言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2012'02.22.Wed
「陣さん、おいでってば!もう、ドア閉めちゃうよ」
左近が呼んでも黒猫はふいと尻尾を振るだけで、屋根の上から下りてこようとしなかった。寒い中、母親のつっかけで出てきた左近は足から冷えてきて、くそう、と猫を睨みつける。
「もー、ほんとに玄関閉めちゃうからね!ここ閉めたらどこからも入れないよ!」
真っ黒な猫はちら、と左近を振り返った。ようやく降りる気になったかと思いきや、更に屋根を上り尻尾の端しか見えなくなる。あの野郎、と今度こそ見捨てて家へ戻ろうとすると、ただいま、と声がかかって振り返った。背の高いスーツの男が、ぽんと左近の頭を叩く。
「どうしたんだい、寒いのに外でお出迎え?左近がそんなにお父さんのことを好きだったとは知らなかった」
「違う」
「傷つくなー」
「陣さんが屋根から下りてこないんだ」
ふうん、と屋根を見上げたのは父親だ。左近は不機嫌を隠さず、連れてきてね、と玄関へ向かう。その背中を笑いながら、父親は屋根に向かって手を伸ばした。
「陣左、おいで」
なぁん、と甘えるような鳴き声で父親を迎え、黒猫はしなやかに彼の肩へ飛び降りた。よしよし、とその獣を撫でながら、猫を連れて戻ってくる父親を左近は仏頂面で待つ。
「ただいまー」
「お帰りなさいー」
父親が部屋の奥へ叫ぶと、母親は声だけで返した。左近は鍵をかけ、すぐに玄関に上がって父親の鞄を受け取る。その肩に落ち着く黒猫を睨みつけることを忘れない。
「お前がお父さんのことが好きなのはわかったから、家の中で待っててくれない?」
「かわいいじゃない、ねえ」
父親が額を寄せると猫も擦りついていく。好きなだけどうぞ、とげとげしく言葉を残し、父親の鞄を振り回しながら左近はキッチンへ向かった。
「お母さんごめんー、陣さんやっと入って来た」
「いいのよ、ありがとう」
「すぐ手伝うから」
「お父さん!毛がつくから早く着替えなよ!」
「はいはい。陣左、お前こんなに冷たくなって」
「いちゃいちゃすんのは後!」
「はいはい。左近は怖いよねー」
「何とでもッ」
ぷい、と猫と父親からは顔をそむけ、左近は夕食の支度を手伝った。
*
「おやすみなさい」
「おやすみ」
リビングで映画を見る両親に声をかける。明日の朝は早いから、いつもより早い就寝だ。左近の足音に反応したのか、今まで父親の膝でまどろんでいた陣左が体を起こす。くああ、と大きな口であくびをしながら体を伸ばし、ゆっくり左近の方へ向かってきた。
「陣さんももう寝る?出してくれって言わないでよ」
返事ともつかぬ鳴き声が返ってきて、左近はふう、と息を吐く。父親が一番好きなくせに、どうして寝るときは左近の部屋がいいのだろう。左近が階段を上がりだすとトットッと軽快な足音をさせて先に上がり切り、ドアの前で大人しく座って待っている。中に入れると部屋中をぐるぐると回りはじめたが、いつものことなので気にしない。明日の用意や目覚まし時計の時間を確認して、左近は豆電球だけを残してベッドに潜り込む。
「陣さん」
声をかけると部屋の隅を見ていた猫は振り返り、静かにベッドに歩み寄って来た。身軽にベッドに飛び上がり、左近の顔に近づいてくる。布団を持ち上げてやるとするりと布団の中へ入り込んだ。つややかな毛はいつの間にか冷えていて、寒くない?と聞きながら撫でてやる。左近にぴたりと体を寄せて、猫は場所を決めて落ち着いた。布団の中を覗いてみても、真っ黒な猫はその輪郭も曖昧だ。
どうも今日はうまく体が収まらないのか、猫は体を起こして何度か位置を変えた。まどろみ始めた左近の顔へ寄ってくるので、抱き寄せて小さな額に唇を当てる。ぐるぐると喉を鳴らし、ざらついた舌が顎を舐めた。
「おやすみ、陣さん」
