言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2013'12.20.Fri
小さい頃、母が寝込んだことがあった。
私の母は風邪ひとつひかない強い人で、私や父が寝込んでいるような時でも看病と家事に走り回って、病人から風邪をもらうこともない人だった。
その母がベッドから起き上がってこないということは、幼い私にとってはそれだけでとても不安なことだった。母はうつるからとそばに行かせてくれなくて、起きたときと寝る前に挨拶を許されていただけだった。
そう……それは、少しおかしいぐらい長く続いた。父も不安になるほど、母の容体はいつまでもよくならなかった。それでも、グリシャ先生が見て下さっても症状はただの風邪でしかなくて、みんなで首を傾げていた。
母が部屋の中に入れてくれないので、私は窓の外から母の様子を見ることにした。寝室の外から窓を叩けば、起きていた母は驚いてこちらを見た。長く寝込んでいるせいで少しやつれていて、私はとても悲しかったことを覚えている。精一杯平然と振る舞ったけれど、母は泣きそうになっていたからきっと私も悲しい顔をしていたのだろう。
それでも毎日、私は窓の外から母を見舞った。ベッドから体を起こすこともできない母は窓を開けてくれることもなかったけれど、母のかすれた声をガラス越しに聞くことは悲しかったけれど。
それがどれほど続いたのか、幼かった私はあまりはっきりと覚えていない。
その日、いつも通り私は窓の外から母の様子を伺った。その日は花をつんで行ったことを覚えている。鮮やかな花を窓辺に置けば、母の気持ちも少しは晴れるのではないかと思ったから。今思えば、きっと母は笑顔を見せることも辛かったのだろうと思う。思えば私はただ母が休む邪魔をしていただけなのだろうけど……とにかく、その日はいつもと違った。
寝室を覗いて、ガラスをノックしようとして、私は驚いた。もしかしたらノックをした後だったかもしれない。母がこちらを見たから。
しかし私は母を見ることができなかった。別のものに、視線が引き寄せられていた。
母のベッドの側に、「何か」がいた。
「何か」……としか、私には言えない。それがどんな姿をしていたのか、どんな色をしていたのか、覚えていないのではなく、……「何もいなかった」というのが、きっと一番近いのだと思う。
そこには何もない。ただ部屋の壁が見えるだけ。
そうだというのに、私には母のベッドの側に「何か」がいるのはわかった。よくわからない「何か」が母のそばにいた。
私は無我夢中で家の中に飛び込み、真っ直ぐに寝室を目指した。丁度父は仕事に出ていて誰に止められることもなく、私は乱暴にドアを開けて母のベッドに駆け寄った。驚く母の体に覆いかぶさって、咎める母の声も聞かずにそうしていた。
母を守らなければならないと思った。
だって、あの母がこんなに苦しむはずはない。きっと、何か悪いものが母を苦しめているのだ。
これ以上母を苦しめるのなら、私が守らなければならないと思った。
ベッドの側、私の背後には「何か」の気配があった。母が私を何度も呼んだけれど、私は何も言わずずっと母に縋りついていた。
そのときふっと、お香の匂いがした。
お香と言うのは……役割としてはポプリのようなもの。母の国のもので、母は特別な日やお祝いごとの日にお香を焚く。……火をつけて使うものなので、母は日常的には使ってはいなかった。それでもお香を焚いた日は服や髪に匂いが移って、私もとても好きだった。
そのお香の匂いがした。それと同時に、ぽっと背中が温かくなった。「何か」がいる方から、じんわりと。
途端に何か間違えているような気がしたけれど、私はやはり怖くて母から離れることはできなかった。
そうしているうちに私は眠ってしまっていたようで、起きたときには私はひとりで母のベッドに寝かされていた。すぐに跳ね起きて寝室を出ると、母親が元気に夕食の支度をしていた。ここしばらくのことが夢であったように、しゃんと背を伸ばして立ち、てきぱきと行き来している。
私が母を呼ぶと笑顔をこちらに向けて、その頬がこけていて、夢ではなかったのだとわかった。それでも、母が元気になったことは間違いない。
ほっとした私は母に縋りついて、……これは母に聞いた話だけれど、私は骨が折れそうなほど強く母を抱きしめて、獣のような大声で泣きわめいた。私は全く覚えていないので聞いた話。
私が泣き止むと母は熱いお茶を入れてくれた。ふと「何か」の気配がもうすっかりなかったことを思い出し、私は母にお香を焚いたか聞いた。確かにあの匂いは、母の香の匂いだった。
母は首を傾げて私に聞き返した。私は母に「何か」がベッドのそばにいたこと、母を守らなければならないと思ったこと、そしてお香の匂いがしたことを話した。
母は私の話を始めは笑顔で聞いていた。しかし次第に眉を寄せ、私が話し終えると泣き始めた。
私はまだ母は具合が悪いのではないかと思い慌てると、母はそうではない、と泣きながら私に笑いかけた。
母の好きなあのお香は、母の母が好んでいたものであるのだと教えてくれた。
