言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'09.10.Tue
何かの気配を感じて目が覚めた。首の辺りを何かが掠め、その感触に反射的に体を起こして首を拭う。虫でも這っているのかと思ったが、悲鳴を上げて転がり落ちたのはもっと大きな塊だ。
ジャンは混乱したままそれを見る。ベッドの上でうごめいているのは、両手に乗るほどの毛玉だった。
――子猫を拾ったんだった。やっと思い出し、ジャンはどきどきとうるさい心臓を押さえて、起き上がれずにばたついている子猫を転がしてやる。離れたところに置いておいたタオルを敷き詰めた段ボールを見たが倒れている様子もなく、一体どうやって出てきたのか、どうやってベッドに登ってきたのか。
カーテンの向こうは既に明るくなっていたのでカーテンを開けた。しかし時間を見ると目覚ましをかけた時間より2時間も早い。昨夜うるさい子猫が眠るまで気にかかって見ていたせいで、やっとジャンが布団に入ったのは2時を過ぎていた。3時間ほどしか寝ていないことになる。
ほんのりと明るいが外は小雨が降っていた。一晩中振り続けていたのだろうか。
ベッドの上で体制を直した子猫は甲高い声で鳴きながら、ジャンの腿へと昇ってくる。登りきったと思えばまだ進み、股間までやってくるので掴みあげてまたベッドに戻す。顎の下を撫でてやるとぐるぐると喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を細めた。
「……眠い」
座ったまま瞼が重くなる。構ってやる手も次第に力が抜け、すっかり止まってしまった指に抗議するように子猫はじゃれついて歯を立てた。遊んでいるような甘噛みは痛くもないが、ジャンはぼんやりと子猫を見てひっくり返してやる。毛の薄い腹を見て、ふと思いついて足の付け根の辺りを探ってみたが性別はよくわからなかった。
子猫がみーみー鳴き続けるのでずっとつついて構っていたが、もしかして餌だろうか、と思い立ち上がる。昨夜エレンが残して行ったドライフードの残りを同様にふやかして、水も一緒に用意して振り返った。歩き出した足元にいつの間にか子猫が転がっていて、危うく踏みそうになって大きくよろける。小皿の水は全てひっくり返ったが、子猫は知らんぷりでジャンの足にまとわりついた。踏み潰しそうになってしまったという衝撃にジャンの心臓はまた乱れ、フローリングに水が広がっていくのを気にするどころではない。
――心臓に悪い。学校の友人たちにも声をかけて、一刻も早く誰かに引き取ってもらおう。
水を入れ直して子猫の側に置くとそちらに向かっていった。さっき零した水をさっさと拭いて猫を見ると、水の皿に前足を突っ込んだのでまたひっくり返った。こいつは水難の相でも出てるのだろうか、と溜息をつき、皿をもっと重たいものに変えようと考える。
「あー……エレンが来る前に風呂……」
スーパーが開いたら来ると行っていた。そのときに一緒に引き取ってくれねえかな、思いながら全てをやる気がなくて、床の上に寝っころがる。もう満足なのか、子猫は餌の皿から離れてジャンの顔の側にやってきた。ふんふんと匂いをかがれて、触れるひげがくすぐったい。子猫の方に顔を倒したが、逃げもせずジャンの匂いを嗅いでいる。
「お前エサくせえなぁ」
猫を好きだという人の気持ちはわかる。しかしやはり世話をするということはできる気がしなかった。小さな舌が鼻をなめる。この野郎、と掴んで遠ざけると、またジャンの手にじゃれ付いて遊び始めた。
きれいな猫だとは思う。エレンが金髪碧眼と褒めていたのを思い出し、顔の前にまた戻すと熱心にジャンを見つめてきた。大きな瞳は透き通ったような青だ。この青を知っている。目を引く蝶の羽、雨上りの紫陽花、姉の指で光る青い石、どこまでも深い海。きっと、青い鳥はこんな青色をしているのだろう。
*
けたたましい携帯の着信音で目を覚ました。床の上で眠ってしまっていたらしい。どこかぎこちない体を無理に起こし、ベッドに置いたままの携帯をどうにか取り上げる。ディスプレイに浮かんでいるのはエレンの名前だ。
「……もしもし」
『おい!どこにいるんだよ!』
「あ?」
『今お前んちの前にいるんだけど!」
「……開ける」
チャイムにも気づかずに寝ていたらしい。のそりと立ち上がって玄関に向かう。ドアを開けるとエレンは仏頂面でジャンを睨むが、何もなくてもジャンに対してはこんな顔だ。
「いるんじゃねえか!」
「寝てたんだよ……」
「猫ちゃんは?」
エレンの甘い声にぞっとする。しかし部屋を振り返って更にぞっとした。
――どこだ?
