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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.13.Thu
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2013'08.30.Fri
昨日も確認したメールを、朝から何度も確認した。待ち合わせの場所と時間。

――夢のようだ。

「アルミン、今日予定でもあるの?」

「えっ!?」

「ずっと時計見てる」

「ええと、ちょっと」

あと2時間、あと1時間がもどかしい。さりげなさを装ったつもりでも、ブックカフェのオープンから一緒に働いているスタッフにはばれていた。

今日はジャンと地元の祭りに行く。仕事上での関わりはないが、同じショッピングモールで働く左川急便のスタッフだ。彼の話は幼なじみでジャンの同業者のエレンから聞いて知っていたが、エレンの話しぶりとは全く違う好青年だった。

アルミンがジャンと知り合ったのは、元々別の店舗で働いていたアルミンが、新店のオープンをきっかけに自宅に近い方へ異動したからだった。

ジャンは運送業者らしく、鍛えすぎというほどでもないたくましい体をしていた。対照的にアルミンは自分の体つきを恥ずかしく思うほど頼りない。エレンのまだ未発達さの感じられる体とも違う姿は、ジャンが特別ではなかったが少し羨ましく思えた。

しかしアルミンを魅了したのはそればかりではなかった。ジャンは爽やかさだけではない顔立ちで、時々いたずらっ子のように幼い笑みを見せる。誰にでも向けられる営業スマイルとは違ったその表情見たさに、得意ではない会話もアルミンにしてはかなり努力をした。

好きになったのだと自覚したのはいつだろう。休憩室で会うたびに声をかけてくれたその人を、好きにならない人はいないだろうと思った。それほど魅力的に見えていたし、モール内でも人気があった。



いつだかアルミンが祭りに行きたいと言っていたのを覚えていてくれたのか、ジャンから祭りに誘ってくれた。丁度行く相手がいなかっただけだとはわかっている。アルミンは自分が浮ついているのを押し隠すことに必死だった。

10分がこれほど長く感じたことがあるだろうか。そわそわと浮かれたまま、終業と同時にショッピングモールを飛び出した。



今日は家に誰もいない。だから、自分ひとりでこれからこなさなければならないミッションがある。時間は十分にあるし、散々家族をつき合わせて練習もしたが不安はぬぐえなかった。

部屋に下げているのは新しい浴衣だ。浴衣で来いと言われた代わりに、ジャンにも浴衣で来るようにと約束させた。

――この思いを、どうしようとは思っていない。会話の中でジャンはアルミンのような男を好きにはならないとわかっている。それでも、好きな相手のいつもと違う姿が見たいと思ってもいいだろう。

浴衣を持ってるかと聞かれたときには、とっさにあると答えたが、高校まで友人もなく、つき合う相手と言えばエレンとミカサのふたりだったアルミンがそんなものを持っていたはずがない。慌てて買いに行ったその浴衣を、教えられた通りにきっちり着込む。鏡の前でくるくると回って何度も全身を確認した。おかしくないだろうか。普段着るものに頓着のないアルミンには、自分に似合っているのかどうかもわからない。店の店員と家族の言葉を信じるしかなかった。

「……欲張らない。でしゃばらない。浮かれない」

鏡を見て自分に言い聞かせる。今夜ひと晩、楽しく過ごすことができれば、この恋はもうそれだけで十分だ。そもそも夏休みが終わればシフトもぐっと減り、ジャンに会う機会もほとんどなくなる。今は会うたびに高鳴る胸も、そうなれば自然に落ち着くだろう。



*



自分で着た浴衣は懸念していたようなこともなく、ほぼ家を出たときのまま帰ってくることができた。しかしアルミンの心中は乱されて、少しのアルコールでの酔いは駅から歩くうちにさめてからは更に穏やかではない。

「ただいま……」

「お帰りなさい。あら、きれいに着られたわね」

母親に迎えられてどうにか笑顔を返した。疲れたから、と足を洗っただけで部屋に向かう。慣れない下駄は思っていたほど痛くはなかったが、裸足でフローリングを踏むとどこかふわふわしたものの上を歩いているようだった。

自室に入り、明かりもつけずベッドに倒れ込む。のろのろと携帯を取りだし、ジャンにメールを打とうとしたが言葉が出なかった。鼻がつんとする。涙が出そうだ。

「はあぁ……」

行かない方がよかったのかもしれない。胸が苦しい。

――もっと好きになっただけだった。

何度も好きだと言いそうになった。欲を出して甘えたら、すべて優しく受け入れられた。それならこの思いも、と思ってしまうほど。

「……浴衣ってえっちだなぁ……」

頭に浮かぶのは浴衣姿のジャンだった。感傷的になりきれない自分が悲しい。自分も男なんだぁ、とアルコールの抜けきらない頭で考える。下世話な妄想が頭をよぎり、慌てて体を起こした。ジャンへのお礼は明日にすることにして、今日はさっさと寝てしまおう。

