言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'02.08.Wed
「積もるかしら」
「さあな」
すっかり慣れた竹谷の気配に、しのぶは振り返らずに問いかけた。主であるしのぶにぶっきらぼうな口を利く竹谷はいつも通りの忍び装束で、着込んだしのぶと比べると見た目に寒いほど薄着だ。隣に座る様子は平然としていても、その耳や指などは赤い。態度には出ていないが、体が冷えていることはひと目でわかる。
「ほれ、甘酒」
「ありがと」
しのぶが差し出されたおちょこを受け取ると、竹谷がそこに甘酒を注ぐ。ほわんと湯気が上がるのがいかにも温まりそうで、思わず頬を緩めた。
雪は音もなく降り積もる。ぼんやりと外を見ていた時間はそう長くないはずだが、見始めたときよりも景色はずいぶん白くなった。
生物が活動を鈍らせる冬がやってきた。先日山伏をしている三治郎が泣き言を言いに来ていたことを思い出す。夏も暑いだろうが、この季節も辛いだろう。風邪をひかなければいいが。
「孫兵は?」
「孫次郎と狼を連れて山へ芝刈りに」
「すずは?」
「首永様と餅を」
「ハチは?」
「しのぶのご機嫌伺いに」
「……寒いわ」
「ははっ、そりゃ結構。冬だからな」
しのぶは甘酒をすする。竹谷は甘酒すら口にしない。忍者に酒は厳禁らしいが、甘酒程度で酔う男にも思えなかった。特に無理強いしたことはない。しのぶが命じれば酒ぐらいは飲むだろうが、その行為は何にもならないだろう。
「春になる準備だ。雪が溶ければ山が起き出す」
「……こうも降ると、気が滅入るわ。溶けないんじゃないかと錯覚する」
「不変のものはないさ」
竹谷がこの城にやってきたのは、雪が溶けきった頃だった。まるで春を連れてきたかのように、満面の笑みで。出会った頃よりも無駄な肉が落ち、今ではすっかり子どもから大人へと変わっていた。城内の人間に慕われ、頼りにされている。
竹谷を雇って後悔したことはない。期待以上の働きをしてくれている。この城が大きな戦をせぬまま少しずつ勢力を広げているのは、間違いなく竹谷の働きあってのことだ。もしかしたら自分はこれからの世に必要な優秀な人材を、無駄に遊ばせているのかもしれない。
「炭を足そうか」
「……手を貸して」
「ん?」
「手」
言われるままに竹谷が手を差し出す。ぎゅっと握れば、それはあたたかい。冷えたしのぶの手に驚いた竹谷が、甘酒のかんを包むようにしのぶに持たせ、更に自身の手で覆った。じわりと指先が溶けていく。
「お前はすぐ冷えるな」
「どうにかしなさいよ」
「……なんと言われようと、この八左ヱ門でも冬はどうにもできません。せいぜい山の神様に、早く春を呼んでくれるよう祈るぐらいだ」
「私のために?」
「そうだな」
「あんたは私の言うことなら何でもどうにかしようとするのね」
「お前の無茶には慣れた」
くっくっと笑って肩を揺らす竹谷を見て、肩の力を抜く。ばかねぇ、思わずこぼした言葉も、竹谷は笑って受け止めた。
「お前の墓穴だって掘ってやるよ」
そう笑い飛ばすように、彼は人生の話をするのだ。
「さあな」
すっかり慣れた竹谷の気配に、しのぶは振り返らずに問いかけた。主であるしのぶにぶっきらぼうな口を利く竹谷はいつも通りの忍び装束で、着込んだしのぶと比べると見た目に寒いほど薄着だ。隣に座る様子は平然としていても、その耳や指などは赤い。態度には出ていないが、体が冷えていることはひと目でわかる。
「ほれ、甘酒」
「ありがと」
しのぶが差し出されたおちょこを受け取ると、竹谷がそこに甘酒を注ぐ。ほわんと湯気が上がるのがいかにも温まりそうで、思わず頬を緩めた。
