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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'09.05.Thu
「おはようございます!」

(おはようございます)

「暑いっすね。あ、車で行きます」

カメラに向かって笑いかけ、竹谷は行き先を指さした。変装している様子もないが、堂々としている。

(ファンに見つかったりしませんか?)

「ひとりでいるときはないですね〜。あ、レンタルショップの18禁コーナーに入るときは変装します」

スタッフが思わず笑い声をこぼすと、その反応に竹谷は少年のような笑みを見せた。からかう姿にも嫌味がない。



『朝から爽やかな笑顔でスタッフを迎えてくれたのは、今をときめく若手俳優、竹谷八左ヱ門さん。忍たま乱太郎を始めとして、ドラマに舞台にと活躍しています。今日はそんな彼の素顔を見せてもらいましょう』



カメラは助手席から竹谷を映す。車を発進させた竹谷は時々横目で隣を見た。

「なんか緊張しますね」

(してるように見えませんよ)

「ほんまですか?心臓バックバクですよ」

(お休みの日は普段何をされてるんですか?)

「家にはいないですね。誰とも予定がなければジムに行ったり、後輩の稽古に混ぜてもらったり」

(プロですね)

「じっとしてられないだけです。俺、小学校の時に夏休みの宿題終わらせたことなんかないですよー」

車は住宅街に入っていく。慣れているのか迷わず車を進め、通りを抜けた先の広場の前で止まった。そこには子どもたちが集まっている。

「竹谷くん来た!」

「遅〜い!」

「なんでお前らもう汗だくなん?」

「影踏みしてた!」

「アホちゃうか」

車を降りると竹谷はすぐに囲まれる。自分の首に巻いていたタオルで汗を拭いてやる姿は自然なものだったが、子どもはふざけて逃げ出した。

「みんな来てるか?はい番号ー」

「いーち」

「にーい」

「さーん」

「アルカリー!」

竹谷がふざけたひとりをすかさず捕まえてくすぐってやる。大きな声で笑いながら逃げていく姿にまた笑いが広がった。

(お兄ちゃんですね)

「なんも言うこと聞きませんよ。ほら、お世話になるから挨拶せえよー」

「はーい!上島一平です!竹谷くんとは『忍たま乱太郎』で一緒にお仕事しています!」

「佐武虎若です!僕も『忍たま』です!」

「初島孫次郎です。『忍たま』でお世話になっています」

「夢前三治郎です!いつも竹谷くんのお世話をしています!」

「このやろっ」

「きゃーっ!」

笑いながら逃げていく子どもを追い立て、竹谷は車に乗せていく。付き添っていた保護者に挨拶を済ませて竹谷が車に戻ったときには少し疲れているようにも見えた。

「ちゃんと座ってろよ」

「はーい」

「帽子!飲み物!カメラ!忘れ物あるなら今のうち!」

「大丈夫でーす」

「ほんまかい」

竹谷は車を走らせる。後部座席は賑やかで、カメラはそちらを映した。

(いつも竹谷くんと遊ぶの?)

「あのなー、こないだはユニバ行ってん」

「海も行ったで」

「僕一緒にひらパー行った!」

(そうなんや、ええなぁ)

「でも竹谷くんめっちゃうるさいよな」

「ほんまに!おかんよりうるさいで」

「虎若〜三治郎〜アウト〜」

運転席で竹谷が低い声を出し、子どもたちはけらけら笑う。カメラは降ろしたろか、と毒づく竹谷も映したが、その表情は怒ってはいない。

(あちこち行かれたんですね)

「ちゃうんですよ、こいつら勝手に遊ぶ予定に俺を組み込むんですよ」

「だって竹谷くんも夏休みやろー?」

「ちゃんとお仕事してますぅ〜」

(今日はどちらに?)

「「水族館!」」

竹谷の代わりに子どもたちが叫ぶように答えた。



親子連れやカップルで賑わう水族館に着くと、子どもたちは静かになった。竹谷が買った入場券の絵柄を見せ合っている姿は、さっきまでとは別人のように大人しい。カメラが竹谷を向くと、気づいたように苦笑した。

「あの子らもプロなんで。礼儀に関して言えば俺がガキの頃よりちゃんとしてますよ」

「竹谷くんの何?」

「ん?イルカ」

「いいな〜!交換!」

交換と言いながら入場券をひったくり、自分が持っていたものを押しつけていく。誉めたのに、と言いながら竹谷が見せた入場券にはカニがプリントされていた。

「竹谷くん、入っていい?」

「ああ。迷子になるなよ」

子どもたちに続いて竹谷が足を進める。入ってすぐの大きな水槽には様々な魚が泳いでいて、子どもたちは自然にまとまったままそちらに向かっていった。

(みんな子役の子なんですね)

「ふざけてるところ見るとただの子どもなんですけどね。あ、今日はカメラあるのでちょっとテンション高かったですけど」

(そうなんですか)

