言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2015'06.16.Tue
ばたばたっ。
空から落ちる雨が傘を叩く。今日の雨は昨日より強く、地面に落ちたものが跳ね返るほどだった。雨は傘にとどまることなく流れ落ち、先ほど降り始めたばかりだというのに庭へ出た平野の足をあっという間に濡らす。
雨の音を聞きながら、平野はずっと鶯丸を見ていた。みんなの暮らす屋敷から少し離れた茶室の中で、鶯丸は、眠っていた。
眠っているように見えた。座ったまま少しも身動きを取らない背中しか、平野には見えていない。
雨は少しもやむ気配を見せなかった。ここのところ多い雨は庭のあじさいを鮮やかにし、それを喜ぶ刀剣もいた。あじさいは場所によって色を変え、主が土が違うのだといった。土は土だろうと誰かが言ったが、主は焼き物もそれぞれ土が違うだろうと言った。刀が作られるときに使う土も。ふるさとが違うと違うものになるのだ、と主は言った。
それは土のことだろうか、この身を打ったおとこの手だろうか。平野はもう、土も炎も覚えていない。人が赤子であって頃を覚えていないように。
鶯丸は動かない。平野は起こそうかと考えて、やっと、迎えにきたはずなのに自分の傘しか持っていないことに気がついた。
ばたばたっ。
屋根から落ちた滴がひときわ強く傘を叩く。ふっと鶯丸が動いた気配がしてどきりとした。音を探して鶯丸が振りかえる。
ふるさとが違っても、共にいられるのだ、となぜかこのとき思った。
「平野」
ああ、やはり寝ていたのだ、と思わせる声だった。起こしたことを謝ると、何、と軽く笑う。
「雨か。しばらく多いな」
「梅雨ですから」
「ああ……そうか」
静かに、しかし深々と鶯丸は息を吐いた。それから入っておいで、と平野を手招きする。慌てて首を振った。平野の足はここへ来るまでの間に汚れている。茶室へは上がれない。鶯丸はそうか、ととりわけ残念がるでもなく応え、では少し待つようにと平野に言った。その手は淀みなく動き、用意していた茶器で茶を入れる。茶室にいたので抹茶かと思いきや、ポットと急須だ。一杯分待てばいいのかと思っていると、鶯丸がずいと近づいてきた。平野の前に今しがた入れたばかりの茶が差し出される。
「えっ」
「もうしばらく付き合え」
慌てて例を言って、傘を肩にかけて手を伸ばした。知らぬ間に冷えていた指先は、茶であたたまった焼き物に触れるとじんと痺れるようだ。
鶯丸は元いたところに戻っていき、自分の分の茶も入れる。
ばたばたっ。
雨は世界を閉じ込めた。その中にあって
茶は雨にも負けず甘く香る。透き通る緑はもう過ぎようとする春にも似て、しかしこれから来る夏でもあった。
とてつもなく贅沢な、相合傘をしていることに気がついた。
空から落ちる雨が傘を叩く。今日の雨は昨日より強く、地面に落ちたものが跳ね返るほどだった。雨は傘にとどまることなく流れ落ち、先ほど降り始めたばかりだというのに庭へ出た平野の足をあっという間に濡らす。
雨の音を聞きながら、平野はずっと鶯丸を見ていた。みんなの暮らす屋敷から少し離れた茶室の中で、鶯丸は、眠っていた。
眠っているように見えた。座ったまま少しも身動きを取らない背中しか、平野には見えていない。
雨は少しもやむ気配を見せなかった。ここのところ多い雨は庭のあじさいを鮮やかにし、それを喜ぶ刀剣もいた。あじさいは場所によって色を変え、主が土が違うのだといった。土は土だろうと誰かが言ったが、主は焼き物もそれぞれ土が違うだろうと言った。刀が作られるときに使う土も。ふるさとが違うと違うものになるのだ、と主は言った。
それは土のことだろうか、この身を打ったおとこの手だろうか。平野はもう、土も炎も覚えていない。人が赤子であって頃を覚えていないように。
鶯丸は動かない。平野は起こそうかと考えて、やっと、迎えにきたはずなのに自分の傘しか持っていないことに気がついた。
ばたばたっ。
屋根から落ちた滴がひときわ強く傘を叩く。ふっと鶯丸が動いた気配がしてどきりとした。音を探して鶯丸が振りかえる。
ふるさとが違っても、共にいられるのだ、となぜかこのとき思った。
「平野」
ああ、やはり寝ていたのだ、と思わせる声だった。起こしたことを謝ると、何、と軽く笑う。
「雨か。しばらく多いな」
「梅雨ですから」
「ああ……そうか」
静かに、しかし深々と鶯丸は息を吐いた。それから入っておいで、と平野を手招きする。慌てて首を振った。平野の足はここへ来るまでの間に汚れている。茶室へは上がれない。鶯丸はそうか、ととりわけ残念がるでもなく応え、では少し待つようにと平野に言った。その手は淀みなく動き、用意していた茶器で茶を入れる。茶室にいたので抹茶かと思いきや、ポットと急須だ。一杯分待てばいいのかと思っていると、鶯丸がずいと近づいてきた。平野の前に今しがた入れたばかりの茶が差し出される。
「えっ」
「もうしばらく付き合え」
慌てて例を言って、傘を肩にかけて手を伸ばした。知らぬ間に冷えていた指先は、茶であたたまった焼き物に触れるとじんと痺れるようだ。
鶯丸は元いたところに戻っていき、自分の分の茶も入れる。
ばたばたっ。
雨は世界を閉じ込めた。その中にあって
茶は雨にも負けず甘く香る。透き通る緑はもう過ぎようとする春にも似て、しかしこれから来る夏でもあった。
とてつもなく贅沢な、相合傘をしていることに気がついた。
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