言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.06.Fri
「ご飯できたよ」
「ああ」
アルミンが声をかけたが、珍しくジャンは本に集中している。先日ジャンの部屋に新しく来たアルミラックは、先日棚が抜け落ちた古い本棚から教訓を得たものだが、今その一角をアルミンの本が占めていた。昔の教材だが気に入っているものや、単純に昔から好きな本などを少しずつ持ち込んでいる。自室が本で溢れそうだというとジャンが少しぐらいなら持ってきてもいいと言ってくれたので、その言葉に甘えていた。時々、暇を持て余したジャンがそれらを開いているのを知っている。
台所に立つアルミンからは、ソファーに座るジャンが今何を読んでいるのかは見えない。しかし文字列に向けられた静かな瞳や俯く横顔に、思わず口元を緩めた。読書は嫌いではないと言っていた。それでも、アルミンが本が好きだと知ってから、ジャンが本を読む姿を見ることが増えたのが素直に嬉しい。読んだ本について共有できることはもちろん、ジャンがアルミンに歩み寄ってくれるのが何よりも嬉しかった。
カラフルなサラダとメインの料理を皿に盛りつける。ひとり暮らしのジャンの部屋に来ることが増えて、一緒に食事をとることが増えて、どれぐらい経つだろう。一緒に買い物に行ってふたりで台所に立つこともあるし、今日のようにアルミンひとりで、またはジャンがひとりで作ることもある。ジャンの料理は大雑把ではあるが人に振る舞うには十分で、以外にも家庭的な面があるのだと思ったことはまだ記憶に新しい。
「ジャン」
「ん」
返事はするから、わかってはいるのだろう。それでも文字が自分を引きつけてやまない感覚を、アルミンは知っている。それ以上呼ばずにローテーブルを拭いて皿を並べた。
ジャンはこうして、好きになった相手に染まっていくのだろうか。
静かな食器の音を聞きながら、少しだけ頭をもたげる感情がある。アルミンと出会う前、ジャンは時間を共にした人がいた。彼女は、あるいは彼女たちは、ジャンにどんな影響を与えたのだろう。ジャンとどのように過ごしたのだろう。誰かを好きになるという経験が初めてのアルミンには、それを尋ねていいものかどうかもわからない。知りたくもあるし、知りたくないことでもある。もし比べられているのなら、自分の評価はどれほどのものなのだろうか。
周りの友人たちは恋の話に一喜一憂していたけれど、もし自分の立場ならもっと冷静でいられると思っていた。しかし実際は恋に溺れたアルミンも彼女たちと何も変わらず、テキストのない問題に己だけで立ち向かわなければならない状況に戸惑っている。手を伸ばせば温もりを与えてくれる存在になり得たことだけでもまだ信じられなかった。
テーブルの用意も済んで、アルミンはジャンの足元に座り込んだ。膝に頭を預けると、こちらを見ないままだが優しく髪を撫でられる。目を閉じてそれ受け入れ、もうしばらく待つとジャンはやっと本を閉じた。
「悪い」
「ううん。面白い?」
「ああ」
「残念だけど、続きはご飯の後で」
笑って手を引けばジャンは素直にソファーを降りて、テーブルの前に座りなおした。ふたりで手を合わせて、夕食を食べ始める。食事中のジャンは読書中の静かさとは違い、決して賑やかではないが適度な会話でアルミンを飽きさせない。仕事中にあったことやテレビで見た話、アルミンの話からまた発展させて、会話は続く。アルミンも話をすることは嫌いではないが冗談を言えるタチでもなく、知識にも偏りがあるのでジャンとの会話は新鮮だ。
ジャンの口元に視線を落とす。好き嫌いはない。甘いものは好きではないが嫌いでもない。辛いものはアルミンよりは得意。一緒に食事をするだけでいろんなことを知る。恋人と言う関係になってもなかなか都合が合わず、デートなどはできていないが、アルミンはできるだけジャンのそばにいた。
