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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'10.04.Fri
「嫌な天気になってきたな」

「うん、風が出てきたね」

マルコと窓の外を見て、ジャンは溜息をつく。これでは予定していた弓の練習は延期だ。するとなると面倒だと思うのに、できないとなるとどこか惜しい。

風で窓がカタカタと鳴り出した。授業を終えた教室で、解散しかけた生徒たちを教師が引き留める。

「台風が近づいてるって情報がきた!対策の配置をするから一旦待機!」

「マジかよ」

かったるいな、とジャンがぼやくのをマルコがたしなめた。ジャンは再び窓の外を見る。今朝は澄んだ秋晴れであったが、徐々に風が強くなると同時に厚い雲が垂れてきた。ひと雨来るかと思ったが、雨より厄介なことになりそうだ。

「参ったな、部屋の窓開けてきちゃったよ。窓辺で本読んでたのに」

マルコのつぶやきに思わず笑う。降り出すまでに部屋に帰れるといいな、とからかっていると、一度姿を消した教師が戻ってきた。

「水を扱える者はエルヴィンと共に川へ!あとエレン!君は医務室で待機だ!」

「またかよ」

「エレン」

露骨に顔をしかめたエレンをアルミンが慌てて制した。エレンの隣で私も、と立候補しかけたミカサはすかさず門の警備を言い渡されて仏頂面になり、やはりアルミンにたしなめられている。面倒な幼なじみを持つと大変だな、と横目で見ていると、マルコの名が聞き取れてそちらを見た。少し目を見開いた表情に、姿勢を直して顔をのぞきこむ。

「マルコ、どこだって?」

「……ジャン」

少し泣きそうになった親友の顔を見たのは初めてで、――きっとそうでなければ、ジャンは担当を代わってやることなどしなかっただろう。



*



「大丈夫か」

「う、うん」

マルコに割り当てられた仕事、それはアカデミーから遙か離れた壁の近く、食料備蓄倉庫の補強だった。対してジャンに与えられたのはいざと言うときの避難所の用意であったので、寮に帰る余裕ぐらいはある。大切な本を濡らすわけにはいかないと焦るマルコが珍しく動揺していたので、さほど能力との関わりがない仕事を割り振られていたため役割を交代したのだ。

――それがまさか、アルミンと一緒だとわかっていたら、もう少しためらっていたかもしれないが。

決して嫌いとまでは言わないが、ジャンはあまりアルミンをよく思っていなかった。頭脳は優秀だが実技は大したこともなく、足手まといになることもある。何より、ジャンと馬の合わないエレンにいつもくっついている存在であり、エレンの味方というだけで気に食わなかった。

そんなアルミンと連れだって、壁の近くの倉庫までようやくたどり着いた。馬は使えないので己の足だ。結局途中で雨が降り出し、たどり着いた頃にはすでにふたりは濡れ鼠だった。

「クッソ、さっさと片づけるぞ!」

「うん」

預かった鍵で倉庫に入ると、むっと埃の匂いが舞い上がる。定期的に人の手は入っているはずだが、多少は仕方ないのだろう。備蓄の食料には防水性のある布がかけられているが、建て直しを予定されていた古い倉庫ではすでに雨漏りが始まっている。

「わ、急がないとまずいね」

「誰かさんの足が遅いせいだろうが」

「だから置いていっていいって言ったじゃないか」

少し拗ねた様子のアルミンを急かし、梯子を取り出す。アルミンを見るとここまで来るだけですでに疲弊している様子が見て取れ、呆れて中からの処置を任せることにした。

そうしている間に風は強くなる。水や風を操ることのできる者もこの国には何人かいるが、ここまで大きな自然現象に人は太刀打ちできない。

ジャンは屋根に上がって壁を見上げた。この国は壁に囲まれている。その外は人間の驚異となる魔物がはびこる恐ろしい世界だ。人はどうにか自分たちの領分を広げようとアカデミーを作り、そこに外でも生き抜くことのできる技術を集めている。平和な壁の中で人口は増え続け、国は食糧不足に悩まされてきた。少しでも土地を広げることができれば、と誰もが思うことだ。アカデミーを卒業し、壁の外へ向かう者たちは未来の英雄だ。

