言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.21.Sat
「捕まえたっ!」
竹谷が飛びかかると子狼は甲高く鳴いた。その口を素早くつかみ、暴れる獣を抑え込む。背を撫でてやればやがて大人しくなり、いい子だ、と褒めてやってから手を離す。荒い息のまま竹谷を見つめている子狼を笑って、膝の間に入れて撫でまわした。甘えるような声がくすぐったい。
「早く走れるようになったなぁ。どうなることかと思ったけど、お前もちゃんと狼だってことだ」
話しかけながら、まるで犬のようにじゃれてくる狼に苦笑した。兄弟の中では一番小柄で、どうも甘やかしてしまう。子狼の育て方をきちんと教わっておくべきだった、と卒業した先輩のことを思い返すが、過ぎた時間は戻らない。
「よし、帰るぞ」
立ち上がって歩き出すと、狼は大人しく竹谷についてくる。裏山を走っていたつもりだったが、いつの間にか裏々山辺りまで来てしまってる。ふと耳に入る音に辺りを見れば、キツツキの姿があった。小刻みに気を叩く姿は愛らしく、後輩たちに見せてやりたいなぁなどと思う。一年生は今揃って演習で海に行っているはずだ。またいつもの学園長先生の突然の思いつきだ。さて今度は何を食べたがっているのだろうか。
そんな余計なことを考えながら歩いていたせいだろうか、道なき道で迷ってしまった。辺りの木々に見覚えはある気はするのだが、思い浮かぶ帰路を辿って歩いても違うところに着いてしまう。
そうしているうちに日も落ちてしまい、夜に動くのは諦めることにした。たまごとはいえ竹谷も忍者、夜は恐ろしいものではない。自分ひとりならば歩き続けても構わないが、今はまだ若い狼と一緒だ。下手に野生の群れにでも遭遇するといらぬ戦いをすることになる。手頃な木の側で休むことを決めて、寄り添う獣を抱いて目を閉じた。
鳥の声で目が覚めた。と同時に、側にいたはずの子狼がまた逃げ出していることに気がつき、立ち上がる。まだ温もりが残っているので、さほど遠くへは行っていないだろう。朝も早くから蝉の大合唱が響く森の中を、竹谷は溜息をついて歩き出した。あまり遅くなると仕事がどんどん溜まってしまう。生き物がざわつく気配を探りながら、大体の見当をつけた。猫柳がその愛らしい穂を揺らしている。いい季節だ。
森を歩くのを楽しんでいると、小さく動く影を見つけた。悪戯好きの子狼だ。気配を殺し、音も極力させずに近づいていく。機嫌よく揺れる太い尻尾の先に、トンボがぶつかりそうになった。パリッと気持ちよく空気を切り、それが飛んでいった瞬間、狼が耳を揺らす。それとほぼ同時に背中に飛びついた。どうにか抱え込める大きさの獣の口を押さえ、低い唸り声をあげてあばれているのをどうにか制御する。声をかけ続けているとようやく落ち着いて、手を離して謝りながら首回りを撫でてやった。
「ったく、手間かけさせんなよ」
とはいえその成長は少し嬉しい。親を亡くして鳴いていたのを連れてきた形になり、初めは随分衰弱していたのだ。立派な狼にしてみせるからな、と背を撫で、さぁ、と声をかける。
「学園に帰るぞ」
何事にも巻き込まれていなければ、そろそろ学園長先生の突然の思いつきで海に行った一年生たちが帰ってきているだろう。紫陽花の咲き誇る辺りを抜けて学園に向かったが、竹谷が思っている場所に出ない。裏山を走っていたつもりが、いつの間にか裏々山に来ていたのだろうか。知っているような気がするあたりなのだが、竹谷の思う位置と少しずれているようだ。
子狼は遊びと勘違いしているのか、跳ねるように竹谷の足元にまとわりつきながらついてくる。水仙を踏み荒らすので笑って制した。そうかと思えば舞うように近づいてくるアゲハチョウを捕まえようと飛び跳ねる。元気な子だ。竹谷も疲れているわけではないが、とても遊ぶ気にはなれない。
