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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.21.Tue
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2015'06.09.Tue
鶯丸がこの本丸へやって来たのはずいぶん遅かったように思う。現在確認されている刀剣男士の中で一期一振を始めとする粟田口の刀がみんな集まっても、あまり人の前に現れることがないと言われる三日月宗近や小狐丸がやってきても、鶯丸はやってこなかった。この本丸の主は新しい刀にはあまり興味がなくて、それよりもそれまで関係を深めてきた刀剣たちを大切にしていた。もちろん、新しい仲間がないがしろにされるわけではない。一番新しくやってきた三日月も、これまでの仲間と同様に一から始まり、同じように経験を重ねて日々戦っている。

だから、鶯丸がやってきたときも、主はいつも通りだった。出陣していた舞台が連れて帰った鶯丸にいつも通りの挨拶をして、自ら我々の役目と本丸の案内をかってでた。

平野は長い間、鶯丸が来たと耳にはしたが、その姿を見ることがなかった。当時新しく敵の出現が確認された時代と場所が見つかり、そこは今までの戦場と違いひとの暮らす町中だった。その場所に詳しい新選組の刀たちや、町中で小回りの利く短刀たちが中心となってその洗浄を日々制している最中で、比較的早くからこの本丸へやってきた平野はときに隊長を勤めるほどには経験を重ねていたので、ほとんど出ずっぱりであった。

そうしながらも刀たちはみな本丸の中でも仕事かあった。馬の世話や畑仕事、手合わせも立派な仕事だった。それらの仕事も平野は嫌いではなく、無理をしない程度に、と言われながらきちんとこなしていた。

鶯丸に初めて、この本丸で姿を得た鶯丸に出会ったのは、共に馬小屋の仕事を任されたときだった。どう挨拶をしたものかと緊張して作業用の服に着替え、何もまとまらないまま馬小屋へ向かったが、結果として平野の緊張は無駄だった。

鶯丸は先にやってきて馬の世話を始めていて、平野に気がついてもとりわけ意識することもなく、先に始めている、と言ったきり、あとはひとりで仕事をしていた。

平野は己の緊張が無駄であったことを知ると、すうと胸が軽くなるのと同時に、ひどく冷たくなったのを感じた。

鶯丸は太刀である。太刀はみな大人の男の体つきをしている。短刀である平野はそれと比べるとずっと幼い少年の姿で、他の短刀たちほどではないと自分では思っているが、姿に合わせたように思考や態度が子どものそれと近かった。

だからだろうか。こんなにつまらない気持ちになるのは。

「平野藤四郎」は現在皇室御物として人の手で管理されている。そこには現在この本丸で肩を並べている「一期一振」と「鶴丸国永」があり、「鶯丸」もまた、そこにあった。

刀剣男士は付喪神だが、それは本来このような人形を成すものではない。現在のこの姿は敵と戦うために主に与えられたものだ。だから、知らないといえば知らない。しかし平野は、鶯丸の気配があの静かな場所にあったことを知っている。初めて見る鶯丸をひとめで鶯丸であると思ったのも、それが知っているものだったからだ。

一期一振も鶴丸国永も、この肉の体を得て、平野に会って、親しげに、懐かしげに接してくれた。姿を知らなかった兄弟刀も、全く縁もゆかりもなかった刀も。

期待を、したのは自分だ。しかし平野は腑に落ちないということ感情をうまく消化できずに、むっつりと仕事をこなした。どんな仕事もこんなに静かにしたことがないというぐらい黙りこんでいたのに、鶯丸は時おり馬に声をかけるだけだった。

人の体というものは、刀を振るうのに最適な形をしている。それは当然で、人が先にあったからだ。だから平野は己が戦うために得た肉体が人の形をしていることは当然であると思っている。しかし、この人の体というものは、感情や気分が体に直結するのだけが非常に不便だ。

平野は戦いで傷を負った。出会い頭に素早い動きの槍に身を守るための刀装の隙をついて貫かれ、そこからの戦いは無様でもあった。最後まで刀は離さなかったが、これが最期かもしれないとよぎるような負傷に、部隊は平野を囲んで撤退した。

手入れ部屋で目を覚ました平野は自分が折れなかったことに少なからず驚いたが、それ以上に鶯丸が平野のそばに控えていたことに驚いた。背を正して座り、平野ではないどこかを見ている。平野の傷は寝ている間に半ば癒えたのか、痛みこそあるが倒れるようなものでもない。平野が体を起こそうとしたことに鶯丸はすぐに気がついて、平野を止めて布団を直した。

なぜここに、という問いも口へのぼらなかった。鶯丸が何か話してくれることを期待したが、彼は平野の額や頬を撫でたり、布団から出た指先をつまんだりしたあと、また姿勢を正した。

「あの」

「面白いものだな」

鶯丸の言葉に平野はただ絶句した。短刀ごときと侮られただろうか。無様な姿をさらしたとしても、平野はまだ自分が肉体を持ったままであることを後悔する気持ちはない。折れてしまえば、そこで終わりだ。平野が顔をこわばらせたことには気がついたのか、鶯丸は小さく笑う。

「お前はあの倉庫にいても、馬小屋にいても、そうしていても、少しも変わらないな」

鶯丸が、平野を知っていたことにひどく安堵した。同時に情けなくもあった。

初めましてをやり直したい。歴史を変えたいという気持ちは、こんな些細なものから生まれるのかもしれなかった。
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