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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'12.03.Tue
「ほんッと腹立つ!」

どうにかジャンから引きはがしたエレンを引っ張って昇降口に向かう。遅いから迎えに行こうと言ったミカサを置いてきて正解だった。教室の中からはまだマルコに宥められているジャンの憤る声が聞こえていて、それに反応して引き返そうとするエレンを慌てて捕まえる。

エレンとジャンはどうにも相容れないらしい。つまらないことで喧嘩をしてはぶつかっているが、アルミンはこっそり、彼らがそれをどこか楽しんでいるのではないかと思っている。エレンもジャンも、同じことを繰り返すような馬鹿ではない。

「もう、今日のはエレンが悪いよ」

「知るか」

「ほんっと懲りないんだから。いい、ミカサには何も言わないでよ、余計こじれるんだから」

「言わねえよ」

ふん、とエレンは鼻を鳴らすが、この態度を見ればミカサも何が起きていたのか察してしまうだろう。今度はあの美しい幼馴染をどう宥めるか考えて、アルミンは静かに息を吐く。

高校に入学してから見慣れた光景ではあった。エレンとジャンが小競り合いをして、それを見咎めたミカサが眉を吊り上げる。いつも宥めるのはアルミンの仕事で、ジャンを止めるのは彼の親友のマルコだった。

案の定、昇降口で待たせていたミカサはエレンの表情を見て、またジャンと揉めていたということを察したのだろう。その美しい眉を潜め、聞き取れないほどの早口で何かを口にする。その呪いにも似た言葉をジャンが直接聞かないことがせめてもの救いだろうか。



まだ制服のブレザーも馴染まない頃から、衣替えをした夏、再び冬服に戻った頃になっても彼らのやり取りは変わらない。エレンはジャンが嫌いで、ジャンはエレンが嫌い。エレンを好きなミカサはエレンの味方で、ジャンはミカサにこっそり憧れていて、アルミンは幼馴染のエレンの味方。

だから、変わったのはアルミンだけだ。いつの頃からか、ジャンと自分を飾らずにぶつかりあえるエレンを羨ましいと思っていた。

きっとジャンの目にはアルミンの存在など映っていないだろう。いつもジャンが声をかけるのは、天敵とも言えるようなエレンと、向ける笑みもぎこちなくなるミカサばかりだ。時々アルミンと目が合ったとしてもぷいと背けられて、まともに話をしたことなどない。

真っ直ぐ、自分の言葉で語る彼を、好きだと思った。鼓膜をくすぐる声で名前を呼ばれたら、と思い、慌てて首を振る。

自分には、それさえも高望みだとしか思えなかった。



*



「あのさぁ、いい加減にしたら?」

「うるせぇ……」

校門に向かうエレンたち3人を教室の窓から目で追い、ジャンは窓に額を押しつけた。秋の空気はガラスを冷やし、じわりと体温を奪われる。背後からマルコが深い溜息をついたのが聞こえたが、溜息をつきたいのはこっちだった。どうして、名前を呼ぶ、というただそれだけが、できないのだろう。

「いつまでもエレンと喧嘩してたって、アルミンはジャンに振り向いてくれないと思うけど?」

「わかってるっつってんだろ……」

ああ、あんな笑顔を向けられるエレンが羨ましいなどと、どうしてミカサを吹っ切った今でも思わなければならないのだろう。

入学式でミカサを見て、ひと目で恋に落ちた。凛とした佇まいに風に遊ばれる髪の先まで意識されたようで、ジャンの心をかっさらっていくには彼女は美しすぎた。その次の瞬間彼女の隣に現れたエレンの立ち振る舞いは彼女を全く尊重しないもので、憤りのままに彼にいらぬちょっかいを出したのももう随分前のことのように思える。

エレンと敵対している限りミカサが自分を振り向いてくれないだろうということはすぐにわかった。否、それ以前に、ミカサがエレン以外を見る気がないということもすぐにわかった。それは隠しようもなく、誰もがわかる事実だった。

