忍者ブログ

言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.18.Sat
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2014'04.19.Sat
「声出せ声ー!」

「うっせー!」

荒北がフェンスの外から叫ぶと、友人はすかさず叫び返した。荒北はげらげら笑いながらグラウンドを横目に、部室へと向かっていく。

甲高い音と共に、バッドに打たれた球が空を切った。グラウンドには声が溢れ、土を舞う。

未練はない。それでも、帰れるならば、帰るだろう。ロージンバッグのにおい、グローブの重さ、スパイクの痛み。喉が枯れるまで叫び、毒を吐く間もなく走る。

いいことなんて何ひとつなかった。戻りたいと思うのは、戻れないからだ。いつだって、やめてやると思いながら投げていた。

部室につくと、荒北を迎えたのは東堂だった。待ちかねたぞ、と芝居がかった調子で肩を抱かれ、すぐに払いのける。

「何だよ」

「荒北のジャージが届いたんでな、是非着てもらおうと思って」

「ゲッ」

荒北は体を引いて東堂を見た。彼の着ている自転車部のジャージによけいなものは一切ない。気合いを入れるためのベルトも、風を切ってはためく袖も、インナーさえも。ぴったりと体に沿い、風の抵抗をなくし、最大限に体を動かすために作られている。

自転車部に入った荒北が何よりも受け入れがたいと思っていたのがこのジャージだった。およそこれほど羞恥を覚える服は着たことがない。

「ほいっ、おめさんの」

新開が投げてよこした柔らかいそれを反射で受け取る。手の中でくたりとしたそれは、まるで皮のように思えた。

「何?着方がわからんか?よしよし着せてやろう」

「触んな!」

荒北のベルトに手をかけようとする東堂を突き飛ばし、次に絡んでこようとする新開の手からも逃げた。

荒北はしかめっ面でジャージを広げる。箱根学園の名が堂々と書かれたそれを着たくないと思うのは、デザインの話だけではなく、それを背負うことになるからだ。

ドアが開いて振り返ると、福富が立っている。東堂たちと同じジャージでまっすぐ背筋を伸ばした姿は様にはなっている。しかしだからといって着ることに対する抵抗は薄れない。

「来たか」

「福チャン本気で俺使う気かァ?素人だぜ」

「誰もが初めは素人だ。着替えて集合しろ」

簡単に言ってのけた福富はさっさと支度を済ませて出ていった。東堂たちも冷やかすように荒北の肩や背中を叩いていく。荒北を舌を打ち、ジャージを一瞥する。

これに袖を通したら、今度こそ決別だ。
PR
Post your Comment
Name:
Title:
Mail:
URL:
Color:
Comment:
pass: emoji:Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
trackback
この記事のトラックバックURL:
[858] [857] [856] [855] [854] [853] [852] [851] [850] [849] [848
«  BackHOME : Next »
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新CM
[08/03 mkr]
[05/26 powerzero]
[05/08 ハル]
[01/14 powerzero]
[01/14 わか]
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
アクセス解析

Powered by Ninja.blog * TemplateDesign by TMP

忍者ブログ[PR]