雪は音もなく降り積もる。ぼんやりと外を見ていた時間はそう長くないはずだが、見始めたときよりも景色はずいぶん白くなった。
生物が活動を鈍らせる冬がやってきた。先日山伏をしている三治郎が泣き言を言いに来ていたことを思い出す。夏も暑いだろうが、この季節も辛いだろう。風邪をひかなければいいが。
「孫兵は?」
「孫次郎と狼を連れて山へ芝刈りに」
「すずは?」
「首永様と餅を」
「ハチは?」
「しのぶのご機嫌伺いに」
「……寒いわ」
「ははっ、そりゃ結構。冬だからな」
しのぶは甘酒をすする。竹谷は甘酒すら口にしない。忍者に酒は厳禁らしいが、甘酒程度で酔う男にも思えなかった。特に無理強いしたことはない。しのぶが命じれば酒ぐらいは飲むだろうが、その行為は何にもならないだろう。
「春になる準備だ。雪が溶ければ山が起き出す」
「……こうも降ると、気が滅入るわ。溶けないんじゃないかと錯覚する」
「不変のものはないさ」
竹谷がこの城にやってきたのは、雪が溶けきった頃だった。まるで春を連れてきたかのように、満面の笑みで。出会った頃よりも無駄な肉が落ち、今ではすっかり子どもから大人へと変わっていた。城内の人間に慕われ、頼りにされている。
竹谷を雇って後悔したことはない。期待以上の働きをしてくれている。この城が大きな戦をせぬまま少しずつ勢力を広げているのは、間違いなく竹谷の働きあってのことだ。もしかしたら自分はこれからの世に必要な優秀な人材を、無駄に遊ばせているのかもしれない。
「炭を足そうか」
「……手を貸して」
「ん?」
「手」
言われるままに竹谷が手を差し出す。ぎゅっと握れば、それはあたたかい。冷えたしのぶの手に驚いた竹谷が、甘酒のかんを包むようにしのぶに持たせ、更に自身の手で覆った。じわりと指先が溶けていく。
「お前はすぐ冷えるな」
「どうにかしなさいよ」
「……なんと言われようと、この八左ヱ門でも冬はどうにもできません。せいぜい山の神様に、早く春を呼んでくれるよう祈るぐらいだ」
「私のために?」
「そうだな」
「あんたは私の言うことなら何でもどうにかしようとするのね」
「お前の無茶には慣れた」
くっくっと笑って肩を揺らす竹谷を見て、肩の力を抜く。ばかねぇ、思わずこぼした言葉も、竹谷は笑って受け止めた。
「お前の墓穴だって掘ってやるよ」
そう笑い飛ばすように、彼は人生の話をするのだ。
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2012'01.29.Sun
「次屋先輩、委員会行きましょー」
「おー」
次屋が顔を上げると、三年ろ組の教室を覗いて時友がにこりと微笑んだ。どうも甘えん坊が治らず、委員会の前はいつもこうして迎えに来る。かわいいやつだよな、と誰かにそれを話したとき、妙な顔をされた。やはり奇異にうつるだろうか。
富松と左門に見送られ、次屋は時友のそばへ行く。ぎゅ、と熱い手が次屋のそれを掴み、元気よく引っ張られた。体は小さいがそこは体育委員、ちょっとした実技の授業があっても体力を持て余すほどだ。
今日も体育委員長は絶好調で、「いけいけどんどん!」と裏山を駆け抜けていく。
「次屋先輩は今日のランチどっちにしましたかー?」
「からあげ」
「いいなー。ぼく授業が伸びて、からあげ食べられなかったんですよねー」
右、左と軽快に足を動かしながら、次屋は時友の走りに着いていく。迷子防止に、と滝夜叉丸が次屋と時友を縄でつないでしまったので、着いていくしかないのだが。四郎兵衛すぐいなくなるよな、なんて次屋の言葉に、時友はえへへと笑っただけだったが、滝夜叉丸にはどつかれた。
「なー四郎兵衛、委員長たちどこ行った?」
「どこでしょーねー」