しばらくはエレンとぶつかっては己の存在を主張していたジャンだったが、彼女に向けられる鋭い視線は辛いものだった。



ジャンがアルミンを意識したのは、いつだっただろうか。

ミカサがジャンからエレンを引きはがして行ったあと、苛立ち任せに頭をかいていたジャンをおずおずとアルミンが覗き込んだ。

「あの、ごめんね」

それをその瞬間に理解することはできなかった。すぐにアルミンはエレンに呼ばれ、慌ててジャンに背を向けて走っていく。それを鋭い目のまま見送った後、妙に気が抜けて肩を落とした。なぜアルミンが謝るのだろう。悪いのはエレンで、ジャンだ。自分でそれはわかっている。

そういえば3人でつるんでいたな、と思いだしてから、アルミンを意識するまではすぐだった。エレンとジャンが喧嘩をしていると慌てて止めに来て、時にはエレンに突き飛ばされてよろけながらもミカサの手を借りて喧嘩を止めている。ジャンがむきになる分エレンがヒートアップすることに気づいて、アルミンが駆け寄ってきてからは少し手を緩めるようになった。それはジャンを止める側だったマルコにはすぐに見抜かれて、あっという間に自分が気づいていなかった感情を引っ張り出された。

「なんでアルミンのやつ、あんなにエレンに付きまとってるんだよ」

「僕に聞かれても。自分で聞いてみれば?」

「聞けるかよ……」

「ほら、うだうだしてないで帰るよ」

もうアルミンたちはとっくに校門を出てしまった。マルコに引っ張られて、ジャンはしぶしぶ窓から離れる。

この間までミカサが好きで、今はアルミンが好きだなんて、そんな無節操なことを簡単に認めることはできなかった。

それでも、今はミカサに世話を焼かれるエレンよりも、アルミンの気遣いに気づかないエレンに腹が立つ。



*



いつもは3人で帰るアルミンたちだったが、今日はエレンもミカサも委員会の活動があるのでアルミンは先に変えることになった。図書室辺りで待っていてもいいと言ったのだが、以前同じように委員会の活動があったとき予想外に時間がかかったことを気にして、帰るように言われてしまったのだ。アルミンはどうせ帰ったとしても課題を済ませて本を読む程度の予定しかないのでどこにいても大差ないのだが、ふたりがしきりに気にするので素直に帰ることにしたのだ。

入学してから、ほぼ毎日登下校は3人だったので少し違和感がある。昇降口を抜けて駅に向かう途中の道さえすこし新鮮に見えた。思えば、いつもは話をして帰るのでエレンとミカサの顔ばかり見ているのだ。

いつの間にか木々は鮮やかに紅葉している。風も随分冷たくなって、冬に向かっているのだと実感させた。

ふと、角を曲がったアルミンは足を止めた。視界の先に、ジャンがいる。いつもはマルコと帰る彼も、今日はひとりであるようだった。そういえば、マルコは生徒会の役員だ。きっとエレンたちと同じく何か活動があるのだろう。

暇を持て余すように、何か音楽を聴いているらしいイヤホンが見える。自分より、エレンよりも背の高い後ろ姿。すでに少しくたびれたように見えるスクールバッグはファスナーの開いたままジャンの肩で揺れていた。

アルミンを追い抜いて行った人が振り返り、それにはっとしてアルミンもゆっくり歩き出す。視線はジャンから離せない。

――今、追いかけたら。

自分の隣にも、彼の隣にも誰もいない。ならば隣を歩くこともできるはずだ。

どきりと心臓が鳴って、ブレザーのネクタイごと胸元を掴む。脈が早いのがわかるほど心臓がうるさい。

途中の乗り換え駅までは、一緒に帰れるはずだ。追いかけて、ぽんと肩を叩いて、一緒に帰ろう、と言うだけだ。少し罪悪感はあるけれど、エレンを出汁にすればきっと話も続く。



