言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'08.30.Fri
昨日も確認したメールを、朝から何度も確認した。待ち合わせの場所と時間。
――夢のようだ。
「アルミン、今日予定でもあるの?」
「えっ!?」
「ずっと時計見てる」
「ええと、ちょっと」
あと2時間、あと1時間がもどかしい。さりげなさを装ったつもりでも、ブックカフェのオープンから一緒に働いているスタッフにはばれていた。
今日はジャンと地元の祭りに行く。仕事上での関わりはないが、同じショッピングモールで働く左川急便のスタッフだ。彼の話は幼なじみでジャンの同業者のエレンから聞いて知っていたが、エレンの話しぶりとは全く違う好青年だった。
アルミンがジャンと知り合ったのは、元々別の店舗で働いていたアルミンが、新店のオープンをきっかけに自宅に近い方へ異動したからだった。
ジャンは運送業者らしく、鍛えすぎというほどでもないたくましい体をしていた。対照的にアルミンは自分の体つきを恥ずかしく思うほど頼りない。エレンのまだ未発達さの感じられる体とも違う姿は、ジャンが特別ではなかったが少し羨ましく思えた。
しかしアルミンを魅了したのはそればかりではなかった。ジャンは爽やかさだけではない顔立ちで、時々いたずらっ子のように幼い笑みを見せる。誰にでも向けられる営業スマイルとは違ったその表情見たさに、得意ではない会話もアルミンにしてはかなり努力をした。
好きになったのだと自覚したのはいつだろう。休憩室で会うたびに声をかけてくれたその人を、好きにならない人はいないだろうと思った。それほど魅力的に見えていたし、モール内でも人気があった。
いつだかアルミンが祭りに行きたいと言っていたのを覚えていてくれたのか、ジャンから祭りに誘ってくれた。丁度行く相手がいなかっただけだとはわかっている。アルミンは自分が浮ついているのを押し隠すことに必死だった。
10分がこれほど長く感じたことがあるだろうか。そわそわと浮かれたまま、終業と同時にショッピングモールを飛び出した。
今日は家に誰もいない。だから、自分ひとりでこれからこなさなければならないミッションがある。時間は十分にあるし、散々家族をつき合わせて練習もしたが不安はぬぐえなかった。
部屋に下げているのは新しい浴衣だ。浴衣で来いと言われた代わりに、ジャンにも浴衣で来るようにと約束させた。
――この思いを、どうしようとは思っていない。会話の中でジャンはアルミンのような男を好きにはならないとわかっている。それでも、好きな相手のいつもと違う姿が見たいと思ってもいいだろう。
浴衣を持ってるかと聞かれたときには、とっさにあると答えたが、高校まで友人もなく、つき合う相手と言えばエレンとミカサのふたりだったアルミンがそんなものを持っていたはずがない。慌てて買いに行ったその浴衣を、教えられた通りにきっちり着込む。鏡の前でくるくると回って何度も全身を確認した。おかしくないだろうか。普段着るものに頓着のないアルミンには、自分に似合っているのかどうかもわからない。店の店員と家族の言葉を信じるしかなかった。
「……欲張らない。でしゃばらない。浮かれない」
鏡を見て自分に言い聞かせる。今夜ひと晩、楽しく過ごすことができれば、この恋はもうそれだけで十分だ。そもそも夏休みが終わればシフトもぐっと減り、ジャンに会う機会もほとんどなくなる。今は会うたびに高鳴る胸も、そうなれば自然に落ち着くだろう。
*
自分で着た浴衣は懸念していたようなこともなく、ほぼ家を出たときのまま帰ってくることができた。しかしアルミンの心中は乱されて、少しのアルコールでの酔いは駅から歩くうちにさめてからは更に穏やかではない。
「ただいま……」
「お帰りなさい。あら、きれいに着られたわね」
母親に迎えられてどうにか笑顔を返した。疲れたから、と足を洗っただけで部屋に向かう。慣れない下駄は思っていたほど痛くはなかったが、裸足でフローリングを踏むとどこかふわふわしたものの上を歩いているようだった。
自室に入り、明かりもつけずベッドに倒れ込む。のろのろと携帯を取りだし、ジャンにメールを打とうとしたが言葉が出なかった。鼻がつんとする。涙が出そうだ。
「はあぁ……」
行かない方がよかったのかもしれない。胸が苦しい。
――もっと好きになっただけだった。
何度も好きだと言いそうになった。欲を出して甘えたら、すべて優しく受け入れられた。それならこの思いも、と思ってしまうほど。
「……浴衣ってえっちだなぁ……」
頭に浮かぶのは浴衣姿のジャンだった。感傷的になりきれない自分が悲しい。自分も男なんだぁ、とアルコールの抜けきらない頭で考える。下世話な妄想が頭をよぎり、慌てて体を起こした。ジャンへのお礼は明日にすることにして、今日はさっさと寝てしまおう。
好き、と、伝えたらどうなってしまうのだろう。肩に触れた体温を思い出し、火照った頬が更に熱くなった。
