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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2013'12.20.Fri
僕の瞳のほんとうの色を知ってる?

僕は鏡を見ないから、自分の目が何色なのか知らないんだ。

どういうことだと思うかもしれないけれど、僕がこの目を得たのは、あれはまだシガンシナに住んでた頃、もっと小さい頃のことだった。

まだエレンとも知り合う前のことだ。僕は近所に友達もいなくて、おじいちゃんが本を読んでくれるのが毎日の楽しみだった。だけどその頃はまだおじいちゃんも働きに出ていたから、そういつもいつも一緒にいてくれるわけじゃない。

僕は家を出ることは禁止されていなかったから、いつも暇つぶしに街に出ていた。文字を覚えかけたばかりの頃で、店の看板を読むだけでも楽しかったんだ。

え?うーん、ひとりで危ないって言われたことはなかったなぁ。シガンシナは平和だったし、川辺には近づかなかったから。遠くへ行ってはいけない、って言うのは強く言われていたけどね。

だからその日もいつものように、ひとりで街を歩いていた。顔見知りの人に挨拶をして、みんな親切だったからひとりで遊ぶ僕を厭うこともなく声をかけてくれたよ。

毎日のようにそんなことをしていたから、僕はすっかり近所のことを覚えていた。どこの家は何人家族で、あそこのお店に行けば何が買えて、この家には犬がいて、……そんなことばかりだけど。

だから、いつもはそこにないものを見つけることも得意だった。どこの花壇の花が咲いたとか、そこの店の看板娘が髪を切ったとか……。



でもその日見つけたものは、そんな些細なものじゃなかった。

もうそろそろ日が暮れてきて、家に帰ろうとしていたときだった。少し遠くまで行きすぎたせいか、自分が思っていたよりも早く辺りが暗くなってきて、少し怖かったけれど人気がない近道を選んだんだ。家と家の間の路地裏で、きっと今の僕が行けば怖くもなんともないような場所なんだろうけれど、その頃の僕には人気も明かりもない道をひとりで通るのはとても勇気のいることだったんだ。

そう……そこは背の高い家が並んでいるから、一日のどの時間でも、暗く影のかかっているところだった。

その路地の前まで来て、僕はまた迷い出した。少し遅くなっても、人のいる道を通って帰ろうかしら。お母さんには帰りが遅くなったことを怒られてしまうかもしれないけれど、怖い思いをするのとどちらがいいだろう。

そんなことを考えながら路地を覗いて、僕は多分、えっ、と声を出した。とにかくとても驚いた。

真っ暗であるはずの路地の奥に、ぽつんと明かりが灯っているのが見えたんだ。

もしかして周りの家の人が、この路地のあまりの暗さに火を入れるようにしてくれたのかもしれない。そこは普段昼間でもあまり近寄らなかったから、僕が見逃していただけかもしれない。

とにかく僕はほっと息を吐いた。人気はないが明るいのならまだ心強い。それまでの怖がっていた気持ちはぽんと捨ててしまって、僕は勇ましく路地に足を踏み入れた。



きっと、そんなに長い路地ではなかったんだと思う。せいぜい四、五軒分ぐらいだっただろうけど、子どもの足では長く感じてた。

段々明かりに近づいて、僕はそこで初めて、その明かりが路地に設置されたものではないと気がついた。

それは、人が持つランプだった。

フードつきの長いローブを羽織った人がランプを下げていたんだ。顔はほとんど見えなかったけれど、人見知りをしない僕は構わず近づいて行った。もしかしたら、お願いしたら、路地の向こうまでランプを持って一緒に来てくれるかもしれない、なんて期待しながら。

その人に近づいて、僕は「こんばんは」と挨拶をした。少し身動きをしてその人は僕を見た。半分フードに隠れた口元は切り結ばれていたが、僕に気がつくとにこりと弧を描いた。きゅうっと、耳から耳まで。

その人も「こんばんは」と挨拶を返した。その時、僕はその手にあるのがランプだけではないと気がついた。ローブと同じようなどこか薄汚れた布が巻かれたそれは真四角で、その人の腕の中にすっぽりと収まるほどの大きさだった。

ねえ君、と呼ばれて、僕は名前を名乗った。暗いから僕が誰なのかわからないのかもしれないと思ったんだ。そこにはランプがあるのにね。

唇は弓の形のまま割れて、僕の名前を繰り返した。それから、箱の中身を知っているかい、と問うた。

僕は時には疎ましがられるほど知りたがりの子どもで、そう聞かれると途端にその箱が気になって仕方なくなる。もうこの箱の中身を知らないままでは帰ることができないほど引きつけられて、首が取れてしまうのではないかと思うほど首を振った。



見たいかい、と声は問うた。僕は頷く。

見たいかい、と声は再度問うた。僕はさっきよりも大きく頷く。



見せてあげよう、と言われるのを待って、僕の視線はもうその人の腕の中のものを見ていた。ずるりとローブが揺れて、枯れ枝のような腕が――その人はとても細かったんだ。まるで木の枝のように痩せ細った腕をしていて、僕は一瞬それに驚いた。しかしその人は僕の動揺を気にしないまま、はらりと布をはがしていく。僕の意識は途端にそれに引き戻された。

はらり、はらりと布が取られる。

その下に現れたのは、何の変哲もない木の箱だった。ただ、ふたつ、こちらを向いて丸い穴が開いている。ぽっかりと空いた黒い穴は、そう、両目が並んでいるようだった。



見たいかい、声は問うた。僕は頷く。

見たいかい、声は再度問うた。僕はさっきよりも大きく頷く。



僕の目の高さに木箱が降ろされた。その木箱に見つめられているような感覚に、その時の僕にはわくわくしていた。中には一体何があるのだろう。

僕はふたつの穴に目を当てた。初めは真っ暗に思えたが、よく目を凝らすとそれは夜空に星が瞬くように小さな光りがちかちかとしている暗さだった。光りがちらつくのは、よく見えないが、何かが動いているからであるようだ。それがなんなのか確かめようと僕は更に箱に顔を押しつける。



――ずる、と。



眼球に何かが触れた。

その瞬間初めて恐怖を感じ、僕は叫んで体を引いた。慌てて目をこすると濡れた感触がして、違和感がある。瞬きを繰り返していると、ずるりと、

――目が落ちた。

地面に転がるふたつの目玉が僕を見上げ、その恐怖に悲鳴を上げる。



――僕の記憶はそこまでで、気がつくと自分のベッドで寝ていた。路地の家の人が何もないところで倒れている僕を見つけて、家まで連れて行ってくれたらしい。家族にたっぷり心配されて事情を聞かれたけれど、いくら説明をしても信じてもらえなかった。そんなはずはない、と僕は母の鏡を借りて自分の顔を覗きこんだ。

目の中で、黒い影がうごめいていた。



あれから僕はまともに鏡を見ていない。結局僕は貧血か何かで倒れて奇妙な夢でも見たのだろうということにされたけれど、僕はまだ、自分の目が落ちるのではないかと言う恐怖に襲われることがある。あの感覚は、一生忘れようにも忘れることができないものだった。

ねえ、誰か、僕の瞳の色が何色か、確かめてくれないかな。ついでに、その中に、黒い影がいないか探しておくれ。
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