言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'02.21.Tue
「金吾はどうして喜三太が好きなの」
「えっ」
平太の静かな声に、金吾は驚いて振り返った。どこからやってきたのかさっぱりわからなかった。さすがは六年ろ組、と感心したが、慌てて首を振る。今はそれどころではない。平太はいつもと変わらない物静かな様子だが、じっと金吾を見る目には力強さがあった。
すう、と息を吐き、金吾も背を伸ばして平太を向く。猫背の男は金吾よりもわずかに背が高い。見た目はひょろんとしているが、実際のところはしっかりと筋肉のついたたくましい体であることは知っていた。用具委員長を務めている男が貧弱であるはずがない。
「――ぼくは喜三太の全部が好きだ」
それは金吾が胸を張って言えることだ。全部が好きであるからこそ、喧嘩もするし嫌だと思ったことは嫌とはっきり口にしている。そのたびに喜三太は拗ねて、金吾はぼくのことなんて好きじゃないんだ、などというが、甘やかすだけの関係なら喜三太じゃなくていい。金吾が求めているのは優しいだけの関係ではなく、彼を認めた上でそばにいると言える関係だ。何があってもそばにいると。
「平太は?」
平太は視線から逃げなかった。
この男が喜三太に思いを寄せていることは知っている。それを正面から問いただしたことはこれが初めてだ。勿論場をわきまえるが、基本的に平太は自分の気持ちを隠さない。どんな時でもストレートに喜三太を見つめ、正直に話をする。
――その姿勢が、金吾は嫌いではない。平太が見ているのが喜三太でなければ応援もしただろう。
金吾をじっと見たあと、ふいと視線を流した。その先に、喜三太がいる。委員会の後輩と一緒に、ナメクジさんたちの散歩中だ。あの一年生は喜三太のナメクジに興味を持ち、彼が入って来た時の喜三太のはしゃぎようを思い出す。
「喜三太の目が好きだ。美しいものを映す瞳が輝くだけでぼくは嬉しくなる。やわらかそうな頬が、冬の寒さで赤く染まっているのが好きだ。寒いね、とこぼれる声が好きだ。ぼくはどんな美しい演奏よりもそれが聞きたい。優しくナメクジさんに差し出される指先の丸さが好きだ。ぼくにはもう、彼が触れるものすべてが素晴らしいものに思える」
――淡々として聞こえるほど、淀みなく。
まるで金吾の存在を忘れてしまったのではないかと疑うほどに、平太は表情を変えずに言葉を紡いだ。かすれるような声だが金吾にははっきりと聞こえ、それは呪詛のように金吾の体に絡みつく。
「一番はね、金吾」
はぁ、と吐く息は重そうで、ぐるりと金吾を見た平太の瞳は深い。
「喜三太が金吾に見せる、牡丹のような笑顔が一番好きだ」
「えっ」
平太の静かな声に、金吾は驚いて振り返った。どこからやってきたのかさっぱりわからなかった。さすがは六年ろ組、と感心したが、慌てて首を振る。今はそれどころではない。平太はいつもと変わらない物静かな様子だが、じっと金吾を見る目には力強さがあった。
すう、と息を吐き、金吾も背を伸ばして平太を向く。猫背の男は金吾よりもわずかに背が高い。見た目はひょろんとしているが、実際のところはしっかりと筋肉のついたたくましい体であることは知っていた。用具委員長を務めている男が貧弱であるはずがない。
「――ぼくは喜三太の全部が好きだ」
それは金吾が胸を張って言えることだ。全部が好きであるからこそ、喧嘩もするし嫌だと思ったことは嫌とはっきり口にしている。そのたびに喜三太は拗ねて、金吾はぼくのことなんて好きじゃないんだ、などというが、甘やかすだけの関係なら喜三太じゃなくていい。金吾が求めているのは優しいだけの関係ではなく、彼を認めた上でそばにいると言える関係だ。何があってもそばにいると。
「平太は?」
平太は視線から逃げなかった。
この男が喜三太に思いを寄せていることは知っている。それを正面から問いただしたことはこれが初めてだ。勿論場をわきまえるが、基本的に平太は自分の気持ちを隠さない。どんな時でもストレートに喜三太を見つめ、正直に話をする。
――その姿勢が、金吾は嫌いではない。平太が見ているのが喜三太でなければ応援もしただろう。
金吾をじっと見たあと、ふいと視線を流した。その先に、喜三太がいる。委員会の後輩と一緒に、ナメクジさんたちの散歩中だ。あの一年生は喜三太のナメクジに興味を持ち、彼が入って来た時の喜三太のはしゃぎようを思い出す。
「喜三太の目が好きだ。美しいものを映す瞳が輝くだけでぼくは嬉しくなる。やわらかそうな頬が、冬の寒さで赤く染まっているのが好きだ。寒いね、とこぼれる声が好きだ。ぼくはどんな美しい演奏よりもそれが聞きたい。優しくナメクジさんに差し出される指先の丸さが好きだ。ぼくにはもう、彼が触れるものすべてが素晴らしいものに思える」
――淡々として聞こえるほど、淀みなく。
まるで金吾の存在を忘れてしまったのではないかと疑うほどに、平太は表情を変えずに言葉を紡いだ。かすれるような声だが金吾にははっきりと聞こえ、それは呪詛のように金吾の体に絡みつく。
「一番はね、金吾」
はぁ、と吐く息は重そうで、ぐるりと金吾を見た平太の瞳は深い。
「喜三太が金吾に見せる、牡丹のような笑顔が一番好きだ」
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