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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.14.Fri
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2015'06.06.Sat
「似合うんじゃないですか?」

それはまったくもって無責任な一言だった。王子然と笑った男の後ろで、カメラマンやスタイリストたちがにわかに色めきだつ。いやいや、鶴丸はただ首を振る。

「あのな、ただの女装ならまだしも、着れるわけがないだろう」

男の俺が、ウエディングドレスなど。

一期が着ないんですか、とがっかりしてみせるが、それにほだされてやる気は一切なくて頑なに断った。



ちょいちょいと花の角度を直し、鶴丸は数歩下がった。真正面から主役ふたりの席を眺めて、満足げに頷く。とはいえ今日は主役がいない。

この結婚式場に勤めて何年だろう。ブライダル業界は存外忙しい。人の結婚ばかりを祝っていたら自分のことはどうでも良くなってしまい、両親も鶴丸の孫を見るのをそろそろ諦めた。そんな頃、鶴丸が入社したときからほとんど変わらなかった式場パンフレットを一新することになったのだ。

「鶴丸殿、そちらはいかがですか?」

鶴丸に声をかけたのは一期だった。その手にはヴェールがあり、そのまま本番さながらにセッティングしたパーティ会場を眺めながら鶴丸の方へ向かってくる。客がいなくともきっちりネクタイを締めている男は、表情こそ柔らかいものの、クロスの皺ひとつさえ見逃さんばかりに目を見張らせていた。

「ああ、テーブルは完璧だ。あとは料理さえ来たらそこからはカメラマンの仕事だな。『花嫁』は間に合ったんだろう?」

「ええ、残念ながら。今は外で撮影しています」

「そうか」

「間に合わなければあなたに代理をお願いしたんですけどね」

「だから、それはいい加減諦めないか」

花嫁役のモデルが渋滞で遅れるという連絡があり、外での撮影ができないかもしれない、とにわかにスタッフはざわめいた。今月は忙しく、撮影できる日が限られている。ましてや日本には梅雨というものがあるのだ。今日のように天候に恵まれた日は逃したくない。

そんなときにこの男は、他にも女性スタッフがいるにもかかわらず、鶴丸が代理をしたらなどと言い出した。周囲は冗談だと受け取っただろうが、この男が本気で言っていたことを鶴丸だけは知っている。

鶴丸とてこんな生業であるのだ、美醜の判断は人並みにつく。自分がそれなりに見目がよく、服装や振る舞いを整えれば女に見える顔であることも知っている。しかし骨格というものは男女ちがうもので、ましてやウエディングドレスなど、腰から下はともかく上半身の男らしさを隠せるはずもない。

「ドレスは諦めました」

「……ドレス『は』、ってか」

嫌な予感しかしない。鶴丸が苦笑するのを気にも留めず、一期はヴェールを広げてみせる。そんなことだろうとは思ったが、一体どんな理由をつけて持ち出してきたのだろうか。あくまで進んで受けるのではないという精一杯の抵抗に腕を組み、一期が広げたヴェールを鶴丸の頭上にかざすのを見送る。

「白がよくお似合いで」

「……君は普段組み敷かれておきながら、よくもまぁ俺を女扱いできるな」

「それとこれとは別の話でございましょう」

「別か?」

一期の理論はいつもよくわからない。ふわりと降りてきたヴェールの薄い生地の向こうで一期が微笑んでいる。まぁ楽しそうなら好きにさせてやるか、とされるがまま一期を見た。

「そういえば、先日の式のサプライズ、成功したようで」

「ああ、ちいとやりすぎないかと懸念していたがそんなこともなかった」

先日のカップルを思い出す。結婚式の日がふたりの恩師の誕生日であるということなので、ちょっとしたお祝いを一緒にしたのだ。勿論主役はふたりであるし、他の客がみんなその恩師を知っているわけではないから本当にささやかなものだ。それでも軽く提案したときにふたりが目を輝かせたので、大事な人だろうと思ったのでプランに織り込んだ。結婚式当日のカップルは食事もままならないほど忙しいが、それでも最後に鶴丸にひと言お礼をかけてくれた。

