言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'10.15.Wed
最近めっきりご無沙汰だったが、そういえば全く女と縁のないタイプではなかった、などと、マルコは今しがた届いたメールを見て思い出していた。
自画自賛をするつもりではないが、人当たりは悪くなく、よほど馬が合わない限り誰とでもつき合えるタイプだと自負している。事実明確に負の感情を向けられたのは、初めに勤めた会社を辞めたときに上司に睨まれたときぐらいなもので、あのときも周囲からは同情的な目を向けられた。遊んできたつもりはないが女性関係もそれなりで、ここ数年は珍しく縁がないが、高校時代からあまりひとりでいたことがない。
それはさておき。
今はフリーライターをしているマルコが先日取材したカフェのオーナーから、忘れ物をしていないかという旨のメールが送られてきた。貼付されていた写真は、まさしく探していた携帯のストラップだ。気づいたときには紐だけが寂しく垂れており、どこかで落としたのだろうかとあきらめていたのだが、見つかってマルコは安心した。近いうちに取りに行かせてほしいと送ったメールの返事から、冒頭に至る。
『よかったらお食事に行きませんか?この間はお仕事の話しかできなかったので、いろいろお話聞きたいです』
マルコじゃなくともある程度の社会経験があれば誰だって、それが社交辞令かどうかぐらいはわかるだろう。
ショートカットのよく似合う、さっぱりした女性だった。手作り雑貨の販売もする小さなカフェをひとりで切り盛りしていて、マルコとは10歳ほど離れていただろうか。40も越えれば10ぐらいは大した差には思えなかった。気が合えば関係は続くだろうし、合わなければ一度で終わる。そんなことはそれなりに社会で過ごせば何度かあることだった。
店の場所はマルコが決めた。前から少し気になっていたレストランは雑誌でも見たことがあり、いつか行こうと思っていた店だ。金曜日の夜でも待ち時間なく入ることができたが、料理を待つ間に客は増えてきたようで、タイミングが良かっただけのようだ。
「そうだ、忘れないうちにお渡ししておきますね」
簡単に挨拶と天気の話などをした後に、彼女は先にマルコの忘れ物を取り出した。店で使っているものか、小さなクラフト紙の袋に入れられたそれを受け取る。封を開けて中身を取り出し、確認すると間違いなくマルコのものだ。
「ありがとうございます。お手数おかけしてすみません」
「いいえ、大したことでは。大切なものでしたか?」
「え?」
「顔が緩みました」
「……はは」
マルコは誤魔化すように口元に手を当てた。無意識にどんな表情をしたのかわからないが、やたらと恥ずかしい。
間もなく1品目が運ばれてきて、マルコはストラップを袋に戻して鞄にしまう。今度はなくさないようにしなければ。
気を取り直してスープを口にする。冷たいスープはさっぱりとして、好きな味だ、と思いじっくり味わう。
「それより、よく僕のだとわかりましたね」
「取材中に携帯取り出したとき、意外なストラップつけてるなと思って見てたんです」
「意外ですか?」
「んー、というか、ストラップをつけてることが意外で。他の持ち物は全部シンプルでしたから」
「女性はよく見てますね。確かに、もらいものです」
「あら、じゃあ見つけてよかった」
「諦めていたので嬉しかったです」
「いいえ、大したことじゃ。それに、お話したかったのは本当ですから」
「そうですねぇ、どちらも会社が合わずに辞めた同士ですし」
「ですねぇ」
料理はおいしく、話は弾む。久しぶりの感覚で、新鮮に思える時間だった。
*
次の日、マルコは友人のジャンからの連絡を受けて、待ち合わせ場所に立っていた。高校時代からの友人は家庭を持った今でもマルコと親しくつき合ってくれている。彼らの微笑ましい家族の姿を羨ましいと思うことはないことはないが、まるで親戚のようにつき合っているからか、自分には手が届かないと諦めてしまっているのか、自分でも定かではないがとにかくいい関係だった。仲のいい、理想的とも言える家族だろう。それでもマルコが自分で家族を持つことを考えられないのは何故なのか、立ち止まって考えれば結婚もあったのかもしれないが、もう過ぎた話だ。