気がつくと走っているのはふたりだけになっている。時友は相変わらずにこにこしていた。またいつものように誰かが迷子になったのだ。
――ふと、木々のざわめく音に足を止める。それは時友も感じていたようで、一緒に周囲の気配を探った。野生動物のような、殺気立ったものではない。裏山であるから体育委員以外の忍たまがいても不思議はないのだが。
時友がはっと気づいて顔を上げる。
「……ぁぁぁぁああああ!!!」
悲鳴と共に山を転がり落ちてきたのは、二年の川西左近だった。方向を確認し、時友と声の方へ走る。勢いが止まらない川西を時友が止め、次屋がそれを支えた。ぐっと土を踏みしめて転倒は回避する。左近はすぐに顔を上げたが、服は乱れ、息も荒くそれどころではない。どうにか視線が定まってから、四郎兵衛を見て小さく礼を言った。
「左近どうしたの?」
「……いつもの不運だよ」
「ああ……。頭巾なくなってるよ」
「え、あっ、ほんとだ」
頭を撫でてそれに気づき、左近は振り返ったが見つかるはずもない。溜息をついて左近はがくりと頭を垂れる。ふとその首に目が行き、次屋はそこを指差した。
「川西、首んとこ赤くなってる」
「へ?」
「首。耳の下ぐらい」
次屋が言いきるより早く、左近はぱっとそこを手で覆う。じわりと頬が赤く染まった。あれ、こいつもしかして。
「左近どうしたの?痛いの?」
「いっ、いやっ!痛くない!大丈夫!」
「ほんとに?あ、学園まで送ろうか?」
「いい!大丈夫、ありがと!委員会中だろ?七松先輩上の方で見たよ」
「あ、ほんとに?まだ間に合うかも。次屋先輩、行きましょう」
「ああ、うん」
首から手を離さない左近をにやにやと見ていると、キッと鋭い眼で睨まれる。それを笑って、時友を引き寄せて彼の頭巾を取った。それを左近に渡してやる。
「次屋先輩?」
「いるだろ?」
「……左近、頭巾いる?」
「えっ!?あ……か、貸してもらっていい?」
「いいよー」
「ありがと、ちゃんと返すから」
次屋の手からそれを取り、しかしまだ睨むことは忘れない。時友と走りだし、左近の動揺を思い出して笑いがこみ上げる。
「変な左近ー。どうしたんだろ」
「ま、大したことじゃねぇよ」
「おー」
次屋が顔を上げると、三年ろ組の教室を覗いて時友がにこりと微笑んだ。どうも甘えん坊が治らず、委員会の前はいつもこうして迎えに来る。かわいいやつだよな、と誰かにそれを話したとき、妙な顔をされた。やはり奇異にうつるだろうか。
富松と左門に見送られ、次屋は時友のそばへ行く。ぎゅ、と熱い手が次屋のそれを掴み、元気よく引っ張られた。体は小さいがそこは体育委員、ちょっとした実技の授業があっても体力を持て余すほどだ。
今日も体育委員長は絶好調で、「いけいけどんどん!」と裏山を駆け抜けていく。
「次屋先輩は今日のランチどっちにしましたかー?」
「からあげ」
「いいなー。ぼく授業が伸びて、からあげ食べられなかったんですよねー」
右、左と軽快に足を動かしながら、次屋は時友の走りに着いていく。迷子防止に、と滝夜叉丸が次屋と時友を縄でつないでしまったので、着いていくしかないのだが。四郎兵衛すぐいなくなるよな、なんて次屋の言葉に、時友はえへへと笑っただけだったが、滝夜叉丸にはどつかれた。
「なー四郎兵衛、委員長たちどこ行った?」
「どこでしょーねー」
気がつくと走っているのはふたりだけになっている。時友は相変わらずにこにこしていた。またいつものように誰かが迷子になったのだ。
――ふと、木々のざわめく音に足を止める。それは時友も感じていたようで、一緒に周囲の気配を探った。野生動物のような、殺気立ったものではない。裏山であるから体育委員以外の忍たまがいても不思議はないのだが。