歩いても歩いてもこれとはっきりわかる場所には出ず、そうこうするうちに緩やかに日が沈んでいく。空に浮かぶ月を見上げ、明るい満月に溜息をついた。こんなに明るい夜に動いて、他の群れに目をつけられてはたまらない。散々遊んだ子狼を抱え込み、今日は野営をすることにした。そう冷え込むわけでもないし、なによりこの獣は熱いほどだ。どこからともなく鈴虫の心地よい鳴き声が聞こえてくる。たまにはこんな夜も悪くない。
気持ちのいい朝だった。子狼に顔を舐められて目を開ける。近くに沢を見つけて顔を洗った。赤い沢蟹を見て頬を緩める。さあ、帰ろうか、と子狼を撫でて歩き出した。そろそろ演習へ行った一年生が帰ってきているかもしれない。学園長先生の突然の思いつきのおかげで生物委員は人手が足りなくて大変なのだ。早く帰らなければ。
金木犀が香る森を抜けて学園に向かう。どこからか桜の花びらが飛んできて、少し浮かれた気分になった。子狼も飛び跳ねるように竹谷の前を進んでいく。ふと見た足元に立派なキノコを見つけ、今度用意をして取りに来ようと思った。
ぴくん、と子狼が顔を上げた。次の瞬間地を蹴って駆けだす。油断していた竹谷は遅れて追いかけた。ドクダミを踏み分けて追う小さな背中は早い。自然の生き物を追いかけるのは一瞬たりとも気が抜けず、途中何を払ったかもうわからない。子狼が向かう先に鹿の姿を見つけ、竹谷は覚悟を決めて獣に飛びつく。高い鳴き声で獲物は逃げていき、暴れる四肢が大人しくなるまで抱え込んだ。幼いとはいえ鋭い牙と爪を持つ。どうにか落ち着いてくれた後、ゆっくり手を離して大きく息をついた。
「はー、帰ったら飯にするから、遊ぶならおれにしてくれ」
背を叩き、再び歩き出す。ざわついた森はすっかり生き物の気配が離れてしまった。気を取り直して学園へ向かう。少し遠くまで来てしまったが、このまま行けばそう時間もかかるまい。足元に芽吹くフキノトウを横目に進むのは知った道だ。そう思って歩いていたが、よそ見をしすぎたか、少し逸れてしまったようだ。
軌道修正していると、誰かに声をかけられる。少し警戒した子狼をなだめてその人を見ると、修業中の山伏のようだった。道に迷って森から抜けられなくなったのだという。それなら一緒に、ということになり、直接学園に向かうのはやめてふもとを目指すことにした。
「あなたは、森から出られますか?」
妙に神妙に男が言うので竹谷は思わず笑い飛ばす。自分にとっては庭のような場所だ。
「すぐ抜けられますよ」
「そうですか……私はもう、何日も迷っておりました」
「まさか、そんなに深い山じゃないでしょう。化かされているのならいざ知らず」
竹谷の軽い口調に彼は複雑そうにしていた。きっと慣れていないのだろう。
「あ、ほら、もうすぐそこですよ」
辺りが明るくなり、すっと森が切れる。その太陽の下に出た瞬間、竹谷はめまいに襲われ膝をついた。
「竹谷ッ!」
崩れ落ちそうな体を、たくましい腕が抱きとめる。直接頭に響く大きな声。名前を呼ぼうとするが、喉の奥が焼けつくようで、かすれた息が漏れるだけだ。七松がどうしてここにいるのだろうか。しかし考える余裕はなく、体にのしかかるような疲労に襲われて指先ひとつ動かせない。
「生きてるな!?」
ゆすぶられて頭ががくがくと振り回される。どうにか顔を上げて七松を見ると彼は安堵の息を吐き、強く竹谷を抱きしめる。とにかく水を、と差しだされ竹筒を持つこともできず、飲ませてもらいどうにか喉を潤した。
「――あの、これは」
「お前が帰ってこないから、みんなで探していたんだ」
「まさか、一晩ぐらいで大げさな」
「何を言っている。お前が帰らなくなって5日だ」
「……え?」
慣れた裏山に、後輩を迎えに行っただけだ。早く帰れと声をかけ、それから――それから、自分は何をしていたのだろうか。自分を強く抱く七松の力は痛いほどだったが、彼がそうするのは自分の体が震えているからだと気がついた。
「帰るぞ」
七松の頬に伝う汗を見上げ、竹谷は黙って頷いた。