好き、と、伝えたらどうなってしまうのだろう。肩に触れた体温を思い出し、火照った頬が更に熱くなった。

「――夢みたいだったな」
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2013'08.30.Fri
「あー、もうこんな時間か。送るわ」

ジャンは立ち上がって車のキーを取った。いつもならそこでアルミンも続くのだが、今日は慌てたようにジャンのズボンの裾をつまんで引き止めた。彼の控えめな仕草はいつも無条件にジャンをどぎまぎさせる。狙ってやっているのだろうなとわかる仕草をされたことはあれど、アルミンのように自然に頬を染められると騙されてしまう。勿論、アルミンが演技をしているなど微塵も思ったことはない。

「どうした?」

「と……泊まるって、言ってきた……」

「……マジで?」

「め、迷惑だった?」

「いや、オレはいいんだけどよ……」

赤くなって俯いてしまったアルミンに動揺する。ジャンの仕事が終わってから部屋で会うのが最近の日課になっていた。時間のスケジュールが合わない中でわずかに顔を合わせるだけでも楽しい。確かに物足りない思いがなかったと言えば嘘になる。

「明日、ジャン休みだよね?」

「ああ」

「僕も、明日……休みになったんだ。だから……その……」

キーを投げてアルミンを抱きしめた。というよりも押し倒した。痛い、と聞こえたがかまわず唇を押しつける。

「なんなんだよお前は、オレにどうさせたいんだ」

「えっと……」



アルミンの手がするりとシャツを引っ張った。露わになる肌に唾を飲む。

「す……する?」

「……してえんだろ?」

「ち、違うけど」

「違わねえだろ?泊まれるっていつ言おうかずっと考えてたんだろ?」

「う……」

「期待してたんじゃねえのかよ」

「……ジャンが、確かめて」

震えるまつげはジャンを誘うものでしかない。服の裾から手を差し込み、肌をたどって胸を撫でる。弾む鼓動に口角をあげると、アルミンは顔を倒してジャンの視線から逃げようとした。いじらしく見せて、その裏ではきっとジャンの想像以上のことを考えているに違いない。

――ああ、それにしても。この肌にじっくり触れるのは久しぶりだ。煩わしい服を先に脱ぎ捨てる。

「手加減しねえからな」

「……うん」

伸ばされた手ははっきりと意志を持っていた。



*



「うおっと」

鳴りかけた瞬間の携帯のアラームを慌てて止めた。ジャンの隣でアルミンが小さくうめいて丸くなったが、起きる様子はなさそうだ。ほっと息を吐き、いつも通り繰り返し鳴るように設定したままのアラームを止めておく。

目が覚めたときに隣にアルミンがいる、というのは初めてかもしれない。昨夜の乱れた姿からは想像できないほど無邪気な寝顔だ。確かに成人男子であるはずだが、時々信じられなくなる。

手にした携帯に気づき、ジャンはカメラを開いた。ジャンの隣で眠るアルミンの前髪を払ってカメラを向けた。天使の寝顔、とは自分で思って恥ずかしくなる。頭を抱えてうずくまり、そのまま横を向いてアルミンを見た。伏せられた髪と同じ色のまつげ、子どもっぽさを増す丸い鼻、喋り始めると止まらなくなる唇に口づけて、名残惜しいが起こさないように気をつけてベッドを出る。

ふたりとも休み、とはいえ、昨日はお互い仕事も忙しい日だった。体に疲れが残るほどではないにせよ、夜張り切ったせいもあって万全とは言いがたい。出かけないのも惜しい気もするが、だらだら過ごす休日も悪くないだろう。
2013'08.28.Wed
「アルミンの彼氏って何してる人?」

不意をつかれた質問に、針を指に突き刺した。縫っていたスカートを落として悶えるアルミンを気に留めず、友人はずい、とぶつかるように横に腰を下ろす。更に反対側も同様にかためられ、どうにか逃げ出せないかアルミンは必死で脳を回転させた。

