言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'06.28.Sat
額に汗が浮いている。冷や汗に近いそれに隣のミカサが気づかないことを願いながら、ジャンはこっそり汗を拭った。
ミカサの視線の先にはエレンがいた。ジャンがエレンを気に食わないと思う一因は、あの男がミカサの視線を気にも留めないからだ。家族のようなもの、と彼らは言うが、ジャンからみればそれは家族に向けるものではない。否、確かに母親が息子に向けるような、どこか懐かしさを感じる色を含んでいることもあるのだ。しかしそれだけではない。恋ではない。それはもっと、崇拝にさえ近いものだ。
ミカサの視線に気づかず、エレンはアニに教えてもらった格闘術でライナーと組み合っている。小柄なアニは大柄のライナーをころころと転がしてしまうが、エレンはまだ体格差には勝てないのか、代わりにライナーにころころと転がされている。いつもなら怒り出しそうなミカサだが、今回はただエレンが理不尽に攻められているのではないとわかるからか、黙ってそれを見つめていた。少しでもライナーが不振な素振りを見せたら猫のように飛びかかるだろう。それだけ集中してライナーを見ているミカサが、隣にジャンがいることをまったく意識していないことは明白だ。
――一目惚れだった。
そう一言で言えばひどくあっさりしたものだが、今は切られてしまったミカサの艶やかな黒髪に見とれたあのときの胸の高鳴りを、まだ忘れていない。
我ながら不毛な思いを抱いている自覚はある。もうミカサがエレンから離れることはないだろうと、どこかそんな諦めにも似た確信があった。
ならばさっさと忘れてしまえばいいのに、と自分に呆れる。隣に立つだけで緊張して、言葉も出なくなって、……なんと不毛な恋だろう。
「……あいつ、何回やられる気だよ」
やっと出てきたのは嘲笑を含むそんな言葉だ。ミカサの気を引けるはずもないのに。情けなさに頭を抱えたくなる。
しかしミカサはこちらに視線を降った。ここらで見ない漆黒の瞳は濡れて、きっとジャンではなくてもどきりとするだろう。
「私はジャンが羨ましい」
低く、甘い。名を呼ばれたことに戸惑って理解が遅れる。
「……は?」
「男の子は羨ましい。私はいさかいを止めることはできるけれど、興奮を共有することはできないから」
ミカサはすぐに視線をエレンに戻してしまった。
少しだけ、欲が出る。彼女が自分を認識していることに浮かれてしまう。
「どういうことだ?」
「……昔から、ずっと。私はエレンとアルミンのようにはなれない」
「あ〜……あの冒険の話のことか?」
ミカサが小さく頷いた。まともなコミュニケーションにやや声がうわずる。
「あれは、あいつらだけだろ。オレだって何がおもしろいのかわかんねえよ」
「そう?」
「ああ」
「……エレンとアルミンは、最近は少なくなったけれど、ずっと同じ話をしていた。私はずっとそれを聞いていた」
「へぇ。あいつら、もう少し気を使えってんだ」
「私は……やっぱり羨ましかったのだと思う。同じ気持ちにはなれないし、はっきり言うと興味もない。だけど、それを共有できなかった」
「あ〜……そうだな……うちの母親が言うにはだな、女はリアリストで、男はロマンチストなんだって。女は生まれた子どもを育てなきゃなんねぇから、夢ばかりみてらんねぇんだと」
ミカサがジャンを見て、ぱちりと瞬きをした。薄い瞼の裏に隠れた漆黒はすぐにジャンを見据える。こんなに美しい黒を他に知らない。
「だから……別に、ミカサが羨ましがるようなことでもなんでもないぜ。あいつらが子どもだってだけだ」
ミカサはもう一度瞬きをして、やはり視線をエレンに戻した。つられてジャンもそちらを見ると、疲れきったのか、エレンは倒れたまま起き上がらずに何かわめいている。
「男なら――ジャンならわかる?」
ぽつりとこぼす小さな声でさえ、ひとりの男を惑わせていることを、彼女は知らない。彼女は見せかけのリアリストだ。
「わかんねえよ。あんな現実を見てない馬鹿にはなれねぇ」
「そう……」
私と同じね。