屋根を掴んで強風をやり過ごし、目立つ箇所の修理をする。小さな穴はこの際無視だ。気にしていたらジャンが吹き飛ばされてしまう。

ひと通り終えて中から確認しようと振り返り、ジャンはそこに梯子がないことに気がついた。風の抵抗を受けなさそうな形をしているが、これほどの風ではそんな形も無意味らしい。吹き飛ばされて倒れた梯子に青くなり、慌ててアルミンを呼ぶ。声は風でかき消されてしまうので何度も呼ぶことになり、風と雨でむせ返った。ようやくアルミンが気づいて出てきた頃には梯子はかなり遠くに行っており、アルミンが梯子を取って戻ってくるのはひと苦労だった。

ジャンがようやく屋根から降りると彼は謝ってくるが、そのアルミンが飛ばされそうになってとにかく倉庫の中に入る。大まかに塞いだだけだが、雨漏りはもうほとんどないようだった。

「ありがとう、ごめんね、危ないのにひとりでさせてしまって」

「お前に上がられる方が落ち着かねえよ」

「うう……何も言い返せません……」

「中は?」

「少し濡れてる物もあったけど、ほとんど大丈夫」

ごうっと唸るほどの風が倉庫を軋ませて、ふたりで顔を見合わせる。

「……こりゃ帰れねえな。帰る途中でお前が吹き飛ばされる」

「流石にそこまで情けなくないよ……」

冗談も通じない堅物の濡れた髪を払ってやる。水滴が飛び散るのに慌て、アルミンは荷物から布を取り出した。ジャンもほとんど役に立っていなかった合羽を脱ぎ、水を払って髪を撫でつける。

「風がましになるまでここで待つか。おい、駄目になったやつ食っちまおうぜ」

「えっ」

「どうせ保存できねえんだろ」

「あ、うん」

幸い倉庫にはくつろげる程度のスペースはある。一時避難所も兼ねているのだろうか、毛布も見つかったので一枚アルミンに投げ、ジャンもそれを体に巻いて、倉庫の床に腰を下ろす。やや遠慮がちにアルミンもそばに座り、封の隙間から水の入ってしまった食糧をいくつか前に並べた。光源はアルミンが作業に使ったランプだけだが、どうせできることもほとんどない。

「……台風、久しぶりだね」

「最近これほど大きいのは来てないからな」

「ジャンは台風平気?」

「あ?怖いのか」

「ちっ、違うよ!怖くない。ただ、家がちょっと心配だなって。うち古いから、おじいちゃん、ちゃんと避難してるといいけど」

手持ちぶさたになのか、アルミンは話しながら濡れた包みを解いていく。保存食は大した味ではないが、時間つぶしぐらいの役には立つだろう。

「ジャンの家は王都の方?」

「ああ。新しくはないが、台風ぐらいじゃ何ともねえ」

「はは、そりゃ壁側の家とは違うよね」

「お前んちは?」

「シガンシナ区。裕福ではないけど住みやすいよ」

「ンなとこに好きで住んでるやついるんだな」

「失礼だな……僕の両親は冒険家だったんだ。あまり壁の中にいなかったから、いい家は必要なかったんだよ」

「ふうん」

渡された保存食のビスケットをかじる。マルコは無事大事な本を守れただろうか。どうせこんなことになるなら、女子と一緒の方がまだましだった。アルミンがライナーのようなむさ苦しいタイプではないのがまだ救いだ。そうなるぐらいならきっとこの雨でもアカデミーに帰っていただろう。

くちゅん、とおよそ男らしいとは無縁のくしゃみに思わず顔を上げる。自覚はあるのか、恥ずかしそうに鼻をすすってアルミンは毛布をかき集めた。見た目の通り貧弱なのか、と口にすれば怒るだろう。

しかし確かに体が冷えてきた。あまり気温の上がらなくなった最近は過ごしやすいが、これほど濡れると寒さを感じる。まだ毛布はあったはずだ、と腰を上げかけ、ランプの火が目についた。それを手に取り、炎に意識を集中させて傾ける。ほろりとこぼれてきた炎を手に受けて、食料を包んでいた包装に乗せた。アルミンが隣で目を丸くしたが、すぐに気づいたのか、ほう、と息を吐く。

