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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.18.Sat
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2014'02.04.Tue
二日に一度、否、三日に一度程度だっただろうか。就寝前の些細な時間にジャンはアルミンとふたりで話をする。アルミンは頭は回るので会話は有意義なものではあったが、恋しあうふたりの会話にはならなかった。予習復習でもしているような気分でジャンはアルミンの話を聞いていた。食堂で、あるいは教室で、何かしらふたりきりであったことだけが恋人らしいと言えたかもしれない。



食堂で待ってる、と小さく告げられた通り、アルミンは食堂の隅にいた。少し船をこいでいるようだったが、ジャンの足音に気づいてはっと背を伸ばす。

「お前、不器用なんだな」

今日の第一声にジャンがそう言えば、アルミンは瞬きを繰り返した後ぱっと顔を赤らめた。初な少女のような反応をくつくつ笑って隣に座る。

今日はいつもとは少し違った座学があった。あるいは実技ともいうだろうか。さして長い時間ではなかったが、裁縫の時間があったのだ。

兵士は身の回りのことはすべて自分でこなさなければならないのが基本だ。他者に迷惑をかけるようでは立派な兵士とは言えない。シャツのボタンが取れているようなみっともない姿で人前に立つことが許されるはずもなく、入団当初に随分教え込まれたものだった。それが時間を経た今日、抜き打ちで実技があったのだ。同じ訓練兵たちと過ごすうちには、自然と人に頼る者も出てくる。または自分でする機会が訪れないまま忘れている者が大半であるからだ。

案の定何人かは苦戦しており、アルミンもまたそちらの代表のようなものだった。服のほつれを繕うぐらいのことはしていたようだが、それも大抵は幼馴染みが手直しをしていたらしい。アルミンは言葉を濁してくれたが、それはミカサのことだろう。羨ましいやつだ。

ジャンはというと幸か不幸か器用な方で、大抵のことはそつなくこなすことができる。裁縫もまた、そうだった。

抜き打ちといってもそれほど重要視されるものではなく、教官はできないやつはさっさとできる相手を捕まえろよ、と冗談なのかわからない言葉を残していった。アルミンにとってのそれは、今月中であれば、ジャンになるのだろう。

「それはそうと、ジャンは今日大変だったね」

「あ〜、あれな……日に二回も闇討ちってありかよ」

訓練中に教官が抜き打ちで行う「闇討ち」は、忘れた頃にやってくる。不慮の事故を想定しているのだから当然ではあるのだが、成績などに関わらず、ランダムで行われる故意的な事故には見ているだけでも肝を冷やす。ジャンはそれを今日は二度もされた。別の教官であったとは言え、運が悪かったとしか言いようがない。

「あれで今日は立体軌道装置のワイヤー切られたからな、明日整備し直しだ」

「僕も去年されたとき大変だったな」

「換えはどうにか今日中に滑り込みでもらってきたけど、めんどくせえなぁ、休みだってのに時間とられちまう」

「……ねえ、明日、整備するの見ててもいい?」

「あ?別にいいけどよ」

「よかった。マルコがジャンは整備もうまいって言ってたから、いつか見せてもらおうと思ってたんだ」

「……別に、それぐらい恋人じゃなくたってつき合うぞ」

恋人、の言葉にアルミンは頬を染めた。背を丸めてこくりと頷く。

「ジャンは優しいね。僕、ジャンには嫌われてるんだと思ってたから」

「……オレが嫌いなのはエレンだけだ」

「そう?」

小さく笑う横顔に呆れた。あまり人を見る目はないらしい、と自分のことは棚に上げて考える。とは言え、似たようなものだったかもしれない。端的に言えば、アルミンにはこれまでなんの興味もなかった。憲兵団を目指すジャンにとって成績上位者は気になる存在だが、アルミンは座学は飛び抜けていても実技はからっきしで、始めから視野にいなかった。