「あなた自身の結婚式なら、もっとやりたい放題サプライズを仕込むのでしょうね」

「そうだなぁ、ロッキーのテーマででも入場するか」

「喧嘩でも始まるのでしょうか」

「ははっ、入場して夫婦喧嘩から始めるか!」

「あまり好き放題するなら私の意見も聞いてもらわねば」

「俺の結婚相手は君か」

「他にどなたを想像したんです?」

「さぁな」

ヴェール越しに笑いかけると一期は溜息をついた。そっとヴェールを持ち上げて、めくりきらずに顔を寄せる。何も隠せない布一枚に隠れてそっと唇が重なった。

「……順番が違わないか?」

「驚きました?」

「驚いたな」

一期の左手を取って引き寄せる。ヴェールがほとんど落ちかかったその内側で、鶴丸はポケットに手を入れてそれを取り出す。何か言われる前に薬指に指輪を通した。男の指だ。関節に少々引っ掛かったが、根元まで入れてしまうとサイズは合っている。ちらりと一期の様子を伺うと、じっと指輪を見て硬直していた。滑ったかな、と思っていると、左手に添えたままの手をぎゅっと握られた。

「……あなたも順番を間違えてませんか」

「驚いたか?」

「驚きました。……こんなものを、無防備にポケットに入れていたのですか」

「そこか」

「……あなたのドレス姿、楽しみにしてますよ」

それはさっさと諦めてくれ。笑ってヴェールを引きおろし、一期の頭にかけてやった。それを上げるのは、また今度。

「6月の花嫁だからな、きっと幸せにしてやろう」
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2015'05.11.Mon
ジャン・キルシュタインは電子書籍を恨んでいる。



とん、とわざと音をたててアルミンの前に皿を置いた。アルミンはそれに気づいて顔を上げ、ジャンに笑いかける。今日の昼食はバジルソースとベーコンのパスタだ。最近は細目のパスタにはまって、今日もそれを使っている。彩りに混ぜたトマトの赤も鮮やかで、我ながらよくできた。

アルミンはいただきますとフォークを手にし、そして片手に電子書籍を持ち直す。

取り立てて行儀だとか礼儀だとかに口うるさいわけではない。アルミンが今忙しく、少しの時間も惜しんでいることも知っている。ただやはり、食事時ぐらいは顔を上げてほしいと思うのだ。

紙媒体の資料を見ているときはもう少しましだ。それが借り物ならばさすがのアルミンも汚さないように食事の時には開かない。自分のものならば開きはするが、食べながらでは集中できないようであまりしない。しかし電子書籍の場合は別だった。手のひらに収まる媒体、ワンタッチでできるページ送り。ちょっとソースがとんだぐらいでは気にしない。

とはいえ、もくもくと手と口を動かすアルミンを見ながらの食事ももう慣れた。こんなもんだと思ってしまえばどうといはうことはない。

「あ」

アルミンが手を止めたのは、皿に集中せずとも巻き取れるパスタがなくなった頃だった。ようやく資料から意識を離して皿を取り、アルミンはぱちりとまばたきをする。

「ベーコン入ってた」

「……入ってるよ」

「気づかなかった」

半ば無意識の食事では口に入っていなかったのかもしれない。フォークにベーコンやトマトを突き刺して口に運び、アルミンはうん、と頷く。

「おいしい」

夜は手羽先にしよう、とジャンは決めた。両手を使わなければ食べないものにする。一日ぐらいはそんな日があってもいいはずだ。

「あっチーズも入ってた」

「ほんっと作りがいのねえやつ……」

「おいしいよ」

「はいはいありがとよ」


2015'02.17.Tue
ジャン・キルシュタイン様



先日の葬儀ではろくな手伝いもできずにすまなかった。キルシュタイン氏の親友でありながら、葬儀に遅れた私を許してほしい。しかし葬儀でのジャンの立派な姿はしかとこの目に焼きつけた。今日の手紙は、あの日君に伝えることのできなかったことについての懺悔の手紙だ。

キルシュタイン氏の治めていたこの地は、とても広大で豊かな土地だ。そしてこの大地の女神に育てられたキルシュタイン氏もまた、君の知るとおり器の大きな男だった。同時に頑固でもあった。息子である君の方が氏について詳しいと思うかい?それは同封したノートを見てから判断してほしい。

昔、そう、君の親友が亡くなった年、君はもうひとつ別れがあったことを覚えているだろう。忘れているはずがない。君は毎日馬にまたがり、教会へ行き、彼女の幸せを祈っているのだから。同封したノートは、君の父親のその時の日記だ。遺品の整理をしているときに、生真面目な彼がきちんとつけていた日記の一冊がなかったことに気づきはしなかったか?これは私がキルシュタイン氏から預かっていたものだ。あの年に起きた事件を記録せずにはられず、しかし君へ真実を伝えることのできなかった、父の言葉だ。

