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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2025'01.19.Sun
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2014'02.01.Sat
もしかして、そうなのだろうかと少し思っていた。ジャンはそれほど鈍感ではなく、自分が周りにどう思われているのか、相手が自分に接する態度がどうかぐらいはわかるつもりだった。

だから、アルミンがジャンに告白をしてきたときも、さして驚かなかった。アルミンも頭のいい男だから、ジャンが気づいていることに気づいていたのだろう。ジャンの態度を見て、苦笑する。

「君が僕に興味がないことはわかってる。だから、お願いがあるんだ」

「お願い?」

「ひと月だけ……今月だけでいいんだ、僕とつき合ってくれないか。ごっこ遊びでいい、誰にも言わない」

「……ひと月だけ、恋人ごっこしろって?」

「うん……次の年度が終われば君は憲兵団に行くだろう?僕は調査兵団を目指してる」

「ああ」

とんだ物好きだといつも思っていた。幼馴染みだかなんだか知らないが、それが何より正しいのだとばかりに自分の夢を振りかざす頭のおかしな幼馴染みに洗脳されているに違いない。

「そうなれば君に会えなくなるだろう。そう思ったら、……迷惑だとはわかっていたけど、言わずにはいられなくて」

アルミンはれっきとした男のくせに兵士の中では小柄で、しおらしい仕草をすればますます兵士には見えなかった。座学だけは得意な頭でっかちは、調査兵団なんかに入ればすぐに死んでしまうだろう。ジャンには犬死にだとしか思えない。

「あっ、あの、恋人だなんて思わなくていい!ただ……僕、見ていただけだから、その……もう少し、君の話が聞きたいだけなんだ。だから、時々ふたりで話をしてくれるだけでいい。今月が終われば、もう近寄らないから」

「今月、ねえ……」

「……気持ち悪い?」

「……俺にメリットがねえな」

アルミンはすうと息を吸った。ジャンの言葉は予想済みだったのだろう。それまで少し震えていた指先を握り、ジャンを見上げる。

「来月になったら、君の恋に協力する」

「なっ……」

「嘘をつくようなことはできないけど、できることなら何でも。……僕もそれで、君への気持ちは封印するから」

ジャンがミカサを気にかけていることはよく知られていることではあった。しかしそれを真っ正面から恋だと言われたことはなく、思わず拳を握ってしまう。ミカサはジャンなど眼中にない。恋と言い切るには、あまりにも惨めな恋だった。

「ミカサの幼馴染みの僕なら彼女に君の話をすることもできる。エレンを引き離すことも」

「……なるほど」

「その代わり今月だけ、僕に君のことを恋人だと思わせてほしい。君は、そう思わなくて構わないから」

「あー……いや、そうなると、お前のメリットがわからねえ」

話が具体的すぎて、アルミンが押し通す気であることは間違いない。しかし素直に話を飲むのはさすがに抵抗があった。ジャンのそんな態度を見て取って、アルミンは眉尻を下げて笑う。

「好きな人と一緒にいたいだけだよ」

ジャンは言葉を失った。

――自分が思っていたよりも、アルミンは自分のことが好きなのかもしれない。

誰かに心を寄せられるということは、思っていたほど悪くなかった。とはいえ、これがむさ苦しいライナーのような男であれば違っただろう。しかし相手はアルミンだ。更には話をするだけでいいという。今日から始まるひと月、一番短いひと月だ。

「……ひと月だけな」

ぱっとアルミンは明るい笑みを見せた。自分もミカサに気持ちを返されたら、こんな風に笑えるだろうか。ありがとう、と笑うアルミンは眩しいほどだったが、ジャンは日常は大して変わらないだろうと思っていた。



その日の夜にはジャンはもうほとんど忘れかけていた。夕食の時にいつも通りに慣れた席で食事をしているときに、何気なくミカサに目を向けて、視界に入ったアルミンを見て初めて思い出した。視線の合ったアルミンがはにかみを見せて、どうしていいかわからず食事に戻る。

「ジャン、今日の座学のやつわかった?」

「ああ、オレもマルコに聞こうと思ってたんだった。最後のやつがややこしくてさ」

「だよねぇ。部屋に帰ったら考えよう」

「ん」

ごっことは言え、引き受けたのだから何か恋人らしいことをした方がいいのだろうか。同じ訓練兵の周りが呆れるほどのカップルは、空き時間があるたびにふたりでこそこそ話をしている。訓練兵たちに与えられた自由な時間で一番長いのは夕食後、消灯前の夜の時間だ。手紙を書いたり復習をしたり、友人たちと話しながら昼間の疲れをとる時間でもある。その決して長くない時間のいくらかをアルミンに裂かなければならないのか、と考えて、早まっただろうかと少し後悔しながら味の薄いスープをすすった。

