言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
四天ツアーの疲れを癒すために入ったサンマルクで萌えシチュエーションを見つけて斜め前のスタバガン見してしまいました。というわけで実際にサンマルクの斜め前にスタバ、という場所が難波にはありますのでわかる方は想像して読んでいただければいいかなあと思うのですがえへへ。
「すんません、つき合うてもろて」
「あら、久しぶりに光に会えて嬉しいわ。しかも光からの呼び出しなんてね」
「忙しないですか?」
「大丈夫よ」
シロップとミルクを落としたアイスティーをストローでくるくると混ぜながら、小春は笑って正面に座る財前を見た。勉強を教えてほしい、という珍しい頼みごとをふたつ返事で引き受けたのは、こちらとしてもそろそろ顔が見たくなっていたからだ。やっぱりイケメンとお茶するのは癒しやねえ、とからかうと、ハァそうすか、とつれない反応が返ってくるが、その態度も久しぶりで嬉しくなる。
待ち合わせに少し遅れたせいで、最近の暑さでバテ気味であったらしい財前は倒れるのではないかと思うほどぐったりしていたが、店に入って水を飲むと少し落ち着いたようだ。入った店の斜め前にある別のコーヒーショップと迷ったが、2階にソファー席のあるこちらの店にして正解だった。授業料に、と後輩におごってもらったチョコクロワッサンを見て、財前を見る。
春、大学へ進学してばたばたとしているうちに季節はあっという間に夏になった。かつてを振り返る余裕がなかったのは、やはり生活の変化故だろうか。残していった後輩は中学の時同様に、しっかりと部長役をこなしてくれているようで安心する。
「でも何でまた、急に勉強?」
天才肌のこの後輩はテニスだけではなく勉強の面でも優秀だ。それはともすれば嫌味なほどに、努力とは無縁なタイプである。少しの練習で10は学び、習得する。小春もいわゆる天才として扱われるが、興味に対する努力を怠らない。財前は何もせず上位とはいかないが、困るほどではなかったはずだ。テスト前に焦っている姿など見たことがない。実際高校受験のときなどは勉強している姿を見なかったし、理由がなければ進んで勉強などしないタイプだ。
「や、一応大学進学考えるとしんどくて。ちょっと周りと差ぁ出てきたから」
「あら、志望校どこなん?」
「謙也先輩とこ」
「失礼、愚問やったわ」
この子多分謙也にはそんなこと言うてへんのやろな、そう思って苦笑する。彼とつき合っている同級生は財前に対してかなり盲目的だが、小春にしてみればどちらも似たようなものだ。
「謙也とちゃんと会うてんの?」
「それはこっちが聞きたいとこですわ」
「ユウくんなら大忙しや。大学行きながら笑いの勉強とバイトやしな、アタシなんてほったらかしよ」
「取られまっせ」
「そしたらユウくんの愛がそこまでやったってことやな」
「えげつな~」
あんたに言われたないわ、よっぽど言ってやろうかと思ったが、クロワッサンにかぶりつく姿がかわいらしかったので許してやる。大学の1年目は自分たちがイメージしていたよりも忙しい。謙也もきっと思うように時間を作れていないのだろう。
「高校のときみたいに会いたくて呼び出したりしてへんの?」
「大学はちゃんと出てもらわな。同学年とか困りますやん、俺働く気ィないのに」
「……光ちゃん、結構いかつい人生設計立てとるやろ」
「先輩の同意の上やもん」
かわいこぶりやがった。財前も財前だが謙也も謙也だ。それで幸せならもう小春から言うことは何もない。何がわからんの、話を本題に戻すと、指先についたクロワッサンの粉を払ってテキストを広げた。
「とりあえず今度の期末、古典ヤバいんすわ」
「光ちゃん昔から古典やねぇ……。とりあえず暇があったら訳文読んどき、話の筋知っとったら楽やわ」
「でも実テ何が出るかわからんやないですか」
「とりあえず源氏と落窪は読んどったらええわ」
「え~、源氏ってめっちゃ長い……」
「光?」
ノートから顔を上げた財前が動きを止めた。その視線は小春ではなく、窓の外を見ている。小春も自分の背中側にある窓を振り返った。窓と言うより全面ガラスの壁と言えばいいのだろうか。商店街の人通りも見えるその店は、光の位置からでも真向かいのランジェリーショップが見えるだろう。光の視線はその隣のコーヒーショップへ向いている。
小春たちが入った店は窓側に机とひとりがけのソファーが並べられているが、そのコーヒーショップの2階は窓側の席をカウンタータイプに作ってあった。高いスツールが置かれ、外を向いて座るその席に、見覚えのあるひよこ頭がある。その隣に、巻き髪の女がいなければよかったのだが。あちゃあ、小春は思わず口にする。
「……あれ、何なんすかねえ」
「少なくとも浮気やないと思うけど」