許してやってほしい。この日記は、彼なりの君への愛だった。







キルシュタイン氏の日記



今日は本当ならシガンシナからジャンの友人が来るはずだったが、昨日のうちに、体調を崩したと手紙が届き、予定が延期になった。暇を持て余した息子はしばらく屋敷の中でくすぶっていたが、やがて気持ちを切り替えたのか、使用人を捕まえて馬に乗りに行っていたようだ。というのも、私のところにはやはり友人のフロイデンベルクがきていたので、ジャンが屋敷を出ていたことも知らなかったのだ。

ジャンが慌ただしく屋敷に戻ってきたのは昼食の前だった。自分の馬に見知らぬ馬車を引かせていて、何事かと問う間もなく、ジャンはさっさと侍女にベッドを作らせて馬車からひとりの女性を抱き上げて私の前を横切っていった。だらりと垂れた手はぎょっとするほど青白く、死体ではないかと思ったことを記憶している。

馬車からはまた別の見知らぬ女性が降りてきた。細い金髪の、庇護欲を誘う女性で、私を見て頭を下げた。

話を聞くと、彼女たちは急ぐ旅の途中だという。その道中、馬を走らせていたジャンが勢いよく飛び出し、驚いた向こうの馬が暴れて馬車が倒れてしまったらしい。先ほど運び込んだのはそのときのショックで気を失ってしまった、彼女の妹だという。医師であるフロイデンベルクは急いで息子を追い、私は息子のしでかしたを慌てて詫びたが、彼女はそれよりも気にかかることがあるようだった。聞けば妹は元々病気がちで、この急ぐ旅に耐えられるかわからないのを、屋敷に頼れる人もいなかったので無理を押して連れてきていたのだという。

私は愁いを帯びた表情の彼女に、妹さんがよくなるまでうちに滞在してはどうかと申し出た。連れは御者がひとりいるだけのようで、彼は顔つきもいかめしく体格もがっしりしていたが、しかし3人きりの旅は病人を抱えていては大変だろうと思ったのだ。息子の失礼のお詫びわかねてそう言ったのだが、美しい姉は首を横に振った。旅は本当に急ぐのだという。

そのとき、妹さんが目を覚ましたとジャンが彼女を呼びにきた。ジャンを怒るのは後にして、彼女と共に客間に向かった。青白い顔の妹さんは気付けのブランデーのおかげかさっきよりは少しは顔色もましになり、ベッドで体を起こすこともできていた。都合よく医者がいたことを私は神に感謝した。きっとあのご婦人方の行いがいいのだろう。

姉は涙を浮かべて妹にすがり、ジャンが改めて謝った。私も続くが、彼女たちにとっての何よりの不幸は旅を続けられないことだった。少し悩んだ末に、姉の方は私たちを見て、妹を残して旅を続けたいから、ここで預かっていてくれないかと言った。わけあって身分は明かせないが、決して怪しいものではない、帰りに必ず迎えにきます、と涙ながらに告げる姉は美しく、また、まだ具合は万全ではないだろうに妹も頭を下げ、これ以上姉たちのたびを自分のこの忌々しい体のために遅らせることはできないから、と切実に頼んだ。見知らぬ地でひとりになるのはさぞ勇気のいることだろう。それでもそうしなければならないという彼女たちの真摯さ、また、罪悪感もあるのだろう、ジャンからもそうするようにと頼まれた。元より、父子ふたりの生活だ。女性がひとり増えると花が増えるだけである。私は快くそれを聞き入れた。

私が承諾するやいなや、よほど急いでいたと見え、姉は妹を抱きしめて頬にキスをしたなり、今から発つと言って部屋を出てしまった。あまりの急いた様子に逃げた馬の代わりはうちの馬屋から貸すことになり、長旅にも耐えうる愛馬との別れをジャンはやや渋る態度を見せたものの、責任感がわがままを許さなかったのか、すぐに彼を馬車ごと見送った。

そうして、今日から我が屋敷に家族が増えた。彼女の名は、アルミン・アルレルト。



*



アルミンはその病弱な体のせいで、なかなか朝から起きてくることができないようだった。侍女が何度か呼びに行ったが昼になりようやく居間へやってきて、体がなかなか言うことをきかず、いつもこうだから気にしないでくれとのことだった。朝から墓守か何かのように廊下をうろうろしていたジャンはようやく安心して椅子に座ってくれた。この辺りは農家ばかりで、若者は日中畑が忙しく、ジャンは年の近い友人というものがあまりいない。更に女性ともなればよけいに落ち着かないのだろう。アルミンはチョコレートを少し飲んだだけで、今日はまたベッドに戻ってしまった。