竹谷が飛びかかると子狼は甲高く鳴いた。その口を素早くつかみ、暴れる獣を抑え込む。背を撫でてやればやがて大人しくなり、いい子だ、と褒めてやってから手を離す。荒い息のまま竹谷を見つめている子狼を笑って、膝の間に入れて撫でまわした。甘えるような声がくすぐったい。
「早く走れるようになったなぁ。どうなることかと思ったけど、お前もちゃんと狼だってことだ」
話しかけながら、まるで犬のようにじゃれてくる狼に苦笑した。兄弟の中では一番小柄で、どうも甘やかしてしまう。子狼の育て方をきちんと教わっておくべきだった、と卒業した先輩のことを思い返すが、過ぎた時間は戻らない。
「よし、帰るぞ」
立ち上がって歩き出すと、狼は大人しく竹谷についてくる。裏山を走っていたつもりだったが、いつの間にか裏々山辺りまで来てしまってる。ふと耳に入る音に辺りを見れば、キツツキの姿があった。小刻みに気を叩く姿は愛らしく、後輩たちに見せてやりたいなぁなどと思う。一年生は今揃って演習で海に行っているはずだ。またいつもの学園長先生の突然の思いつきだ。さて今度は何を食べたがっているのだろうか。
そんな余計なことを考えながら歩いていたせいだろうか、道なき道で迷ってしまった。辺りの木々に見覚えはある気はするのだが、思い浮かぶ帰路を辿って歩いても違うところに着いてしまう。
そうしているうちに日も落ちてしまい、夜に動くのは諦めることにした。たまごとはいえ竹谷も忍者、夜は恐ろしいものではない。自分ひとりならば歩き続けても構わないが、今はまだ若い狼と一緒だ。下手に野生の群れにでも遭遇するといらぬ戦いをすることになる。手頃な木の側で休むことを決めて、寄り添う獣を抱いて目を閉じた。
鳥の声で目が覚めた。と同時に、側にいたはずの子狼がまた逃げ出していることに気がつき、立ち上がる。まだ温もりが残っているので、さほど遠くへは行っていないだろう。朝も早くから蝉の大合唱が響く森の中を、竹谷は溜息をついて歩き出した。あまり遅くなると仕事がどんどん溜まってしまう。生き物がざわつく気配を探りながら、大体の見当をつけた。猫柳がその愛らしい穂を揺らしている。いい季節だ。
森を歩くのを楽しんでいると、小さく動く影を見つけた。悪戯好きの子狼だ。気配を殺し、音も極力させずに近づいていく。機嫌よく揺れる太い尻尾の先に、トンボがぶつかりそうになった。パリッと気持ちよく空気を切り、それが飛んでいった瞬間、狼が耳を揺らす。それとほぼ同時に背中に飛びついた。どうにか抱え込める大きさの獣の口を押さえ、低い唸り声をあげてあばれているのをどうにか制御する。声をかけ続けているとようやく落ち着いて、手を離して謝りながら首回りを撫でてやった。
「ったく、手間かけさせんなよ」
とはいえその成長は少し嬉しい。親を亡くして鳴いていたのを連れてきた形になり、初めは随分衰弱していたのだ。立派な狼にしてみせるからな、と背を撫で、さぁ、と声をかける。
「学園に帰るぞ」
何事にも巻き込まれていなければ、そろそろ学園長先生の突然の思いつきで海に行った一年生たちが帰ってきているだろう。紫陽花の咲き誇る辺りを抜けて学園に向かったが、竹谷が思っている場所に出ない。裏山を走っていたつもりが、いつの間にか裏々山に来ていたのだろうか。知っているような気がするあたりなのだが、竹谷の思う位置と少しずれているようだ。
子狼は遊びと勘違いしているのか、跳ねるように竹谷の足元にまとわりつきながらついてくる。水仙を踏み荒らすので笑って制した。そうかと思えば舞うように近づいてくるアゲハチョウを捕まえようと飛び跳ねる。元気な子だ。竹谷も疲れているわけではないが、とても遊ぶ気にはなれない。
