言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'07.16.Wed
「ここ、ほんとに人住んでたんだな……」
「失礼だな」
ジャンの言葉に答えながらも、アルミンは気にしない様子でジャンを追い越して敷地に入った。大学から歩いて5分、ジャンは普段は通らない道にある、存在は認識していたアパートを見上げた。
2階建てのそれは誰が控えめに見たって「ボロアパート」という表現に異論を唱えないだろう。アパートの名前らしい標識は風化して読めず、2階へ上がる鉄鋼の階段は錆びて軋む。壁には不気味にツタが這い、およそ人の住んでいる気配は感じられなかった。しかしアルミンが慣れた様子で階段を上がっていくので、ジャンもしぶしぶ階段に足を乗せる。いざ体重をかけると音だけではなくわずかにたわむように感じられ、いっそうジャンの不安を煽った。
階段は抜けず、ジャンは無事に2階へたどり着く。管理者などいないも同然なのだろう、3対のドアと窓が並ぶ通路は埃や落ち葉が端にたまり、電気には蜘蛛の巣がかかっている。ジャンもひとり暮らしをしたいと言ったことがあるが、片道1時間程度では親は許してくれなかった。大学近くに住むのはさぞ便利だろうと思っていたが、こんな環境なら今のままで十分だ。
「どうぞ」
「お邪魔します……」
ジャンの常識からかけ離れた部屋に足を踏み入れることは勇気のいることだった。アルミンは簡単に部屋に入ってしまうが、ドアまでも大きく軋みながら閉まるので気が気でない。半畳もない玄関、左を見ればノスタルジックと言えなくもない台所、そこにいかにも似合う野暮ったい冷蔵庫。なぜかドアの開いたままのトイレと中を覗かずともわかる狭い風呂。そして正面の畳敷きの6畳間には生活感のあるものが押し込められ、ジャンはようやくここに人が住んでいるのだと認識した。無造作にふたつに折られた布団、押入を半分隠すの本棚は棚板がたわむほど詰め込まれ、その前には溢れた本が積み上げられ山になっている。開け放した窓から外に干した洗濯物がはためき、ごちゃごちゃと本やグラスが載ったローテーブル……というより、この場合はちゃぶ台と言うべきか。アルミンらしいといえばアルミンらしい。
アルミンは床においたノートパソコンの電源を入れ、数歩で台所へ戻る。ジャンはやっと汗で張り付く、サンダルを脱ぎ部屋に入った。それまで部屋に意識がいっていたせいで忘れていたが、やっと部屋の暑さに気づいて顔をしかめる。狭い部屋の空気は夏の日差しで暖められて体にまとわりついた。
「アルミン、クーラーは?」
「ないよ」
「はぁっ!?」
「扇風機ならある」
アルミンが指さした先を追えば、青い羽根の色褪せもノスタルジックな、レトロな扇風機がジャンの視界に飛び込んだ。元は白かったのだろうか土台のプラスチックは黄色く変色し、羽の覆いも錆びている。ジャンは恐る恐る電源を入れてみようと近づくが、もはやスイッチですらない、やはり錆びた丸いつまみに感動すら覚えた。昔のテレビのチャンネルがこんな風だったのを何かで見たことがある。実物を見たことがないそれを、まさか現代人の居住スペース、それも一人暮らしの大学生の部屋で見るとは思ってもいなかった。自分がとりわけ都会人だと思ったこともなかったが、親の田舎だってこんなレトロな代物は見たことがない。つまみをひねり、「切」から「弱」を越えて「強」まで回す。ギッ、ギッ、と不気味な音を立てながら、扇風機は現役をアピールするように首を振って風を回した。風はくる。それは間違いない。扇風機はどんな形であっても仕事はシンプルだ。しかし、老体に鞭打つ気持ちになるのはジャンだけだろうか。
「これ、火ィ吹いたりしねぇだろうな……何十年ものだよ」
「さあ、入居したときからあったんだ」
「買えよ!」
「だって動くから」
アルミンはさっさとちゃぶ台から物をおろし、ジャンの前に麦茶を入れたグラスを置く。更に全部降ろしてそこにノートパソコンを引き上げた。そこでジャンはやっとここへきた目的を思い出す。共同での課題が出て、それをまとめにきたのだ。気を取り直そうとジャンはグラスを手にして口を付け、……顔をしかめる。
