言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.13.Fri
幼い頃は自分がお姫様だと思っていて、いつかすてきな王子様が迎えに来るのだと信じていた。きらきらしたものやふわふわしたものに囲まれていたから、脳味噌までふやけていたのだろう。だからきっと、間違えてあんな男を好きになってしまったのだ。
「嘘つき」
ただいまを言うより早く愚痴をこぼし、兵太夫は蒸し暑い玄関に立ち尽くす。今日は絶対早く帰るから、なんて言葉を、信じていたわけじゃない。毎日同じことを聞かされているのだ。彼の中ではそれは免罪符になっているのだろう。
カーテンの引かれた暗い部屋は、この夜でも気温の下がらない真夏日に1日中締め切られていたので熱気がこもっている。パンプスを脱ぎ捨てて、重たい体をどうにか部屋の中へ運んだ。部屋を満たした生ぬるい空気はまとわりつくようで、思わずブラウスを脱ぎながら歩くが脱いでも大して変わらなかった。
冷房だけは電源を入れ、荷物を投げ捨ててソファーに崩れ込む。横になると寝てしまう気がしてどうにか体は倒さずに、肩を落として深く溜息をついた。化粧を落とさなければ。夕食の支度をして、洗濯も今夜してしまいたい。
同居人は最近忙しい。親の経営する運送業に勤める彼は最近忙しい。大口の契約が結べたのだと、夏に入ってから西へ東へと飛び回っている。夜にはほとんど寝るためだけに帰っては来るが、すでに兵太夫が寝ている時間になっていることもある。嘘をついて遊び回ることができるような性格ではないとわかっているから何を疑うでもないが、こうすれ違いが続いては少し虚しくなることもあった。一緒に住んでいる方が寂しい、なんて。
動かなければ、と思うのに体が重い。もう少し部屋が涼しくなれば楽になるだろう。ドアノブの回る音がして、ひくりと指先が動いたが、顔を向けるのも億劫だった。
「ただいまー!ってあれ?」
1日働いたとは思えない張り切った声が帰ってくる。ぱちりと電気をつけられて、突然の刺激に目を細めた。
「うわっ!びっくりした!兵ちゃん帰ってたんだ、どうしたの電気もつけずに。俺鍵かけるの忘れたかと思ってびっくりしたじゃん」
彼は笑いながら洗濯物を出したり風呂を覗いたりとテキパキ動いている。元気だな、と思うとどこか理不尽な気持ちになった。寂しいと思っているのは自分だけなのだろう。
「兵ちゃーん?……どうした?しんどい?」
やっとこちらに来るその手にはビールがある。ご飯まだ、小さくこぼすが隣に座った彼は気にせずに、缶ビールで冷えた手が兵太夫の額に触れた。
「団蔵」
「どうした?熱はないなぁ。夏バテ?」
「……ちょっと」
「しんどい?食欲は、ないかぁ、なさそうだね。ゼリーでも買ってこようか?」
「……馬鹿」
もたれかかると焦ったように体をかたくした。体重をかけるとそのままずるずると倒れていく団蔵にそって体を倒す。熱い体を下敷きに、このまま眠ってしまいたい。それでも馬鹿にはなれなくて、化粧を落とさなければ、と考えている。団蔵の服にもついてしまう。起きなければ。
どうしたの、優しい声が降った。大きな手が頭を撫でて、我慢できずに振り払う。
「優しくすんな馬鹿!」
「えっ」
絞め殺すイメージで強く抱きしめる。いつだって、まるでたぶらかすように優しいから、この人がいいと思ってしまうのだ。冷静になればただの錯覚だと思うのに。
「遊びたい」
「兵ちゃん?」
「海行きたいお祭り行きたい」
「えーと、兵ちゃん行ってたよね」
「お前と行きたいって言ってんだよ馬鹿!」
憤りに任せて胸を叩く。思いがけない力が入ってしまい、団蔵は低く呻いた。泣きたくないと思うのに、我慢しているうちに夏が終わっていく。
「俺だって」
ゆっくり抱き締められる。汗臭いと思うのに、それに安心している自分がいた。
「兵ちゃんの水着も浴衣も見たかったなぁ」
「……あのさ」
「ん?」
「当たってんだけど……」
「スイマセン……俺だって我慢してんだよぉ」
頭を抱いた手が愛しくてすり寄った。やっぱりちょっと離れて下さい、と押し返されるが、その手を払って抱き直す。
「兵ちゃん、あのね、俺明後日は休みだから」
「明後日三ちゃんとデートだもん」
「うう……」
生殺しだ、と言いながら、頭を撫でてくれる手が優しい。
さっき団蔵が設定していたのか、風呂がわいたことを知らせるメロディーが流れる。
「へ、兵ちゃん、お風呂行っといで!俺ぱっと走って晩飯買ってくるから!」
「……連れてって」
「はいはいっ」
わざとひょうきんに振る舞って、体を起こした団蔵は兵太夫を抱き上げる。軽々といわゆるお姫様抱っこで抱いた兵太夫を連れて、団蔵は浴室に向かった。バスマットの上に降ろされてから、自分がブラウスを脱いだみっともない姿だったことを思い出す。お姫様とは程遠い。
「一緒に入る?」
「入りたいッ……けど、明日、明日お願いします!俺明日4時起きだし!」
「やだ。一緒がいい」
お姫様にはなれなかったし、王子様も現れなかった。