そのときのジャンの表情は、我が息子ながら情けないものだった。彼なりに新しい家族に領地を紹介するか、体調が悪いのなら朗読でもしようかといろいろ考えていたらしい。

昨日は泊まってくれたフロイデンベルクは一日アルミンの様子を見て、何か重大な病気ではなく、体が極端に弱いだけだと判断した。特に貧血がひどいのだと彼女はいい、無理をしないように、特にジャンには無理をさせないようにと言い聞かせて帰っていった。

アルミンは夕食のときには顔を出した。ジャンはそのときにもし明日体調が悪くなければ、馬で周りを案内すると約束を取り付けていた。シガンシナからの友人が来られなくなり時間を持て余しているのだろう。

アルミンをよく見ると、彼女の姉とは少しも似ていなかった。同じ金色の髪だがその色味はまた違った色をしていたように思う。姉の方はどこか目の覚めるような美しさがあったが、彼女は失礼ながらそこまでの魅力は備わっていないようだった。それでもジャンにとっては新鮮な友人になるだろう。

夜の祈りの挨拶を断られてしまったジャンが最近では見せない子どもらしさであった。
2015'02.10.Tue
薬「さあ今夜も始まりした『薬研ニキの柄まで通さNight』、こんばんは、お相手は薬研籐四郎です。数日前から大将が本丸にあまり現れないって思ってる刀剣たちは多いんじゃないか?俺っちの大将も今は『ちんじゅふ』が忙しいってんで、毎日の日課をこなしに来るばかりだ。でもそんな大将を支えるのが俺っちにできることだからな。『ちんじゅふ』がどんな場所か知らないが、大将が戻るまできっちり本丸を守ってみせるさ。今日のゲストはそう言い聞かせて頭ではわかっていても、感情が追いつかず、今にも泣きそうな……って、もう泣いてるな。おい本番だぜ、泣くなよ。あー、大将がいなくて寂しくて、泣いてしまったのが今夜のゲスト、加州清光だ。まったく、今日まともにできないかもな。えー、この番組は生放送だ。放送中リアルタイムで大将のメールを読んでいくから、よかったら公式ホームページのメールフォームから送ってくれ。ジングルの間に出てくるから焦らずリロードしてくれよ。それじゃあもしよかったら、おやすみ前のちょっと間に、俺っちのおしゃべりにつきあってくれ」



(ジングル)



薬「改めて、薬研籐四郎です」

清「……かしゅうきよみつです」

薬「おい、元気出せよ」

清「だってさ〜本丸にきても俺のわかんないことばっかり言ってるんだぜ。ゆーちゃんって誰?香取って誰?俺よりかわいいの!?」

薬「まあまあ、俺っちはあんたをきれいな刀だと思うぜ。とりあえず落ち着いて自己紹介をしてくれよ。まだあんたに会ったことがない大将もいるかもしれないからさ」

清「……加州清光、川の下の子。扱いにくいって言わないでくれよ、頑張るからさ。だから今の主より俺をかわいがってくれる主がいたら連絡下さい」

薬「おい、帰ってきて清光がいなかったら大将泣くぜ」

清「泣かないよ!あんな浮気者もう知らない!」

薬「困ったな。ほら思い出してみろよ、大将がどれだけかわいがってくれてるかさ」

清「……主はさ〜、俺に特上の刀装くれるんだ」

薬「へえ、いいじゃないか」

清「傷ついちゃったときだってすぐに手入れ部屋に連れていってくれるし、遠征だってほとんど行ったことないんだぜ。俺が本丸にいないと寂しいんだって!」

薬「なんだ、愛されてるじゃないか」

清「だよね!?」

薬「そんなに愛されてるなら、大将が清光を捨てるはずがないってわかるだろ?だったら大将が帰ってくるまで、どーんと構えてればいいさ」

清「そうだよね!そうする!」

薬「よし、その意気だ。じゃあ清光が立ち直ったところでメールを読んでいくことにしよう。まずはいつの間にか毎週恒例になってた『じじい回収情報』からだ」

清「じじい回収?」

薬「なんでもなかなか姿を現さない『三日月宗近』が、このラジオをききながらだと現れるっていうジンクスがあるらしいぜ。今日は相模国からの情報だ。『薬研くん、清光くん、こんばんは、いつも一週間のご褒美にこのラジオを聴いています』こんばんは、ありがとな。仕事か?学校か?お疲れ様」

