配だなって。うち古いから、おじいちゃん、ちゃんと避難してるといいけど」

手持ちぶさたになのか、アルミンは話しながら濡れた包みを解いていく。保存食は大した味ではないが、時間つぶしぐらいの役には立つだろう。

「ジャンの家は王都の方?」

「ああ。新しくはないが、台風ぐらいじゃ何ともねえ」

「はは、そりゃ壁側の家とは違うよね」

「お前んちは?」

「シガンシナ区。裕福ではないけど住みやすいよ」

「ンなとこに好きで住んでるやついるんだな」

「失礼だな……僕の両親は冒険家だったんだ。あまり壁の中にいなかったから、いい家は必要なかったんだよ」

「ふうん」

渡された保存食のビスケットをかじる。マルコは無事大事な本を守れただろうか。どうせこんなことになるなら、女子と一緒の方がまだましだった。アルミンがライナーのようなむさ苦しいタイプではないのがまだ救いだ。そうなるぐらいならきっとこの雨でもアカデミーに帰っていただろう。

くちゅん、とおよそ男らしいとは無縁のくしゃみに思わず顔を上げる。自覚はあるのか、恥ずかしそうに鼻をすすってアルミンは毛布をかき集めた。見た目の通り貧弱なのか、と口にすれば怒るだろう。

しかし確かに体が冷えてきた。あまり気温の上がらなくなった最近は過ごしやすいが、これほど濡れると寒さを感じる。まだ毛布はあったはずだ、と腰を上げかけ、ランプの火が目についた。それを手に取り、炎に意識を集中させて傾ける。ほろりとこぼれてきた炎を手に受けて、食料を包んでいた包装に乗せた。アルミンが隣で目を丸くしたが、すぐに気づいたのか、ほう、と息を吐く。

「ジャンの家は、精霊の加護を受けてるんだったね」

「時代は浅いぞ。ひいじいさんが貴族の地位を失ってまで精霊ちゃんに貢いだ結果だからな」

「でもいいなぁ、羨ましい。精霊見えるんだろ?」

「ああ……」

視界の端にちらつく光を追う。見えるというほどのものではない。気配がある、というような程度だが、アルミンのように元々魔力もなく、精霊の加護もない家系から見ればまた違うのだろう。炎の大きさを調整し、心持ちアルミンの近くに下ろした。

ジャンの家は炎の精霊の加護を受けている。炎の力を使うと言うのは厳密にはそうではない。炎に関わる要素を扱う力だ。ある程度の知識や技量も必要で、実際ジャンの父は精霊を扱うのがあまり得意ではない。

しばらく見とれるように炎に見入っていたアルミンがはっと顔を上げ、慌てた様子でジャンを見る。

「ごめん!大丈夫、寒くないから」

「……いい。気にすんな」

「でも、大変じゃない?」

「お前の幼馴染みの魔法とは違うんだよ」

エレンの使える治癒能力は本人が生まれもって使える力だ。魔法が使える者は多少なりとも相応の影響があるらしい。簡単に言えば疲労感が伴う。アルミンはそのことを言っているのだろうが、精霊の加護はまた違うものだ。

炎のお陰で多少は暖かくなった。しかしアルミンはまたくしゃみをして毛布を抱いた。元々体調が悪かったのかもしれない。溜息をつき、アルミンの肩を抱き寄せる。慌てて引きはがそうとしたが構わず合羽を脱がしてしっかり抱いた。

「ジャン」

「乾かすからじっとしてろ」

「あ」

「応用できんだよ」

少し集中力はいるが、要は元素の話だ、いくらでも応用はできる。分解して蒸発させる。息を潜めるアルミンが体を小さくしているが、ただでさえ小さいので子どものように思えてしまう。

「……ねえ、ジャンは貴族になるためにアカデミーに入ったんだよね」

「ああ」

「ジャンならきっとなれるだろうね。魔物討伐の演習でもすごく優秀だもんな」

「お前は?」

「僕は、壁の外に行きたいんだ。両親が見た景色を見てみたくて」

「冒険家の?」

「うん。もうずっと前に魔物に殺されてしまったけど」

「……お前も、今のままじゃ同じ道をたどるだけだぞ」

「はは、わかってる。このままじゃ壁の外に出ることも許されないかも」

アルミンの体が温まってきたのがわかった。それでも何故か手が放せない。

「力がないのはわかってる。それでも諦められないんだ。おかしいよね、僕だけの夢だったのに、エレンも一緒に来てくれるんだって」

「……エレンも?」

「まあ……貴重な治癒能力を持つエレンを手放してもらえるかわからないけどね。昔はあんな力なかったからなぁ」

エレンの能力はずっと人類が求めていた力だ。微力ながら使える人は時折現れるが、エレンほどはっきりと強い力を使える者はそういない。国にとって重要な人物だ。

「……エレンが行かなきゃ、行かないのか?」

「そうだなぁ……ひとりでも行くかもしれない。僕にはもう、それしかないんだ」

視線を何もない宙へ向けたアルミンは、何を見ているのだろう。

「風、すごいね」

アルミンの声にはっとした。雨風が倉庫を叩く音など、すっかり意識から抜けていた。同時に自分がしていたことに気がつき、アルミンの肩を離した。服が乾いたことに気がつき、アルミンはジャンに礼を言う。その笑みにしばらく言葉を失った。屈託のない笑みは、きっと誰にでも向けられるものなのだろう。しかしジャンがそれを正面からとらえるのは初めてだ。