「――夢みたいだったな」
――夢のようだ。
「アルミン、今日予定でもあるの?」
「えっ!?」
「ずっと時計見てる」
「ええと、ちょっと」
あと2時間、あと1時間がもどかしい。さりげなさを装ったつもりでも、ブックカフェのオープンから一緒に働いているスタッフにはばれていた。
今日はジャンと地元の祭りに行く。仕事上での関わりはないが、同じショッピングモールで働く左川急便のスタッフだ。彼の話は幼なじみでジャンの同業者のエレンから聞いて知っていたが、エレンの話しぶりとは全く違う好青年だった。
アルミンがジャンと知り合ったのは、元々別の店舗で働いていたアルミンが、新店のオープンをきっかけに自宅に近い方へ異動したからだった。
ジャンは運送業者らしく、鍛えすぎというほどでもないたくましい体をしていた。対照的にアルミンは自分の体つきを恥ずかしく思うほど頼りない。エレンのまだ未発達さの感じられる体とも違う姿は、ジャンが特別ではなかったが少し羨ましく思えた。
しかしアルミンを魅了したのはそればかりではなかった。ジャンは爽やかさだけではない顔立ちで、時々いたずらっ子のように幼い笑みを見せる。誰にでも向けられる営業スマイルとは違ったその表情見たさに、得意ではない会話もアルミンにしてはかなり努力をした。
好きになったのだと自覚したのはいつだろう。休憩室で会うたびに声をかけてくれたその人を、好きにならない人はいないだろうと思った。それほど魅力的に見えていたし、モール内でも人気があった。
いつだかアルミンが祭りに行きたいと言っていたのを覚えていてくれたのか、ジャンから祭りに誘ってくれた。丁度行く相手がいなかっただけだとはわかっている。アルミンは自分が浮ついているのを押し隠すことに必死だった。
10分がこれほど長く感じたことがあるだろうか。そわそわと浮かれたまま、終業と同時にショッピングモールを飛び出した。
今日は家に誰もいない。だから、自分ひとりでこれからこなさなければならないミッションがある。時間は十分にあるし、散々家族をつき合わせて練習もしたが不安はぬぐえなかった。
部屋に下げているのは新しい浴衣だ。浴衣で来いと言われた代わりに、ジャンにも浴衣で来るようにと約束させた。
――この思いを、どうしようとは思っていない。会話の中でジャンはアルミンのような男を好きにはならないとわかっている。それでも、好きな相手のいつもと違う姿が見たいと思ってもいいだろう。
浴衣を持ってるかと聞かれたときには、とっさにあると答えたが、高校まで友人もなく、つき合う相手と言えばエレンとミカサのふたりだったアルミンがそんなものを持っていたはずがない。慌てて買いに行ったその浴衣を、教えられた通りにきっちり着込む。鏡の前でくるくると回って何度も全身を確認した。おかしくないだろうか。普段着るものに頓着のないアルミンには、自分に似合っているのかどうかもわからない。店の店員と家族の言葉を信じるしかなかった。
「……欲張らない。でしゃばらない。浮かれない」
鏡を見て自分に言い聞かせる。今夜ひと晩、楽しく過ごすことができれば、この恋はもうそれだけで十分だ。そもそも夏休みが終わればシフトもぐっと減り、ジャンに会う機会もほとんどなくなる。今は会うたびに高鳴る胸も、そうなれば自然に落ち着くだろう。
*
自分で着た浴衣は懸念していたようなこともなく、ほぼ家を出たときのまま帰ってくることができた。しかしアルミンの心中は乱されて、少しのアルコールでの酔いは駅から歩くうちにさめてからは更に穏やかではない。
「ただいま……」
「お帰りなさい。あら、きれいに着られたわね」
母親に迎えられてどうにか笑顔を返した。疲れたから、と足を洗っただけで部屋に向かう。慣れない下駄は思っていたほど痛くはなかったが、裸足でフローリングを踏むとどこかふわふわしたものの上を歩いているようだった。
自室に入り、明かりもつけずベッドに倒れ込む。のろのろと携帯を取りだし、ジャンにメールを打とうとしたが言葉が出なかった。鼻がつんとする。涙が出そうだ。
「はあぁ……」
行かない方がよかったのかもしれない。胸が苦しい。
――もっと好きになっただけだった。
何度も好きだと言いそうになった。欲を出して甘えたら、すべて優しく受け入れられた。それならこの思いも、と思ってしまうほど。
「……浴衣ってえっちだなぁ……」
頭に浮かぶのは浴衣姿のジャンだった。感傷的になりきれない自分が悲しい。自分も男なんだぁ、とアルコールの抜けきらない頭で考える。下世話な妄想が頭をよぎり、慌てて体を起こした。ジャンへのお礼は明日にすることにして、今日はさっさと寝てしまおう。
好き、と、伝えたらどうなってしまうのだろう。肩に触れた体温を思い出し、火照った頬が更に熱くなった。
「――夢みたいだったな」
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