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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.20.Mon
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2014'06.16.Mon
マルコお誕生日おめでとう!マルコが素敵な1年を過ごせますように、メアリーから愛を込めて。



誕生日当日に届いていたポストカードは、少女らしい丸みを帯びた文字に似合わないシンプルなバースデーカード。花の女子高生である彼女がそれを選ぶ姿を想像してマルコは頬を緩めた。毎年あの手この手と趣向を凝らして誕生日を祝ってくれるのは親友の娘で、おかげでマルコは中年に足を踏み入れた今でも密かに誕生日を楽しみにしていた。

仕事に行く前に覗いた郵便受けに届いた祝いの言葉を手帳に挟み込み、マルコは今日も仕事へ出かけていった。いい年をして独り身のマルコだが、寂しいと思ったことはない。ここ数年は確かメアリーが来てくれて、一緒にディナーに行ったのだ。連絡があるかもしれないとスマートフォンには気にして目をやり、仕事も早く終わらせようと一日の計画を立てる。

本当は、今年は祝ってもらえないかもしれないと思っていた。マルコがメアリーから告白を受けたのは、まだ新生活も落ち着かない春のことだった。マルコが思っていたよりも遙かに大人だった少女はこちらの胸も苦しくなるような告白をしてくれた。それでも親子ほど年の離れた少女に、軽率な態度をとることはできない。きちんと彼女を振るのもまた、大人の役目だと思ったのだ。聡明な彼女は理解してくれたのか、少し気まずい期間もあったが今は以前と変わらず親しくしている。



――そう思っていたのは、マルコだけだったのかもしれない。

仕事が終わる頃になってもメアリーからの連絡は入らなかった。初めは彼女に何かあったのだろうかと心配になったが、帰りの電車に揺られながらはたと気がつく。

彼女には、もうわざわざマルコの誕生日に会いに来る理由がないのだ。

ちょうど止まった駅でマルコは電車を降りた。外はまだ明るいが、マルコはまっすぐ駅直結の百貨店へ足を向ける。ひとりの食事には慣れていたが、誕生日にひとりでディナーはなんとなく気恥ずかしい。奮発して総菜や酒でも買って帰ろう、と、賑やかな地下に降りていく。

誕生日をひとりで過ごすのは何年ぶりだろうか。柄にもなく寂しいなどと思ってしまう。腹周りが気になって最近控えていた揚げ物と、いいものが入っていると店員におすすめされた重めのワイン。ついでだからとチーズなどにも手を伸ばし、思っていたよりも重たい荷物を抱えて店を出る頃には辺りは暗くなっていた。

随分と、贅沢な生活をしていたのだと、今更気がついた。きっとマルコが誰かと家庭を築くことを望まなかったのは、満たされていたからだ。マルコを気にかけてくれる人がいて、無条件に愛を与えてくれた。どうして特別ではないなどと思えたのだろう。

これはいよいよ、流行の婚活とやらを検討するべきだろうか。

勿論本気でそんなことを考えたわけではない。マルコはもう腕の中のワインとチーズのことだけを考えて、浮かれたふりでマンションのエントランスを駈け上がる。

と、ガラスの自動ドアの前で立ち尽くしている少女を見つけて足を止めた。マルコが考えるより早く、足音で気づいた少女が振り返る。意志の強い瞳がマルコを射抜く。

「……メアリー」

「あっ……あの、その、たまたま……じゃなくて……びっくり……ええと、違うの」

困ったように視線をさまよわせる彼女は、もうとっくに終わっていただろうに学校帰りの制服姿だ。夏服は初めて目にする。まぶしい白い二の腕に思わず目を細めた。

「マルコ?」

「ああ……びっくりしただけ。カードありがとう」

「今日届いた?」

「うん、届いたよ」

「よかった」

メアリーは頬を綻ばせた。生まれたときからメアリーを知っているが、彼女の笑顔は変わらない。

「来るなら連絡してくれたらよかったのに。学校忙しかった?」

「ううん、あの――違うんだけど」

いつもははきはきとした彼女らしからぬ淀みが気になる。名前を呼べばうつむいてしまって、何か悪いことをしただろうかと焦った。

「あの……あのね、マルコ、お誕生日おめでとう」

「ありがとう。もうめでたい年じゃないけどね」

「ううん、私来年だって、10年後だって……」

メアリーは口を閉じた。困ったようにマルコを見上げ、首を傾げる。

「あのね、おめでとうって、直接言いたかっただけなの。……あんまり、出しゃばらないようにしたかったんだけど、何でもない日にできなかったな」

最後はひとり言のようにつぶやいて、メアリーは制服の裾を引っ張った。お嬢様学校などと囁かれる私立の女子校のセーラー服はマルコが思春期に憧れたものと変わらない。メアリーによく似合っている。

どんな思いで、彼女は今日ここまできたのだろう。

「じゃあ、帰るね」

「えっ」

「パパに何も言ってないから、早く帰らないと怒られちゃう」

「おっ、送る!ちょっと待ってて」

「いいよ、子どもじゃないもん」

「子どもじゃないから、だよ」

「……うん」

また困らせたようだが、マルコは気持ちが焦るばかりで何もフォローできなかった。メアリーをエントランスに残し、急いで車のキーを取りに行く。もどかしく鍵を開けて部屋に飛び込み、マルコはしゃがみ込んで顔を覆った。

本当はもう、気づいている。

――彼女をただの、友人の娘だと思っていない。

深く溜息をつき、重い体を持ち上げる。

願うのは、彼女の幸せ。いつか彼女が経験する本当の恋を、応援しようと誓うのだ。
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