ひっかけ橋の中心で愛を叫ぶ⑥

夏が遠ざかって焦ってきた。無事に終わるのかなぁこれ＾＾






目が覚めると5時だった。また起こされたか、と携帯を手に取るが、そこは寝る前のまま変化はない。少し考えて着信履歴や受信フォルダを確認するが夜から変わっておらず、時間を確認しても朝の5時で間違いない。そのうちかかってくるだろうから、とベッドの中で携帯をいじりながら待っているうちに10分経ち20分経ち、そこでようやくはっとした。どうして財前からの電話を待っているのだろう。うわっないわ、自分で呟いて謙也は布団に潜り込む。ついうっかり習慣にしそうになってしまった。どうせ財前の気まぐれか嫌がらせで、謙夜が素直に出てくるようになったので飽きたのかもしれない。
そもそも律儀につき合ってやる義理もないのだ。それでも少ししっくりこない気持ちを抱えたまま二度寝すると目覚めは最悪で、母親に叩き起こされてベッドを飛び出したのは久しぶりだ。いや、最近に一度あったか。
「最近朝早かったと思ったらすぐこれや。ほんま、長続きせん子ォやわ。彼女ともすぐ別れたし」
「彼女関係ないやん！はよ起きとったん俺ちゃうし」
「何？」
「なんでも！行ってきます！」
今日はどうも虫の居所が悪い。我が家の柱を怒らせてしまう前に家を出て、自転車にまたがる。財前もチャリ通かな、ふと考え、ユウジが電車通学だったことを思い出した。学校まで電車で30分ほど、と言っていたように思う。財前に起こされた朝、わざわざこっちまで出てくるような口ぶりだったが、そうだとするとほぼ始発に近い。気が合っているとはいえ、ユウジがただの後輩のためにそこまでするだろうか。謙也以上に好き嫌いのはっきりしているユウジのことだから、そこまでしてつき合うということはかなり親しい仲であるはずだ。

ぐるぐる考えているうちに学校についたが、考えがまとまらない。何かに気づいた気がして、突然の違和感に昇降口で足を止める。
「あれ……？」
「謙也先輩、おはようございます」
財前の声に反応してぱっとふりかえると、ユウジがにやにや笑って立っている。思わず手にしたシューズを落としてしまい、さらにユウジを喜ばせた。
「おはようございますー」
「なっ……おま……声！」
「似とった？」
いつものユウジの声に戻り、気の抜けた謙也はその場でしゃがみこむ。
「……なんやねん……」
「最近観察の機会多いからな、完璧やろ。本人に聞かしたら似すぎてキモい、て言われたけどな」
「ほんま心臓に悪いわ……」
「なんやったら財前の声でかわいーこと言ったろか」
「例えば？」
「“謙也先輩カッコイイ！”」
「きっしょ！」
「……何してんすか」
「あ、本物」
財前が通りかかって緊張する。彼の目はユウジに向いていて、また避けられるのかと思うと落ち着かない。
「ユウジ先輩キモいわ」
「なんでやねん。似とるやろ」
「悪用せんといて下さいよ」
「どう悪用すんねん」
「イタ電とか」
「あー、財前の声で白石にパンツ何色？とか聞いたらばれるかな」
「死んで」
「おっま……口悪すぎるやろ！お前の声は出せてもボキャブラリーに追いつけへんわ！」
「できんでええですわ」
ふいと踵を返して財前が行ってしまい、かわいくないやっちゃ、とぶつぶつ言いながらユウジは靴を履き替える。
――財前は謙也を見なかった。妙に胸が落ち着かず、靴をうまく履けずに手間取ってしまう。
「……俺、財前に嫌われたんかな」
「なんで？」
「なんでて」
「前と変わってへんやん」
「え……でも今完全に無視されたんやけど」
「……前は謙也の方がよう無視しとったやろ？」
「えっ！？」
「つーか大抵他のことに夢中で挨拶に気づいとらんかっただけやけどな」
「そ、そうやっけ？」
ユウジはにやりと笑い、声を作る。顧問の声に近いが完璧ではない。
「視野が狭いで―、青少年」