「ぬるい……」
「家出る前に沸かしたんだけど、まだ冷えてなかったみたい」
「氷は?」
「うちの冷蔵庫あんまり冷凍できなくて氷作れないんだ」
「買い換えろ!」
「使えるから大丈夫だよ」
まるで暑さを感じていないかのように、アルミンはぬるい麦茶をあおって鞄から課題の概要を取り出した。途中でコンビニに寄るべきだった、と後悔するが、再びあの日差しの元へ出る気になれない。諦めてジャンも飲んだ気のしない生ぬるい麦茶を口にし、仕方なく資料を開いた。
アルミンの部屋は蒸し暑く、今日は風もあまりないので部屋の中は耳障りな扇風機が辛うじて空気を巡回させているだけである。いつもは玄関も開けているのだとアルミンは言ったが、背後が開け放されていることにジャンが落ち着かなくなり閉めていた。かといって、開けていたときと暑さはさほど変わらない。
ジャンは途中で羽織っていたシャツを脱いでタンクトップ1枚になり、扇風機の前を陣取っていた。汗をかくのが耐えられなかったのだ。普段アルミンが薄着でいる理由がよくわかる。ノートパソコンからのわずかな発熱さえ疎ましく思うほどだったが、アルミンは慣れているせいか顔色ひとつ変えていなかった。恨めしげに隣を見る。キーボードを叩く指先はではなく画面を見ている横顔は涼しげだ。しかしよく見ればアルミンの額や首筋にも汗が浮いている。どんな不屈の精神を宿していても、肉体は別ということか。
「ジャン、これについての資料なかったっけ」
「あ?あ〜……これネットで見たやつじゃなかったか?」
「そっか。何で検索かけたっけ」
一緒にノートパソコンを覗き込み、慣れた距離を途端に意識する。こんな季節、汗をかいている姿なんて珍しくない。それでもお互いの体の熱を感じる距離に寄ることはそう頻繁ではないことだ。自分が汗臭いことはわかる。しかし知ったものと少し違うこれは、アルミンの匂いだろうか。しっとりと濡れた首筋を汗が伝ってTシャツの襟に吸い込まれた。
「……お前、エロいな」
アルミンの視線がこちらを見た。咎めるでも照れるでもない、感情の読めない目だ。薄くあいた唇、歯は隠れて見えないが、彼にしては珍しい表情だった。黙って唇を合わせる。乾いてぬるい体温。
これを知っている。夏のにおいだ。
懐かしい記憶を塗り変えるように、唇を舐めて舌をねじ込む。そのまま促せばアルミンはあっさり力を抜いて、ジャンに任せて畳へ体を預けた。毛羽だった畳にまぶしい金髪が散る。汗で絡まるシャツをまくりあげ、触れるジャンの手も触れられるアルミンの腹も汗ばんで張りつくようだ。
熱い呼吸を交わし、熱を高める。肌を伝う汗の感触がやけに感じられた。正気の沙汰ではない。こんなに暑い中で、きっと思考の歯車も汗で滑るのだ。そうでなければこんなにも、欲しくなるはずがない。
アルミンの甘い声に顔を上げ、ジャンは彼の潤んだ瞳をのぞき込む。普段は涼しげに見える青さえ、夏の暑さを思い起こすようだった。
「……ッダー!暑い!」
アルミンを引きはがすように体を起こし、ジャンは扇風機を引き寄せた。首振りさえも止めてしまい、その前で座り込む。汗をかいた肌を風が舐めていってようやく得られる涼しさに、ジャンは深く息を吐いた。体の中まで熱い。内蔵がゆだってしまうのではないだろうか。ちらりと麦茶を一瞥する。結露さえしないグラスがそこにある。この部屋には体の中を冷やすための物がない。
「アルミン、アイス買ってきて」
返事は黙って背中を蹴られた。無抵抗でいると何度か繰り返される。しかし痛みよりも暑さによる疲弊が勝り、ジャンはされるに任せた。
「こう暑くちゃ、エロいこともできねぇよ」
あー、と扇風機に向かって声を出す。音の振動はジャンを慰めはしない。
やがて黙ったままのアルミンはやにわに立ち上がり、不満を露わにした足音を立てて浴室へ向かう。ちらりと横目で伺えば、姿はないが叩きつけるような水音が響いてきた。そしてドスドスと足音を立て、アルミンが戻ってくる。
「たっぷり体の中まで冷やしてあげよう」
