言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'11.18.Mon
ふ、と目を覚ますとアルミンは知らない場所にいた。じめじめとした、光のない場所。窓はない。部屋の隅にあるろうそくが唯一の光源だった。アルミンは柔らかいひとり掛けのソファーに座らされていたが、身動きをしようにも後ろ手に縛られ、足首もソファーの足に縛りつけられている。ずっと同じ体勢でいたのか、立体起動装置のベルトの留め具の辺りが痛い。
アルミンは必死で状況を整理する。ろうそくの光は頼りなく、部屋の中を把握することは難しい。とはいえ家具のようなものは見当たらず、何の変哲もない木の壁と床があるだけに見えた。物音はしない。正面にドアがあるのがわかるが、鍵がかかっているかどうかまではわからなかった。
どうしてこうなったのだろう。アルミンは深く息を吸った。幸い口はふさがれておらず、いざとなれば助けを呼ぶこともできるだろう。
今日の訓練はすべて終了していた。解散後、各自立体起動装置を外して所定の場所に片づける。立体起動装置は決して安価なものではなく、それぞれに支給されているとはいえ、訓練生であるアルミンたちは許可がなければ触れることができない。片づけた後、部屋に戻って着替えを――否、その前にアルミンはひとり離れ、座学の教官のところに向かった。質問があって聞きにいき、教官も面倒がらずに答えてくれたので部屋に戻るのはみんなよりも遅くなった。
――その帰りだ。背後に誰かの気配を感じたと思った瞬間には羽交い締めにされ、何か薬をかがされた、すうと鼻を通るそれに意識を吸い取られるように、アルミンは気を失った。
これは訓練の一部なのだろうか。しかしこんな、訓練外の闇討ちは聞いたことがない。
どうにか抜け出せないだろうかと手首を動かしてみるが、丈夫な縄で縛られているようで緩みもしなかった。
――コツ、
かすかに耳に届いたのは足音だ。緊張で体がこわばり、息が乱れる。足音は規則正しく、かたい靴底で木の床を叩いて近づいていた。教官なのか、訓練兵か、はたまた部外者か――足音が止まる。アルミンはじっとドアを見た。キィ、と小さな音を立ててドアノブがゆっくり回った。たっぷりと時間をかけてドアが押し開けられる。時間がかかるほどにアルミンの緊張は高まり、胸を打つ音が大きくなった。
ドアの向こうから現れたのは、見知らぬ男だった。とはいえ、その顔のほとんどを仮面で覆っているので、はっきりと知らないとは言い切れない。まるで貴族のような出で立ちで、仮面に隠れていない口元は月のように弧を描いた。
「起きてしまったね」
声は知らない声だ。コツ、コツ、とゆっくりアルミンに近づいてくる。
「……誰だ。僕をここに連れてきたのはお前か?」
「威勢のいい子だ。嫌いではない」
男はアルミンの正面で足を止めた。ふあん、と甘い匂いが漂う。不安とそれに伴う緊張で、アルミンは叫ぶように声を荒げた。
「その手に持ったパンケーキで僕をどうするつもりなの!?」
男が手にした皿には、まだ湯気を立てるパンケーキが乗せられていた。あつあつのパンケーキの上でバターが溶ける匂いがアルミンの鼻孔をくすぐる。
「おいしそうだろう?」
「……」
アルミンは口を閉じた。じわりと唾液が溢れてきた。それを一度目にするともう視線が外せなくなり、アルミンはじっと皿の上のパンケーキを見つめた。それに気づいた男はアルミンの鼻先についと皿を寄せたかと思えば、すぐにそれを引き寄せてしまう。残る匂いに誘われて顔を突き出してしまい、男に笑われた。恥ずかしくなって体を戻すが、やはりパンケーキから目が離せない。
きつね色に焼かれた表面にはじわとバターが染み込み、添えられた生クリームをパンケーキの熱が溶かしていく。思わずごくりと喉を鳴らすと、男は再びアルミンの目の前でパンケーキを見せつけるように動かした。
「君には催眠術をかけてある」
「は?」
「パンケーキが欲しくて仕方ないだろう?」
「ッ……」
浅ましい気持ちを隠しきれない自分を恥じる。特別パンケーキが好物であるわけではない。しかし今はパンケーキのことばかりを考えてしまう。男の言うことを信じるわけではないが、まるで催眠術をかけられているかのように、普段の自分ではないことは確かだった。