ジャンが硬直したのを見て、エレンが黙って部屋に入る。勝手にベッドの布団を引きはがしたり棚の隙間を覗いたりしているが、わかりやすいところにはいないらしい。
「ちゃんと見とけよなー」
「寝てたっつってんだろ……」
「あっ、わかった」
部屋の隅に積まれた取り込んだだけの洗濯物を見つけ、エレンはそれを崩していく。何をする、と文句を言いかけたとき、小さな毛玉が布の山から顔を出した。
「おはよー猫ちゃん」
「なんつうとこに……」
「あんな男と添い寝しても楽しくないもんなー」
子猫は初めは寝呆けていたようだが、やがて目を覚まして鳴き始めた。かわいいなあとエレンは遠慮なく頬ずりする。今日はあの凶暴な黒猫は一緒ではないらしい。
「近所には聞いてみたけど、お前の貰い手まだ見つからねえんだ。もうちょっとこの馬面で我慢してくれよー」
「もう置くもん置いてさっさと帰れよ」
「やだ!今日1日猫ちゃんと一緒にいる!」
「キメェんだよ!」
「だってミカサにここにいるから昼飯持って来てって頼んじゃったもん」
「え」
「あ〜かわいいなぁ〜いいなぁ〜うちで飼えたらなぁ〜」
「ちょっと待て、ミカサが来るって?」
「うん」
「おっ、ま……」
ジャンははっと自分を見た。寝起きどころか、昨夜は猫に構っていて風呂も入っていない。
「おっ……オレ風呂入ってくるからそいつ見張ってろよ!」
「はいはい」
エレンはジャンを見なかったが、あの様子なら猫以外に目を向けることはないだろう。ジャンはすぐさま浴室に引きこもる。
ミカサはエレンの幼馴染だ。ジャンがエレンを気に入らない理由のひとつでもある。あの美しい幼馴染がどれほど献身的にエレンに尽くしていても、彼はそれに応えるどころか一切気に留めていないのだ。大学でひと目見たときから彼女に惹かれているジャンから見れば羨ましいことこの上ない。そのミカサが、この部屋に来るという。
シャワーを浴びながら、自分がするべきことを考える。あの洗濯物の山を片づけて、部屋の掃除をして、トイレや台所も――時間がない!