歩いても歩いてもこれとはっきりわかる場所には出ず、そうこうするうちに緩やかに日が沈んでいく。空に浮かぶ月を見上げ、明るい満月に溜息をついた。こんなに明るい夜に動いて、他の群れに目をつけられてはたまらない。散々遊んだ子狼を抱え込み、今日は野営をすることにした。そう冷え込むわけでもないし、なによりこの獣は熱いほどだ。どこからともなく鈴虫の心地よい鳴き声が聞こえてくる。たまにはこんな夜も悪くない。
気持ちのいい朝だった。子狼に顔を舐められて目を開ける。近くに沢を見つけて顔を洗った。赤い沢蟹を見て頬を緩める。さあ、帰ろうか、と子狼を撫でて歩き出した。そろそろ演習へ行った一年生が帰ってきているかもしれない。学園長先生の突然の思いつきのおかげで生物委員は人手が足りなくて大変なのだ。早く帰らなければ。
金木犀が香る森を抜けて学園に向かう。どこからか桜の花びらが飛んできて、少し浮かれた気分になった。子狼も飛び跳ねるように竹谷の前を進んでいく。ふと見た足元に立派なキノコを見つけ、今度用意をして取りに来ようと思った。
ぴくん、と子狼が顔を上げた。次の瞬間地を蹴って駆けだす。油断していた竹谷は遅れて追いかけた。ドクダミを踏み分けて追う小さな背中は早い。自然の生き物を追いかけるのは一瞬たりとも気が抜けず、途中何を払ったかもうわからない。子狼が向かう先に鹿の姿を見つけ、竹谷は覚悟を決めて獣に飛びつく。高い鳴き声で獲物は逃げていき、暴れる四肢が大人しくなるまで抱え込んだ。幼いとはいえ鋭い牙と爪を持つ。どうにか落ち着いてくれた後、ゆっくり手を離して大きく息をついた。
「はー、帰ったら飯にするから、遊ぶならおれにしてくれ」
背を叩き、再び歩き出す。ざわついた森はすっかり生き物の気配が離れてしまった。気を取り直して学園へ向かう。少し遠くまで来てしまったが、このまま行けばそう時間もかかるまい。足元に芽吹くフキノトウを横目に進むのは知った道だ。そう思って歩いていたが、よそ見をしすぎたか、少し逸れてしまったようだ。
軌道修正していると、誰かに声をかけられる。少し警戒した子狼をなだめてその人を見ると、修業中の山伏のようだった。道に迷って森から抜けられなくなったのだという。それなら一緒に、ということになり、直接学園に向かうのはやめてふもとを目指すことにした。
「あなたは、森から出られますか?」
妙に神妙に男が言うので竹谷は思わず笑い飛ばす。自分にとっては庭のような場所だ。
「すぐ抜けられますよ」
「そうですか……私はもう、何日も迷っておりました」
「まさか、そんなに深い山じゃないでしょう。化かされているのならいざ知らず」
竹谷の軽い口調に彼は複雑そうにしていた。きっと慣れていないのだろう。
「あ、ほら、もうすぐそこですよ」
辺りが明るくなり、すっと森が切れる。その太陽の下に出た瞬間、竹谷はめまいに襲われ膝をついた。
「竹谷ッ!」
崩れ落ちそうな体を、たくましい腕が抱きとめる。直接頭に響く大きな声。名前を呼ぼうとするが、喉の奥が焼けつくようで、かすれた息が漏れるだけだ。七松がどうしてここにいるのだろうか。しかし考える余裕はなく、体にのしかかるような疲労に襲われて指先ひとつ動かせない。
「生きてるな!?」
ゆすぶられて頭ががくがくと振り回される。どうにか顔を上げて七松を見ると彼は安堵の息を吐き、強く竹谷を抱きしめる。とにかく水を、と差しだされ竹筒を持つこともできず、飲ませてもらいどうにか喉を潤した。
「――あの、これは」
「お前が帰ってこないから、みんなで探していたんだ」
「まさか、一晩ぐらいで大げさな」
「何を言っている。お前が帰らなくなって5日だ」
「……え?」
慣れた裏山に、後輩を迎えに行っただけだ。早く帰れと声をかけ、それから――それから、自分は何をしていたのだろうか。自分を強く抱く七松の力は痛いほどだったが、彼がそうするのは自分の体が震えているからだと気がついた。
「帰るぞ」
七松の頬に伝う汗を見上げ、竹谷は黙って頷いた。
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