言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'01.25.Sat
大抵は髪を褒めておく。毎日会うなら変わったことにも気づいてやる。あとは目が大きいとか唇の形がきれいだとか、ネイルやデコレーションされたアイテムでもいい。褒められて嫌な気になるタイプなら、それはジャンとは合わないだけだ。
「髪染めた?」
「わかる?」
「ちょっと赤っぽくなったな。いいじゃん、似合うぜ」
ジャンが褒めると向かいに座った彼女は笑った。わかんねえよ、とぼやく隣の男友達に、だからあんたはモテないの、と返すのも上機嫌だ。空き時間を作るのが嫌で適当に入れた授業で知り合った友人たちは、普段一緒に過ごす友人とはまた違った気安さがある。それはある意味では飾らなくてもよくて、ある意味では自分を好きに偽ることができるからかもしれない。
「それにしても、ジャンがいてくれて助かったな。グループ発表って言われてどうなるかと思ったけど」
「ほんと。ジャンがまとめてくれたお陰だよ」
「お前らがサボり過ぎなんだよ」
わざと露骨に顔をしかめて笑いあう。
年度末、試験の代わりのグループ発表があった。適当に割り振られた三人の班は、ジャンの知らないふたりだったが、人見知りをする質でもないのでそれなりにこなすことができた。ただ、資料作成の都合で交換した連絡先は、今日の打ち上げと称した飲み会以降には使われなくなるだろう。
間もなく頼んだ一杯目の飲み物が運ばれてきた。それぞれ手に取って、お約束の合図でグラスを鳴らす。
「「乾杯!」」
ジャンは酒に弱いわけではないが決して強くはない。続けて飲めば酔いも回る。かといってそれで大失敗したことがあるわけでもないので、今日も大して押さえることなく何も気にせず飲んでいた。
ふと、追加の酒を探してメニューを辿る指先に目が行った。女らしい丸みを帯びた指、その爪の先は淡い水色を基調に彩られている。手を伸ばしてそれを取ると、彼女はびくりと顔を上げてジャンを見た。その頬がほのかに赤いのは、アルコールのせいだけだろうか。
「ジャン?」
「きれいだなと思って」
「あ、うん、ありがとう」
「こういうのって幾らぐらいすんの。あ、下世話な話でごめんな」
「そんなに高くないよ」
半ば聞かないまま彼女の話に相づちを打ち、ジャンが思い出していたのはミカサのことだった。ずっと片思いをしている相手への気持ちは、彼女に恋人ができても尚、風化することなくジャンを苛む。不治の病とはよく言った。この柔らかい手よりはもう少し筋張ったミカサの手の感触を、ジャンは知らない。グラデーションにそって爪をなぞる。
ミカサの桜色の小さな爪を思い出す。彼女がとても丁寧に、薄くベージュのマニキュアを塗っていることを、あの無粋な彼氏様は知っているのだろうか。自分の手が女らしくないのを気にして、せめて少しでも美しくあろうとしているのは、全てひとりの男に向けられた思いの証拠だ。
「でも男の人って、ネイル嫌いな人多くない?」
「まぁ、オレも派手すぎるのはどうかと思うけど。かわいいよ、似合ってる」
指の腹を合わせる。それを滑らせて節を数え、水掻きを爪の先でくすぐる。目の前の彼女が唇を噛んだ。
ずっと触ったり甘えるようなことを言ったりしていた。頭のどこかではひどく冷静な自分が見下していた。気まずげなもうひとりの班員とはさっさと別れて、酔いざましにひと駅歩くと言う彼女を送ると言い張って一緒に歩いた。
絡めた指先はあたたかい。ジャンの話に相づちを打ち、ときには大袈裟なほどリアクションをする彼女に合わせてジャンも道化た。
誰かと手をつないで夜道を歩いて、酔いに任せて言葉を選ぶ。これはただの道化だ。
きらきらとしたアイシャドウの光るまぶたが持ち上がって、まつげを揺らしてジャンを見上げる。甘ったるい視線をもらうことにはすっかり慣れてしまって、ジャンは何も感じない。
こんなにも、簡単なのに、どうして一番欲しいたったひとりはジャンを見てもくれないのだろう。
もうジャンからは使うことのない連絡先からは、もしかしたら連絡が来るかもしれない。それを受けたときに気が向けば、二度目があるかもしれない。それはないだろうとどこかで思いながら。