「この間迎えにきてたのって車ででしょ?社会人?」

「ええ〜……僕の話はいいよ、ハンナの話聞いてあげて」

「聞き飽きた!」

「フランクなんか興味ないし!」

「ちょっと!失礼ね!」

学内で有名なハンナとフランクのカップルは、確かに今更聞きたいような話もない。アルミンはスカートをたぐり寄せて針を探しながら、黙秘を貫くことにした。

先日彼女たちと飲みに行った際に散々飲まされ、前後不覚の状態でジャンに電話をしてしまったのが間違いだった。お酒を飲むとふわふわと気持ちよくなって、無性に誰かに甘えたくなってしまう。その相手がジャンしか浮かばなくて、深夜だというのに電話をかけ、あまつさえ迎えにきてもらうという失態を犯した。ジャンに迷惑をかけただけではなく、友人たちにジャンを会わせることになったのが一番の失敗だった。

――恥ずかしさ以上に、見られたくなかったのだ。アルミンの女友達はみなかわいい子ばかりで、そんなことはしない子たちだとわかっていても、ジャンを取られはしないかと不安だった。

だんまりを決め込んだアルミンにやがて友人たちは諦めた、かのように見せかけて、腕を肩に回し更に密着してくる。アルミンが女性に対して劣情を抱いたことがないにしても、ぎょっとするほどの触れ合いだ。

「ちょっと、怒るよ」

「私たちだって怒ってるわよー、ずっと彼氏ができたこと秘密にしてくれちゃって」

「だって、それは」

「いい?アルミン、あなたの彼氏はどうでもいいの。問題はその友達、あるいは同僚!」

「え?」

「合コン組めって話!」

「あ〜……」

みんな揃ってかわいい子だが、今はフリーばかりだ。もうすぐ学祭で、それまでは展示物に集中すると言っていたが、準備の中であちこちでカップルができているのがやや気に食わないらしい。

「合コン……」

ジャンの同僚を思い浮かべてみる。出会いはアルミンのバイト先のショッピングモールだ。彼の同僚も何人か知っているが、彼女たちのお眼鏡にかなうだろうか。悪い人たちではないが、彼女たちの好きなタイプも大体知っているので少し違うような気もする。いっそモール内の女性スタッフに人気のある、女性スタッフに会わせた方が喜ぶかもしれない。

「……やっぱりやだ」

「なんでよ〜!」

「……だってジャンが幹事になるでしょ。ジャンも行くことになるじゃないか……」

「のろけが聞きたいわけじゃないんだけどなぁ」

けらけら笑って友人はアルミンを離し、衣装の作成に戻った。楽しげな様子とは裏腹に、アルミンはやや不機嫌になる。想像でふてくされている子どもっぽい自分が嫌になるが、アルミンも初めてのことにうまく感情が制御できない。

「……男の人って、普通合コンぐらい行ったことある?」

「まー、あれほどかっこいい人ならあるんじゃない?」

「社交的だったしね〜」

「……」

「落ち込まない!」

笑いながら背を叩かれる。そう言われても、自分のような地味な人間をどうしてジャンが好きになったのかまだわからないでいる。幸せいっぱいではあれど、自分の経験のなさをもどかしく思うことも多い。

「はいはい、じゃー今日のノルマをすっきり終わらせてしまいましょー」

急かされて手を動かすも、結局心ここににあらずのアルミンは大して進めることができなかった。



*



結局ジャンに会いたくなり、アルミンは仕事終わりのジャンの部屋に押し掛けた。連絡すると歓迎してくれたジャンに嬉しくなり、夕食の買い出しをして向かって今台所に立っている。もらったばかりの合い鍵を使えることが嬉しくて、迷惑ではないかと心配になるがジャンはいつも笑顔で迎えてくれた。

社会人のジャンとはなかなか時間を合わせることができず、アルミンも学祭の準備で忙しいためつき合い始めてからおよそデートらしいデートはしたことがない。それでもこうしてふたりで時間を過ごせるだけで幸せで、台所に立つアルミンは思わずにやけている。

「っと、洗濯前にボタンつけねえと」

「……取れたの?」

「今日着てたシャツのやつ。めんどくせーけど、覚えてるうちにしねえと忘れるからな」

「僕、やろうか?」

「できんの?」

「失礼な!こう見えても結構器用だよ!」

「はは!つけてくれるなら助かる。どうも自分でつけるとすぐ取れるんだよな」

「置いてて、あとでやるから」

「ああ」

機嫌よくボタンとシャツをわかりやすいところに置くジャンから目をそらし、アルミンは料理に戻るが妙に心拍が乱れて手が止まってしまった。台所で料理をして、縫い物もだなんて、まるで妻のようじゃないか。自分が男だということを棚に上げそうだ。