清「こんばんは〜、お疲れ様」

薬「『鶴丸さんゲスト回も楽しく聞かせてもらいました。聞いているこっちはおもしろくてずっと笑っていたのですが、薬研くんが疲れていないか心配です』」

清「あの人来たの」

薬「ああ。まあ、なんだ……ちょっと疲れたな」

清「薬研が言うなら相当だな」

薬「それはさておき、続けるぜ。『ところでこの回を聞きながら出陣したら、出ました!三日月おじいちゃん!山の中で徘徊しているところを無事回収することができました。何度も探しに行った場所なのに、ラジオがあると一発だったので、ラジオのジンクスは本当だったみたいです。薬研様々ですね、ありがとうございます!まだおじいちゃんを見つけられていない大将たちのところにも現れるように、それから、まだまだ寒い日が続くので、薬研くんたちが風邪をひきませんようにお祈りします』……ってことだ。ありがとな。なに、大将のところに三日月宗近が現れたのは、じいさんも大将に会いたかったってことさ。それだけ大将が魅力的だったんだ、俺は何もしてないぜ」

清「薬研の本丸には三日月いる?」

薬「大将の話だと、うちの本丸には『未実装』らしい」

清「現実逃避じゃん」

薬「そっちはどうだ?」

清「よくわかんないけど『ちんじゅふ』にいるって。なんでか会わせてくれないんだよなぁ」

薬「それも多分現実逃避だと思うぜ」

清「そうなの?」

薬「何度か聞いたことがあるが、まったく別の『三日月』だ。じじいではないらしい」

清「何それ。あーあ、主は『ちんじゅふ』で何してるんだろ」

薬「じゃあ次のメールだ」

清「これすごいいっぱいメール来るね」

薬「そうなんだよな。いつも読み切れなくて大将たちに申し訳なくてな。あ、ラジオが終わってから全部じっくり読ませてもらってるからな!」

清「あっ、これ読んで!これ!」

薬「ん?ああ……いいのか?じゃあ読むぞ。『薬研くん、清光くん、こんばんは!審神者じゃないけど毎週楽しみに聞いています』こんばんは、楽しめてるといいんだが」

清「こんばんは!」

薬「『友達に教えてもらってこのラジオを聞き始めてから、金曜日に早く家に帰るようになってしまいました。あまり審神者や刀剣男子について詳しくない私でも笑ってしまうことばかりです。ずっと忙しくてなかなか踏ん切れなかったけど、さっきの清光くんの言葉で決めました。私、審神者になります。だから清光くん、うちに来て下さい!私なら絶対清光くんをないがしろにしないで大切にするから!考えておいて下さいね。それではお体ご自愛下さい』だと。熱烈なラブコールだな」

清「ふふ〜ん、どう?どう?主が聞いたら嫉妬しちゃう?」

薬「そりゃあ清光みたいな立派な刀がなくなったら大将は悲しむだろうさ。清光はきれいでかっこいいだけじゃなくて強いからな」

清「でも全然構ってくれないんだけど」

薬「それは大将が清光を信じて本丸を任せてる証拠だろ?だったら清光も大将を信じるのが筋ってもんだ。清光が新しい場所を選ぶってんなら俺っちに止める権利はないが、大将が悲しむんじゃないかと思って心配だな」

清「……薬研ってなんかずるいよね。あーあ、せっかくメールくれたのにごめんなさい!俺はかわいくてかっこよくて強いから、ちゃんと主が帰ってくるのを待っとくことにする!」

薬「それを聞いて安心したぜ。お次は……おっ、男の人だ、これにしよう」

清「へー、男の人も聞いてんだ」

薬「ああ、俺っちにはわからねえが、審神者になるには適正なんかもあるんだろうな。このラジオを聞いているのは特に女性の方が多いらしいぜ。これは……山城国からだな。『こんばんは、回りに同姓がおらず、寂しく審神者をしている男です』こんばんは。まあ女性の輪に男はなかなか入りにくいよな」

清「こんばんは〜。なんで?むしろ女の子と仲良くなれるチャンスじゃん。どうせ普段そんな機会ないんでしょ?」

薬「……清光」

清「何?俺何かまずいこと言った?」

薬「あー、大将すまなかった、俺っちに免じて許してくれ」

清「ねえ何?」

薬「『初めはなんとなくで始めたことだったけど、今は本丸も賑やかになって、審神者業にも慣れてそれなりに過ごしています。薬研もうちの本丸で大活躍です。今回メールをしたのは、加州清光に聞きたいことがあるからです』」