ミカサだってどこにでもいる女の子のはずなのに。そんなことを思いながら、ふっくらとあたたかい女の手をもてあそぶ。
「髪染めた?」
「わかる?」
「ちょっと赤っぽくなったな。いいじゃん、似合うぜ」
ジャンが褒めると向かいに座った彼女は笑った。わかんねえよ、とぼやく隣の男友達に、だからあんたはモテないの、と返すのも上機嫌だ。空き時間を作るのが嫌で適当に入れた授業で知り合った友人たちは、普段一緒に過ごす友人とはまた違った気安さがある。それはある意味では飾らなくてもよくて、ある意味では自分を好きに偽ることができるからかもしれない。
「それにしても、ジャンがいてくれて助かったな。グループ発表って言われてどうなるかと思ったけど」
「ほんと。ジャンがまとめてくれたお陰だよ」
「お前らがサボり過ぎなんだよ」
わざと露骨に顔をしかめて笑いあう。
年度末、試験の代わりのグループ発表があった。適当に割り振られた三人の班は、ジャンの知らないふたりだったが、人見知りをする質でもないのでそれなりにこなすことができた。ただ、資料作成の都合で交換した連絡先は、今日の打ち上げと称した飲み会以降には使われなくなるだろう。
間もなく頼んだ一杯目の飲み物が運ばれてきた。それぞれ手に取って、お約束の合図でグラスを鳴らす。
「「乾杯!」」
ジャンは酒に弱いわけではないが決して強くはない。続けて飲めば酔いも回る。かといってそれで大失敗したことがあるわけでもないので、今日も大して押さえることなく何も気にせず飲んでいた。
ふと、追加の酒を探してメニューを辿る指先に目が行った。女らしい丸みを帯びた指、その爪の先は淡い水色を基調に彩られている。手を伸ばしてそれを取ると、彼女はびくりと顔を上げてジャンを見た。その頬がほのかに赤いのは、アルコールのせいだけだろうか。
「ジャン?」
「きれいだなと思って」
「あ、うん、ありがとう」
「こういうのって幾らぐらいすんの。あ、下世話な話でごめんな」
「そんなに高くないよ」
半ば聞かないまま彼女の話に相づちを打ち、ジャンが思い出していたのはミカサのことだった。ずっと片思いをしている相手への気持ちは、彼女に恋人ができても尚、風化することなくジャンを苛む。不治の病とはよく言った。この柔らかい手よりはもう少し筋張ったミカサの手の感触を、ジャンは知らない。グラデーションにそって爪をなぞる。
ミカサの桜色の小さな爪を思い出す。彼女がとても丁寧に、薄くベージュのマニキュアを塗っていることを、あの無粋な彼氏様は知っているのだろうか。自分の手が女らしくないのを気にして、せめて少しでも美しくあろうとしているのは、全てひとりの男に向けられた思いの証拠だ。
「でも男の人って、ネイル嫌いな人多くない?」
「まぁ、オレも派手すぎるのはどうかと思うけど。かわいいよ、似合ってる」
指の腹を合わせる。それを滑らせて節を数え、水掻きを爪の先でくすぐる。目の前の彼女が唇を噛んだ。
ずっと触ったり甘えるようなことを言ったりしていた。頭のどこかではひどく冷静な自分が見下していた。気まずげなもうひとりの班員とはさっさと別れて、酔いざましにひと駅歩くと言う彼女を送ると言い張って一緒に歩いた。
絡めた指先はあたたかい。ジャンの話に相づちを打ち、ときには大袈裟なほどリアクションをする彼女に合わせてジャンも道化た。
誰かと手をつないで夜道を歩いて、酔いに任せて言葉を選ぶ。これはただの道化だ。
きらきらとしたアイシャドウの光るまぶたが持ち上がって、まつげを揺らしてジャンを見上げる。甘ったるい視線をもらうことにはすっかり慣れてしまって、ジャンは何も感じない。
こんなにも、簡単なのに、どうして一番欲しいたったひとりはジャンを見てもくれないのだろう。
もうジャンからは使うことのない連絡先からは、もしかしたら連絡が来るかもしれない。それを受けたときに気が向けば、二度目があるかもしれない。それはないだろうとどこかで思いながら。
ミカサだってどこにでもいる女の子のはずなのに。そんなことを思いながら、ふっくらとあたたかい女の手をもてあそぶ。
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