忍者ブログ

言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.18.Sat
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2015'02.17.Tue
ジャン・キルシュタイン様



先日の葬儀ではろくな手伝いもできずにすまなかった。キルシュタイン氏の親友でありながら、葬儀に遅れた私を許してほしい。しかし葬儀でのジャンの立派な姿はしかとこの目に焼きつけた。今日の手紙は、あの日君に伝えることのできなかったことについての懺悔の手紙だ。

キルシュタイン氏の治めていたこの地は、とても広大で豊かな土地だ。そしてこの大地の女神に育てられたキルシュタイン氏もまた、君の知るとおり器の大きな男だった。同時に頑固でもあった。息子である君の方が氏について詳しいと思うかい?それは同封したノートを見てから判断してほしい。

昔、そう、君の親友が亡くなった年、君はもうひとつ別れがあったことを覚えているだろう。忘れているはずがない。君は毎日馬にまたがり、教会へ行き、彼女の幸せを祈っているのだから。同封したノートは、君の父親のその時の日記だ。遺品の整理をしているときに、生真面目な彼がきちんとつけていた日記の一冊がなかったことに気づきはしなかったか?これは私がキルシュタイン氏から預かっていたものだ。あの年に起きた事件を記録せずにはられず、しかし君へ真実を伝えることのできなかった、父の言葉だ。

許してやってほしい。この日記は、彼なりの君への愛だった。







キルシュタイン氏の日記



今日は本当ならシガンシナからジャンの友人が来るはずだったが、昨日のうちに、体調を崩したと手紙が届き、予定が延期になった。暇を持て余した息子はしばらく屋敷の中でくすぶっていたが、やがて気持ちを切り替えたのか、使用人を捕まえて馬に乗りに行っていたようだ。というのも、私のところにはやはり友人のフロイデンベルクがきていたので、ジャンが屋敷を出ていたことも知らなかったのだ。

ジャンが慌ただしく屋敷に戻ってきたのは昼食の前だった。自分の馬に見知らぬ馬車を引かせていて、何事かと問う間もなく、ジャンはさっさと侍女にベッドを作らせて馬車からひとりの女性を抱き上げて私の前を横切っていった。だらりと垂れた手はぎょっとするほど青白く、死体ではないかと思ったことを記憶している。

馬車からはまた別の見知らぬ女性が降りてきた。細い金髪の、庇護欲を誘う女性で、私を見て頭を下げた。

話を聞くと、彼女たちは急ぐ旅の途中だという。その道中、馬を走らせていたジャンが勢いよく飛び出し、驚いた向こうの馬が暴れて馬車が倒れてしまったらしい。先ほど運び込んだのはそのときのショックで気を失ってしまった、彼女の妹だという。医師であるフロイデンベルクは急いで息子を追い、私は息子のしでかしたを慌てて詫びたが、彼女はそれよりも気にかかることがあるようだった。聞けば妹は元々病気がちで、この急ぐ旅に耐えられるかわからないのを、屋敷に頼れる人もいなかったので無理を押して連れてきていたのだという。

私は愁いを帯びた表情の彼女に、妹さんがよくなるまでうちに滞在してはどうかと申し出た。連れは御者がひとりいるだけのようで、彼は顔つきもいかめしく体格もがっしりしていたが、しかし3人きりの旅は病人を抱えていては大変だろうと思ったのだ。息子の失礼のお詫びわかねてそう言ったのだが、美しい姉は首を横に振った。旅は本当に急ぐのだという。

そのとき、妹さんが目を覚ましたとジャンが彼女を呼びにきた。ジャンを怒るのは後にして、彼女と共に客間に向かった。青白い顔の妹さんは気付けのブランデーのおかげかさっきよりは少しは顔色もましになり、ベッドで体を起こすこともできていた。都合よく医者がいたことを私は神に感謝した。きっとあのご婦人方の行いがいいのだろう。

姉は涙を浮かべて妹にすがり、ジャンが改めて謝った。私も続くが、彼女たちにとっての何よりの不幸は旅を続けられないことだった。少し悩んだ末に、姉の方は私たちを見て、妹を残して旅を続けたいから、ここで預かっていてくれないかと言った。わけあって身分は明かせないが、決して怪しいものではない、帰りに必ず迎えにきます、と涙ながらに告げる姉は美しく、また、まだ具合は万全ではないだろうに妹も頭を下げ、これ以上姉たちのたびを自分のこの忌々しい体のために遅らせることはできないから、と切実に頼んだ。見知らぬ地でひとりになるのはさぞ勇気のいることだろう。それでもそうしなければならないという彼女たちの真摯さ、また、罪悪感もあるのだろう、ジャンからもそうするようにと頼まれた。元より、父子ふたりの生活だ。女性がひとり増えると花が増えるだけである。私は快くそれを聞き入れた。

私が承諾するやいなや、よほど急いでいたと見え、姉は妹を抱きしめて頬にキスをしたなり、今から発つと言って部屋を出てしまった。あまりの急いた様子に逃げた馬の代わりはうちの馬屋から貸すことになり、長旅にも耐えうる愛馬との別れをジャンはやや渋る態度を見せたものの、責任感がわがままを許さなかったのか、すぐに彼を馬車ごと見送った。

そうして、今日から我が屋敷に家族が増えた。彼女の名は、アルミン・アルレルト。



*



アルミンはその病弱な体のせいで、なかなか朝から起きてくることができないようだった。侍女が何度か呼びに行ったが昼になりようやく居間へやってきて、体がなかなか言うことをきかず、いつもこうだから気にしないでくれとのことだった。朝から墓守か何かのように廊下をうろうろしていたジャンはようやく安心して椅子に座ってくれた。この辺りは農家ばかりで、若者は日中畑が忙しく、ジャンは年の近い友人というものがあまりいない。更に女性ともなればよけいに落ち着かないのだろう。アルミンはチョコレートを少し飲んだだけで、今日はまたベッドに戻ってしまった。

そのときのジャンの表情は、我が息子ながら情けないものだった。彼なりに新しい家族に領地を紹介するか、体調が悪いのなら朗読でもしようかといろいろ考えていたらしい。

昨日は泊まってくれたフロイデンベルクは一日アルミンの様子を見て、何か重大な病気ではなく、体が極端に弱いだけだと判断した。特に貧血がひどいのだと彼女はいい、無理をしないように、特にジャンには無理をさせないようにと言い聞かせて帰っていった。

アルミンは夕食のときには顔を出した。ジャンはそのときにもし明日体調が悪くなければ、馬で周りを案内すると約束を取り付けていた。シガンシナからの友人が来られなくなり時間を持て余しているのだろう。

アルミンをよく見ると、彼女の姉とは少しも似ていなかった。同じ金色の髪だがその色味はまた違った色をしていたように思う。姉の方はどこか目の覚めるような美しさがあったが、彼女は失礼ながらそこまでの魅力は備わっていないようだった。それでもジャンにとっては新鮮な友人になるだろう。

夜の祈りの挨拶を断られてしまったジャンが最近では見せない子どもらしさであった。
PR
Post your Comment
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
trackback
この記事のトラックバックURL:
[886] [885] [884] [883] [882] [881] [880] [879] [878] [877] [876
«  BackHOME : Next »
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新CM
[08/03 mkr]
[05/26 powerzero]
[05/08 ハル]
[01/14 powerzero]
[01/14 わか]
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
アクセス解析

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP

忍者ブログ[PR]