清「俺?何なに?」

薬「『うちにも加州がいて、やっぱり活躍してくれています。でもひとつ問題があって、夜寝ていると必ず布団に潜り込んでくるんです。これってどこの加州もするんですか?審神者の性別は関係ないですか?今は追い出してますが、そのたび説得して帰すので寝不足で、そろそろ疲れてきました。これ俺の操ヤバいですか?どうしたらいいですか?同じ加州清光の話が聞きたいのでよろしくお願いします』……だそうだ。これはまた、何やら切実なメールだな。同じ清光としてどうだ?」

清「え〜、俺は……あ、いや、何回か一緒に寝てもらったことあるけど、でも俺は勝手に布団に入ったりしねーよ!そいつ甘やかしたり、なんか勘違いさせたりしたんじゃねーの?」

薬「男同士ってのは?」

清「んー、それはあんまり関係ない。結局刀って男社会にあったもんだし」

薬「まあな……」

清「薬研とこの加州清光は?」

薬「うちの本丸では大将の周りは短刀ばかりだな。例外は蛍丸ぐらいか。だから清光はあまり近づけないみたいだ」

清「それ多分違う意味でやばいやつだよ、大将がやばいやつ」

薬「そうか?いい大将だぜ」

清「お前にかかったらどんなやつでも『いい大将』になっちまう」

薬「で、このメールに何かアドバイスは?」

清「ん〜、誰か他のやつと寝たら?加州清光追い出せるようなやつ」

薬「それは解決になるのか……?ちょっと心配だが、大将の健闘を祈ってるぜ」



(中略)



薬「じゃあいくぞ」

清「よっしゃこい!」

薬「せーのっ」

 「「にーらめっこしーましょ、わーらうーとまーけよ、あっぷっぷ!」」

清「ブハァッwww」

薬「かーった勝ったァ」

清「それ蛍丸ッ、てか、wwwないwwwその顔はwww」

薬「なかなかだろう?」

清「ラジオだからってお前さwww駄目だろあの顔はwww」

薬「今週の『負けた方が変顔さらすにらめっこ』も俺っちの勝利!俺っちを負かせて変顔さらさせてやるって自信のある刀剣の挑戦、いつでも待ってるぜ」

清「くっそ〜!」

薬「ちなみに清光の変顔チェキは番組終了後にホームページに公開されるから楽しみにしててくれ」

清「あ〜!嫌だ〜!乗せられた〜!」

薬「さて最後は石切丸さんに聞いてきた、なんちゃって占いのコーナーだ。今日は血液型だな」

清「このコーナー当たるの?」

薬「石切丸はお遊びだから出任せだって言ってるぜ。でもメール見てると当たったって話はよくあるみたいだ」

清「ふーん」

薬「まあ実は石切丸じゃないときすらあるんだけどな。あ、今日は石切丸だぜ」

清「適当だな〜」

薬「正座や干支のときは抜粋になっちまうが、今日は血液型だからみんな読めそうだな。まずA型の大将!恋愛運急上昇だってよ。ラッキースポットは安土!そこで出会いがあんのかな?お次はB型の大将。刀装作るなら今!運気が高まってるから特上チャンスだってよ。でも出陣はいまいちらしいぜ、気をつけてな。それからO型の大将。うっかりミスに気をつけな。それさえなければ、全体的に問題ないってよ。ラッキー刀剣は石切丸。任せろって言ってたけど、これっていない本丸はどうすんだ?まあ代わりに俺っちで我慢してくれ。最後はAB型の大将。いつもとちょっと違うやり方を試してみれば?だとさ。新鮮な気持ちでいると新しいものを見つけやすいらしいぜ。試しに隊長を俺にしてみるなんてのはどうだ?柄まで通すぜ」

清「俺もおすすめだよ!」

薬「そんなわけで、俺っちのおしゃべりも終わりの時間だ」

清「あっという間なんだな」

薬「でももういい子は寝る時間だからな。ラジオを聞いてる間に大将たちもおやすみの用意はできただろ?楽しい時間はおしまいだ。今週の『薬研ニキの柄まで通さnight』、本日のゲストは」