昨日のことを思い出し、悪くない人だったな、と考える。それでも、また機会があれば食事でも、と口にした言葉は、マルコにとっては社交辞令以上のものにはならなかった。
昨日は楽しかったです、という旨のメールに何と返すか迷っているうちに、待ち合わせの相手がやってきた。マルコは寄りかかっていた車から体を離し、彼女に向かって手を挙げる。
「メアリー!」
きょろきょろと辺りをうかがっていた彼女はマルコに気づき、ぱっと明るい笑顔を見せて走り寄ってくる。中学校の制服を翻してマルコの胸に飛び込む、無邪気な少女を受け止めた。
「マルコ!お迎えありがとう」
「お姫様のためならいつだって」
「うふっ」
メアリーは上機嫌だが、帰宅中の中学生に視線を向けられ、マルコは彼女を離した。助手席のドアを開けてメアリーを車に乗せ、自分もすぐに運転席に回った。
「じゃあ行こうか」
「はぁい。マルコありがとう」
「おやすいご用です」
笑って答え、車を走らせる。
メアリーの祖母が旅先でぎっくり腰になり、迎えに行くことになったと慌てた様子のジャンから連絡が入ったのは昼過ぎだ。母親を大事にしている彼にとっては一大事だっただろう。平静を装ってはいるが言葉の端々に動揺が見え、そのためだろう、電話を代わったジャンの妻が、ふたりで迎えに行くことにしたと説明する。要するにマルコのところに電話があったのは、その間中学生の娘を預かってほしいという話だった。いつ帰れるのかはっきりわからない状態で、娘を溺愛するジャンはこの子にひとりで留守番をさせる選択肢は頭にないだろう。
「おばあちゃんには悪いけど、マルコのうちにお泊まり嬉しいな」
「久しぶりだもんね。中学生になったら忙しくなっちゃったから」
「また試合見に来てね」
「もちろん」
父親譲りの運動神経を発揮、メアリーはバスケ部で活躍中だ。小学生の頃は毎週のように遊んでいたが部活を始めてからはなかなか気軽に会えなくなっていた。泊まりになるかはわからないが着替えは念のため預かってきている。
ポケットで携帯が振動し、運転しながら取り出してちらりと画面を見るとジャンからの電話だった。メアリーと合流したら連絡する約束だったことを思い出して苦笑し、助手席のメアリーにそのまま横流しする。
「パパからだ。代わりに出てもらえる?」
「うん。……もしもし、パパ?」
怒鳴ったやろうと意気込んでいたに違いないジャンは、メアリーの声を聞いてどんなリアクションをしただろうか。メアリーは父親の愛の深さを知っているので、過剰な心配にも慣れている。怒鳴られたところで笑うだけで、ショックを受けるのはジャンだろう。
「うん、マルコが迎えにきてくれたよ!……え〜、いいよ〜急がなくて〜。マルコと一緒だから大丈夫!ねえ、おばあちゃんは?代わってよ」
電話口から聞こえる声が女性のものに変わった。明るく話し続けるメアリーと違い、しゅんと落ち込むジャンの姿を想像して笑ってしまう。まもなく話が終わったのか、メアリーが一度マルコを見たが運転中なのでそのまま電話を切ってもらった。
「ねえマルコ」
「何?どこか寄る?」
「ううん。あのね、ストラップどうしたの?」
「ああ、この間取れてしまって。大丈夫、家にはあるよ」
「よかった。じゃあつけ直してあげるね」
「ほんとに?ありがとう。でもまたなくすの嫌だから、もう家においておこうかな」
「え〜、なくなったらまた作るから使ってよ〜」
メアリーが膝に抱いたスクールバッグで、ビーズ細工のストラップが揺れる。それはマルコが家に残してきたものと色違いだ。手先の器用なメアリーの作ったおそろいのストラップを、一度でもなくしたことが悔やまれる。あのサプライズのプレゼントは本当に嬉しかったのだ。
「じゃあストラップを直してくれるメアリーにはお礼をしないとね」
「何?」
「おいしいレストラン見つけたんだ。メアリーの口に合うと思うから、一緒に行こうと思って」
「楽しみ!」
「まだ早いからお茶でもしにいく?」
「おうちがいいな。宿題あるし、マルコ教えてよ」
「えー、わかるかなぁ」
