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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2008'09.27.Sat
「うん、夜中。……ん?大丈夫、今日で終わりだったから、ひと段落ついた」



暗くした部屋の中、毛布にくるまって携帯を握り締める。何度経験しても時差に慣れない。自分で離れるくせにすぐに帰りたくなる、成長しない自分にあきれてしまう。



「……うん、明日帰る。え?……そっか、……なんですか、別にいいですよ。人を迎えにくる暇があったら仕事して下さい。──楽しみにしてる」



ときどき三上から離れたくなり、師を仰いで海外へ飛び出す。かわいがられていた自覚はあるので嫌な顔せず受け入れてくれる師匠を含めた楽団はあたたかい逃げ場だ。

今回は呼ばれて2曲弾いた。付け焼き刃の練習にいい顔はされなかったが、いまだに音楽で生きていく決意はできずにいる。



与えられた個室は静かで、さっきまでの騒がしさは嘘のように思えた。自分の声が響く部屋は慣れない。かといって、まだアルコールの尽きないフロアに戻るのもいやだった。



ふと会話が途切れ、カチリと時計の針の音。少し寒気を覚えて毛布に潜り込んだ。



「……キスしたい」

『ばーか』

「会いたいな」

『気をつけて帰ってこいよ』

「ばーか」

『何でだよ!』

「帰ったらこんなこと、絶対言わないからね」

『知ってるよ』
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2008'06.08.Sun
「泣くなよー!」



絶対泣きそうだと思っていた三上がへらへらとしていて、そのことが逆に笠井を悲しませた。まるで日常と同じように最後を過ごすこの人が、本当に好きなのだと思う。



泣きじゃくる自分を優しく抱きしめ、あたたかい手が肩を叩く。よしよし、だなんてまるで子どもみたいで恥ずかしかった。



渋沢の元には後輩が群がっている。真っ先に抱擁を受けた藤代はすでに押しつぶされていた。根岸と抱き合っている中西はどんな顔をしているのかよく見えない。



「笠井、おら、顔上げろ。勝ったんだぜ」

「は、いっ……!」



わかってる。わかっている。最後の試合は今、勝利で幕を閉じた。彼らとフィールドに立った試合は。流石に全国は楽勝とはいかなかった。苦戦し、乗り越え、手に入れた勝利。



「でもっ……!」

「しゃきっとしろよ。胸張ってろ、キャプテン」

「ッ……!」



涙があふれて止まらなかった。彼らは高等部へ進学し、残る自分たちを笠井が引っ張らねばならない。三上の背中の10番をしっかりと握りしめ、ユニフォームが涙を吸っていく。



自信がないわけじゃない。必ずや、自分たちだって全国連覇をつないで見せる。ただ、今悲しいのは、今を越えた先はもう「大人」になってしまうだろうと言うことで。



「ほら、ちゃんと挨拶しようぜ。引き継ぎだ、テメーがやるんだぜ」

「はいっ……」



ぐっと奥歯を噛み、自ら抱擁を手放した。
2008'06.07.Sat
「三上クン、ちょっと」



三上の肩に腕を回し、近藤が部屋の隅に連れて行ってこそこそと何か話している。どうせくだらないことなのだろう。そこに更に中西が加わり、いっそう怪しさが増す。笠井が顔をしかめたのを見て渋沢が苦笑した。

試合前の控え室、練習試合では部屋の雰囲気はまだ柔らかい。過去に勝ったことのあるチームが相手だからかもしれない。



「キャプテーン、今日あいつ来てるんすか?なんだっけ、カニだかタコだか」

「海老沢だろ、さっき見たよ」

「マジー!今日は抜く!」

「でも海老沢ってFWに転向したんじゃなかったっけ」

「えーっ!」

「あそこはFWの層が薄いからな」



部屋の隅の三上たちが妙な笑い声を上げた。嫌な予感しかしない。



先輩たちの姿を見て、笠井は溜息をついた。――来年だって、武蔵森の強さは揺るがないと自信がある。しかし黄金世代と言われる時代は終わるだろうという予感がする。まだ藤代も間宮も、そして自分もいるのに、拭えない不安がある。