「早く台風過ぎるといいね」

「……ああ」

ざわめく胸をこっそり押さえる。それは風の音にあおられて、痛みさえも呼ぶようだった。

ちらりと炎が揺れる。
2013'09.27.Fri
「ジャン、話があるんだ」

座って、とアルミンに言われ、ジャンはお茶をついでいた手を止めた。少し困ってアルミンを見ると、後でいいから、と促される。その目は真剣で、眉は下がって悲しげにも見えた。

――俺は何かしただろうか。

ゆっくりグラスを置き、ジャンは言われるままアルミンの前に正座する。それに合わせてアルミンは俯いてしまい、ジャンが座っても何も言い出さない。

何も、何もしていない、はず、だ。昨日少しだけ、どうしてもかわいくなってしまって少しだけベッドで意地悪をしてしまったけれど、あれはアルミンだってわかってくれているはずだ。それとも本当は嫌だったのだろうか。泣かせてしまったことを、昨日ちゃんと謝った。それでも許されなかったのだろうか。

背中を冷や汗が伝う。ジャンもそれ以上アルミンの顔が見ることができず、ふたりで俯いたまましばらく黙っていた。

ええと、とアルミンが先に口を開く。

「あのね、これ、返す……」

アルミンがもてあそんでいた手の中から出したのは、ジャンの部屋の鍵、アルミンに渡した合い鍵だ。かたい金属がフローリングに置かれたことりという小さな音が、ひどく響いて聞こえる。

「あの、ジャン、僕、もうここには」

「嫌だ」

「あ」

「絶対に嫌だ」

「……だって、もう……」

「アルミン」

両手を取るとしゅんと肩を落とすアルミンに焦る。やはり自分が何かしたのか、それとも他に好きな相手でもできたのだろうか。アルミンはずっと女を好きになったことはないと言っていたけれど、やはりいい女を見つけたのだろうか。アルミンをのぞき込むと困った顔でジャンを見た。

「だって、やっぱりこんなこと、いつまでも続けていられないよ」

「嫌だアルミン、オレは離れたくない。悪いところがあれば直すから!」

「ジャンは悪くないんだ!僕が悪いんだ、臆病で、何も言えなくて……」

「なあアルミン、考え直してくれ。オレはもう、お前がいなくなるなんて考えられねえんだ」

「ジャン……僕だって!」

勢いをつけて抱きついてきたアルミンを強く抱きしめた。ジャンの耳元でぐすんと涙ぐむ彼をもう離さないと胸に誓う。慣れた心地よい体温を胸に抱いて、名前を呼ぶとアルミンは小さく体を震わせた。

「なあ、寂しいこと言うなよ」

「ジャン」

「ここにいてくれ」

「……ジャン、だって、僕……」

「アルミン」

「だ、だって、院の入試まであとひと月なんだッ!」

「……は?」

ジャンが硬直したことに気づいてないのか、アルミンはジャンにすり寄って首筋の匂いを吸い込んだ。そして嘆くような悲しい声で続ける。

曰わく、どうしてもジャンの顔が見たくなってここにきてしまう。部屋で勉強しながらジャンの帰りを待とうと思っていても、そわそわして集中できない。早目に帰って勉強しようと思っていても、ジャンといると時間を忘れて長居してしまう。

「だから、終わるまでここに来ないって決めたんだ。鍵を持ってると来てしまうから、その間だけ返そうと」

「ほんとにそれだけか?」

「え?」

アルミンを引きはがして正面から顔を見る。ジャンを見る目はきょとんとして、嘘をついているようには見えなかった。つき合い始めて半年以上経つ。アルミンが何か含んでいるのならわかるつもりだ。それでも不安が拭えずに、ジャンは恐る恐る口を開く。

「わっ……別れようとか、考えてるんじゃないよな?」

「そんなこと考えるわけないだろ!?えっ、もしかしてジャン……僕のこと嫌いに……」

「ない!ありえない!こんなにかわいくてエロい恋人手放すわけねえだろうが!」

「ジャン!」

「アルミン!」

再びお互いを抱きしめた。子猫のように甘えてくるかわいいアルミンと別れようなどと、考えたこともない。

「ったくよォ、早く言えよそういうことは」

「うう……だってもうちょっと自制できると思ったんだもん」

「いくらお前が頭いいったって、難しいもんなんだろ?俺には未知の世界だが……大体、お前が自制心があるとは思えない」

「うっ」

「……こんなエロい体になったのも、自制できなかったからだろ?」

抱いていた手で背中をなぞる。小さく声をこぼしてそらされた体に気をよくして、服の下に手を差し込んで直接肌を撫でた。腰から背中に触れただけだと言うのにアルミンは濡れた瞳でジャンを見る。

「……違うよ。ジャンのせいだもん」

「何言ってんだよ。全部自分で開発しちまったくせに」

「違うの」

「マグロみてぇになったこともなくてよく言うぜ」

「それは……」

アルミンの手が、するりとジャンの背を這う。狙いを持ったそれに口角を上げた。少し緊張した面もちで、ジャンに体をすり寄せる。

「ジャンがかっこいいのが悪い」

「……そんだけ煽るなら覚悟できてんだろうな」

「……好きにして」

我慢できるはずがない。そのままアルミンを抱き上げて、半ば投げるように一緒にベッドに崩れ込んだ。
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