「ジャンの家は、精霊の加護を受けてるんだったね」

「時代は浅いぞ。ひいじいさんが貴族の地位を失ってまで精霊ちゃんに貢いだ結果だからな」

「でもいいなぁ、羨ましい。精霊見えるんだろ?」

「ああ……」

視界の端にちらつく光を追う。見えるというほどのものではない。気配がある、というような程度だが、アルミンのように元々魔力もなく、精霊の加護もない家系から見ればまた違うのだろう。炎の大きさを調整し、心持ちアルミンの近くに下ろした。

ジャンの家は炎の精霊の加護を受けている。炎の力を使うと言うのは厳密にはそうではない。炎に関わる要素を扱う力だ。ある程度の知識や技量も必要で、実際ジャンの父は精霊を扱うのがあまり得意ではない。

しばらく見とれるように炎に見入っていたアルミンがはっと顔を上げ、慌てた様子でジャンを見る。

「ごめん!大丈夫、寒くないから」

「……いい。気にすんな」

「でも、大変じゃない?」

「お前の幼馴染みの魔法とは違うんだよ」

エレンの使える治癒能力は本人が生まれもって使える力だ。魔法が使える者は多少なりとも相応の影響があるらしい。簡単に言えば疲労感が伴う。アルミンはそのことを言っているのだろうが、精霊の加護はまた違うものだ。

炎のお陰で多少は暖かくなった。しかしアルミンはまたくしゃみをして毛布を抱いた。元々体調が悪かったのかもしれない。溜息をつき、アルミンの肩を抱き寄せる。慌てて引きはがそうとしたが構わず合羽を脱がしてしっかり抱いた。

「ジャン」

「乾かすからじっとしてろ」

「あ」

「応用できんだよ」

少し集中力はいるが、要は元素の話だ、いくらでも応用はできる。分解して蒸発させる。息を潜めるアルミンが体を小さくしているが、ただでさえ小さいので子どものように思えてしまう。

「……ねえ、ジャンは貴族になるためにアカデミーに入ったんだよね」

「ああ」

「ジャンならきっとなれるだろうね。魔物討伐の演習でもすごく優秀だもんな」

「お前は?」

「僕は、壁の外に行きたいんだ。両親が見た景色を見てみたくて」

「冒険家の?」

「うん。もうずっと前に魔物に殺されてしまったけど」

「……お前も、今のままじゃ同じ道をたどるだけだぞ」

「はは、わかってる。このままじゃ壁の外に出ることも許されないかも」

アルミンの体が温まってきたのがわかった。それでも何故か手が放せない。

「力がないのはわかってる。それでも諦められないんだ。おかしいよね、僕だけの夢だったのに、エレンも一緒に来てくれるんだって」

「……エレンも?」

「まあ……貴重な治癒能力を持つエレンを手放してもらえるかわからないけどね。昔はあんな力なかったからなぁ」

エレンの能力はずっと人類が求めていた力だ。微力ながら使える人は時折現れるが、エレンほどはっきりと強い力を使える者はそういない。国にとって重要な人物だ。

「……エレンが行かなきゃ、行かないのか?」

「そうだなぁ……ひとりでも行くかもしれない。僕にはもう、それしかないんだ」

視線を何もない宙へ向けたアルミンは、何を見ているのだろう。

「風、すごいね」

アルミンの声にはっとした。雨風が倉庫を叩く音など、すっかり意識から抜けていた。同時に自分がしていたことに気がつき、アルミンの肩を離した。服が乾いたことに気がつき、アルミンはジャンに礼を言う。その笑みにしばらく言葉を失った。屈託のない笑みは、きっと誰にでも向けられるものなのだろう。しかしジャンがそれを正面からとらえるのは初めてだ。

「早く台風過ぎるといいね」

「……ああ」

ざわめく胸をこっそり押さえる。それは風の音にあおられて、痛みさえも呼ぶようだった。

ちらりと炎が揺れる。
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