それでも兵太夫が手を引けば、甘えさせてくれる人がいる。真っ赤になった彼を見るのは久しぶりで、羞恥心など忘れてしまった。
「嘘つき」
ただいまを言うより早く愚痴をこぼし、兵太夫は蒸し暑い玄関に立ち尽くす。今日は絶対早く帰るから、なんて言葉を、信じていたわけじゃない。毎日同じことを聞かされているのだ。彼の中ではそれは免罪符になっているのだろう。
カーテンの引かれた暗い部屋は、この夜でも気温の下がらない真夏日に1日中締め切られていたので熱気がこもっている。パンプスを脱ぎ捨てて、重たい体をどうにか部屋の中へ運んだ。部屋を満たした生ぬるい空気はまとわりつくようで、思わずブラウスを脱ぎながら歩くが脱いでも大して変わらなかった。
冷房だけは電源を入れ、荷物を投げ捨ててソファーに崩れ込む。横になると寝てしまう気がしてどうにか体は倒さずに、肩を落として深く溜息をついた。化粧を落とさなければ。夕食の支度をして、洗濯も今夜してしまいたい。
同居人は最近忙しい。親の経営する運送業に勤める彼は最近忙しい。大口の契約が結べたのだと、夏に入ってから西へ東へと飛び回っている。夜にはほとんど寝るためだけに帰っては来るが、すでに兵太夫が寝ている時間になっていることもある。嘘をついて遊び回ることができるような性格ではないとわかっているから何を疑うでもないが、こうすれ違いが続いては少し虚しくなることもあった。一緒に住んでいる方が寂しい、なんて。
動かなければ、と思うのに体が重い。もう少し部屋が涼しくなれば楽になるだろう。ドアノブの回る音がして、ひくりと指先が動いたが、顔を向けるのも億劫だった。
「ただいまー!ってあれ?」
1日働いたとは思えない張り切った声が帰ってくる。ぱちりと電気をつけられて、突然の刺激に目を細めた。
「うわっ!びっくりした!兵ちゃん帰ってたんだ、どうしたの電気もつけずに。俺鍵かけるの忘れたかと思ってびっくりしたじゃん」
彼は笑いながら洗濯物を出したり風呂を覗いたりとテキパキ動いている。元気だな、と思うとどこか理不尽な気持ちになった。寂しいと思っているのは自分だけなのだろう。
「兵ちゃーん?……どうした?しんどい?」
やっとこちらに来るその手にはビールがある。ご飯まだ、小さくこぼすが隣に座った彼は気にせずに、缶ビールで冷えた手が兵太夫の額に触れた。
「団蔵」
「どうした?熱はないなぁ。夏バテ?」
「……ちょっと」
「しんどい?食欲は、ないかぁ、なさそうだね。ゼリーでも買ってこようか?」
「……馬鹿」
もたれかかると焦ったように体をかたくした。体重をかけるとそのままずるずると倒れていく団蔵にそって体を倒す。熱い体を下敷きに、このまま眠ってしまいたい。それでも馬鹿にはなれなくて、化粧を落とさなければ、と考えている。団蔵の服にもついてしまう。起きなければ。
どうしたの、優しい声が降った。大きな手が頭を撫でて、我慢できずに振り払う。
「優しくすんな馬鹿!」
「えっ」
絞め殺すイメージで強く抱きしめる。いつだって、まるでたぶらかすように優しいから、この人がいいと思ってしまうのだ。冷静になればただの錯覚だと思うのに。
「遊びたい」
「兵ちゃん?」
「海行きたいお祭り行きたい」
「えーと、兵ちゃん行ってたよね」
「お前と行きたいって言ってんだよ馬鹿!」
憤りに任せて胸を叩く。思いがけない力が入ってしまい、団蔵は低く呻いた。泣きたくないと思うのに、我慢しているうちに夏が終わっていく。
「俺だって」
ゆっくり抱き締められる。汗臭いと思うのに、それに安心している自分がいた。
「兵ちゃんの水着も浴衣も見たかったなぁ」
「……あのさ」
「ん?」
「当たってんだけど……」
「スイマセン……俺だって我慢してんだよぉ」
頭を抱いた手が愛しくてすり寄った。やっぱりちょっと離れて下さい、と押し返されるが、その手を払って抱き直す。
「兵ちゃん、あのね、俺明後日は休みだから」
「明後日三ちゃんとデートだもん」
「うう……」
生殺しだ、と言いながら、頭を撫でてくれる手が優しい。
さっき団蔵が設定していたのか、風呂がわいたことを知らせるメロディーが流れる。
「へ、兵ちゃん、お風呂行っといで!俺ぱっと走って晩飯買ってくるから!」
「……連れてって」
「はいはいっ」
わざとひょうきんに振る舞って、体を起こした団蔵は兵太夫を抱き上げる。軽々といわゆるお姫様抱っこで抱いた兵太夫を連れて、団蔵は浴室に向かった。バスマットの上に降ろされてから、自分がブラウスを脱いだみっともない姿だったことを思い出す。お姫様とは程遠い。
「一緒に入る?」
「入りたいッ……けど、明日、明日お願いします!俺明日4時起きだし!」
「やだ。一緒がいい」
お姫様にはなれなかったし、王子様も現れなかった。
それでも兵太夫が手を引けば、甘えさせてくれる人がいる。真っ赤になった彼を見るのは久しぶりで、羞恥心など忘れてしまった。
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