「鍋まだするのか?」

「あ、もう火は通ったと思う。ジャガイモが大丈夫だったら止めてもらっていいよ」

「ん」

隣に立ったジャンにはっとして慌てて包丁を握り直した。あとはこのトマトを切ってサラダを盛りつければほとんど完成だ。煮込みハンバーグの鍋を開けて様子を見るジャンを盗み見る。ああ、きっといい旦那様になるんだろうな、なんて。

「アルミン?」

「な、何っ!?」

「なんで顔赤いんだよ」

ジャンに指摘されて更に顔が熱くなる。慌てて俯くと隠れた耳元にキスをされて悲鳴を上げた。ジャンは楽しげに笑いながら、コンロの火を止めてアルミンの手から包丁を取る。アルミンが慌てるより先に皿出して、と仕事を与えられ、素直に負けを認めて引き下がった。

あまりしないが、ジャンも料理が全くできないと言うことではない。意外にも和食の方が得意らしく、一度ジャンが簡単そうに作った肉じゃがの前に困惑したことがある。いつでも嫁に行けます、と冗談めかした言葉が出てきたほど動揺した。アルミンの幼なじみのエレンは料理など一切できず、家族に甘えきっている。

――モテないはずがないんだよな。

「……ジャン、あのね」

「んー?」

「合コンって行ったことある?」

「……」

ジャンの手元でトマトが潰れた。やっぱり、と落ち込むアルミンに慌てたように、ジャンは言葉を探すように口を開くが何も言えない。

「いっ、行くのか!?」

「……え?」

「誘われたのか?行くのか?ど、どっち側で!?」

「え、えっと、僕じゃなくて……」

「行かないのか?」

「行かないよ!ジャンがいるのに」

「焦った……合コンであんな酔っぱらった姿見せられたら誰だって持って帰るぜ」

「そ、その話はもうやめて!」

後悔しか残っていない。ジャンの記憶からも消したいぐらいだ。

「ジャンが、行ったことあるかって話!」

「あー、まぁ人数合わせぐらいにはな」

気を取り直したジャンの意識が手元に戻る。しかし友人たちの言葉を思い出し、黙ったまま皿を出したり周りで作業をしていると、苦しげに呻くような声が告白した。

「それなりには……」

「……ふーん……」

「なんと言いますか……若かったっていうか、な?」

「ふーん」

「いや、あれですよ?彼女がほしいってんじゃなくて、騒ぎたいだけの時期ってあるじゃないですか」

「ふーん」

「……でーい!」

包丁を置いたジャンが手を洗い、どうするのかと見ていたら律儀に手を拭いてから抱きしめられた。

「もう勘弁してくれ」

「……ははっ」

どこか拗ねたような口調に、ごめんと返して背中に手を回す。わがままを言っているのはわかっているが、ジャンがそれに応えてくれるのが嬉しい。

「ご飯にしよ」

「……おう」

ジャンからゆっくり離れ、伸び上がって彼の唇にキスを落とす。少し照れたような表情に満足して笑うと、つられて頬を緩めたジャンに鼻をつままれた。
2013'08.27.Tue
「アルミン、そこ終わったら……何見てんだ?」

「……ジャン、僕の前にもおつき合いしてた人いるんだよね」

しゃがみ込んだ後姿から嫌な予感がして、ジャンは思わず溜息をつきそうになる。眩しいほどの金髪黒いオーラを放って見えるほどのお怒りだ。



ジャンの部屋は大掃除の途中だった。ひとり暮らしを始めたときからつき合ってきたテレビが壊れ、おまけに本棚が決壊して使いものにならなくなったのだ。家電は同時に壊れるなどというがそんなに出費はできない、と嘆いていると、職場の先輩が電子レンジを譲ってくれることになったのだ。今まで使っていたものも確かにそろそろ怪しく、いっそ壊れてしまえば変えられるのにと思っていたのでありがたい言葉だ。

そんなわけで模様替えのついでに大掃除、ということで、休日返上で朝から働いていたのだが、手伝ってくれていたアルミンもついに集中力が途切れたらしい。日頃職業的に肉体労働をしているジャンとは体力の差は明白だ。できるだけ大きなものはジャンがしていたのだが、そろそろ休憩も考えていたところだった。



本棚の隙間から、一体何が出てきたというのだろう。ジャンが以前女性とつき合っていたというのは随分前のことで、今更長い髪が出てきたりということはないと思うのだが。

「どうした急に」

アルミンの後ろから覗きこめば、その手にあるのは指輪だった。げっ、と呻きそうになるのをこらえる。それは嫌というほどはっきり記憶している代物だ。

それなりに長くつき合った彼女だった。この部屋で大喧嘩をして別れたのだが、その時に指輪を投げつけられたのだ。大喧嘩とはいえどちらかがはっきりと悪かったというわけではなく、すれ違いの結果での別れだ。ジャンはどこに消えたのかわからない小さな貴金属を探すほどすぐにショックから回復はしなかったし、よりが戻ったら新しいのを買おうと思っていた。彼女が戻ってくることはなかったけれど。