一緒に食事をした時間は、ジャンの肉体になる。もうひと月は経っただろうか。ジャンの体は、どれぐらいアルミンと過ごした時間になっているだろう。同じだけ、アルミンの体もそうなっている。
話をしても、触れあっても、まだ時々不安になるのはアルミンだけなのだろうか。ジャンが以前つき合っていた女性を別れた理由は知らないけれど、それはジャンのように魅力的な男でも何かのきっかけで誰かと縁が切れることもあるということだ。それは、ジャンとアルミンの別れが来ることもあり得るということだ。
もしその日が来ても、しばらくはジャンの体にアルミンと過ごした時間が残る。
箸を扱うその指先に触れられたいと思い、食事中だと自分を制する。それでも、少しの期待を押さえられない。本の続きを後にしてほしいと願うのはわがままだろうか。ここにあるアルミンの本は是非ジャンにも読んでほしいものばかりで、手に取ってくれることは嬉しいことだ。それでもまだ、欲を出す。
テーブルの下で何かが膝に触れて飛び上がる。勢いでテーブルに膝をぶつけて食器が鳴った。痛みに耐えて悶えていると、正面のジャンが笑い声をあげる。膝を撫でたジャンの足を蹴り返すが簡単に押さえつけられた。重たい足が乗せられると動かせなくて、悔しくてジャンを睨むが涼しい顔で食事を再開している。
「ジャンの馬鹿」
「飯食いながらなんて顔してんだよ」
「……どんな顔してた?」
ジャンが笑う。それはとても食事中とは思えない。耳まで熱くなって俯いて、アルミンも箸を握るが、うまく飲み込める気がしなかった。
全部見透かされてしまう。アルミンの思いは、ジャンにどれほど筒抜けなのだろう。つまらない過去への嫉妬も見抜かれているのだとしたら恥ずかしいどころではない。そんな男を選んで、ジャンは後悔しないだろうか。
アルミンの思考はいつも、ジャンの体温で遮られる。テーブルの下で触れる熱に、ただ耐えて口を開いた。
「ああ」
アルミンが声をかけたが、珍しくジャンは本に集中している。先日ジャンの部屋に新しく来たアルミラックは、先日棚が抜け落ちた古い本棚から教訓を得たものだが、今その一角をアルミンの本が占めていた。昔の教材だが気に入っているものや、単純に昔から好きな本などを少しずつ持ち込んでいる。自室が本で溢れそうだというとジャンが少しぐらいなら持ってきてもいいと言ってくれたので、その言葉に甘えていた。時々、暇を持て余したジャンがそれらを開いているのを知っている。
台所に立つアルミンからは、ソファーに座るジャンが今何を読んでいるのかは見えない。しかし文字列に向けられた静かな瞳や俯く横顔に、思わず口元を緩めた。読書は嫌いではないと言っていた。それでも、アルミンが本が好きだと知ってから、ジャンが本を読む姿を見ることが増えたのが素直に嬉しい。読んだ本について共有できることはもちろん、ジャンがアルミンに歩み寄ってくれるのが何よりも嬉しかった。
カラフルなサラダとメインの料理を皿に盛りつける。ひとり暮らしのジャンの部屋に来ることが増えて、一緒に食事をとることが増えて、どれぐらい経つだろう。一緒に買い物に行ってふたりで台所に立つこともあるし、今日のようにアルミンひとりで、またはジャンがひとりで作ることもある。ジャンの料理は大雑把ではあるが人に振る舞うには十分で、以外にも家庭的な面があるのだと思ったことはまだ記憶に新しい。
「ジャン」
「ん」
返事はするから、わかってはいるのだろう。それでも文字が自分を引きつけてやまない感覚を、アルミンは知っている。それ以上呼ばずにローテーブルを拭いて皿を並べた。
ジャンはこうして、好きになった相手に染まっていくのだろうか。
