言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
友達にお使いを頼んだのですが受け取れないままです。ぬおおお……白石が、白石が私を呼んでいる……
この連載、目玉クリップで留めたいらない紙のメモに書き殴っているのですが、厚くてめくりにくくなった頃更新してます。はい。好調すぎて書きすぎた。ほんとは今笛を書きたいんだけどけんひかが楽しすぎる。
……これ……まだ半分も行ってないんだぜ……
音楽が流れた瞬間携帯を手に取った。通話ボタンを押すと同時に声を出す。
「もしもしっ」
『早ッ』
小さな機械から聞こえる財前の声にほっとして肩の力を抜いた。時間は5時過ぎ、いつもの時間だ。
『散歩、行きません?』
「ええよ」
嫌われているのだろうか、と思うと途端に財前に興味がわいた。彼が天才と呼ばれるゆえんは、入部したばかりの頃、テニス初心者でめちゃくちゃなフォームで球を打つくせに、体験を兼ねたゲームでレギュラーを追い詰めたからだ。誰の目から見てもレギュラーはかろうじて立場を守った、としか言いようのないゲームの後でも、財前は黙って汗をぬぐって表情ひとつ変えなかった。そんな財前が周囲から浮くのは必至と思われたがそこは四天宝寺、白石を始め先輩たちが面白がったので案外スムーズに部に馴染んだ。ここの部員たちはある意味で楽天家だ。
謙也は今まで特に積極的に絡みはしなかった。少なくともテニスに関して言えば、近くで努力を怠らない白石の姿を見ているので財前の態度を不満に思ったこともある。練習に不真面目なわけではないが必死でもない財前は、それでも「天才」と呼ばれるだけの実力がある。勘がええんやなあ、笑う白石がどうしてあんなに寛大なのかわからない。
「おはよーございます」
眩しそうに目を細め、財前は謙也を見た。随分幼く見える気がする。髪とピアスだけで変わるものだなと思いながら挨拶を返した。……挨拶に気づかない、なんてことが今まであったのだろうか。昨日のことを思い出して財前を見たが、態度は変わらない。
「……なあ、学校の方行かん?」
「ええですよ」
特に目的地がないのはいつものことだ。それなら、と歩き出す。サンダル履きの割には思ったよりもてきぱき歩き、だるそうに見えるのは無表情だからだろうか。
「なぁ、なんでピアスついてへんの」
「寝るとき外すから」
「外すんや」
「痛いし」
「ふーん?痛いんや。なんでピアス開けたん?」
「さぁ」
「自分のことやろ」
「謙也先輩なんで金パなん?」
「似会とるやろ?」
「ハイハイハイしょーもな」
「いちいちむかつくやっちゃな……」
会話はスムーズに流れる。そらそうか、とようやく胸をなでおろした。嫌いなやつとわざわざふたりきりにならんよな。
「テスト勉強しとる?」
「してへん」
「は?もうテスト始まんで」
「したいとこだけそのうちしますわ」
「なんやそれ、ナメとんな」
「やってそこそことれたらええでしょ。俺勉強しに学校行っとるんちゃうし」
「いやいやいや!勉強しに行けや!」
「高校やったら知らんけど中学やん。とりあえず適当に過ごしとったらええんやろ」
「ほなお前何しに学校行っとんねん」
ぴたりと財前が足を止め、振り返るとじっとこちらを見つめてきた。相変わらずの無表情にどきりとする。その顔は、どういう意味なのだろう。感情は読めないのに目の力は強く謙也を射る。そうかと思えば一度眼を閉じて、何もなかったように歩きだした。
「……ま、先輩らはけっこー好きやし、あと立地っすかね」
「立地?」
「夕方、きれいでしょあの辺」
「え?」
「……あんたは地名も知らんのか」
溜息をつく財前の顔を覗き込む。え?どういう意味?思わず袖を引く謙也をうっとうしそうに見遣り、財前はまた溜息を落とす。
「駅名、言うてみ」
「日本橋?」
「あんたの最寄り駅は聞いてへん。学校の最寄り駅や」
「え、四天宝寺夕陽……ああ、夕陽丘」
「ま、あんたに景色見る余裕があるとは思ってませんでしたけど」
「それ馬鹿にしとるやろ」
「してませんて。“スピードスター”先輩」
「しとるやん!」
ふっと一瞬笑い、すぐに顔をそむけた財前に釘づけになる。なんやこいつ。
「……財前、笑うとかわいいやん」
「今気づいたんすか。俺笑わんでもかわいーんすよ」
「それは嘘やろ」
「あ、そっか、謙也先輩俺の顔も見たないんでしたっけ。そらかわいないですよね」
「あ」
やべ、こいつしつこいな。それは、説明しようとした謙也を遮るように、看板を見ていくたまさん、と財前がつぶやく。
「俺行ったことない」
「はぁ!?お前いくたまさんも行ったことないとか、それでも大阪人か」
「……先輩かて法善寺行ったとこなかったやん」
「いくたまさんは別やろー!」
「あーもー言わんかったらよかった」
「どうせなら寄ってこや」
「どうせ行くなら四天宝寺やろ」
「……せやな」
散歩を再開したときの財前は心なしか足取りが軽い。隣を歩く財前を見下ろす。眠そうな目は前を見据え、むっつりと結ばれた口は開かれない。それでも機嫌が悪いわけではないことはわかって、謙也も黙って隣を歩いた。さっきまでいろいろと話していたのが自分ばかりだったと今更気づいて、急に黙るのも妙だろうかと思ったが、もう何も思いつかなかった。
学校の前まで行くと時間の割に人が多くて驚いたが、財前は慣れているようだ。謙也たちの散歩と違う、運動としてのウォーキングや体操をしている人はこんな朝にも案外多いらしい。いや、朝だから多いのか。
「……先輩財布持ってます?」
「いや、持ってへん。何?」
「マクド寄ろうかと思ったんスけど、ええわ、戻りましょか」
「ああ……そういやこないだはユウジと行ったんか」
「初めに呼んだ人出てきてくれんかったんで、しゃーなしっすわ」
「……それって、俺?」
「誰にかけたか忘れましたわ」
境内を抜けてまだ散歩は続く。そのうち謙也の通学路に出て、坂を下りながら思い出した。
「財前、チャリ通?」
「ハァ」
「小学校は?」
「第一」
「え、俺第二や。なんやおしいな」
「あー、そーですねー」
「何やねんそのどーでもよさそうなリアクション!」
「どーでもえーし」
「うっわ、なんかむかつく」
「俺が知らんときのあんたの話聞いて何がおもろいねん、アホくさ」
「あ、うん……えーと、帰る?俺こっち曲がるんやけど」
「じゃあ俺こっちなんで。ほな」
謙也に視線を送り、会釈もなければ手も振らず、財前は背中を向ける。あっさりとした別れだ。自分が抱えている気持のわけがわからず、謙也は溜息をついて帰路につく。