下見ができていてよかった、と思いながらマルコは車を走らせる。ひとりのときよりも安全運転を心がけているドライブは、短い距離でも楽しいものだった。
自画自賛をするつもりではないが、人当たりは悪くなく、よほど馬が合わない限り誰とでもつき合えるタイプだと自負している。事実明確に負の感情を向けられたのは、初めに勤めた会社を辞めたときに上司に睨まれたときぐらいなもので、あのときも周囲からは同情的な目を向けられた。遊んできたつもりはないが女性関係もそれなりで、ここ数年は珍しく縁がないが、高校時代からあまりひとりでいたことがない。
それはさておき。
今はフリーライターをしているマルコが先日取材したカフェのオーナーから、忘れ物をしていないかという旨のメールが送られてきた。貼付されていた写真は、まさしく探していた携帯のストラップだ。気づいたときには紐だけが寂しく垂れており、どこかで落としたのだろうかとあきらめていたのだが、見つかってマルコは安心した。近いうちに取りに行かせてほしいと送ったメールの返事から、冒頭に至る。
『よかったらお食事に行きませんか?この間はお仕事の話しかできなかったので、いろいろお話聞きたいです』
マルコじゃなくともある程度の社会経験があれば誰だって、それが社交辞令かどうかぐらいはわかるだろう。
ショートカットのよく似合う、さっぱりした女性だった。手作り雑貨の販売もする小さなカフェをひとりで切り盛りしていて、マルコとは10歳ほど離れていただろうか。40も越えれば10ぐらいは大した差には思えなかった。気が合えば関係は続くだろうし、合わなければ一度で終わる。そんなことはそれなりに社会で過ごせば何度かあることだった。
店の場所はマルコが決めた。前から少し気になっていたレストランは雑誌でも見たことがあり、いつか行こうと思っていた店だ。金曜日の夜でも待ち時間なく入ることができたが、料理を待つ間に客は増えてきたようで、タイミングが良かっただけのようだ。
「そうだ、忘れないうちにお渡ししておきますね」
簡単に挨拶と天気の話などをした後に、彼女は先にマルコの忘れ物を取り出した。店で使っているものか、小さなクラフト紙の袋に入れられたそれを受け取る。封を開けて中身を取り出し、確認すると間違いなくマルコのものだ。
「ありがとうございます。お手数おかけしてすみません」
「いいえ、大したことでは。大切なものでしたか?」
「え?」
「顔が緩みました」
「……はは」
マルコは誤魔化すように口元に手を当てた。無意識にどんな表情をしたのかわからないが、やたらと恥ずかしい。
間もなく1品目が運ばれてきて、マルコはストラップを袋に戻して鞄にしまう。今度はなくさないようにしなければ。
気を取り直してスープを口にする。冷たいスープはさっぱりとして、好きな味だ、と思いじっくり味わう。
「それより、よく僕のだとわかりましたね」
「取材中に携帯取り出したとき、意外なストラップつけてるなと思って見てたんです」
「意外ですか?」
「んー、というか、ストラップをつけてることが意外で。他の持ち物は全部シンプルでしたから」
「女性はよく見てますね。確かに、もらいものです」
「あら、じゃあ見つけてよかった」
「諦めていたので嬉しかったです」
「いいえ、大したことじゃ。それに、お話したかったのは本当ですから」
「そうですねぇ、どちらも会社が合わずに辞めた同士ですし」
「ですねぇ」
料理はおいしく、話は弾む。久しぶりの感覚で、新鮮に思える時間だった。
*
次の日、マルコは友人のジャンからの連絡を受けて、待ち合わせ場所に立っていた。高校時代からの友人は家庭を持った今でもマルコと親しくつき合ってくれている。彼らの微笑ましい家族の姿を羨ましいと思うことはないことはないが、まるで親戚のようにつき合っているからか、自分には手が届かないと諦めてしまっているのか、自分でも定かではないがとにかくいい関係だった。仲のいい、理想的とも言える家族だろう。それでもマルコが自分で家族を持つことを考えられないのは何故なのか、立ち止まって考えれば結婚もあったのかもしれないが、もう過ぎた話だ。
昨日のことを思い出し、悪くない人だったな、と考える。それでも、また機会があれば食事でも、と口にした言葉は、マルコにとっては社交辞令以上のものにはならなかった。
