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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.14.Fri
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2014'04.19.Sat
「声出せ声ー!」

「うっせー!」

荒北がフェンスの外から叫ぶと、友人はすかさず叫び返した。荒北はげらげら笑いながらグラウンドを横目に、部室へと向かっていく。

甲高い音と共に、バッドに打たれた球が空を切った。グラウンドには声が溢れ、土を舞う。

未練はない。それでも、帰れるならば、帰るだろう。ロージンバッグのにおい、グローブの重さ、スパイクの痛み。喉が枯れるまで叫び、毒を吐く間もなく走る。

いいことなんて何ひとつなかった。戻りたいと思うのは、戻れないからだ。いつだって、やめてやると思いながら投げていた。

部室につくと、荒北を迎えたのは東堂だった。待ちかねたぞ、と芝居がかった調子で肩を抱かれ、すぐに払いのける。

「何だよ」

「荒北のジャージが届いたんでな、是非着てもらおうと思って」

「ゲッ」

荒北は体を引いて東堂を見た。彼の着ている自転車部のジャージによけいなものは一切ない。気合いを入れるためのベルトも、風を切ってはためく袖も、インナーさえも。ぴったりと体に沿い、風の抵抗をなくし、最大限に体を動かすために作られている。

自転車部に入った荒北が何よりも受け入れがたいと思っていたのがこのジャージだった。およそこれほど羞恥を覚える服は着たことがない。

「ほいっ、おめさんの」

新開が投げてよこした柔らかいそれを反射で受け取る。手の中でくたりとしたそれは、まるで皮のように思えた。

「何?着方がわからんか?よしよし着せてやろう」

「触んな!」

荒北のベルトに手をかけようとする東堂を突き飛ばし、次に絡んでこようとする新開の手からも逃げた。

荒北はしかめっ面でジャージを広げる。箱根学園の名が堂々と書かれたそれを着たくないと思うのは、デザインの話だけではなく、それを背負うことになるからだ。

ドアが開いて振り返ると、福富が立っている。東堂たちと同じジャージでまっすぐ背筋を伸ばした姿は様にはなっている。しかしだからといって着ることに対する抵抗は薄れない。

「来たか」

「福チャン本気で俺使う気かァ?素人だぜ」

「誰もが初めは素人だ。着替えて集合しろ」

簡単に言ってのけた福富はさっさと支度を済ませて出ていった。東堂たちも冷やかすように荒北の肩や背中を叩いていく。荒北を舌を打ち、ジャージを一瞥する。

これに袖を通したら、今度こそ決別だ。
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2014'04.19.Sat
今日から始まる新生活。と言っても初日は入学式で、どこかまだ非日常だ。

戦争とまで称される受験を通過し、晴れて大学生と言う身分になった。学生の本分は勉強であるとはいえ、四年制大学ではやはり勉強ばかりではない期待に胸を膨らませている学生も多いだろう。

入学式の会場は、スーツ姿もどこか馴染まない、校則から解放された少年少女たちで溢れている。

「げっ、エレン」

「げっ、ジャン」

その見事なハモりに、アルミンは一瞬それを聞き取れなかった。足を止めた隣の幼馴染を振り返ると、前を向いたまましかめっ面をしている、さっきまで何でもない話をしていたのにどうしたのかと彼の視線を追えば、その正面にも同様にしかめっ面をした男がいた。少々目つきの悪いところは幼馴染のエレンと似ている。

「うっわ、なんだよ、お前も受かってたのかよ」

「それはこっちのセリフだ。最後までぎりぎりアウトだったエレンがよく試験通ったな」

「昔から運はいいんだよ」

「へっ、卒業できるといいな!」

アルミンの知らない相手だったがエレンとは顔馴染であるようで、しかしぽんぽんと飛び出す言葉を聞くと友人と言っていいのかどうかは判断しかねた。アルミンが少し困って彼らの会話が終わるのを待っていると、エレンより先に相手の方がアルミンに気がつく。目が合って思わず背を正した。

