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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'10.07.Mon
「……おい、本を置け」

「うん」

さっきから何度、このやり取りをしただろうか。ジャンの言葉は彼に届く気配がなく、読書を続けるアルミンの前に並べられた食事も減る気配がない。班別の夜間訓練でエレンとミカサがいないだけで、彼はこんなにも面倒な存在になるのか。聞こえるように深く溜息をつくが、アルミンの耳には届いていないようだった。

「はぁ……」

もう食堂に残っているのはアルミンだけだ。さっさと退散していればよかったものを、雑魚寝の男部屋に戻るのが嫌で残っていればこのざまだ。アルミンが食事をとらないのは構わないが、ここは兵舎、団体行動が基本である。このまま放置して消灯時間にでもなれば連帯責任で叱咤が飛ぶのは目に見えていた。

「アルミン!」

「うん」

「……」

舌打ちをして立ち上がる。アルミンの隣に音を立てて座り、食事のトレイを引き寄せた。スープ皿とスプーンを取り、ひと匙すくってアルミンの口元に運ぶ。

「はーいアルミンちゃん、あーん」

唇にスプーンが触れるとアルミンは視線は本に向けたまま口を開けた。からかいにも反応しないアルミンに顔をしかめ、そのままスプーンを口に差し込む。もうやけくそになってパンとスープを口に運んでやれば、アルミンは何も言わないままどんどん食事を続けた。

もう半分ほどを食べた頃、惰性でアルミンの口に運び続けていたスプーンからスープのしずくが本に落ちる。

「あっ!ちょっと、気をつけてよジャン!」

「はぁ!?」

「あーあ、借り物なのに」

「テッメェ……」

「あ……」

ページを布で叩いたあと、アルミンはしまった、とばかりに肩をすくめた。ジャンが睨みつけていると恐る恐るこちらを見る。

「……ごめん、どうするかなと思って、思わず」

「思わずじゃねーよ!さっさと食え!」

「ごめん」

アルミンは観念したように苦笑して本を閉じた。黙って食事を押しつければ、今度は大人しく食べ始める。

「クッソ、遊んでんじゃねえぞ」

「意外と面倒見がいいね」

「下らねえことで怒られたくねえんだよ」

「大丈夫だよ。僕の経験したところだと、罰に関しては訓練兵より開拓者の方が辛い」

「……お前開拓地にいたのか」

「訓練兵になる前はね。うっかり時間に遅れでもしたら大変だった。だから今ここで食べる食事には感謝してる」

「……だったら早く食ってくれ」

丁寧にスープを口に運ぶアルミンは、今まで意識したことはなかったが姿勢よく、きちんと躾をされていたことが見て取れた。ジャンの家も決して裕福ではなかったが、世間的に見ればまだ余裕のある方だったので、こんなことになる前は食べ物で困った記憶などない。きっと土地のある頃は、アルミンのいたシガンシナ区であっても食事に困るということはなかっただろう。

「何か、食べたいものってある?」

「あ?」

「好きな食べ物」

「肉食いてぇ」

「あー、それはね、みんなそうだろうなぁ……」

「あと甘いもの」

「好きなの?」

「別に。全然食ってねえと食いたくなる。お前は?」

「うーん、食べたいものなぁ」

「自分で言ったのにないのかよ」

「どうしようもないものは、たくさんある」

「どうしようもないもの?」

「エレンのお母さんが焼いたパン、とかね」

アルミンは最後のパンを口に入れた。表情はいつも通りの穏やかなものだ。しかしなぜか少しぞっとして、ジャンはじっとアルミンを見る。

「まあ、でも、何でもひとりで食べるのは味気ないね」

「……だったら今度からくだらないことしてないでさっさと食えよ」

「でも本は読みたいから、またジャンが食べさせてくれると助かるけど」

「もう二度としねえ」

「ジャンは優しいね。エレンとも仲良くできたらいいのに」

口を開けばすぐエレン、だ。ミカサも同じく、誰も彼もがエレンを呼ぶ。

彼に影響力がないとは思わない。だけどそれはジャンが認めたくないことでもある。

「おい、食ったらさっさと片付けろ」

「うん。ありがと、つき合ってくれて」

「どーせオレは点数稼ぎしかしてませんよ」

「随分卑下するなぁ」

肩を揺らして笑うアルミンはとても兵士を目指しているようには見えない。教官たちも視線をくぐった猛者ばかりで、いつかアルミンもああなるのかと思うと全く想像ができなかった。多分ああなる前にくたばるんだろうな、と漠然と思う。

食器を手に立ち上がったアルミンが行きかけて、ふと戻ってくる。

「手を出して」

「は?」

「お礼」

不審に思いつつも手を出せば、アルミンがポケットから包みを取り出し、その手に乗せる。

「あげる。先輩にいただいたんだけど、実は苦手なんだ」

「何?」

「干しぶどう」

半ば押しつけるようにしてアルミンはそれを手放し、本を脇に抱えて出て行った。残った包みを開いてみれば、言葉通り小粒の干しぶどうが包まれている。ひとつつまんで口に運ぶと、甘酸っぱい風味が広がった。欲していた甘さとは少し違うが、いくらかは満たされるような気がした。

部屋に戻ると夜間訓練に行った班が戻ってきていた。疲れた、と仲間と笑いあうエレンを見ていると不愉快になって、眉を寄せて自分のベッドに向かう。しかし訓練の内容は聞きたいので聞き耳を立てていると、比較的スタンダードなものだったようだ。ジャンは来週だから同じ内容かどうかはわからないが、参考にはなるだろう。

手持無沙汰にさっきもらった干しぶどうを口にする。目ざとく見つけたコニーが寄ってきて、何も言わずに包みから取っていったが面倒で特に追求しない。

「いいもの持ってんじゃん」

「これどうしたの?」

「アルミンがくれた」

寄ってきたマルコにも分けながら答えれば、コニーから受け取っていたエレンが目を丸くする。

「ほんとにアルミンか?」

「あ?あいつがやるって言ったんだよ」

「お前が脅したんじゃないだろうな」

「そこまで好きじゃねえよ」

「……なんでだろ。アルミンぶどう好きなのに」

突っかかってはこなかったが、エレンはわずかに眉をひそめて呟いた。その言葉に驚くが、ジャンは顔に出ないように気をつけ、まだ残る干しぶどうを包み直す。

――あの、不器用が。

やがて消灯ぎりぎりにアルミンが部屋に戻ってきた。明かりを消してしまえば即座に寝入ってしまう野郎ばかりの中で、アルミンだけは窓辺の月明かりでまだ粘ろうとしている。一度は布団に潜ったジャンだが、いびきがいくつか聞えた頃布団から出てアルミンの側に立った。こちらを向きもしないがもう騙されない。その開いた本の上に包みを投げれば、ぱっとこちらを見上げる。

「お前の分」

「え、でも」

「何にでも感謝して食えよ」

「……ありがとう」

ふっと顔をほころばせるアルミンに無性に恥ずかしくなる。

「あとな、夜は寝ろ!」

「うん、もう少し」

「ベッドに投げ込んでやろうか」

「ごめん、行く」

アルミンは笑って本を閉じた。布団に潜りこむまでしっかり見届け、ジャンも布団をかぶって丸くなる。

――あいつの世話を焼くのはもう今日で最後だ。

決意をして目を閉じたジャンは、次の朝目の当たりにする寝癖のついた頭を放っておけないのだった。
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