昨日は楽しかったです、という旨のメールに何と返すか迷っているうちに、待ち合わせの相手がやってきた。マルコは寄りかかっていた車から体を離し、彼女に向かって手を挙げる。
「メアリー!」
きょろきょろと辺りをうかがっていた彼女はマルコに気づき、ぱっと明るい笑顔を見せて走り寄ってくる。中学校の制服を翻してマルコの胸に飛び込む、無邪気な少女を受け止めた。
「マルコ!お迎えありがとう」
「お姫様のためならいつだって」
「うふっ」
メアリーは上機嫌だが、帰宅中の中学生に視線を向けられ、マルコは彼女を離した。助手席のドアを開けてメアリーを車に乗せ、自分もすぐに運転席に回った。
「じゃあ行こうか」
「はぁい。マルコありがとう」
「おやすいご用です」
笑って答え、車を走らせる。
メアリーの祖母が旅先でぎっくり腰になり、迎えに行くことになったと慌てた様子のジャンから連絡が入ったのは昼過ぎだ。母親を大事にしている彼にとっては一大事だっただろう。平静を装ってはいるが言葉の端々に動揺が見え、そのためだろう、電話を代わったジャンの妻が、ふたりで迎えに行くことにしたと説明する。要するにマルコのところに電話があったのは、その間中学生の娘を預かってほしいという話だった。いつ帰れるのかはっきりわからない状態で、娘を溺愛するジャンはこの子にひとりで留守番をさせる選択肢は頭にないだろう。
「おばあちゃんには悪いけど、マルコのうちにお泊まり嬉しいな」
「久しぶりだもんね。中学生になったら忙しくなっちゃったから」
「また試合見に来てね」
「もちろん」
父親譲りの運動神経を発揮、メアリーはバスケ部で活躍中だ。小学生の頃は毎週のように遊んでいたが部活を始めてからはなかなか気軽に会えなくなっていた。泊まりになるかはわからないが着替えは念のため預かってきている。
ポケットで携帯が振動し、運転しながら取り出してちらりと画面を見るとジャンからの電話だった。メアリーと合流したら連絡する約束だったことを思い出して苦笑し、助手席のメアリーにそのまま横流しする。
「パパからだ。代わりに出てもらえる?」
「うん。……もしもし、パパ?」
怒鳴ったやろうと意気込んでいたに違いないジャンは、メアリーの声を聞いてどんなリアクションをしただろうか。メアリーは父親の愛の深さを知っているので、過剰な心配にも慣れている。怒鳴られたところで笑うだけで、ショックを受けるのはジャンだろう。
「うん、マルコが迎えにきてくれたよ!……え〜、いいよ〜急がなくて〜。マルコと一緒だから大丈夫!ねえ、おばあちゃんは?代わってよ」
電話口から聞こえる声が女性のものに変わった。明るく話し続けるメアリーと違い、しゅんと落ち込むジャンの姿を想像して笑ってしまう。まもなく話が終わったのか、メアリーが一度マルコを見たが運転中なのでそのまま電話を切ってもらった。
「ねえマルコ」
「何?どこか寄る?」
「ううん。あのね、ストラップどうしたの?」
「ああ、この間取れてしまって。大丈夫、家にはあるよ」
「よかった。じゃあつけ直してあげるね」
「ほんとに?ありがとう。でもまたなくすの嫌だから、もう家においておこうかな」
「え〜、なくなったらまた作るから使ってよ〜」
メアリーが膝に抱いたスクールバッグで、ビーズ細工のストラップが揺れる。それはマルコが家に残してきたものと色違いだ。手先の器用なメアリーの作ったおそろいのストラップを、一度でもなくしたことが悔やまれる。あのサプライズのプレゼントは本当に嬉しかったのだ。
「じゃあストラップを直してくれるメアリーにはお礼をしないとね」
「何?」
「おいしいレストラン見つけたんだ。メアリーの口に合うと思うから、一緒に行こうと思って」
「楽しみ!」
「まだ早いからお茶でもしにいく?」
「おうちがいいな。宿題あるし、マルコ教えてよ」
「えー、わかるかなぁ」
下見ができていてよかった、と思いながらマルコは車を走らせる。ひとりのときよりも安全運転を心がけているドライブは、短い距離でも楽しいものだった。
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