小さな前足が腕を踏むのも気にせずに、左近は静かに目を閉じた。
左近が呼んでも黒猫はふいと尻尾を振るだけで、屋根の上から下りてこようとしなかった。寒い中、母親のつっかけで出てきた左近は足から冷えてきて、くそう、と猫を睨みつける。
「もー、ほんとに玄関閉めちゃうからね!ここ閉めたらどこからも入れないよ!」
真っ黒な猫はちら、と左近を振り返った。ようやく降りる気になったかと思いきや、更に屋根を上り尻尾の端しか見えなくなる。あの野郎、と今度こそ見捨てて家へ戻ろうとすると、ただいま、と声がかかって振り返った。背の高いスーツの男が、ぽんと左近の頭を叩く。
「どうしたんだい、寒いのに外でお出迎え?左近がそんなにお父さんのことを好きだったとは知らなかった」
「違う」
「傷つくなー」
「陣さんが屋根から下りてこないんだ」
ふうん、と屋根を見上げたのは父親だ。左近は不機嫌を隠さず、連れてきてね、と玄関へ向かう。その背中を笑いながら、父親は屋根に向かって手を伸ばした。
「陣左、おいで」
なぁん、と甘えるような鳴き声で父親を迎え、黒猫はしなやかに彼の肩へ飛び降りた。よしよし、とその獣を撫でながら、猫を連れて戻ってくる父親を左近は仏頂面で待つ。
「ただいまー」
「お帰りなさいー」
父親が部屋の奥へ叫ぶと、母親は声だけで返した。左近は鍵をかけ、すぐに玄関に上がって父親の鞄を受け取る。その肩に落ち着く黒猫を睨みつけることを忘れない。
「お前がお父さんのことが好きなのはわかったから、家の中で待っててくれない?」
「かわいいじゃない、ねえ」
父親が額を寄せると猫も擦りついていく。好きなだけどうぞ、とげとげしく言葉を残し、父親の鞄を振り回しながら左近はキッチンへ向かった。
「お母さんごめんー、陣さんやっと入って来た」
「いいのよ、ありがとう」
「すぐ手伝うから」
「お父さん!毛がつくから早く着替えなよ!」
「はいはい。陣左、お前こんなに冷たくなって」
「いちゃいちゃすんのは後!」
「はいはい。左近は怖いよねー」
「何とでもッ」
ぷい、と猫と父親からは顔をそむけ、左近は夕食の支度を手伝った。
*
「おやすみなさい」
「おやすみ」
リビングで映画を見る両親に声をかける。明日の朝は早いから、いつもより早い就寝だ。左近の足音に反応したのか、今まで父親の膝でまどろんでいた陣左が体を起こす。くああ、と大きな口であくびをしながら体を伸ばし、ゆっくり左近の方へ向かってきた。
「陣さんももう寝る?出してくれって言わないでよ」
返事ともつかぬ鳴き声が返ってきて、左近はふう、と息を吐く。父親が一番好きなくせに、どうして寝るときは左近の部屋がいいのだろう。左近が階段を上がりだすとトットッと軽快な足音をさせて先に上がり切り、ドアの前で大人しく座って待っている。中に入れると部屋中をぐるぐると回りはじめたが、いつものことなので気にしない。明日の用意や目覚まし時計の時間を確認して、左近は豆電球だけを残してベッドに潜り込む。
「陣さん」
声をかけると部屋の隅を見ていた猫は振り返り、静かにベッドに歩み寄って来た。身軽にベッドに飛び上がり、左近の顔に近づいてくる。布団を持ち上げてやるとするりと布団の中へ入り込んだ。つややかな毛はいつの間にか冷えていて、寒くない?と聞きながら撫でてやる。左近にぴたりと体を寄せて、猫は場所を決めて落ち着いた。布団の中を覗いてみても、真っ黒な猫はその輪郭も曖昧だ。
どうも今日はうまく体が収まらないのか、猫は体を起こして何度か位置を変えた。まどろみ始めた左近の顔へ寄ってくるので、抱き寄せて小さな額に唇を当てる。ぐるぐると喉を鳴らし、ざらついた舌が顎を舐めた。
「おやすみ、陣さん」
小さな前足が腕を踏むのも気にせずに、左近は静かに目を閉じた。
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