「エレンの友達?」

「あ、うん。幼馴染」

「へえ」

「アルミン、こいつがジャン」

「ああ、塾同じだった……」

「ジャン学部どこだっけ」

「理工」

「アルミン、理工には近づくなよ。馬がうつる」

「誰が馬だ」

エレンが喧嘩っ早いのは、そのあけすけな物言いのせいでもある。アルミンははらはらしながらふたりのやり取りを見守るが、ジャンはエレンの扱いをもうすっかりわかっているようだった。

「えーと、アルミン?学部は?」

「法学」

「へえ、頭いいんだ。仲良くできたらいいな」

「あ」

「じゃあな」

ひらりと手を振って、ジャンはふたりから離れていく。他の友達の姿を見つけたらしい。

あまりにもあっさりと言われた言葉をしばらく受け止めかねて、アルミンはぱちぱちと瞬きをしてその背中を見つめる。

「アルミン、オレらも行こうぜ」

「う、うん」

――友達って、ああやって作るんだな。

新たな生活がどうなっていくのか、アルミンにはまだ予想がつかなかった。
2014'04.10.Thu
空が青いのがひどい皮肉に思えた。人の道理など預かり知らぬとばかりに日が昇り、空の闇は引いていく。明るくなれば巨人が動き出すのだと太陽を恨んだ者はどれほどいることだろう。それでも、人は太陽がなければ生きられない。

巨人もまた、――人であるなら、人のように理があるのだろうか。

「眩しい……」

窓の外の朝日に目を細め、ハンジはそのまま目を閉じた。光はまぶたを透かし、その内側に闇を作ることを許さない。

朝がきた。どんな悪夢の後にも朝がきて、しかし覚めてもなお悪夢は続く。もし質量があるのならとっくに自分の容量を越えているのかもしれないが、ひどく重たいそれは形も見せず、からかうかのようにハンジの肩にもたれていた。



「起こしたか」

「ううん、目が覚めただけ」

人の声に窓の下を見れば、ジャンとアルミンだ。彼らが調査兵団という道を選んだ理由もまだ知らない、と思い出す。いろいろなことがありすぎた。彼らが背を伸ばして立っていられるのが不思議であるほどに。

ずっと隣に座っていた仲間が、敵であった。それはハンジには計り知れない衝撃だ。同じ屋根の下で眠り、共に切磋琢磨してきた友人が、実は人類の敵であったなどと、誰が信じられようか。

何人か同期を思い浮かべる。すでにこの世にいない顔ばかりだ。死んだ者は――「どっち」であれ、今回は関係ない。しかし侵入を許すなら時期は――

「お?」

アルミンがジャンの手を取った。彼らが話す声はずっと小さくなって聞き取れない。握るともつかない指先同士を引っかけるような触れ方に、ハンジはまばたきを繰り返した。眼鏡を拭いてみたが、見間違いではなさそうだ。

「あ〜……」

堂々と、抱きしめさせてあげることができたらどんなにいいだろう。小さな後ろ頭からは何の感情も読みとれないが、不安だけはわかる。誰かの体温がひどく安心するものであるということもハンジは知っている。彼らより何年か長く生きた程度でわかることはそれだけで、彼らに言ってやれることは何も思い浮かばなかった。果たして自分の人生で得た中で有益なことがあっただろうか、と考え始めた思考を振り払う。ネガティブな思考はなんの得にもならない。