時折振り返り後ろのソファー席に座る客とも話をしているから、ふたり連れで来たわけではないのだろう。見える限りではほぼ満席であるから、やむなくグループから別れた、といったところだろうか。しかしグループには男も混ざっているような様子で、油断して女を隣に座らせてしまった謙也が迂闊だというしかない。謙也にだって友達づきあいというものはあるだろう。しかし自分がかわいいなら、自分がどんな人物とつき合っているのか、もう少し肝に銘じておくべきだ。大学内でならまだしもここはミナミ、中学からの自分たちの遊び場なのだから、どこで誰が見ているかわからない。
「……勉強、する?」
「先にあっち片つけますわ」
「はい、どうぞ」
財前が携帯を取り出したのを見て、小春はクロワッサンに手を伸ばす。この後輩は平気で人を土下座させるから、そうなってもすぐ逃げられるようにしておかなければならない。先払いでよかった、と思いながら、迷わずメールを打つ財前を見る。送信できたのか、財前が携帯を閉じたので小春は振り返った。
窓越しに見える謙也はメールに気づき、ポケットから携帯を引き抜く。携帯のディスプレイを見た顔が喜び、しかし次の瞬間にはそのまま硬直した。隣の女がそれをのぞき込むが、その仕草がまた謙也の腕を取るように身を寄せるといった様子だったので小春は財前を見ないことにする。真っ青になった謙也はそわそわと辺りを見回し、商店街の人通りや店内に財前の姿を探している。
「……ちなみになんて送ったん?」
「“お幸せに”」
「……そう」
財前の姿を見つけられない謙也はついに携帯を開いた。机に置かれた財前の携帯が着信を告げる。携帯と謙也を見比べてじらしにじらし、遠目からでも謙也が泣きそうになっているのがわかる。早よ出たり、小春が言うと財前はにやにやしながらようやく携帯を持ち上げた。こんなんがそばにおったらユウジもあんだけ大人しいはずやな、と自分を振り返って小春は溜息をつく。
「もしもし?……え?そのまんまの意味ですやん。ぶっさいくな女やけどまあ俺以上の奴なんておらんししゃーないでしょ。……意味もわからんまま謝るな言うてるやろ」
携帯で話をしながら謙也がぺこぺこしている。財前のことを知っているのか、謙也の豹変に驚いている女に友人らしい男がしょうがない、とでもいうようなジェスチャーをした。
「窓の外見てみぃ。……上や上、斜め前」
顔を上げた謙也がこっちを見た。はっとした瞬間にはそこから姿を消す。携帯を閉じた財前が、出てきました?と聞いたので商店街を見下ろすと、コーヒーショップを飛び出しこっちの店に入ってくる謙也が見えた。小春が入ってきたで、と言い終わる頃には階段を駈け上がってきている。
「光!」
「……うっさい」
そばへ来るなりはばからず名前を呼ぶ謙也に嫌そうな顔をする財前は、自分が原因だとはみじんも思っていないだろう。それがある意味で財前の魅力ではあるのだが。席の間を縫って財前のそばへ来た謙也は窓から見えるコーヒーショップと財前を見比べて、叫ぶようにちゃうねんで!と声を上げた。
「ちゃうで!」
「何が?」
「ちゃうねん!よ、夜、飲み会言うたやん?それまでの時間潰しで、女5で男6!」
「今あそこにおんのは?」
「お、男4、女1……」
「で、なんで先輩があの不細工の面倒見とるん?」
「や、席の流れが」
「どうせ俺も見とらんし?ちょっとぐらいはええかな~って?」
「思ってへん!」
「俺が好きやと言いながらたまにはおっぱいもええな~とか思ってんちゃいます?」
「ないって!」
「ほんなら今日帰る?」
「えっ……」
「なんやめっちゃ寂しくなったから今日は一緒におってくれます?」
「え……今日は教授が一緒で……」
「ふうん……」
「断ってくるッ」
きびすを返した謙也が店を飛び出し、コーヒーショップへ戻った。そこまで見届けてから財前を見ると、満足げに笑っている。勝ち誇った笑みだ。
「あんた鬼か」
「え?何でですか?みんな天使やって言うてくれるのに」
「もうええわ。……古典は?」
「また今度教えて下さい」
「あんたはほんまに、こんなときしか笑わんな」
かわいく笑って見せた後輩に溜息をつく。これに騙されているわけではないから謙也はすごい。その謙也を振り返れば友人に手を合わせ、その友人は何ともいえない表情でこっちを見ている。あきれているのか引いているのか。窓側に座ったままだった女は財前を睨んでいる。世間一般的にはきれいな顔立ちなのだろうが、昔からかわいい子の多い女子校へ通っていた姉や友人を見ている小春から見ても大した女には見えなかった。ただし謙也が好きそうなタイプではある。
「あーあ、1年て長いっすねえ」
「ほんまやねぇ」
「謙也さん戻ってきたら飯行きません?」
「あんたらの間入るんいややし遠慮するわ」