時友がはっと気づいて顔を上げる。
「……ぁぁぁぁああああ!!!」
悲鳴と共に山を転がり落ちてきたのは、二年の川西左近だった。方向を確認し、時友と声の方へ走る。勢いが止まらない川西を時友が止め、次屋がそれを支えた。ぐっと土を踏みしめて転倒は回避する。左近はすぐに顔を上げたが、服は乱れ、息も荒くそれどころではない。どうにか視線が定まってから、四郎兵衛を見て小さく礼を言った。
「左近どうしたの?」
「……いつもの不運だよ」
「ああ……。頭巾なくなってるよ」
「え、あっ、ほんとだ」
頭を撫でてそれに気づき、左近は振り返ったが見つかるはずもない。溜息をついて左近はがくりと頭を垂れる。ふとその首に目が行き、次屋はそこを指差した。
「川西、首んとこ赤くなってる」
「へ?」
「首。耳の下ぐらい」
次屋が言いきるより早く、左近はぱっとそこを手で覆う。じわりと頬が赤く染まった。あれ、こいつもしかして。
「左近どうしたの?痛いの?」
「いっ、いやっ!痛くない!大丈夫!」
「ほんとに?あ、学園まで送ろうか?」
「いい!大丈夫、ありがと!委員会中だろ?七松先輩上の方で見たよ」
「あ、ほんとに?まだ間に合うかも。次屋先輩、行きましょう」
「ああ、うん」
首から手を離さない左近をにやにやと見ていると、キッと鋭い眼で睨まれる。それを笑って、時友を引き寄せて彼の頭巾を取った。それを左近に渡してやる。
「次屋先輩?」
「いるだろ?」
「……左近、頭巾いる?」
「えっ!?あ……か、貸してもらっていい?」
「いいよー」
「ありがと、ちゃんと返すから」
次屋の手からそれを取り、しかしまだ睨むことは忘れない。時友と走りだし、左近の動揺を思い出して笑いがこみ上げる。
「変な左近ー。どうしたんだろ」
「ま、大したことじゃねぇよ」
2012'01.23.Mon
「いよっ!お、今日誰もいねーの?」
「……今何時だと思ってんスか。こっちは閉店してんスよ」
「ああ」
けらけら笑う小平太に、竹谷は苦笑して溜息をついた。
竹谷が友人と経営する立ち飲み屋は、ささやかながらコツコツとやってきたおかげか、人の口を伝わって少しずつ軌道に乗り始めた。若手ばかりでやっているせいか若い女性客もあり、たまに取材のようなものも来る。
今日も十分な売り上げで終わることができ、いつものようにじゃんけんで最後の片づけ当番を決めて店を閉めた。今日の当番は竹谷だ。調理台はキッチン担当がほぼ片づけているから、テーブルやごみなどを片づければもう終わる。
――まるでそのタイミングを見計らったかのようにやってきたこの人は、この立ち飲み屋の上の階にあるおしゃれなバーのスタッフだ。七松小平太。毎回竹谷が残っているのを見計らっているかのように、休憩中に下に降りてくる。
水回り以外のほとんどを手作りで間に合わせたこの店と違い、彼の勤めるバーは少々敷居が高い別世界だ。通う人も洗練されているのだからスタッフもさぞお高くとまっているのだろう、と思いきや、自分たちと年代もそう変わらない、どこにでもいる若者たちであった。――いや、どこにでもいる、は言い過ぎかもしれないが。
気を取り直して水を差し出せば、小平太はいいの?と笑う。どうせ帰る気はないのだろう。いたとしても休憩の間のわずか30分程度だ、手を動かしながらでも、話し相手はできる。
「何か飲みます?」
「鉢屋が何か新しいの持ってきてたろ」
「え〜……あれは黙って出すのは怖ェんで勘弁して下さい」
「ちょみっと!おちょこ一杯!」
「他人事だと思ってェ」
しかしこの人とて経営者の一人、これ以上無茶は言わないと知っているから、こっそりと隠してある酒を取り出した。この際ついでだ、と自分の分と2杯分を頂戴し、片方を小平太の前に置く。顔全体でへらっと笑い、小平太はおちょこを手に取った。