髪も乾かさなければならないのでのんびりはできなかった。早めに切り上げて浴室を出て、とにかく先に部屋を片づけることにする。
「お前何バタバタしてんの?」
「部屋片づけるんだよ!お前は猫構ってろ!」
「うるせえなぁ」
「おいミカサいつ来るんだ!?」
「さぁ、用意できたら来るっつってた」
なんと曖昧なんだろうか。しかしここでエレンともめている時間はない。バタバタと部屋を片付け、掃除機をかけたときに子猫が大騒ぎしていた以外にはスムーズに掃除は進んだ。大方片付いた頃にチャイムが鳴り、ジャンはほっと胸を撫で下ろす。まだ気にかかるところはあるが、概ね許容範囲だろう。
ドアを開けるとミカサが立っている。今日も変わらず美しく、いつもエレンと一緒にいるミカサが自分の部屋のチャイムを鳴らすなんて夢のようだった。彼女の目的がエレンであることを忘れてはいないが、しばらく浸ったって罰は当たらないだろう。
「おはようジャン。休みの日にごめんなさい」
「い、いや、上がれよ。汚いところだけど」
「こいつ今めっちゃ片づけてたから」
「うるっせんんだよお前は!」
余計なことを言うエレンを睨みつける。ミカサはふたりのやり取りにももう慣れているので、靴を脱いできちんとそろえた。ついでにエレンの靴までそろえる仕草が愛しくも憎らしい。
「これ、よかったらお昼に」
「あっ、ありがとな」
「いいえ、大したことは何も」
ミカサに渡された紙袋は、エレンの言っていた昼食らしい。タッパーに入ったそれは、まさか出来合いの品ではないだろう。まさかこんな形でミカサの手料理を食べられることになるとは思わず、昨夜の偶然に感謝する。
「ほら見ろよミカサ、可愛いだろ」
「ほんと、きれいな目」
エレンの側に座ったミカサが子猫に手を伸ばした。指先で猫の額を撫でるミカサはかすかに笑う。笑いかけられたことのないジャンは複雑な気持ちでそれを見て、ぐっとこらえて冷蔵庫を開けた。飲み物を用意して部屋に入ると、子猫はミカサの膝の上で丸くなってその背を撫でてもらっている。子猫になりたい。
「み……ミカサ、猫好きなのか?」
「ええ。……あのエレンにまとわりつく黒猫以外は」
「あぁ、あれすごかったよな……」
「リヴァイもなー、夜寝てるときは比較的大人しいんだけどな」
ジャンはやっとエレンの腕に気づいた。明らかに昨日より傷跡が増えている。あの猫が大人しい様子など想像できなくて、猫でも性格の差と言うのは大きいのだな、と子猫を見る。スカートに毛がつくのもいとわずに子猫を愛でているミカサをずっと眺めておきたい。そしてできればその子猫になりたい。
「うちの近所でもらえる人がいたら、また会いに行けるのになー」
「ジャンが飼うんじゃないの?」
「飼わないんだって」
「そうなの。部屋が駄目なの?」
「い……いや、部屋は大丈夫なんだが、動物を飼ったことがないし……」
「なー、もうジャンが飼っちゃえよ。こいついい子だと思うぜ」
「できる範囲でなら、私も協力するけれど」
ジャンが決断をしたのは一瞬だった。
ジャンは混乱したままそれを見る。ベッドの上でうごめいているのは、両手に乗るほどの毛玉だった。
――子猫を拾ったんだった。やっと思い出し、ジャンはどきどきとうるさい心臓を押さえて、起き上がれずにばたついている子猫を転がしてやる。離れたところに置いておいたタオルを敷き詰めた段ボールを見たが倒れている様子もなく、一体どうやって出てきたのか、どうやってベッドに登ってきたのか。
カーテンの向こうは既に明るくなっていたのでカーテンを開けた。しかし時間を見ると目覚ましをかけた時間より2時間も早い。昨夜うるさい子猫が眠るまで気にかかって見ていたせいで、やっとジャンが布団に入ったのは2時を過ぎていた。3時間ほどしか寝ていないことになる。
ほんのりと明るいが外は小雨が降っていた。一晩中振り続けていたのだろうか。
ベッドの上で体制を直した子猫は甲高い声で鳴きながら、ジャンの腿へと昇ってくる。登りきったと思えばまだ進み、股間までやってくるので掴みあげてまたベッドに戻す。顎の下を撫でてやるとぐるぐると喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を細めた。
「……眠い」
座ったまま瞼が重くなる。構ってやる手も次第に力が抜け、すっかり止まってしまった指に抗議するように子猫はじゃれついて歯を立てた。遊んでいるような甘噛みは痛くもないが、ジャンはぼんやりと子猫を見てひっくり返してやる。毛の薄い腹を見て、ふと思いついて足の付け根の辺りを探ってみたが性別はよくわからなかった。