「たった今肝が冷えたので大丈夫です」
「失礼だな」
ジャンの言葉に答えながらも、アルミンは気にしない様子でジャンを追い越して敷地に入った。大学から歩いて5分、ジャンは普段は通らない道にある、存在は認識していたアパートを見上げた。
2階建てのそれは誰が控えめに見たって「ボロアパート」という表現に異論を唱えないだろう。アパートの名前らしい標識は風化して読めず、2階へ上がる鉄鋼の階段は錆びて軋む。壁には不気味にツタが這い、およそ人の住んでいる気配は感じられなかった。しかしアルミンが慣れた様子で階段を上がっていくので、ジャンもしぶしぶ階段に足を乗せる。いざ体重をかけると音だけではなくわずかにたわむように感じられ、いっそうジャンの不安を煽った。
階段は抜けず、ジャンは無事に2階へたどり着く。管理者などいないも同然なのだろう、3対のドアと窓が並ぶ通路は埃や落ち葉が端にたまり、電気には蜘蛛の巣がかかっている。ジャンもひとり暮らしをしたいと言ったことがあるが、片道1時間程度では親は許してくれなかった。大学近くに住むのはさぞ便利だろうと思っていたが、こんな環境なら今のままで十分だ。
「どうぞ」
「お邪魔します……」
ジャンの常識からかけ離れた部屋に足を踏み入れることは勇気のいることだった。アルミンは簡単に部屋に入ってしまうが、ドアまでも大きく軋みながら閉まるので気が気でない。半畳もない玄関、左を見ればノスタルジックと言えなくもない台所、そこにいかにも似合う野暮ったい冷蔵庫。なぜかドアの開いたままのトイレと中を覗かずともわかる狭い風呂。そして正面の畳敷きの6畳間には生活感のあるものが押し込められ、ジャンはようやくここに人が住んでいるのだと認識した。無造作にふたつに折られた布団、押入を半分隠すの本棚は棚板がたわむほど詰め込まれ、その前には溢れた本が積み上げられ山になっている。開け放した窓から外に干した洗濯物がはためき、ごちゃごちゃと本やグラスが載ったローテーブル……というより、この場合はちゃぶ台と言うべきか。アルミンらしいといえばアルミンらしい。
アルミンは床においたノートパソコンの電源を入れ、数歩で台所へ戻る。ジャンはやっと汗で張り付く、サンダルを脱ぎ部屋に入った。それまで部屋に意識がいっていたせいで忘れていたが、やっと部屋の暑さに気づいて顔をしかめる。狭い部屋の空気は夏の日差しで暖められて体にまとわりついた。
「アルミン、クーラーは?」
「ないよ」
「はぁっ!?」
「扇風機ならある」
アルミンが指さした先を追えば、青い羽根の色褪せもノスタルジックな、レトロな扇風機がジャンの視界に飛び込んだ。元は白かったのだろうか土台のプラスチックは黄色く変色し、羽の覆いも錆びている。ジャンは恐る恐る電源を入れてみようと近づくが、もはやスイッチですらない、やはり錆びた丸いつまみに感動すら覚えた。昔のテレビのチャンネルがこんな風だったのを何かで見たことがある。実物を見たことがないそれを、まさか現代人の居住スペース、それも一人暮らしの大学生の部屋で見るとは思ってもいなかった。自分がとりわけ都会人だと思ったこともなかったが、親の田舎だってこんなレトロな代物は見たことがない。つまみをひねり、「切」から「弱」を越えて「強」まで回す。ギッ、ギッ、と不気味な音を立てながら、扇風機は現役をアピールするように首を振って風を回した。風はくる。それは間違いない。扇風機はどんな形であっても仕事はシンプルだ。しかし、老体に鞭打つ気持ちになるのはジャンだけだろうか。
「これ、火ィ吹いたりしねぇだろうな……何十年ものだよ」
「さあ、入居したときからあったんだ」
「買えよ!」
「だって動くから」
アルミンはさっさとちゃぶ台から物をおろし、ジャンの前に麦茶を入れたグラスを置く。更に全部降ろしてそこにノートパソコンを引き上げた。そこでジャンはやっとここへきた目的を思い出す。共同での課題が出て、それをまとめにきたのだ。気を取り直そうとジャンはグラスを手にして口を付け、……顔をしかめる。
「ぬるい……」
「家出る前に沸かしたんだけど、まだ冷えてなかったみたい」