「おつかれー!」
「おつかれーっス」
ちょこんと杯を合わせたかと思うと、小平太は一気にそれをあおった。酒の持ち主が見たら相手も選ばずに怒りそうな飲み方だ。
「……なぁ竹谷、仕事どれぐらいかかる?」
「んー?ま、あとはごみ捨てぐらいっスね。小平太さんが戻るぐらいには帰れます」
「……私2時までなんだけどぉ」
「大変っすねー」
「……あー、うん……」
「?」
「竹谷くん」
「何ですか」
「好きです」
「……ハァ、ありがとうございます」
「……」
「……ん?」
「………………だよなー!」
「なんですか?」
「なんでもない……」
がくん、と肩を落とした小平太に、竹谷はこっそり溜息をつく。
――この人は、ほんとに鈍いよな。俺の演技にだまされるぐらいじゃ、
「……今何時だと思ってんスか。こっちは閉店してんスよ」
「ああ」
けらけら笑う小平太に、竹谷は苦笑して溜息をついた。
竹谷が友人と経営する立ち飲み屋は、ささやかながらコツコツとやってきたおかげか、人の口を伝わって少しずつ軌道に乗り始めた。若手ばかりでやっているせいか若い女性客もあり、たまに取材のようなものも来る。
今日も十分な売り上げで終わることができ、いつものようにじゃんけんで最後の片づけ当番を決めて店を閉めた。今日の当番は竹谷だ。調理台はキッチン担当がほぼ片づけているから、テーブルやごみなどを片づければもう終わる。
――まるでそのタイミングを見計らったかのようにやってきたこの人は、この立ち飲み屋の上の階にあるおしゃれなバーのスタッフだ。七松小平太。毎回竹谷が残っているのを見計らっているかのように、休憩中に下に降りてくる。
水回り以外のほとんどを手作りで間に合わせたこの店と違い、彼の勤めるバーは少々敷居が高い別世界だ。通う人も洗練されているのだからスタッフもさぞお高くとまっているのだろう、と思いきや、自分たちと年代もそう変わらない、どこにでもいる若者たちであった。――いや、どこにでもいる、は言い過ぎかもしれないが。
気を取り直して水を差し出せば、小平太はいいの?と笑う。どうせ帰る気はないのだろう。いたとしても休憩の間のわずか30分程度だ、手を動かしながらでも、話し相手はできる。
「何か飲みます?」
「鉢屋が何か新しいの持ってきてたろ」
「え〜……あれは黙って出すのは怖ェんで勘弁して下さい」
「ちょみっと!おちょこ一杯!」
「他人事だと思ってェ」
しかしこの人とて経営者の一人、これ以上無茶は言わないと知っているから、こっそりと隠してある酒を取り出した。この際ついでだ、と自分の分と2杯分を頂戴し、片方を小平太の前に置く。顔全体でへらっと笑い、小平太はおちょこを手に取った。
「おつかれー!」
「おつかれーっス」
ちょこんと杯を合わせたかと思うと、小平太は一気にそれをあおった。酒の持ち主が見たら相手も選ばずに怒りそうな飲み方だ。
「……なぁ竹谷、仕事どれぐらいかかる?」
「んー?ま、あとはごみ捨てぐらいっスね。小平太さんが戻るぐらいには帰れます」
「……私2時までなんだけどぉ」
「大変っすねー」
「……あー、うん……」
「?」
「竹谷くん」
「何ですか」
「好きです」
「……ハァ、ありがとうございます」
「……」
「……ん?」
「………………だよなー!」
「なんですか?」
「なんでもない……」
がくん、と肩を落とした小平太に、竹谷はこっそり溜息をつく。
――この人は、ほんとに鈍いよな。俺の演技にだまされるぐらいじゃ、
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