子猫がみーみー鳴き続けるのでずっとつついて構っていたが、もしかして餌だろうか、と思い立ち上がる。昨夜エレンが残して行ったドライフードの残りを同様にふやかして、水も一緒に用意して振り返った。歩き出した足元にいつの間にか子猫が転がっていて、危うく踏みそうになって大きくよろける。小皿の水は全てひっくり返ったが、子猫は知らんぷりでジャンの足にまとわりついた。踏み潰しそうになってしまったという衝撃にジャンの心臓はまた乱れ、フローリングに水が広がっていくのを気にするどころではない。
――心臓に悪い。学校の友人たちにも声をかけて、一刻も早く誰かに引き取ってもらおう。
水を入れ直して子猫の側に置くとそちらに向かっていった。さっき零した水をさっさと拭いて猫を見ると、水の皿に前足を突っ込んだのでまたひっくり返った。こいつは水難の相でも出てるのだろうか、と溜息をつき、皿をもっと重たいものに変えようと考える。
「あー……エレンが来る前に風呂……」
スーパーが開いたら来ると行っていた。そのときに一緒に引き取ってくれねえかな、思いながら全てをやる気がなくて、床の上に寝っころがる。もう満足なのか、子猫は餌の皿から離れてジャンの顔の側にやってきた。ふんふんと匂いをかがれて、触れるひげがくすぐったい。子猫の方に顔を倒したが、逃げもせずジャンの匂いを嗅いでいる。
「お前エサくせえなぁ」
猫を好きだという人の気持ちはわかる。しかしやはり世話をするということはできる気がしなかった。小さな舌が鼻をなめる。この野郎、と掴んで遠ざけると、またジャンの手にじゃれ付いて遊び始めた。
きれいな猫だとは思う。エレンが金髪碧眼と褒めていたのを思い出し、顔の前にまた戻すと熱心にジャンを見つめてきた。大きな瞳は透き通ったような青だ。この青を知っている。目を引く蝶の羽、雨上りの紫陽花、姉の指で光る青い石、どこまでも深い海。きっと、青い鳥はこんな青色をしているのだろう。
*
けたたましい携帯の着信音で目を覚ました。床の上で眠ってしまっていたらしい。どこかぎこちない体を無理に起こし、ベッドに置いたままの携帯をどうにか取り上げる。ディスプレイに浮かんでいるのはエレンの名前だ。
「……もしもし」
『おい!どこにいるんだよ!』
「あ?」
『今お前んちの前にいるんだけど!」
「……開ける」
チャイムにも気づかずに寝ていたらしい。のそりと立ち上がって玄関に向かう。ドアを開けるとエレンは仏頂面でジャンを睨むが、何もなくてもジャンに対してはこんな顔だ。
「いるんじゃねえか!」
「寝てたんだよ……」
「猫ちゃんは?」
エレンの甘い声にぞっとする。しかし部屋を振り返って更にぞっとした。
――どこだ?
ジャンが硬直したのを見て、エレンが黙って部屋に入る。勝手にベッドの布団を引きはがしたり棚の隙間を覗いたりしているが、わかりやすいところにはいないらしい。
「ちゃんと見とけよなー」
「寝てたっつってんだろ……」
「あっ、わかった」
部屋の隅に積まれた取り込んだだけの洗濯物を見つけ、エレンはそれを崩していく。何をする、と文句を言いかけたとき、小さな毛玉が布の山から顔を出した。
「おはよー猫ちゃん」
「なんつうとこに……」
「あんな男と添い寝しても楽しくないもんなー」
子猫は初めは寝呆けていたようだが、やがて目を覚まして鳴き始めた。かわいいなあとエレンは遠慮なく頬ずりする。今日はあの凶暴な黒猫は一緒ではないらしい。
「近所には聞いてみたけど、お前の貰い手まだ見つからねえんだ。もうちょっとこの馬面で我慢してくれよー」
「もう置くもん置いてさっさと帰れよ」
「やだ!今日1日猫ちゃんと一緒にいる!」
「キメェんだよ!」
「だってミカサにここにいるから昼飯持って来てって頼んじゃったもん」
「え」
「あ〜かわいいなぁ〜いいなぁ〜うちで飼えたらなぁ〜」
「ちょっと待て、ミカサが来るって?」
「うん」
「おっ、ま……」
ジャンははっと自分を見た。寝起きどころか、昨夜は猫に構っていて風呂も入っていない。
「おっ……オレ風呂入ってくるからそいつ見張ってろよ!」
「はいはい」
エレンはジャンを見なかったが、あの様子なら猫以外に目を向けることはないだろう。ジャンはすぐさま浴室に引きこもる。
ミカサはエレンの幼馴染だ。ジャンがエレンを気に入らない理由のひとつでもある。あの美しい幼馴染がどれほど献身的にエレンに尽くしていても、彼はそれに応えるどころか一切気に留めていないのだ。大学でひと目見たときから彼女に惹かれているジャンから見れば羨ましいことこの上ない。そのミカサが、この部屋に来るという。
シャワーを浴びながら、自分がするべきことを考える。あの洗濯物の山を片づけて、部屋の掃除をして、トイレや台所も――時間がない!