私の母は風邪ひとつひかない強い人で、私や父が寝込んでいるような時でも看病と家事に走り回って、病人から風邪をもらうこともない人だった。
その母がベッドから起き上がってこないということは、幼い私にとってはそれだけでとても不安なことだった。母はうつるからとそばに行かせてくれなくて、起きたときと寝る前に挨拶を許されていただけだった。
そう……それは、少しおかしいぐらい長く続いた。父も不安になるほど、母の容体はいつまでもよくならなかった。それでも、グリシャ先生が見て下さっても症状はただの風邪でしかなくて、みんなで首を傾げていた。
母が部屋の中に入れてくれないので、私は窓の外から母の様子を見ることにした。寝室の外から窓を叩けば、起きていた母は驚いてこちらを見た。長く寝込んでいるせいで少しやつれていて、私はとても悲しかったことを覚えている。精一杯平然と振る舞ったけれど、母は泣きそうになっていたからきっと私も悲しい顔をしていたのだろう。
それでも毎日、私は窓の外から母を見舞った。ベッドから体を起こすこともできない母は窓を開けてくれることもなかったけれど、母のかすれた声をガラス越しに聞くことは悲しかったけれど。
それがどれほど続いたのか、幼かった私はあまりはっきりと覚えていない。
その日、いつも通り私は窓の外から母の様子を伺った。その日は花をつんで行ったことを覚えている。鮮やかな花を窓辺に置けば、母の気持ちも少しは晴れるのではないかと思ったから。今思えば、きっと母は笑顔を見せることも辛かったのだろうと思う。思えば私はただ母が休む邪魔をしていただけなのだろうけど……とにかく、その日はいつもと違った。
寝室を覗いて、ガラスをノックしようとして、私は驚いた。もしかしたらノックをした後だったかもしれない。母がこちらを見たから。
しかし私は母を見ることができなかった。別のものに、視線が引き寄せられていた。
母のベッドの側に、「何か」がいた。
「何か」……としか、私には言えない。それがどんな姿をしていたのか、どんな色をしていたのか、覚えていないのではなく、……「何もいなかった」というのが、きっと一番近いのだと思う。
そこには何もない。ただ部屋の壁が見えるだけ。
そうだというのに、私には母のベッドの側に「何か」がいるのはわかった。よくわからない「何か」が母のそばにいた。
私は無我夢中で家の中に飛び込み、真っ直ぐに寝室を目指した。丁度父は仕事に出ていて誰に止められることもなく、私は乱暴にドアを開けて母のベッドに駆け寄った。驚く母の体に覆いかぶさって、咎める母の声も聞かずにそうしていた。
母を守らなければならないと思った。
だって、あの母がこんなに苦しむはずはない。きっと、何か悪いものが母を苦しめているのだ。
これ以上母を苦しめるのなら、私が守らなければならないと思った。
ベッドの側、私の背後には「何か」の気配があった。母が私を何度も呼んだけれど、私は何も言わずずっと母に縋りついていた。
そのときふっと、お香の匂いがした。
お香と言うのは……役割としてはポプリのようなもの。母の国のもので、母は特別な日やお祝いごとの日にお香を焚く。……火をつけて使うものなので、母は日常的には使ってはいなかった。それでもお香を焚いた日は服や髪に匂いが移って、私もとても好きだった。
そのお香の匂いがした。それと同時に、ぽっと背中が温かくなった。「何か」がいる方から、じんわりと。
途端に何か間違えているような気がしたけれど、私はやはり怖くて母から離れることはできなかった。
そうしているうちに私は眠ってしまっていたようで、起きたときには私はひとりで母のベッドに寝かされていた。すぐに跳ね起きて寝室を出ると、母親が元気に夕食の支度をしていた。ここしばらくのことが夢であったように、しゃんと背を伸ばして立ち、てきぱきと行き来している。
私が母を呼ぶと笑顔をこちらに向けて、その頬がこけていて、夢ではなかったのだとわかった。それでも、母が元気になったことは間違いない。
ほっとした私は母に縋りついて、……これは母に聞いた話だけれど、私は骨が折れそうなほど強く母を抱きしめて、獣のような大声で泣きわめいた。私は全く覚えていないので聞いた話。
私が泣き止むと母は熱いお茶を入れてくれた。ふと「何か」の気配がもうすっかりなかったことを思い出し、私は母にお香を焚いたか聞いた。確かにあの匂いは、母の香の匂いだった。
母は首を傾げて私に聞き返した。私は母に「何か」がベッドのそばにいたこと、母を守らなければならないと思ったこと、そしてお香の匂いがしたことを話した。
母は私の話を始めは笑顔で聞いていた。しかし次第に眉を寄せ、私が話し終えると泣き始めた。
私はまだ母は具合が悪いのではないかと思い慌てると、母はそうではない、と泣きながら私に笑いかけた。
母の好きなあのお香は、母の母が好んでいたものであるのだと教えてくれた。
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