静かな食器の音を聞きながら、少しだけ頭をもたげる感情がある。アルミンと出会う前、ジャンは時間を共にした人がいた。彼女は、あるいは彼女たちは、ジャンにどんな影響を与えたのだろう。ジャンとどのように過ごしたのだろう。誰かを好きになるという経験が初めてのアルミンには、それを尋ねていいものかどうかもわからない。知りたくもあるし、知りたくないことでもある。もし比べられているのなら、自分の評価はどれほどのものなのだろうか。
周りの友人たちは恋の話に一喜一憂していたけれど、もし自分の立場ならもっと冷静でいられると思っていた。しかし実際は恋に溺れたアルミンも彼女たちと何も変わらず、テキストのない問題に己だけで立ち向かわなければならない状況に戸惑っている。手を伸ばせば温もりを与えてくれる存在になり得たことだけでもまだ信じられなかった。
テーブルの用意も済んで、アルミンはジャンの足元に座り込んだ。膝に頭を預けると、こちらを見ないままだが優しく髪を撫でられる。目を閉じてそれ受け入れ、もうしばらく待つとジャンはやっと本を閉じた。
「悪い」
「ううん。面白い?」
「ああ」
「残念だけど、続きはご飯の後で」
笑って手を引けばジャンは素直にソファーを降りて、テーブルの前に座りなおした。ふたりで手を合わせて、夕食を食べ始める。食事中のジャンは読書中の静かさとは違い、決して賑やかではないが適度な会話でアルミンを飽きさせない。仕事中にあったことやテレビで見た話、アルミンの話からまた発展させて、会話は続く。アルミンも話をすることは嫌いではないが冗談を言えるタチでもなく、知識にも偏りがあるのでジャンとの会話は新鮮だ。
ジャンの口元に視線を落とす。好き嫌いはない。甘いものは好きではないが嫌いでもない。辛いものはアルミンよりは得意。一緒に食事をするだけでいろんなことを知る。恋人と言う関係になってもなかなか都合が合わず、デートなどはできていないが、アルミンはできるだけジャンのそばにいた。
一緒に食事をした時間は、ジャンの肉体になる。もうひと月は経っただろうか。ジャンの体は、どれぐらいアルミンと過ごした時間になっているだろう。同じだけ、アルミンの体もそうなっている。
話をしても、触れあっても、まだ時々不安になるのはアルミンだけなのだろうか。ジャンが以前つき合っていた女性を別れた理由は知らないけれど、それはジャンのように魅力的な男でも何かのきっかけで誰かと縁が切れることもあるということだ。それは、ジャンとアルミンの別れが来ることもあり得るということだ。
もしその日が来ても、しばらくはジャンの体にアルミンと過ごした時間が残る。
箸を扱うその指先に触れられたいと思い、食事中だと自分を制する。それでも、少しの期待を押さえられない。本の続きを後にしてほしいと願うのはわがままだろうか。ここにあるアルミンの本は是非ジャンにも読んでほしいものばかりで、手に取ってくれることは嬉しいことだ。それでもまだ、欲を出す。
テーブルの下で何かが膝に触れて飛び上がる。勢いでテーブルに膝をぶつけて食器が鳴った。痛みに耐えて悶えていると、正面のジャンが笑い声をあげる。膝を撫でたジャンの足を蹴り返すが簡単に押さえつけられた。重たい足が乗せられると動かせなくて、悔しくてジャンを睨むが涼しい顔で食事を再開している。
「ジャンの馬鹿」
「飯食いながらなんて顔してんだよ」
「……どんな顔してた?」
ジャンが笑う。それはとても食事中とは思えない。耳まで熱くなって俯いて、アルミンも箸を握るが、うまく飲み込める気がしなかった。
全部見透かされてしまう。アルミンの思いは、ジャンにどれほど筒抜けなのだろう。つまらない過去への嫉妬も見抜かれているのだとしたら恥ずかしいどころではない。そんな男を選んで、ジャンは後悔しないだろうか。
アルミンの思考はいつも、ジャンの体温で遮られる。テーブルの下で触れる熱に、ただ耐えて口を開いた。
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