言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.13.Fri
締め切った熱気に耐えきれず、教室の窓を開け放つ。生徒が来るとわかっているのだから、先に来た教師が開けておいてくれたらいいのに。伊助は毎日そんなことを思いながら窓を開けて、そして身を乗り出す。正面に広がるグラウンド、右手にはプールが見える。風が髪を舞いあげたのを押さえてプールを見た。ほとんどは校舎に隠れて端の方が見えるだけだが、さわやかなプールの水色や水のきらめきは見ているだけで涼しげだった。
補習の授業はまだ生徒が集まってすらいないのに、水泳部はすでに練習を開始している。普段の勉学と共に部活動にも力を入れた学校はどの部も優秀な成績をおさめるところが多く、水泳部もまた同様に、全国大会まで勝ち進んでいると聞いた。誰かが泳いで跳ねる水しぶきが夏日に反射して、プールサイドから見ればもっときれいなのだろう。
「おはよう伊助」
「おはよー、庄左ヱ門」
振り返って風で首にまとわりつく髪を払う。首が焼けるのがいやで登校のときは髪を下ろしていたが、やはり暑苦しい。日焼け止めを塗っていても手足同様少しずつ肌は焼けている。髪をまとめて、他の窓も開け放した。
それは伊助の夏休みの日課になっていた。教室に風を入れながら、気分だけの涼を求めてプールを見る。泳ぎは得意ではないので行きたいとは思わない。プールサイドが暑いことは知っているが、それでもやはり水の近くを少し羨ましい気持ちで眺めていた。
多少の雨でも水泳部は泳いでいた。威勢のいい応援が聞こえることも何度かあった。プールサイドに、見たくない人物が見える日もあった。
「こら水泳部ー!着替えてきなさい!」
「すいませーんっ」
前方から逃げるように走ってきた姿を見て、反射的に廊下の端に避けた。伊助の隣の友人は、露骨に顔をしかめている。水着にジャージの上着を羽織っただけの水泳部員がふたり、売店から戻る途中のようだ。
すれ違い際にひとりが伊助を見た。伊助が会いたくない人物、池田三郎次。目をそらすのは癪で、一瞥して友人の腕を取る。
「行こ」
「見たくないもん見せられた〜」
「ね、デリカシーのないやつ。無視無視」
友人を連れて売店に向かう。三郎次に聞こえただろうか。どちらでもいい。伊助が意地を張っている間は三郎次が謝ってくることはないだろうが、伊助もまた、謝る気は一切なかった。
それでも毎日プールを見ていた。毎日あまりにも暑いから、冷房もない教室では視覚的に涼を求めなくなるからだ。三郎次のことなど見たくもなかった。
毎日飽きもせず、太陽は地球を焼き尽くさんばかりに日差しを浴びせかけている。まぶしさと暑さに辟易しても補習はなくならず、今日も暑い制服を着て学校へ。
どうして補習なんてものがあるのだろう、夏休みなのに。そのことを三郎次にからかわれたことを思い出して顔をしかめた。どうせお勉強はできませんよ、あのとき返したせりふをまた頭の中で繰り返す。いつも通りのやりとりだったのに、あのときだけ許せなかったのはなぜだろう。
いつもの時間に校門をくぐった。天気予報は今日も真夏日としか言わなくて、あれほど鬱陶しいと思っていた梅雨が恋しくなってくる。
昇降口までも遠く感じながら歩く伊助の隣を誰かが走り抜けた。一瞬であったがこちらを見て通り過ぎて行ったのは、間違いなく三郎次だ。後ろ姿はあっと言う間に昇降口に消えていく。寝坊でもしたのだろうか。ざまあみろ、思わず口角を上げる。
夏休み前にも十分焼けていた三郎次の肌は、また更に夏らしくなっていた。
結局補習の最終日まで、伊助は窓を開け続けていた。軽い窓を開けると熱気をはらんだ風がカーテンを舞い上げる。髪を押さえて身を乗り出し、プールの方を見た。
――そこに見えたものに、硬直する。
隣の教室の窓から、身を乗り出した三郎次が伊助を見ていた。そのずっと遠くで静かなプールの水面が光っている。
「勝ったぞ!」
三郎次の声にはっとした。すぐに教室に入ろうとするのに、睨むような三郎次の視線から逃げられない。
「帰りちゃんと待ってろよ!」
「しっ……知らない!あんな一方的な約束は無効!」
「黙って待ってろブス!」
伊助の反論を許さず、三郎次の方が先に姿を消す。背後で廊下を駆け抜ける足音がした。
日に焼けた肌では顔が赤かったかどうかなんてわからない。それでもその表情を思い出すと、伊助まで恥ずかしくなってくる。
「おはよう伊助」
「おっ、おはよう庄左ヱ門!」
クラスメイトの声に弾かれるように振り返る。その勢いに少し驚いた様子を見せた庄左ヱ門は、特に追求はしなかったが笑顔を見せた。