それでも、アルミンの歩みはそれ以上早くならなかった。やがて駅についた頃には人も増えてジャンを見失ってしまって、自分の意気地のなさに肩を落とす。もしかしたらもう二度とないチャンスだったのかもしれないのに、と思うと悔やんでも悔やみきれなかった。

「はぁ……」

少し、泣きそうだ。



*





ひとりでの帰り道は久しぶりだ。行きはひとりなので愛用にしている音楽プレイヤーを引っ張り出して駅に向かう。真面目な親友様は今日は文化祭の準備のための会議があるらしい。これからしばらく、当日までこういう日が続くのかもしれない。

どこぞの三人組のようにべったり張りついていなければ心細いなんてことはないが、腹が減ってもつき合ってくれる相手がいないのは寂しいものだった。ひとりで行くのも味気ないので結局まっすぐ帰ることにして、それでも少しは何か腹に入れたくて駅のコンビニに立ち寄って菓子パンを買う。少々お行儀は悪いが空腹には耐えかねた。

パンをくわえながらICカードを改札にかざし、ホームへ上がる。同じ高校の生徒だけではなく近くに大学もあるので人は多い。少しでも人の少ない方に、とホームの奥へ向かう途中、ジャンはふと足を止めた。一番後ろの車両の辺り、文庫本を開いて次の電車を待っているのはアルミンだ。周りにいつも付きまとっている幼馴染の姿がない。そういやあいつらも何か委員会に入っていたか、と思いだし、ジャンははっとして食べかけのパンをスクールバッグにねじ込んだ。なぜだか無性に恥ずかしい。

風に煽られて髪を乱され、アルミンが少し顔を上げる。肩にかけたスクールバッグを直し、少し邪魔くさそうに髪を耳にかけてまた視線は本に戻った。誰の目があるわけでもないのにきれいに背筋を伸ばし、ページを押さえる指先まで意識されたように無駄がなく見える。

――今、近づいて。

肩を叩いて、よう、でもお疲れ、でも何でもいい。何か声をかけて、何を読んでいるのか、でもいい。話題が続かなければ、嫌な顔をするかもしれないが、エレンの悪口でも言えば何かは返ってくるだろう。話をするのは苦手じゃない。きっとしゃべり出せばどうにでもなる。



それでも、ジャンは勇気が出なかった。アルミンがジャンをどんな目で見ているのか、いつも目をそらしていたから知らないのだ。

ジャンがミカサを好きだったときはその態度をすぐに周りに見抜かれて、一体自分のどんな仕草がそれを露わにしたのかまだわからない。実際アルミンを意識し始めたこともはマルコにはすぐに見抜かれた。だからもしアルミンにも同じことをしてしまったら、アルミンはどう思うのだろう。そう思うと怖くなり、まともに目を合わせたこともない。

まだ踏ん切りがつかない間に電車が来てしまい、ジャンはアルミンが電車に乗り込むのを見ながら、隣の車両に乗り込んだ。



アルミンはいつもエレンとミカサと一緒に帰る。否、登校時も同じだ。幼馴染で家も近いのだから当然と言えば当然なのかもしれない。

文化祭当日まで、アルミンがひとりで帰る日はあるのだろうか。マルコは忙しいらしいと先輩に聞かされていたようだが、普通の委員会ではどうなのだろうか。もしかしたら、もう二度とないかもしれない。

がたん、と電車に揺らされながら、ジャンはぐっとこぶしを握った。

途中の乗換駅までは、アルミンも同じはずだ。

次の駅でジャンはホームに飛び出して、アルミンがいるはずの車両に乗り直す。ドアに寄り掛かって相変わらず本を開いていたアルミンはすぐに見つかった。

どくどくと心臓がうるさい。こんなに緊張したことはここ最近ではなかった。さっきまでは何とでもいえると思っていたのに、いざアルミンを前にすると頭が真っ白になる。それでも電車が動き出し、時間は有限であるとジャンに知らしめた。別れるはずの駅まではふた駅ほどしかない。

