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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.18.Sat
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2015'01.07.Wed
小春を駄目にしてしまいたい。

小春の後ろ姿を見送って、ユウジは机に上体を倒した。回転した世界で見る小春も学生服がよく似合っていて最高にかわいい。その視線の先にいる財前と謙也などかすんで見える。財前を腕の中に抱きこんで、謙也はその手を両手に挟んで擦っている。大方指先が冷たいとでもわがままを言ったのだろう。時に恋人と言うより祖父と孫かとつっこみたくなるほど謙也は財前に甘く、目に入れても痛くないどころか目潰しをされても怒るまい。いや怒るかもしれない、かわいい光が見られへんくなるやんか、みたいなそんな理由で。

「ほんで、練習試合もう月末なんで、できれば早めにデータほしいんですけど」

「任しといて〜、ちゃんと対策含めてまた渡すわ」

「すいませんね、受験生やのに」

「あらあら、光はアタシをなんやと思ってるの?」

「変態」

「おい」

鋭い低音を向けられても財前は少しも気にしない。そういえばとまた別の話題を引っ張り出して、小春を引き留める。謙也はその間話題に入るでもなくひたすら財前に奉仕を続けていて、ふたりの指紋はなくなってしまうのではないだろうかと思うほどだった。

財前は荷物ひとつ持つのも自分では満足にほとんどしない。三年が部活を引退してからも謙也は財前が部活を終えるまで図書館で勉強して待っていて、財前を自転車の後ろに乗せて帰る。朝も勿論謙也は迎えに行くので、財前は謙也とつき合い出してから自分の足で通学路を通ったことは数えるほどしかないだろう。来年からは学校が別れることになるが、そうなったらどうするのかと聞いたら謙也は何を聞かれたのかわからないと言った様子で首を傾げた。

「ちゅーわけで、白石先輩に伝言お願いします」

「ええけど、なんで謙也くんやなくてアタシなん?」

「何回か言ったんですけどこの人全然役に立てへんくて」

「教室帰ったら忘れんねんもんー、俺光と受験勉強でいっぱいやから白石とかどうでもええやん」

「俺のお願い事もきけへん悪い子なんですわ」

「ちゃんとしつけときー」

「えー、お仕置きされたい人どうやってしつけたらええんかわかりませんわ」

ちらりと財前が視線をあげれば、謙也はふいと視線を外した。不器用に口笛など吹いている。

あのふたりは、本当は違うらしい。

ユウジはずっと、財前が謙也をいいように使っているのだと思っていた。つき合っているのだから確かに年齢は関係なくなるかもしれないけれど、だからといって甘えると言うには度を超えていて、それは主従関係と思えるほどだ。しかし小春は違うのだと言う。あの関係を作ったのは謙也の方で、財前が謙也なしにいられないようにしているのだという。

それがそうなら、きっと恐ろしい。それは、謙也が手を離せば終わりだということだ。

財前の視線がこちらに向いた。目が合っても無視していたら小春が振り返って、ユウジに手を振る。それに頬を緩めると小春も笑った。

小春を駄目にしてしまいたい、か?

小春が自分なしでは立てなくなることを考えて、その背中を見る。姿勢よく伸びた背筋。財前にほどほどにしときや、と声をかける甘い音。

謙也が光を引っ張るようにして教室を離れていき、小春がユウジのところへ帰ってくる。自分たちがユウジから小春を奪ったくせに、謙也はきっと小春が光るとの時間を奪われたなどと考えているのだ、腹立たしい。

机に頬をつけたままのユウジの視線に合わせるように小春が覗き込んで、その笑みに頬が緩むのが抑えられない。

「結局一問も解いてないやないの」

「おう。ずっと小春見てたわ」

「もう、今日の目標まで遠いわぁ。この章終わらせるんやろ」

「おう」

小春が前の席に座り直してユウジも顔を上げる。開いたままの問題集はユウジの体重でしっかり開かれて主張してくるが、もはやユウジの目には映らない。

「卒業アルバムの部活の写真撮り、いつにするか蔵リンと相談しといて〜やって。もうそんな時期やねんなぁ」

「あっほんまか。めっちゃおもろい写真撮ってもらわんとなぁ」

「去年の先輩ら、絶対バスケ部に負けとるもんなぁ」

「去年のバスケ部ずるいでなぁ、顧問でドリブルはあかんで」

「うちらもオサムちゃんつこてなんかやろか」

笑う小春に見とれているとユウジの視線に気づき、もう、と指先が問題集を叩く。

「こっち見なさい」

「でも俺の目は小春が見たいって言うんやぁ」

「あーかーん」

ぺしんと額を叩かれてめろめろになる。ユウくんやっぱり電子辞書やめて紙の辞書にしぃ、なんて言葉にただうんうん頷いた。ちゃんと聞いとる?とユウジを見た小春の手を取って、ぐいと自分の胸に引き寄せた。

「小春!」

「何よ」

「好きや!」

一氏またやっとるんか、なんて言いながら、教室に担任が入ってくる。それも無視して小春を見つめていると、小春はぱちりと一度瞬きをして、また笑った。

小春に駄目にされたい。

もう駄目なのかもしれない。小春がいないと世界の色が違うのだ。
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