例えば、以前戦った桜上水、あそこは2年ばかりだ。急成長したタレントがいる。彼が慕われている理由は、武蔵森を引っ張ってきた渋沢とは違う。



「落ち着いて」



あまり試合経験のない後輩の肩を叩き、渋沢は微笑む。彼の力が抜けたとき、このチームはどうなるのだろう。



「何辛気くせえ顔してんだよ!」

「わっ」



いつの間に寄ってきたのか、三上が無理やり肩を組んできた。振り払うとおーこわ、とわざとらしく手をあげる。



「どうしたの、ぶっさいくな顔して」

「あんたに言われたくないですよ、にやにやして」



ふん、と鼻で笑って三上は笠井の腕を引く。行くぞ、と言われて顔を上げた。もうすぐ試合が始まる。



芝生の上に立ち、誰ともなく集まって円陣を組む。11人以上の力を持つ輪の隣に三上がいた。



「藤代調子のんなよ」

「近藤先輩こそ、おいしいとこで転けないで下さいよ」

「うるせぇッ」

「あーもう、渋沢まとめろ」

「集中しろ、ボールを見ろ。それから、寮母さんからの伝言。負けたらエビフライのエビ抜きだ」

「げーっ!」



頭をつきあわせてみんなで笑う。肩を掴むお互いの手に力がこもった。



「行くぞ!」
2007'12.11.Tue
この昼食後の国語の授業を、けだるいと言わずしてなんと言おう。



文学ぶってみようとしたところで自分の中に備わっている機能ではない。早々に諦めた三上がふと窓の外を見ると、1年の体育が見えた。嫌でも聞きなれたやかましい後輩の笑い声に思わず視線を移す。授業開始の準備体操程度でよくあんなに騒げるものだ。教師からの注意が飛ぶがこりていない。



そのひとりで賑やかな藤代に、嫌そうな顔をしながらもつき合っている笠井を見つける。律儀で損ばかりしているようなイメージだったが、いわゆるお付き合いというものをしている中でそんな可愛らしい性格ではないことがわかってきた。あれは自分が震源地にならないようにしながら楽しんでいる。



準備体操の手順は自分たちとなんら違いはない。トラック走から始まり体育委員かけ声によるラジオ体操、ストレッチ。



「じゃあ次、小野」



隣の生徒が当てられて、一度そちらに視線を向けて音読を聞く。教師が歩いてくるのを見て教科書に視線を落としたが、通り過ぎてから再び窓の外を見た。



何気なく探した後輩は馬とびを始めていた。馬になった藤代の背に手をついて、笠井が往復して飛んでいる。ここから見ると周りと比べて跳躍力があるのは一目でわかり、持て余す高さに一度転けそうになっていた。身軽だなあ、ぼんやり眺めていると眠くなってくる。



ノルマが終わったのか、ふたりの立場が入れ替わる。膝に手をついて馬になった笠井の背中を、彼より背の高い藤代が勢いをつけて飛ぶとバランスを崩した。持ち直して二回、三回と繰り返されるうちに安定する。受け止めた藤代の両手を押し返す背中、そのたびにわずかに下がる膝、もとい、揺れる尻が気になった。にわかに沸いていた睡魔などいつの間にか体を抜け出し、三上はじっと笠井(の尻)に見入る。



「三上は何を見てるんだ?」

「……いやー、太田先生って上から見ると頭部ヤバいっすよねー」



背後の気配に気づかなかったのは、笠井のせいだ。違いない。後でちゃんと伝えといてやるからなー、国語教師は力を込めて三上の髪をかき乱し、ついでにぐいと前を向かせた。親切にも教科書をめくり、ここから、と指定する。



どうやったら藤代を追い出し、笠井のベッドに忍び込めるか。教科書を読みながら、終わってしまう準備体操を嘆いたことは秘密だ。
2007'08.01.Wed
「将来何になりたいんだ?」

「別に、わかんないよそんなの。まだ小学生だしさ」

「……そうか」



父が久しぶりにゆっくりしている春休みのある1日。でももうすぐ中学生だろ、彼の言葉に頷く。忙しく飛び回っている彼は休みでも呼び出されることがあるので一緒に遊びに行くようなことは何年もなかった。



「秀二も大きくなったな。いつの間にか肩車ができなくなった」



大きな手が頭を撫でた。肩車云々よりもう子どもじゃない――と自分では思っているから――そんなことはやめてほしい。それでも見上げた先の表情が緩んでいるのを見ると何も言えなくなる。



「秀二はあまり背が伸びないな。お姉ちゃんは高いのに」

「俺だって追いつくよ」

「そうだな、お父さんもそうだったし」



肩車をしてもらった記憶は遠い。いつの間にか中学生になってしまう。――全寮制の中学に入ることが決定したから、今まで以上に父親に会う機会は減るだろう。



「そういえば、小さいときはお金持ちになるって言ってたなあ」

「嘘、言ってないよ」

「言ってた言ってた。お金持ちになって、お母さんに楽させるって」

「絶対言ってない……」



クスクス笑う彼を睨みつける。そんな恥ずかしいことを言った記憶はない。もう数週間で中学生、今更夢も見れない。将来の夢なんて、変わるかもしれない。――簡単に、なれるものじゃない。



「秀二の試合もまともに見に行ったことがないな」

「……何年後かにテレビで見れるよ」

「……そうだな。サッカーしたくて選んだ武蔵森なんだろ?」



最後までためらったのはお父さんのせいだ、といつか言えるような日が来るのだろうか。大人っぽい子だと言われたくさんの本音を隠してきた自分がいつか代われるのだろうか。



「試合あったら教えるよ」



今はこれが精一杯。

肩車をされたときの視界を急に思い出した。
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