「多分俺より緊張してたと思いますけど、全然見せないでしょ。将来有望で怖いぐらいで」

「竹谷くん、あれ何?」

呼ばれて竹谷が水槽に向かう。高いところにある案内を見ながら説明をすると、子どもたちは食い入るように水槽を見つめていた。

その後ろ姿を、竹谷がデジカメを取り出して写真におさめる。それで気づいた子どもたちは各々バッグからゲーム機を取り出した。カメラ機能が付いたもので、それを水槽に向ける目は真剣だ。

「いいな〜あれ。俺の古いからカメラなくて」

(最近のゲームはすごいですね)

「ね、ずるいですよね。俺夏休み入ってからデジカメ買ったんです。あいつらなんでか俺ばっかり撮るから、俺が親御さんに後でデータ渡してます」

言いながら子どもが竹谷にカメラを向けて、竹谷がふざけて返したので静かな笑いが広がった。

小さな子どもが後ろにいることに気がついて、竹谷がさりげなく一人の肩を叩いた。気づいた子は顔を上げ、次行こう、と竹谷の手を引く。

順路にそって館内を進んでいく。誰かが質問をすれば竹谷は熱心に答えていた。

(三治郎くん)

「はい」

(竹谷くんはどんな人?)

「えーっとね、めっちゃ優しいで!たまにめっちゃ怒るけど。僕お兄ちゃんはおらんけど、お兄ちゃんみたい」

「何なに?」

「竹谷くんの話」

三治郎の隣に一平がやってくる。竹谷くんなー、とこぼす笑い声は自然なものだ。

「竹谷くんすぐ疲れたって言うねんで」

「おっさんやもんなー」

「なー」



*



場面は変わり、竹谷はあるスタジオに入っていく。中でストレッチをしていた尾浜が顔を上げた。

「うぃーす」

「いーっす。いいもんあるじゃん。お久しぶりです」

(お久しぶりです)

「勘ちゃん知り合い?」

「前に俺も撮ってもーた。そらもう舐めるように撮るんやもん、忘れようにも忘れられへんわぁ」

カメラをからかう尾浜はすっかり用意ができているようだ。竹谷のストレッチを待って、練習が始まった。

(今日は何の練習ですか)

「舞台です。トレジャーハンターのお話で、俺三枚目やります」

(三枚目ですか)

「そう、勘右衛門とペアなんでつられないように必死です」

その背後からぬっと尾浜が現れる。竹谷に甘えるようにすがるので、嫌な顔で引きはがされた。

「はちえも〜ん、バク転がきれいに決まる道具だ〜して〜」

「痩せろ!」

「痩せたやん!痩せましたやん!これ以上痩せたらガリガリやん!」

「衣装合わせまであと5キロ絞るんやろ」

「せやねん。今日焼き肉行ったからその分動かな」

「アホか。バク転どこの?」

「始めに出るとこ。八が下手で俺が上手から」

「『呼ばれて飛び出て!』」

「シュタッ!シュタッ!バーン!『泣く子も黙るはっぱ隊!』」

「ちゃう」

「『ピッピカチュウ!』」

「ちゃう」

「『ルパン・ザ・サード!』」

「やめさせてもらうわ」

「ごめんて。セリフ言わなあかんからぴゃっと決めなあかんやん、でもよろけるやん、ここのセリフぱっつぁんだけにせん?」

「なんでやねん。決めシーンや」

やるで、と竹谷が促し、ふたり同時に構えて助走をつける。用意されたマットの上に、竹谷はきれいに技を決めて着地した。尾浜はやや着地でよろけ、そのままバランスを崩して倒れ込む。

「体が重い!」

「痩せろ!」

「俺実は妖精やなくておっさんやねん!」

「知っとる」

カメラは練習風景を追っていった。昼間子どもたちと関わっていたときに笑顔を絶やさなかったのが嘘のように、打って変わった厳しい表情が続く様子もある。真摯な表情は伝播して、年の近い尾浜も真剣に先輩にも構わず意見していく。

(竹谷くんはどんな人ですか?)

「え〜?面倒なやつ」

簡潔に言い切って尾浜は笑う。指導を受けていた竹谷が気にしたようにこっちを見たが、来ることはできずにそわそわとしていた。

「見たままアホやのに意外とまじめやし、あと体育会系やから暑苦しい。まあ嫌いではないけど」



*



(お疲れさまでした)

「お疲れさまでしたー。ありがとうございます」

稽古を終えて出てきた竹谷に疲れた様子はない。朝と変わらない笑顔をカメラに向けている。

(竹谷さんにとって、今の生活はどんなものですか?)

「んー、そうですね……いろんなことがあって、日々勉強ですね。でも毎日、大切です」

笑顔で挨拶をし、竹谷は最後までスタッフを見送った。



『竹谷くんの舞台は今月20日から23日、シアター丸山にて上映されます。素敵な笑顔をぜひ、劇場でご覧下さい。きっと彼が好きになります。本日のひとりは、竹谷八左ヱ門さんでした』
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