清「加州清光!」

薬「お相手は薬研籐四郎でお送りしました。おやすみ大将、また明日」
2015'01.25.Sun
手にしたときからすでに新品とはほど遠かったその本は、一気に風化してしまったように思えた。

それは大学生の頃、憧れの人がただ憧れであった頃に手にしたものだった。かつて理解しきれないまま辞書と首っ引きで読んだその本を開く。古書店を巡り歩いて探し、無数の人の手に渡ったであろう貫禄のあるこの本のすべてを、未だわからずにいる。

あの人が好きだと言った本を開いて、そこに何を見ていたのか、うまく思い出せない。

「あ……」

ページの端に、散らばる小さな穴。知らぬ間に、何ページも紙魚に食われている。途端に言いようのない虚無感に襲われて、アルミンは本を閉じた。もう開かないようにと、深く奥にしまい込んだ。



「お疲れ様です」

帰りの電車で出会った顔にアルミンは少しうんざりした。最近知り合った大学生は、こちらが応える気がないのを知りながら、何かとちょっかいをかけてくる。

「……君、週末に遊ぶ友達もいないの?」

「今日は帰るように言われてるんで」

屈託のない笑みを向けてくるのはジャン・キルシュタイン。そのフルネームを知るより早く、アルミンは行きずりも同然の彼に抱かれた。誘ったのはアルミンだ。何も弁解する気はない。一度離れてしまったものがもうこの手に戻らないとわかり、近くのものに縋ったのだ。彼が悪いわけではないが勢いに任せた自分の行動を忘れてしまいたいのに、ジャンはアルミンを気に入ってしまったようである。最寄りの駅を知られているということが厄介だ。

とはいえ、ジャンは話しかける以上のことはしてこなかった。電車が一緒になれば声をかけてくるが、アルミンが持ってきた本を開けばそれきり黙る。

――その、妙に物わかりのいいところも、アルミンの神経を逆撫でするのだった。

アルミンにはとても好きな人がいた。きっとあれ以上の恋をしないだろう。あの人の前で、必死で物わかりのいい振りをしていた自分の滑稽な姿を思い出す。精一杯背伸びをして、理解もできない本を開いて。

席が空いたのでジャンを無視して座り、本棚から適当に引き抜いてきた文庫本を開く。不規則に揺れる電車の中で、集中できないまま文字を追った。通勤の電車の中ではずっと本を読んでいたが、最近では読みたいという気持ちよりもジャンの視線から逃げたいという気持ちの方が強い。

後ろめたいのだ。相手に嘘をつかれていたのをいいことに、そこにつけこんだのはアルミンだ。そのくせ踏み込まれそうになると逃げ出した。

電車が次の駅で止まり、アルミンの隣の人が立ち上がった。そうかと思えば気づいたジャンがすぐに座り、ねぇ、とアルミンに問いかける。

「今度飯でも行きません?」

「……君とつき合う気はないよ」

「アルミンさん、ハンジ・ゾエの本読んでましたよね」

電車の中で読む本は、いつもカバーをかけているわけではない。何を読んでいるのかを知られていても不思議はないが、あまり気持ちのいいものではなかった。もしくは以前彼と会ったときに自分が口にしていたのかもしれない。アルミンは本から顔を上げなかった。

「新刊出るの知ってます?」

「……知らない」

「もらったんだけどオレあの人の苦手なんですよね。いりません?まあそのうち本屋に並びますけど」

「……待つからいいよ」

「今回は主人公が老人なんですよ。エルヴィン・スミスの『杖をつく人』読みました?あれのパロディなんです。タイトルは『杖を折る人』。出版社違うんで名言はしてないみたいですけど、読めばわかるって。興味があるなら差し上げますけど」

「……そんなことしていいの?」

「信頼できる人ならいいって言われてるんで」

少しだけ首を動かしてジャンを見た。目が合うと見透かしているとでも言いたげにジャンが笑う。

ハンジ・ゾエの作風は独特で、決して洗練された文章ではない。しかし世界観は突飛で理不尽で衝撃的でありながら説得力があり、彼女にしか描くことができないだろう。ジャンが言うようにあれを人を選ぶもので、アルミンは好きだったが彼女のファンと出会ったことがなかった。

一方、エルヴィン・スミスは大衆的な作家であると言えるだろう。時に時勢を反映して現代を風刺し、時には異世界を描く、読者の幅も作風の幅も広い作家だ。パロディ元の本はアルミンの好きな本のひとつだった。日常に混じる表現しがたい違和感を描いたもので、ジャンルのとらえがたいものである。