ノックの音に振り返る。

「分隊長」

「起きてるよ」

声を返すとモブリットが入ってきた。やらなければならないことは山積みだ。わかっているが、体が重くて仕方がない。悪夢がまとわりついている。

「おはようございます」

「おはよう。みんな早起きだな」

ハンジに近づいたモブリットは「みんな」を理解して、見てはいけないものを見た、と言いたげに体を引いた。その素直な反応に思わず笑う。

「やっぱりそう見えるよねえ」

「……少なくとも、私は友人にはしませんね」

「邪魔しないであげよう」

ハンジも窓から離れる。こんなに穏やかな朝に、無粋な真似はしたくない。

人の理と自然の理は違うのだ。例え我らがどれほど絶望していようとも、太陽は昇り、平等に朝を与える。

「モブリット、尻尾巻いて逃げ帰っても構わないよ。誰も止めない」

「分隊長もですよ」

「私はそういうわけにはいかないな。随分と、人の理を越えてきた」

「それは我々も同じことです。誰があなたを責めましょう」

「誰もがそうは言うまいよ」

「あなたはそれに耳を貸しますか?」

「……突然、大人になってしまった気分だ」

世界は静かで、新兵の声も聞こえない。そばに立つモブリットの気配だけが伝わってくる。

「モブリット」

「はい」

「手をつないでくれなか」

「え?」

「手を貸してくれ」

ハンジが手を差し出すとモブリットはとっさにその手を取った。しかしそれは同じ右手で、つなぐと言うよりは握手のような形になる。彼は間違えたことにすぐに気づいたが、ハンジはその手を握り返した。確かに血の巡る手は、あたたかく、それは焼きたてのパンよりも恋しく思えた。

「生きているのだから、できることをしなけりゃならないね」

「……はい」

泣き出しそうな、優しい声だ。

精一杯、今は目を見開き、見極める。悪夢から目覚める日が来たら、若い彼らを一緒に抱きしめられるように。
2014'03.19.Wed
ホームシック、とまではいかないにせよ、訓練兵になったばかりの兵士たちには大なり小なりそのような感情を覚えることがある。幸か不幸か、アルミンには元々家と呼べるほど大した住処もなく、会いたくなる家族といえばエレンとミカサで、ずっと一緒にいたのでそのような気持ちとは無縁だった。しかし体が大きかろうが、年が一番上だろうが、誰でもみんな少しはそんな気持ちになるらしい。それが少し、羨ましくもあった。それは帰る場所があるということだ。

夜、訓練兵たちの部屋では時折すすり泣くような声が聞こえる。それは大抵は頭からすっぽりと布団に囲まれて少しは小さくなるが、全てを殺しきれるものでもない。それでもそれは、見て見ぬふり、聞いて聞かぬふりをされていた。

だから、多分アルミンがしたことは暗黙の了解をある意味では破ったことになるのかもしれない。



アルミンはふと真夜中に目が覚めた。布団の中ですぐに再び目を閉じたが、誰かの泣く声に気がついた。そのつもりがなくても静かな夜、大きないびきの合間にもその泣き声は聞こえてくる。耳を澄ませば、位置から考えるとあれはコニーだろうか。

やがて大きく鼻をすする音がして、衣擦れの音がする。布団を引き上げたのかと思ったが逆のようで、ベッドを降りたようで足音がした。あれは窓の開く音だろうか。

アルミンはそっと目を開けた。月明かりの差し込む窓のそばで、コニーが外を見ている。その頬が濡れているのが見えて、アルミンはどうしたものか迷ったが、ベッドを降りて近づく。アルミンに気がついてコニーは慌てて頬を拭う。

「悪い、起こしたか」

「ううん。眠れないなら飲み物でも入れようか」

「いや、いい。寝るわ。悪いな」

「眠れそう?」

「寝る」

口を引き結んだ彼の横顔は、いつもの彼とは違って見える。兵士なのだから当然なのかもしれないが、果たしてどんな甘えも許されないのだろうか。

ベッドに戻ろうとするコニーを咄嗟に引き留めた。その頬にキスを落とす。日に焼けた肌はまだ柔らかさを残し、きっと自分も同じだろうが驚いた。しかしコニーはアルミン以上に驚いてこちらを見ている。

「あの、ごめん。寝られるようにおまじない」

「……母ちゃんみたいなことすんなよ」

顔をしかめた彼の目にはまた涙が浮かび、アルミンはそれ以上どう言ったものかわからず、彼をベッドまで導いた。

「おやすみ、コニー」

「おやすみアルミン」

日が上れば、またいつもの日常だ。せめて彼がいい夢を見ますようにと、アルミンはベッドの中で願いながら目を閉じた。
2014'03.19.Wed
「どうも初めましてアルミンです」

