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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'03.13.Thu
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2012'02.26.Sun
「保健委員いるか!」

荒々しく扉を開けて入ってきたのは、三年ろ組の神崎左門であった。同じうるさい生徒なら、三年生よりも一年生の方がまだましだ。おまけにこの神崎は人の話を聞かない。少なくとも左近のイメージではそうである。

神崎は決断力のある方向音痴として学園内では有名だ。その一因に、人の話を聞かないことにもあるのではないかと左近は思っている。道を教えられても何かに導かれるかのように方向転換をするなど、わざとでなければ馬鹿だ。今日の委員会の当番はもうすぐ交代だというのに、締めくくりにどうしてこんな珍獣が紛れ込んできたのだろう。もうずいぶん前から空腹で、交代次第すぐに食堂へ向かおうと思っていた。しかしこのまま負の連鎖が続けば、最悪の場合昼食を食いっぱぐれることになるだろう。

嫌々ながら、左近は神崎を見上げる。

「……何か」

「保健委員に用があるのは怪我をしたときだろう」

「ひっ!」

血まみれの肘を向けられて、左近は思わず悲鳴を上げた。よく見れば全身が汚れているが、何よりもその肘が一番ひどい。そこで転んで、と説明するのを聞かずに立ち上がり、肘を伝って血が落ちるのを見ながら医務室の外へ押し出した。廊下に残った赤い斑点にぞっとする。

「おい何をする」

「とにかく傷を洗います!」

「おお」

今初めて気づいたかのように左門は傷を見た。その傷のひどさに初めて気がついたのか、どきっとして身をすくめた。

「……これ、死ぬ?」

「死にません。とにかく井戸で傷を洗ってきて下さい!……じゃなかったッ、一緒に行きます!」

行きかけた背中を慌てて捕まえ、一緒に医務室を出た。井戸まで行くともう夕食時が近づいてきているせいか、誰の姿もない。痛い、痛いと繰り返す左門を見ていると逆に冷静になってきて、左近は淡々と水を汲んで傷を洗った。

「まったく、袖まで血がついてるじゃないですか」

「やばい、意識したらすごく痛い」

「知りません。うっわ、すごい傷」

「転んだところに木の根があったんだ」

「うわぁ……」

肘から手首にかけての派手な擦過傷だ。これはしばらく風呂に入るのも難儀だろう。血が浮き上がらないうちに青白い顔をした左門を引っ張り、医務室に連れ帰る。普段迷子を引っ張っている同級生の三年や、委員会の先輩である四年の姿を見ているが、自分が迷子の手を引くことになるとは思わなかった。さっきまでいた医務室へ戻るだけだと言うのに逆方向へ向かいだすので、焦って腕を引く。もし自分が級友だったら、さっさと見捨てているだろう。

医務室に戻ってしまえば神崎は大人しい。借りてきた猫のような神崎を見ながら、治療の用意をする。そわそわと落ち着かない様子の左門だが、左近に治療されている間は黙ってそれを見ている。ぽかん、と口を開けて凝視してくるので、左近の方が落ち着かない。

「……はい、これでいいですよ」

「おお!」

「しばらくは入浴のとき気をつけて下さい。あとはこまめに包帯を変えて下さいね。数馬先輩にでもやってもらって下さい」

「わかった。さすが保健委員だな」

「……保健委員ですから」

本当ならもう交代の伊作が来ていてもいい時間だが遅れているようだ。どうせどこかで不運に引っかかっているのだろう。運が悪かったのだ。空腹を抱えても、もう嘆く気にもならない。

「ははっ!いいなぁ、私も委員会に二年生の後輩がいたらよかったのに」

「どういう意味ですか」

「かわいいじゃないか」

ぐしゃり、と頭を撫でられて、すぐさまそれを叩き落とす。神崎はさっきまでの青白い顔をどこへしまったのか、ひどく楽しげであった。

「ばっ……ばかにすんな!」

「左近遅くなってごめん〜、どうしたの〜?」

「わーっ!」

顔を出した伊作ものんきな顔をしているが、その手は血に濡れて、患部らしい腕を押さえている。さっきそこで転んじゃって、と言う伊作に、神崎もお揃いですね、などと言いながら包帯の巻かれた腕を見せた。

「あ、左近がやったの?包帯巻くのうまくなったねえ」

「そんなこと言ってるバヤイですかっ!まず傷口を洗ってきて下さいっ」

「いやでも、左近お腹すいたでしょ」

「怪我の治療が先ですッ」

伊作を引っ張って医務室を出る。伊作が苦笑しながらそれについていった。

「川西ィー!」

「はーい!?」

背中から声を掛けられて振り返れば、神崎がまだ医務室の前から手を振っている。

「今から食堂行くから、ランチ取っておいてやるよ!」

「ほっ、ほんとですかっ!?」

「治療のお礼だ!」

「おっ……お願いします!」

「よかったねー」

思わず顔をほころばせる左近に伊作が微笑み、はっとして頬を引き締める。しかし伊作は見ちゃったもんね、と笑った。

「保健委員も悪いもんじゃないだろ?」

「……ふん!」



――結局、食堂に辿りつけていなかった神崎と一緒におばちゃんに握り飯をねだることになるのだが、そのことを左近はまだ知らなかった。
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