――エルヴィン・スミス。それはかつてアルミンが憧れ、慕い、今もなお、愛しいと思う人である。大学時代の教授を慕っていると言えばいい思い出のようだが、実際はもっと肉感的で、ただれたものだった。体の関係はあった。しかしエルヴィンにとっては、それだけだった。彼が何も言わずに突然大学を辞めて姿を消し、数年後にエルヴィン・スミスの処女作が発表された。次々と発行される著作の中にエルヴィンを見つけることは簡単で、アルミンは縋るように読み続けた。それが彼であることは作品からはっきりとわかったが、何もすることはできなかったのだ。

今でも好きなのかと問われると、正直なところはわからない。執着だと言われたら頷く。変化を恐れているのだと言われたら頷く。エルヴィンに誘われたら、頷くだろう。ジャンに誘われたら――それはまだ、頷けない。

返事をしないまま最寄り駅について、アルミンは何ページも進まなかった本を閉じて電車を降りた。ドアが閉まる前に振り返ると、ジャンは小さく手を振っていた。



*



大人になればもっと自然にできると思っていたことのほとんどは、アルミンにとってはまだ難しい。

終電間際の駅に着いて、アルミンはつまらない酒の席でこわばっていた頬をようやくほぐした。駅のホームの売店はとっくにシャッターを下ろしていて、自動販売機で水を買う。柔らかいペットボトルを握って何度もべこりと鳴らした。

社会は疲れる。無駄が多いと感じる。同僚との恋愛話に興じるのも、上司の大声をかわすのも慣れた。慣れたけれど、こなすのはつらく、スマートで物静かな男を思い出させる。

エルヴィンは素敵な男だった。本心を見せてくれない以外には――否、見せてくれていると思っていた。どこか感じるミステリアスさを追求しなかったのは、それを察していたからかもしれない。

アルミンは子どもだった。背伸びでは大人に追いつけないほどに。

思い出にしてしまいたいのに、声も体温も、体が覚えているのだ。

「アルミンさん?」

振り返るとジャンが立っていた。大学生らしいラフな服装が無性に羨ましくなる。アルミンが学生の時は必死だった。エルヴィンの隣に立つにふさわしい女であるようにと、外見も振る舞いも、いつでも意識していた。

「珍しいですね、こんな時間に。お仕事……ですか?」

少し迷いを見せたのは、アルミンが酒気を帯びているからだろう。会社の飲み会は仕事といえば仕事だ。学生に言ってわかるだろうか、と思ってから自嘲する。いつの間にか、自分は随分大人ぶっている。時が止まったようなふりでいたけれど、時間は誰にも平等だった。

「……ホテル行く?」

半ば無意識に口にのぼった言葉でぎょっとしたのはアルミンよりもジャンだった。あからさまに目を泳がせたがすぐに平静を装ってアルミンに視線を戻す。

「……酔った勢いってやつですか?」

「そうかもね」

肩をすくめてジャンを見上げた。ジャンは少し考えたが、やがてアルミンの手を取った。そのまま手を引かれて改札に戻り、駅を出る。ジャンの足が向かうのは繁華街だ。足取りはゆっくりと、しかし会話もない。自分たちがどう見えるのかが気になった。

少し辺りの雰囲気が怪しくなった辺りでジャンは足を止めた。もう数百メートル先には派手な装飾の看板のホテルが並んでいるのに、ジャンは困ったようにアルミンを見て、ゆっくり手を離す。

「ごめん、やっぱ無理」

「え?」

「一瞬それでもいいかと思ったけど、こういうのは違う。あんたがどんな男が好きか考えて俺なりに振る舞ったけど、やっぱりできねぇよ」

ジャンの言葉をすぐには理解できなかった。アルミンが何も言わないのをジャンはどう解釈したのかはわからないが、彼はアルミンを見て、息を吸って胸を反らす。

「俺はあんたの彼氏面したいんだ。だから、こういうのは違う」

耳に慣れない言葉にぎょっとする。しかし恥じたように頭をかくジャンを見て、アルミンは思わず頬を緩めた。

きっとアルミンも、エルヴィンにそう伝えればよかったのだ。

こらえきれず笑い出したアルミンにジャンはむっとしたようだった。こんなにも表情豊かだとは知らなかった。

「……送るから帰りましょう」

不機嫌そうなその声が愛しく思えて、アルミンは黙って手を取った。

紙魚はもう、恋の味を知っている。悔しいけれど、おいしいのだ。
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