「氷は?」
「うちの冷蔵庫あんまり冷凍できなくて氷作れないんだ」
「買い換えろ!」
「使えるから大丈夫だよ」
まるで暑さを感じていないかのように、アルミンはぬるい麦茶をあおって鞄から課題の概要を取り出した。途中でコンビニに寄るべきだった、と後悔するが、再びあの日差しの元へ出る気になれない。諦めてジャンも飲んだ気のしない生ぬるい麦茶を口にし、仕方なく資料を開いた。
アルミンの部屋は蒸し暑く、今日は風もあまりないので部屋の中は耳障りな扇風機が辛うじて空気を巡回させているだけである。いつもは玄関も開けているのだとアルミンは言ったが、背後が開け放されていることにジャンが落ち着かなくなり閉めていた。かといって、開けていたときと暑さはさほど変わらない。
ジャンは途中で羽織っていたシャツを脱いでタンクトップ1枚になり、扇風機の前を陣取っていた。汗をかくのが耐えられなかったのだ。普段アルミンが薄着でいる理由がよくわかる。ノートパソコンからのわずかな発熱さえ疎ましく思うほどだったが、アルミンは慣れているせいか顔色ひとつ変えていなかった。恨めしげに隣を見る。キーボードを叩く指先はではなく画面を見ている横顔は涼しげだ。しかしよく見ればアルミンの額や首筋にも汗が浮いている。どんな不屈の精神を宿していても、肉体は別ということか。
「ジャン、これについての資料なかったっけ」
「あ?あ〜……これネットで見たやつじゃなかったか?」
「そっか。何で検索かけたっけ」
一緒にノートパソコンを覗き込み、慣れた距離を途端に意識する。こんな季節、汗をかいている姿なんて珍しくない。それでもお互いの体の熱を感じる距離に寄ることはそう頻繁ではないことだ。自分が汗臭いことはわかる。しかし知ったものと少し違うこれは、アルミンの匂いだろうか。しっとりと濡れた首筋を汗が伝ってTシャツの襟に吸い込まれた。
「……お前、エロいな」
アルミンの視線がこちらを見た。咎めるでも照れるでもない、感情の読めない目だ。薄くあいた唇、歯は隠れて見えないが、彼にしては珍しい表情だった。黙って唇を合わせる。乾いてぬるい体温。
これを知っている。夏のにおいだ。
懐かしい記憶を塗り変えるように、唇を舐めて舌をねじ込む。そのまま促せばアルミンはあっさり力を抜いて、ジャンに任せて畳へ体を預けた。毛羽だった畳にまぶしい金髪が散る。汗で絡まるシャツをまくりあげ、触れるジャンの手も触れられるアルミンの腹も汗ばんで張りつくようだ。
熱い呼吸を交わし、熱を高める。肌を伝う汗の感触がやけに感じられた。正気の沙汰ではない。こんなに暑い中で、きっと思考の歯車も汗で滑るのだ。そうでなければこんなにも、欲しくなるはずがない。
アルミンの甘い声に顔を上げ、ジャンは彼の潤んだ瞳をのぞき込む。普段は涼しげに見える青さえ、夏の暑さを思い起こすようだった。
「……ッダー!暑い!」
アルミンを引きはがすように体を起こし、ジャンは扇風機を引き寄せた。首振りさえも止めてしまい、その前で座り込む。汗をかいた肌を風が舐めていってようやく得られる涼しさに、ジャンは深く息を吐いた。体の中まで熱い。内蔵がゆだってしまうのではないだろうか。ちらりと麦茶を一瞥する。結露さえしないグラスがそこにある。この部屋には体の中を冷やすための物がない。
「アルミン、アイス買ってきて」
返事は黙って背中を蹴られた。無抵抗でいると何度か繰り返される。しかし痛みよりも暑さによる疲弊が勝り、ジャンはされるに任せた。
「こう暑くちゃ、エロいこともできねぇよ」
あー、と扇風機に向かって声を出す。音の振動はジャンを慰めはしない。
やがて黙ったままのアルミンはやにわに立ち上がり、不満を露わにした足音を立てて浴室へ向かう。ちらりと横目で伺えば、姿はないが叩きつけるような水音が響いてきた。そしてドスドスと足音を立て、アルミンが戻ってくる。
「たっぷり体の中まで冷やしてあげよう」
「たった今肝が冷えたので大丈夫です」
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