「お前、そういやマルコと仲よかったな」

「うん、よく話をするよ。あっ……あの、違うよ」

「何が?」

「マルコとは純粋に友達だ、その……君の話を聞いたことは、あったけど」

要するに、ジャンに近づくためにマルコに近づいたわけではないと言いたいらしい。頭がよく回りすぎるのも考え物だな、とジャンは笑った。

「オレそれ聞いてもそこまで思いつかなかったわ」

「うう……言わなきゃよかった」

「お前、オレのどこがいいんだよ」

「……そうだな、凄く、目立つから……まずは目が行くようになって」

「エレンとの喧嘩もするもんだな」

「それだけじゃないよ。君はいつも、正直じゃないか。嘘をつけって言いたいわけじゃないけど」

「ごちゃごちゃめんどくせえこと考えるのが嫌なだけだ」

「それでも、普通は言えないよ。少なくとも、僕は。それでちょっと、羨ましかったな」

「ふうん」

存外つまらないことで人は誰かに惹かれるのだ、とやはり自分のことは棚に上げた。ジャンだってただ一目惚れしただけではない。流れる黒髪に見とれた夜からから彼女を更に知って、そして好きになった。

「僕」

話はまだ終わっていなかったようだ。アルミンはジャンと話をするとき、あまりこちらを見ない。隣に並んで座り、自分の指先を見ていることがほとんどだ。照れているのか、あるいはジャンが無遠慮に横顔を見ているからだろうか。

「親にも、おじいちゃんにも、行かないでって言っておけばよかった」

アルミンがぽつりとこぼしたのは、泣き言に近いものだった。いつも歯を食いしばって訓練についてくるアルミンは、誰かに手を貸されても甘えない。

巨人に壁を壊されて以降、孤児は珍しくない。アルミンも身内はいないという。あの幼馴染み三人ともそうだと聞けば、ずっと一緒にいることも理解できなくはない。

「勿論、僕がそう言ったところで何も変わらないんだけど、……行ってほしくないんだってことを伝えておけばよかったと後悔してる」

口を閉じて、アルミンは小さく爪を弾いた。ジャンは両親も健在で、あの悪夢の日も何も見なかった。アルミンの家族はみな、巨人によってではなく、政府のために死んだのだと聞いたのはつい先日のことだ。

「あっ……ごめん、変な話して。ただの、僕のエゴだね」

「……どうせ、お前の顔見りゃバレバレだっただろ」

「そうかな?」

「オレにわかるんだから親ならわかるだろ」

「……そうだね」

アルミンがこちらに笑みを向けた。今まで記憶になかったが、アルミンは笑うとそれなりにかわいいのだ。それに好かれているというのは男だとわかっていてもそう満更でもない。

アルミンの視線がジャンに向いていることは知っていた。それが敵意でないことも感覚でわかった。好意なのかと気づくのは少し時間がかかったが、ジャンと目が合うとゆっくり視線を外し、その耳が赤く染まっていたのが決定打だった。

「ジャンは明日の予定は整備だけ?」

「……午後は家に顔を出すつもりだ」

この流れでは少し言いづらく、アルミンもジャンの言葉に硬直した。できるだけぶっきらぼうに背中を叩くとはっとして、ごめん、とまた謝る。

「あ、えっと……そうだね、近いもんね」

「あー、お前は、墓参りなんかは行かねえの?」

「う、えっと、その……死体もなくて……僕も開拓地にいたからお墓も……」

「うっ、あ〜……すまん」

「ううん、こっちこそ……聞いて楽しい話じゃなかったね、ごめん」

不安げな視線がジャンを見た。しばらく無言でさぐり合ったあと、どちらからともなく笑いをこぼす。

「今日はもう寝ようか」

「だな」

ほぼ同時に立ち上がり、ふたりは食堂を出た。

恋人ごっこを始めてから、初めて時間の取れる休みだった。恋人となれば共に過ごすのだろうか、と思ったジャンは、それは少し避けたかったのだ。もし誘われたら何も理由がないのに断るのははばかられ、実家にも先に伝えていたのだ。

今になって少しだけ、惜しいことをしたように思う。アルミンは普段どんな休日を過ごしているのか、興味がわいてきたのだった。
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