髪も乾かさなければならないのでのんびりはできなかった。早めに切り上げて浴室を出て、とにかく先に部屋を片づけることにする。
「お前何バタバタしてんの?」
「部屋片づけるんだよ!お前は猫構ってろ!」
「うるせえなぁ」
「おいミカサいつ来るんだ!?」
「さぁ、用意できたら来るっつってた」
なんと曖昧なんだろうか。しかしここでエレンともめている時間はない。バタバタと部屋を片付け、掃除機をかけたときに子猫が大騒ぎしていた以外にはスムーズに掃除は進んだ。大方片付いた頃にチャイムが鳴り、ジャンはほっと胸を撫で下ろす。まだ気にかかるところはあるが、概ね許容範囲だろう。
ドアを開けるとミカサが立っている。今日も変わらず美しく、いつもエレンと一緒にいるミカサが自分の部屋のチャイムを鳴らすなんて夢のようだった。彼女の目的がエレンであることを忘れてはいないが、しばらく浸ったって罰は当たらないだろう。
「おはようジャン。休みの日にごめんなさい」
「い、いや、上がれよ。汚いところだけど」
「こいつ今めっちゃ片づけてたから」
「うるっせんんだよお前は!」
余計なことを言うエレンを睨みつける。ミカサはふたりのやり取りにももう慣れているので、靴を脱いできちんとそろえた。ついでにエレンの靴までそろえる仕草が愛しくも憎らしい。
「これ、よかったらお昼に」
「あっ、ありがとな」
「いいえ、大したことは何も」
ミカサに渡された紙袋は、エレンの言っていた昼食らしい。タッパーに入ったそれは、まさか出来合いの品ではないだろう。まさかこんな形でミカサの手料理を食べられることになるとは思わず、昨夜の偶然に感謝する。
「ほら見ろよミカサ、可愛いだろ」
「ほんと、きれいな目」
エレンの側に座ったミカサが子猫に手を伸ばした。指先で猫の額を撫でるミカサはかすかに笑う。笑いかけられたことのないジャンは複雑な気持ちでそれを見て、ぐっとこらえて冷蔵庫を開けた。飲み物を用意して部屋に入ると、子猫はミカサの膝の上で丸くなってその背を撫でてもらっている。子猫になりたい。
「み……ミカサ、猫好きなのか?」
「ええ。……あのエレンにまとわりつく黒猫以外は」
「あぁ、あれすごかったよな……」
「リヴァイもなー、夜寝てるときは比較的大人しいんだけどな」
ジャンはやっとエレンの腕に気づいた。明らかに昨日より傷跡が増えている。あの猫が大人しい様子など想像できなくて、猫でも性格の差と言うのは大きいのだな、と子猫を見る。スカートに毛がつくのもいとわずに子猫を愛でているミカサをずっと眺めておきたい。そしてできればその子猫になりたい。
「うちの近所でもらえる人がいたら、また会いに行けるのになー」
「ジャンが飼うんじゃないの?」
「飼わないんだって」
「そうなの。部屋が駄目なの?」
「い……いや、部屋は大丈夫なんだが、動物を飼ったことがないし……」
「なー、もうジャンが飼っちゃえよ。こいついい子だと思うぜ」
「できる範囲でなら、私も協力するけれど」
ジャンが決断をしたのは一瞬だった。
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