「ちょっと焼けた?」
「え?」
「顔が赤いよ」
「……ひ、日焼け止め、塗り忘れて」
顔を隠すように踵を返し、他の窓も開けていく。
どうやって三郎次から逃げ出すかを考えて、最後の補習は何も頭に入らなかった。
補習の授業はまだ生徒が集まってすらいないのに、水泳部はすでに練習を開始している。普段の勉学と共に部活動にも力を入れた学校はどの部も優秀な成績をおさめるところが多く、水泳部もまた同様に、全国大会まで勝ち進んでいると聞いた。誰かが泳いで跳ねる水しぶきが夏日に反射して、プールサイドから見ればもっときれいなのだろう。
「おはよう伊助」
「おはよー、庄左ヱ門」
振り返って風で首にまとわりつく髪を払う。首が焼けるのがいやで登校のときは髪を下ろしていたが、やはり暑苦しい。日焼け止めを塗っていても手足同様少しずつ肌は焼けている。髪をまとめて、他の窓も開け放した。
それは伊助の夏休みの日課になっていた。教室に風を入れながら、気分だけの涼を求めてプールを見る。泳ぎは得意ではないので行きたいとは思わない。プールサイドが暑いことは知っているが、それでもやはり水の近くを少し羨ましい気持ちで眺めていた。
多少の雨でも水泳部は泳いでいた。威勢のいい応援が聞こえることも何度かあった。プールサイドに、見たくない人物が見える日もあった。
「こら水泳部ー!着替えてきなさい!」
「すいませーんっ」
前方から逃げるように走ってきた姿を見て、反射的に廊下の端に避けた。伊助の隣の友人は、露骨に顔をしかめている。水着にジャージの上着を羽織っただけの水泳部員がふたり、売店から戻る途中のようだ。
すれ違い際にひとりが伊助を見た。伊助が会いたくない人物、池田三郎次。目をそらすのは癪で、一瞥して友人の腕を取る。
「行こ」
「見たくないもん見せられた〜」
「ね、デリカシーのないやつ。無視無視」
友人を連れて売店に向かう。三郎次に聞こえただろうか。どちらでもいい。伊助が意地を張っている間は三郎次が謝ってくることはないだろうが、伊助もまた、謝る気は一切なかった。
それでも毎日プールを見ていた。毎日あまりにも暑いから、冷房もない教室では視覚的に涼を求めなくなるからだ。三郎次のことなど見たくもなかった。
毎日飽きもせず、太陽は地球を焼き尽くさんばかりに日差しを浴びせかけている。まぶしさと暑さに辟易しても補習はなくならず、今日も暑い制服を着て学校へ。
どうして補習なんてものがあるのだろう、夏休みなのに。そのことを三郎次にからかわれたことを思い出して顔をしかめた。どうせお勉強はできませんよ、あのとき返したせりふをまた頭の中で繰り返す。いつも通りのやりとりだったのに、あのときだけ許せなかったのはなぜだろう。
いつもの時間に校門をくぐった。天気予報は今日も真夏日としか言わなくて、あれほど鬱陶しいと思っていた梅雨が恋しくなってくる。
昇降口までも遠く感じながら歩く伊助の隣を誰かが走り抜けた。一瞬であったがこちらを見て通り過ぎて行ったのは、間違いなく三郎次だ。後ろ姿はあっと言う間に昇降口に消えていく。寝坊でもしたのだろうか。ざまあみろ、思わず口角を上げる。
夏休み前にも十分焼けていた三郎次の肌は、また更に夏らしくなっていた。
結局補習の最終日まで、伊助は窓を開け続けていた。軽い窓を開けると熱気をはらんだ風がカーテンを舞い上げる。髪を押さえて身を乗り出し、プールの方を見た。
――そこに見えたものに、硬直する。
隣の教室の窓から、身を乗り出した三郎次が伊助を見ていた。そのずっと遠くで静かなプールの水面が光っている。
「勝ったぞ!」
三郎次の声にはっとした。すぐに教室に入ろうとするのに、睨むような三郎次の視線から逃げられない。
「帰りちゃんと待ってろよ!」
「しっ……知らない!あんな一方的な約束は無効!」
「黙って待ってろブス!」
伊助の反論を許さず、三郎次の方が先に姿を消す。背後で廊下を駆け抜ける足音がした。
日に焼けた肌では顔が赤かったかどうかなんてわからない。それでもその表情を思い出すと、伊助まで恥ずかしくなってくる。
「おはよう伊助」
「おっ、おはよう庄左ヱ門!」
クラスメイトの声に弾かれるように振り返る。その勢いに少し驚いた様子を見せた庄左ヱ門は、特に追求はしなかったが笑顔を見せた。
「ちょっと焼けた?」
「え?」
「顔が赤いよ」
「……ひ、日焼け止め、塗り忘れて」
顔を隠すように踵を返し、他の窓も開けていく。
どうやって三郎次から逃げ出すかを考えて、最後の補習は何も頭に入らなかった。
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