テーブルのそばを通った誰かが足を止めた。ジャンが顔を上げると、食器を片付けに行く途中らしいアルミンだ。ジャンと目を合わせ、マルコの方にも視線を送る。

「今日の復習するなら、僕も混ざっていい?」

「ほんと?アルミンがいるなら心強いな」

「それが、僕も今日は集中できなくて」

マルコに苦笑してみせるアルミンに、そうだろうな、とジャンはひとり心の中で頷いた。あの告白を聞いたのは朝だったのだ。それからの座学はときどき盗み見たジャンにはわかりやすいほど、アルミンは落ち着きがなかったのだ。そのあとの実技訓練では持ち直していたようだが、実技が苦手なのはいつも通りなので、立ち直っていたのかどうかはわからない。

「じゃあ後で」

「うん」

マルコに応えた後、アルミンはジャンを見た。少しどきりとして、パンを噛んで誤魔化す。

「ジャンも、後でね」

「ああ」

はらりとほほえみ、アルミンはテーブルの間を歩いていった。何かいいことあったのかな、とマルコが言うほどわかりやすくて、アルミンが本当に隠し通せるのか不安になった。



食事も入浴も済ませた訓練兵たちの大半は部屋にいる。ジャンたちもまた同様で、ひとつのベッドに集まって各自ノートを広げていた。アルミンはやはり座学は上の空であったようだが、人の話をつなぎ合わせて理解してしまったらしい。嫌味なほど頭の回転がいいところを見せつけられた。

「マルコのノート、見やすいね」

「ありがとう。アルミンは意外とシンプルだね」

「取捨選択しないと、整理できなくて」

「書かなくても覚えられますってか。嫌味だな」

「ジャン」

「うるせえよ」

母親のようにたしなめるマルコにも、顔をしかめるジャンにもアルミンは笑っただけだった。

「オレ水飲んでくる」

ジャンがベッドを降りるとアルミンが指先を震わせた。それを見てしまうと無視できず、ジャンは溜息を隠してアルミンを呼ぶ。

「お前も行くか?」

「あ、うん!ちょっと行ってくるね」

マルコに断ってアルミンもベッドを降りた。素直についてくる姿は少しおもしろい。

「あの、ありがとう」

「何が?」

「朝のこと。あと、今も」

「何もしてねえよ」

「はは、だって僕、偉そうなこと言ったけど、どうやって君とふたりになればいいのかもわからない」

廊下を歩く足音は規則正しくジャンについてくる。どう応えればいいのかわからず、少しだけ速度を緩めた。

食堂には誰もいなかった。ジャンを追い越していったアルミンがふたり分の水を取ってきて、ジャンに渡す。わずかな火しかない食堂でアルミンと並んで座っているのは非日常で、話が聞きたいと言うがジャンは何を話せばいいのかわからなかった。

「……えーっと……ジャンは休みの日、何してるの?」

「はぁ?」

「あっ、いや、聞かれたくなったらごめん!」

「いや、別に。街に出てぶらついたり、マルコと勉強してるぐらいだ。何で?」

「うん……休みの日は、僕もエレンたちと過ごすことが多くて、君の姿をあまり見かけないから」

「休みまでエレンの顔見てられっか」

「ん、そうだよね」

「どうせお前はエレンの味方だろ」

「うーん、エレンの態度には、賛成しかねるところは多いけど」

「ま、あいつがどこで死のうがオレには関係ないけどな」

「……僕も?」

「……」

「うっ、嘘!忘れて!」

アルミンは顔を覆ってうつむいた。その耳が赤いことに気づいてしまって、ジャンまで恥ずかしくなる。恋人ならば言うべきことはひとつだろうが、ジャンには嘘でも、嘘だからこそ、歯の浮くようなセリフが言えるはずがなかった。

「あ〜……まあ、お前はあいつより頭いいから大丈夫じゃないか?」

「……そうかな?」

「多分な」

「……ありがと」

手を下ろしたアルミンは横目でジャンを見て、すぐに水を飲んで口を塞いだ。

こんなのがいいという女もいるだろうに。ジャンなんかを好きになってしまったアルミンに同情さえ覚えて、気の毒に思う。この賢い頭は、誤作動することもあるらしい。

「……お前、オレのどこがいいの」

「えっ!何!?」

「好きなんだろ」

「えっ……言わなきゃだめ?」

「いや、どうでもいいけど」

「……じゃあ、言わない。はー、……そろそろ戻ろうか」

アルミンが立ち上がったのに合わせてジャンも席を立った。

部屋までの廊下をたどりながら、アルミンは彼にしては不明瞭に言葉を零す。

「ふたりきりって、思ってたよりどきどきする。恋は大変だな」

まるで他人事のような口振りだ。ジャンは何も言わなくて、アルミンももう何も言わなかった。恋人のふりをひと月もできる気がしなくて、ジャンは手持ちぶさたに頭をかいた。

「なあ、なんで今月なんだ?」

どうにかひねって言葉を出せば、アルミンは驚いたようにジャンを見る。我ながらつまらないことを聞いた、と眉を寄せたが、アルミンは静かに唇に笑みを乗せた。

「二月が一番、短いから」
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