勿論、今のジャンには何の未練もない。今ここで殺気を放つ、本来なら穏やかでかわいらしい子とおつき合いをしているのだ。今更今までの彼女が泣いてすがってきても突き放す自信があるぐらいには惚れている。

しかし誰かとつき合うという経験がジャンが初めてだというアルミンは、少しのことでも穏やかではいられないらしい。一体どれほど信用がないのかと少し悲しくもあるが、幼い嫉妬を見せられるのも満更ではなかった。少々面倒ではあるので、そう頻繁では困るけれども。

ジャンを一切振り返らず、アルミンは黙ったまま指輪を自分の指に通す。それがちゃっかり左手の薬指なのは、何を考えてなのだろうか。その指で正解ではあるのだが、ジャンとしては複雑だ。

指輪は勿論途中の節で止まってしまう。アルミンがいくらジャンと比べて華奢だとはいえ、――彼は立派な成人男子だ。同僚のように肉体労働をしているサシャやユミルならいざ知らず、普通のOLだった彼女の指と比べればアルミンの指の方が多少なりともたくましいだろう。

「あー、アルミン?」

「……頭ではわかるんだ。ジャンは今は僕を見てくれているし」

「ああ」

「でも、もっと小さくてかわいい子がジャンの側にいたんだなと思うと、ちょっと悲しい」

「おっ……まえなぁ!」

「わっ」

押し倒さんばかりの勢いでアルミンに抱きついた。さっきまでまとっていた殺気を引っ込めて、しゅんと肩を落としたアルミンがかわいくないはずがない。抱きしめてその髪を乱しながら丸い頭を撫でる。犬でも撫でるような勢いにアルミンに押し返されるが離さない。

「お前ほどかわいいやつがいるわけないだろう」

「……それ、いつも言ってたりして」

「言わねえよ」

「ふふ、ごめん、変なこと言って」

機嫌の直ったらしいアルミンから少し離れ、その手から指輪を引き抜いてゴミ箱に投げる。カランと景気のいい音を立てておさまった指輪にぽかんとして、アルミンが少し困ったようにジャンを見上げた。

「あの」

「指輪、買いに行くか」

「いっ、いい!いいよ!あんなの僕似合わないし!」

「嫌ならつけなくてもいい。持っててくれたらいい」

「……じゃあ、今じゃなくていい。僕も働き出して、ジャンに指輪を贈れるぐらい稼げるようになってから、僕に指輪をちょうだい」

「何年待たせる気だよ」

笑いながらキスをする。くすぐったそうに受け止められたキスは柔らかい。

「でもやっぱり買いに行く」

「えっ」

「安いのでいい。虫除けだ」

「……あー、うー……」

それはもう大丈夫、とアルミンは突然赤くなって俯いた。学生のアルミンには接する人が多いだろうと前から気にしていたのだが、アルミンの反応が思っていたものではないので気になった。頬を撫でて上を向かせると、視線をそらして小さくつぶやく。

「学祭の時に撮った写真に、キスマーク見えてるの混ざってて……」

「……あー、それは」

ジャンの知らぬところでさぞからかわれただろう。しかし恥じらう姿がかわいくて、反省する気は全く起きない。首筋に唇を当てると弾かれたように突き飛ばされる。しかし倒れそうになったのはアルミンのせいで、慌てて腕を掴んで引き留めた。

「もう!」

「ごめんって。ちょっと休憩するか。大体場所も作れたし、飯食いに行って一緒に本棚見に行こうぜ」

「あ、うん」

一緒に出掛けるのは久しぶりだ。アルミンが頬を綻ばせるのが愛しくて、やはりもう少し時間を作って出かけたいと思う。



食事の帰りにアクセサリーショップを通りかかって、中に引きこもうとすると真っ赤な顔で逃げられた。それをからかって追っていると、本屋に逃げ込んだアルミンが棚の前から動かなくなる。手に取ったそれを開き、ぱらぱらとページを送った後、一ページ目から開き直すので溜息をついて取り上げた。

「あっ」

「誰かさんには指輪よりこっちの方がいいようで」

「!」

いいから!と慌てるアルミンを無視してレジに向かう。家具屋に行くのにアルミンと一緒でよかったと思った。きっと棚に収まるのは、アルミンの本ばかりになるだろう。
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