あの柔らかいパンケーキにナイフを差し込めば、それは弾力をもってして受け止められるだろう。色が変わるまでバターの染み込んで柔らかくなった箇所は、噛むまでもなく舌の上で溶けるだろう。濃厚なバターの匂いに鼻を鳴らす。考えるだけで口の中は唾液でいっぱいだった。
「欲しいかい」
男の声は愛をささやくように甘い。それは誘惑する声だ。
「もし君が私のいうことを聞いてくれるなら、これを君にあげよう」
「そんっな……毒が入っているともしれないもの」
「おや、では君に食べてもらえないこのパンケーキはこのまま冷めてしまうね」
「いっ、一体何が目的なんだ!僕に何の用だ!?」
「何、ちょっとした実験だ。……ほら、欲しくないかい?」
「あっ」
鼻先を横切る匂いにつられてしまう。それにまるで性感でも得たような声を発してしまい、アルミンは慌てて唇を噛んだ。
ああ――欲しい。
「……どう、したら」
それは、男に屈したも同然だった。男の口角は更につり上がり、よくできました、とささやく。皿をアルミンから遠ざけて持ち上げ、男はアルミンの手の拘束を解いた。解放された手で今すぐすがりつきたいほど、アルミンの頭の中はパンケーキでいっぱいだ。
「まずは、その無粋なベルトを外してもらおうか」
男の物腰は柔らかい。しかしアルミンには強い命令に等しかった。緊張と興奮で震える指先で太もものベルトを外していく。もうすっかり慣れたと思っていた装備はもどかしくアルミンを阻んだ。足のベルトを外しても男はただこちらを見ているだけで、アルミンは唇を噛んでジャケットを脱ぎ、上半身のベルトも次々と外していく。仮面に阻まれて男がどこを見ているのかわからないのが居心地悪く、しかしそれが気にならないほど、アルミンはパンケーキに意識が集中していた。もうバターはすっかり溶けきっている。皿に添えられた小瓶はシロップだろうか。柔らかい生地の上に垂らせば広がる匂いを考えただけで、頭がおかしくなりそうだ。
最後のベルトも外して落とした。黙って視線だけで男に訴える。
「では今度は、服を脱いでもらおう。ただし私が満足できるよう、ゆっくり時間をかけて、ね」
「そんなっ……」
こんなことは馬鹿げている、そう思うのに、理性はあっと言う間にパンケーキの魅力にとりつかれた。パンケーキを食べられないまま殺されるかもしれない。それでもアルミンは、自分の意志でシャツのボタンに手をかけた。
アルミンは必死で状況を整理する。ろうそくの光は頼りなく、部屋の中を把握することは難しい。とはいえ家具のようなものは見当たらず、何の変哲もない木の壁と床があるだけに見えた。物音はしない。正面にドアがあるのがわかるが、鍵がかかっているかどうかまではわからなかった。
どうしてこうなったのだろう。アルミンは深く息を吸った。幸い口はふさがれておらず、いざとなれば助けを呼ぶこともできるだろう。
今日の訓練はすべて終了していた。解散後、各自立体起動装置を外して所定の場所に片づける。立体起動装置は決して安価なものではなく、それぞれに支給されているとはいえ、訓練生であるアルミンたちは許可がなければ触れることができない。片づけた後、部屋に戻って着替えを――否、その前にアルミンはひとり離れ、座学の教官のところに向かった。質問があって聞きにいき、教官も面倒がらずに答えてくれたので部屋に戻るのはみんなよりも遅くなった。
――その帰りだ。背後に誰かの気配を感じたと思った瞬間には羽交い締めにされ、何か薬をかがされた、すうと鼻を通るそれに意識を吸い取られるように、アルミンは気を失った。
これは訓練の一部なのだろうか。しかしこんな、訓練外の闇討ちは聞いたことがない。
どうにか抜け出せないだろうかと手首を動かしてみるが、丈夫な縄で縛られているようで緩みもしなかった。
――コツ、
かすかに耳に届いたのは足音だ。緊張で体がこわばり、息が乱れる。足音は規則正しく、かたい靴底で木の床を叩いて近づいていた。教官なのか、訓練兵か、はたまた部外者か――足音が止まる。アルミンはじっとドアを見た。キィ、と小さな音を立ててドアノブがゆっくり回った。たっぷりと時間をかけてドアが押し開けられる。時間がかかるほどにアルミンの緊張は高まり、胸を打つ音が大きくなった。