深く息を吸って、アルミンの前に向かう。気配を感じたのか、顔を上げたアルミンはジャンを見て目を丸くした。そこに拒絶がないことだけが救いだ。

「……よう」

「あ……うん」

驚いているアルミンに後悔する。やっぱりいつもと違うことはするものではない。それでも一度始めてしまったのだから引き返すわけにもいかず、ジャンは必死で頭を巡らせる。

「あー、あいつは?エレン」

「委員会だって。もうすぐ文化祭だから」

「ああ、マルコもだ」

「ジャンは委員会、入ってないんだっけ」

「ああ」

「そう、僕も」

「……」

「……」

アルミンが本を閉じた。それにはっと気がついて、ジャンは慌てて耳からイヤホンを引き抜く。それはいつの間にか再生が終わってしまっていた。もう何を聞いていたのかもよく思いだせない。

「本、酔わねえ?」

「ううん、大丈夫」

「ふーん」

「……」

「……」

これはまずい。何も会話続かない。アルミンは困ったように視線を泳がせていて、なぜか少し頬が赤いように見えてジャンも直視できなくなる。決して容姿に惚れたわけではないと言いたいが、可愛く見えて仕方がない。

「え、えーと、ジャンは、乗り換え?」

「あ、ああ。地下鉄」

「僕とは別だね」

「ああ」

「……」

「……」

やばい。めっちゃアルミンが頑張ってくれてる。頭を抱えそうになるのをどうにか抑え、ジャンも必死で頭を働かそうとするが、何を話してもベストであるとは思えなかった。

「……本、好きなのか」

「あ、うん」

「何読んでたんだ?」

「……知らないと思う」

「……そうか」

「……」

「……」

これは拒絶されたのか?オレには話したくなかったか?普段のアルミンがどのように会話をしていたのか全く思いだせない。確かにジャンとは話をすることはほとんどないが、マルコとは仲がいいはずだ。そのそばで会話を聞いていたことは何度もあったはずなのに。

電車が少し傾き、アルミンがよろけて窓に手をつく。これ今の支えてやればドラマみたいに決まったんじゃねえのかな、とつまらない妄想ばかりが頭をかすめる。

「ジャン、は」

「な、何?」

「何聞いてたの?」

「えっ」

「それ」

「あ、ああ……いや、これも、知らないと思う。インディーズの、知ってるやつ会ったことねえし」

「そう……」

「……」

「……」

また電車が止まる。何人かが降りて、何人かが乗ってくる。もうあとひと駅だ。

「……僕」

アルミンが何か言ったような気がしたしかし電車のアナウンスとかぶって聞き取れない。聞き返すと大きな目でジャンを見上げ、慌てたように何でもないと首を振った。

「何だよ、言えよ」

あ、やばい、きつすぎたか?自分の話し方まで気を使う。もう全部がもどかしい。アルミンに好かれたくて必死だった。しかし実際はきっとそれ以前で、好かれるどころか友達とも言えないのだ。

「えっと……」

言いよどむアルミンの言葉を待っている。緊張で手に汗をかき、こっそりボトムで手のひらを拭った。何を言われるのだろう。

次にアルミンが口を開きかけたとき、ジャンの腹の虫が鳴った。全く空気の読まないそれは、少なくとも目の前のアルミンには聞こえるほど派手に響く。途端にかっと頭まで熱くなり、ジャンは耐え切れずに顔をそむけてドアに寄り掛かった。

「……ふふっ」

柔らかい笑い声に、もう死にたい、という思いが頭を占める。しかしどういう顔で笑ってるのかどうしても見たくなってしまい、横目でアルミンに視線を遣った。いつも幼馴染たちに向けているような微笑みに、心臓が射抜かれたように痛くなる。

「あのね、ずっとジャンと話したいと思ってたんだ」

「え」

「何か食べに行く?」

結婚しよ。

ジャンの反応がないことを不安になったアルミンが眉を下げるまで、ジャンはアルミンの笑みに見とれて硬直していた。
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