「は、初めまして、富松と申します」

「ええと……緊張しますね」

初対面のふたりはぎこちなく挨拶をして、それきりどうしたものか困って黙り込んでしまった。この部屋でしなければならないことはわかっているのだが、アルミンは相手に選ばれた彼を見て途方に暮れる。もちろん、誰が相手でも戸惑いはしただろう。どう見ても、子どもなのだ。尤もアルミンとて14歳、子どもと言われたら子どもなのだが、隣に座っている彼は間違いなく年下だ。

「あッ……あの、アルミンさん!」

「は、はい」

「口吸いをしたことがありますか!」

顔を真っ赤にした彼の勢いに戸惑うが、言葉を失っていると彼ははっとしたように頭を抱えた。何か早口でまくしたて始めた彼に慌てるが、勢いは止まりそうにない。

「何でおれがこんなことになってんだ全部おれが悪いからだよなああそうだよなオレがいつまでたっても子どもで先輩たちにちっともついて行けないしいつまでたっても迷惑をかけてしまってちいとも上達しなくてそんなんだからくっ、口吸いだって」

「あっちょっと待ってわかった!キスのことね!?」

「きす?」

「あー、えーと、口吸いっていうの?ええと、富松くんは、したことは?」

「なッ……ないです」

「えっと……今いくつ?」

「12です」

「あ〜……」

この年頃の2歳差は大きい。自分が大人だと思わないが、同行するには少し気が引けてしまう。

「アルミンさんは?」

「えっ、え〜っと……あ、あるよ」

「じゃあ教えてくださいッ」

「えっ」

「おれがこんなんだから先輩はきっと何もして下さらないんです!おれだって、お、おれだって、ひとりの男です……」

段々声が小さくなる。誰だかわからないが、彼の愛しい人は優しい人であるらしい。アルミンでもこの子が相手ならそうするだろう。負けん気は強いだろうがあまりにも初心であるように見える。

「ええと……あの、僕でいいのかな?」

「目をつぶってます!」

「あ、うん、そうなんだけど」

それはそれで少し考えるものがあるが、ストレートな言葉はただ必死なのだろう。今にも興奮で倒れんばかりの少年を前に、アルミンは頭をひねる。

「じゃ富松くん、目を閉じて」

「は、はいっ」

ぎゅっと強く目を閉じる姿は微笑ましくて、やはり2つ下でも子どもだとしか思えなかった。自分がこれぐらいの年には恋愛どころではなかったなぁ、と思いながら、富松の頬に唇を当てる。

アルミンが離れると、彼はぽかんと口を開けてアルミンを見ていた。

「おしまい」

「あの……」

「練習なんていらないよ。好きな人と、すればいい。あー……えーと、僕も、好きな人としかしたくない」

「……お慕いしてる方がいらっしゃるので?」

「あはは、お慕いなんてそんな、立派な感情じゃない」

「いえ、自分のことばかりで取り乱して、アルミンさんのことまで考えが及ばす、大変失礼なことを申し上げました」

ぴしりと富松は背を正した。おや、とアルミンも釣られて姿勢を直す。

「きっと、自分が未熟であるので先輩は何もして下さらないのだと思い知りました。まだ戦にも出たことのないようなおれが、先輩と肩を並べようなどととんだ思い上がりです」

「戦?」

「おれは忍者です。いずれは戦に出ます。……戦に出れば先輩からの便りがないのは当然とわかってはおりましたが、つい不安になりました。あの優秀な先輩に、何かがあるはずがありません」

ぎぃ、と木の軋む音がして、見ればドアが開いている。この部屋を出てもいいらしい。富松はそれに気づき、きちんと正座をしてアルミンに頭を下げた。

「アルミンさんも兵士であると伺っております。どうぞ、ご武運を」

「あ、ありがとう。――富松くんも」

武運を――と、アルミンは口にすることはできなかった。富松は深い礼の後、つむじ風のように部屋を飛び出していく。残されたアルミンはゆっくり立ち上がり、ドアに向かった。

アルミンが訓練兵になったのは、12歳のときだった。あのときに、自分はあれほどの覚悟をしていただろうか。誰かが死ぬなどと、思っていただろうか。

声が聞きたくなって、部屋を出てからアルミンは走り出した。
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