ドアの向こうから現れたのは、見知らぬ男だった。とはいえ、その顔のほとんどを仮面で覆っているので、はっきりと知らないとは言い切れない。まるで貴族のような出で立ちで、仮面に隠れていない口元は月のように弧を描いた。
「起きてしまったね」
声は知らない声だ。コツ、コツ、とゆっくりアルミンに近づいてくる。
「……誰だ。僕をここに連れてきたのはお前か?」
「威勢のいい子だ。嫌いではない」
男はアルミンの正面で足を止めた。ふあん、と甘い匂いが漂う。不安とそれに伴う緊張で、アルミンは叫ぶように声を荒げた。
「その手に持ったパンケーキで僕をどうするつもりなの!?」
男が手にした皿には、まだ湯気を立てるパンケーキが乗せられていた。あつあつのパンケーキの上でバターが溶ける匂いがアルミンの鼻孔をくすぐる。
「おいしそうだろう?」
「……」
アルミンは口を閉じた。じわりと唾液が溢れてきた。それを一度目にするともう視線が外せなくなり、アルミンはじっと皿の上のパンケーキを見つめた。それに気づいた男はアルミンの鼻先についと皿を寄せたかと思えば、すぐにそれを引き寄せてしまう。残る匂いに誘われて顔を突き出してしまい、男に笑われた。恥ずかしくなって体を戻すが、やはりパンケーキから目が離せない。
きつね色に焼かれた表面にはじわとバターが染み込み、添えられた生クリームをパンケーキの熱が溶かしていく。思わずごくりと喉を鳴らすと、男は再びアルミンの目の前でパンケーキを見せつけるように動かした。
「君には催眠術をかけてある」
「は?」
「パンケーキが欲しくて仕方ないだろう?」
「ッ……」
浅ましい気持ちを隠しきれない自分を恥じる。特別パンケーキが好物であるわけではない。しかし今はパンケーキのことばかりを考えてしまう。男の言うことを信じるわけではないが、まるで催眠術をかけられているかのように、普段の自分ではないことは確かだった。
あの柔らかいパンケーキにナイフを差し込めば、それは弾力をもってして受け止められるだろう。色が変わるまでバターの染み込んで柔らかくなった箇所は、噛むまでもなく舌の上で溶けるだろう。濃厚なバターの匂いに鼻を鳴らす。考えるだけで口の中は唾液でいっぱいだった。
「欲しいかい」
男の声は愛をささやくように甘い。それは誘惑する声だ。
「もし君が私のいうことを聞いてくれるなら、これを君にあげよう」
「そんっな……毒が入っているともしれないもの」
「おや、では君に食べてもらえないこのパンケーキはこのまま冷めてしまうね」
「いっ、一体何が目的なんだ!僕に何の用だ!?」
「何、ちょっとした実験だ。……ほら、欲しくないかい?」
「あっ」
鼻先を横切る匂いにつられてしまう。それにまるで性感でも得たような声を発してしまい、アルミンは慌てて唇を噛んだ。
ああ――欲しい。
「……どう、したら」
それは、男に屈したも同然だった。男の口角は更につり上がり、よくできました、とささやく。皿をアルミンから遠ざけて持ち上げ、男はアルミンの手の拘束を解いた。解放された手で今すぐすがりつきたいほど、アルミンの頭の中はパンケーキでいっぱいだ。
「まずは、その無粋なベルトを外してもらおうか」
男の物腰は柔らかい。しかしアルミンには強い命令に等しかった。緊張と興奮で震える指先で太もものベルトを外していく。もうすっかり慣れたと思っていた装備はもどかしくアルミンを阻んだ。足のベルトを外しても男はただこちらを見ているだけで、アルミンは唇を噛んでジャケットを脱ぎ、上半身のベルトも次々と外していく。仮面に阻まれて男がどこを見ているのかわからないのが居心地悪く、しかしそれが気にならないほど、アルミンはパンケーキに意識が集中していた。もうバターはすっかり溶けきっている。皿に添えられた小瓶はシロップだろうか。柔らかい生地の上に垂らせば広がる匂いを考えただけで、頭がおかしくなりそうだ。
最後のベルトも外して落とした。黙って視線だけで男に訴える。
「では今度は、服を脱いでもらおう。ただし私が満足できるよう、ゆっくり時間をかけて、ね」
「そんなっ……」
こんなことは馬鹿げている、そう思うのに、理性はあっと言う間にパンケーキの魅力にとりつかれた。パンケーキを食べられないまま殺されるかもしれない。それでもアルミンは、自分の意志でシャツのボタンに手をかけた。
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