そのたった一言がどれほどの力を持つのか、彼女はやはり知らないのだ。
ミカサの視線の先にはエレンがいた。ジャンがエレンを気に食わないと思う一因は、あの男がミカサの視線を気にも留めないからだ。家族のようなもの、と彼らは言うが、ジャンからみればそれは家族に向けるものではない。否、確かに母親が息子に向けるような、どこか懐かしさを感じる色を含んでいることもあるのだ。しかしそれだけではない。恋ではない。それはもっと、崇拝にさえ近いものだ。
ミカサの視線に気づかず、エレンはアニに教えてもらった格闘術でライナーと組み合っている。小柄なアニは大柄のライナーをころころと転がしてしまうが、エレンはまだ体格差には勝てないのか、代わりにライナーにころころと転がされている。いつもなら怒り出しそうなミカサだが、今回はただエレンが理不尽に攻められているのではないとわかるからか、黙ってそれを見つめていた。少しでもライナーが不振な素振りを見せたら猫のように飛びかかるだろう。それだけ集中してライナーを見ているミカサが、隣にジャンがいることをまったく意識していないことは明白だ。
――一目惚れだった。
そう一言で言えばひどくあっさりしたものだが、今は切られてしまったミカサの艶やかな黒髪に見とれたあのときの胸の高鳴りを、まだ忘れていない。
我ながら不毛な思いを抱いている自覚はある。もうミカサがエレンから離れることはないだろうと、どこかそんな諦めにも似た確信があった。
ならばさっさと忘れてしまえばいいのに、と自分に呆れる。隣に立つだけで緊張して、言葉も出なくなって、……なんと不毛な恋だろう。
「……あいつ、何回やられる気だよ」
やっと出てきたのは嘲笑を含むそんな言葉だ。ミカサの気を引けるはずもないのに。情けなさに頭を抱えたくなる。
しかしミカサはこちらに視線を降った。ここらで見ない漆黒の瞳は濡れて、きっとジャンではなくてもどきりとするだろう。
「私はジャンが羨ましい」
低く、甘い。名を呼ばれたことに戸惑って理解が遅れる。
「……は?」
「男の子は羨ましい。私はいさかいを止めることはできるけれど、興奮を共有することはできないから」
ミカサはすぐに視線をエレンに戻してしまった。
少しだけ、欲が出る。彼女が自分を認識していることに浮かれてしまう。
「どういうことだ?」
「……昔から、ずっと。私はエレンとアルミンのようにはなれない」
「あ〜……あの冒険の話のことか?」
ミカサが小さく頷いた。まともなコミュニケーションにやや声がうわずる。
「あれは、あいつらだけだろ。オレだって何がおもしろいのかわかんねえよ」
「そう?」
「ああ」
「……エレンとアルミンは、最近は少なくなったけれど、ずっと同じ話をしていた。私はずっとそれを聞いていた」
「へぇ。あいつら、もう少し気を使えってんだ」
「私は……やっぱり羨ましかったのだと思う。同じ気持ちにはなれないし、はっきり言うと興味もない。だけど、それを共有できなかった」
「あ〜……そうだな……うちの母親が言うにはだな、女はリアリストで、男はロマンチストなんだって。女は生まれた子どもを育てなきゃなんねぇから、夢ばかりみてらんねぇんだと」
ミカサがジャンを見て、ぱちりと瞬きをした。薄い瞼の裏に隠れた漆黒はすぐにジャンを見据える。こんなに美しい黒を他に知らない。
「だから……別に、ミカサが羨ましがるようなことでもなんでもないぜ。あいつらが子どもだってだけだ」
ミカサはもう一度瞬きをして、やはり視線をエレンに戻した。つられてジャンもそちらを見ると、疲れきったのか、エレンは倒れたまま起き上がらずに何かわめいている。
「男なら――ジャンならわかる?」
ぽつりとこぼす小さな声でさえ、ひとりの男を惑わせていることを、彼女は知らない。彼女は見せかけのリアリストだ。
「わかんねえよ。あんな現実を見てない馬鹿にはなれねぇ」
「そう……」
私と同じね。
そのたった一言がどれほどの力を持つのか、彼女はやはり知らないのだ。
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