言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'01.31.Fri
海はずっと静かだった。アルミンの涙は波のように引いては流れ、ジャンは困ったままずっとそばにいた。
誰かが砂を蹴って走ってくる。それを意識したときにはもう、その足音はアルミンのそばに近づいていた。
「アルミン!」
父親の声にアルミンは飛び上がった。アルミンが泣きっ面のまま顔を上げると、彼は力強くアルミンを抱きしめる。
「よかった……」
「……お父さん?なんで……」
「それはこっちのセリフだよ!朝起きていなかったら心配するだろう!どうしてひとりでこんなところにきたりしたんだ」
「だって、ジャンが」
「ジャン?」
アルミンが思わず口にすると、ジャンが焦って黙るように唇の前で指を立てる。はっと口を閉じるが、ジャンの声は父には聞こえないことに気づいて少しおかしくなった。
「アルミン、君は……思い出したのか?」
「ごめんなさい!あの、黙って家を出て、心配かけて……」
「ああ……」
父が落胆を見せた気がしてアルミンは首を傾げた。父は誤魔化すようにアルミンの肩を抱き寄せる。ふと見ればジャンもまた驚いた顔をしていて、アルミンは父と彼を見比べた。
「……アルミン、ジャンの名前をどこで聞いたの?」
「えっ」
「さっきジャンと言ったね。それは、誰のこと?」
アルミンは困って、ジャンを見ようとしたが父親はしっかりアルミンの目をのぞき込んでいた。父のこんな真剣な目は見たことがない。あまり嘘の得意ではないアルミンは誤魔化しきれる気もしなかった。何より、この口振りでは、父もジャンを知っているかのようだ。
「お……お父さん、ジャンって、誰?」
「……いや、知らないならいいんだ」
「ジャンって、調査兵団の人?」
父がはっと息をつめた。アルミンがジャンを見ると父も振り返ったが、やはり驚いた顔のジャンのことは見えていないようだ。ジャンは何も言わず父を見ている。
「あの……あのね、お父さん、そこに幽霊がいるんだ。名前はね、ジャンっていうんだって。エレンがお祭りで着てたのと同じ服なんだ」
アルミン、とジャンが止めようとしたが、父は顔を上げてジャンを探している。
「ジャン?」
父に名を呼ばれてジャンは肩を揺らした。動揺を隠せない視線がさまよう。
「……アルミン、ジャンはやっぱり、調査兵団なのか?」
「……うん。壁の外で巨人と戦ったんだって。海が見たいって言ってて、それで、僕」
「ジャン」
肩に添えられた父の手が震えていた。彼の目に涙が浮かび、アルミンは驚いて息を飲む。
「ジャン!君はどうして調査兵団を選んだんだ!昔の文献を見て驚いた、君の名前が調査兵団に入ってて。ミスだと思ったんだ、だからずっと調べ続けた。なあ、ジャン、君を殺したのはオレか!?」
父の悲痛な叫びにアルミンはただ呆然としていた。どうしていいのかわからずにジャンを見れば、やはり今にも泣きそうに顔をゆがめている。しかしそれはどこか笑みにも似て、アルミンにはそれがどういう感情なのかわからない。静かに肩を落とし、ジャンは呆れたように笑う。
「アルミン、違うって言ってやってくれ。オレは自分で選んだ。お前が思ってるほどお利口さんじゃない」
「……お父さん、あのね、ジャンが違うって。自分で決めたって」
「……本当か?」
「うん」
「ああ……」
泣き崩れるように父はアルミンを抱きしめた。アルミンはさっきまで自分が泣いていたことなど忘れて、父の広い背中に精一杯手を回す。
「馬鹿だなマルコ、お前、こんなに平和で、こんな子どもまでいてさ、そんなこと考えてたのかよ」
「……ジャンは、お父さんのこと知ってるの?」
「さあな」
ジャンはきっと泣きたいのだ。それでもただ眉間のしわが深くなるばかりで、どうしてだかアルミンの目に涙が浮かぶ。ただ、もうジャンに会えないのだとわかっていた。
「アルミン、お前が選んだことはいつもお前がちゃんと考えて選んだ道だった。マルコだって、オレだってそうだ。あのときこうしておけばよかったなんて、何度考えたって仕方ない。もしそれが間違いでも、自分の尻拭いをするのは自分だ。……オレ、お前を守って死ぬとは思ってなかったけどな」
「ジャン、何のこと?」
「立体軌道、お前に似合うと思うぜ。自由の翼もな」
――それきり、幽霊は海風にさらわれてしまった。
父に連れられて帰宅したアルミンは母親にも散々泣かれてしまった。どうやら子どもひとりでの遠出は随分目立っていたらしく、そのためすぐに見つかったらしい。
ひとしきり母親に怒られた後、父はアルミンを書斎に連れていった。そこで見せられたものは、触れば崩れてしまうのではないかと思うほど古い本だった。父が慎重にページをめくり、開いたページのある場所を指さす。それは何かの名簿であるようで、沢山の名前が並んでいる。父の指が示すのは、ジャン・キルシュタイン。
「アルミン、もし君が大人になって、また彼の名前を思い出したら、お父さんと話をしよう」
「……ジャンのことは、忘れないよ」
「……そうだね」
父はまた泣きそうになり、あたたかい手でアルミンを抱いた。
ジャン・キルシュタイン。それは幼い心に住み着いた幽霊の名だ。
誰かが砂を蹴って走ってくる。それを意識したときにはもう、その足音はアルミンのそばに近づいていた。
「アルミン!」
父親の声にアルミンは飛び上がった。アルミンが泣きっ面のまま顔を上げると、彼は力強くアルミンを抱きしめる。
「よかった……」
「……お父さん?なんで……」
「それはこっちのセリフだよ!朝起きていなかったら心配するだろう!どうしてひとりでこんなところにきたりしたんだ」
「だって、ジャンが」
「ジャン?」
アルミンが思わず口にすると、ジャンが焦って黙るように唇の前で指を立てる。はっと口を閉じるが、ジャンの声は父には聞こえないことに気づいて少しおかしくなった。
「アルミン、君は……思い出したのか?」
「ごめんなさい!あの、黙って家を出て、心配かけて……」
「ああ……」
父が落胆を見せた気がしてアルミンは首を傾げた。父は誤魔化すようにアルミンの肩を抱き寄せる。ふと見ればジャンもまた驚いた顔をしていて、アルミンは父と彼を見比べた。
「……アルミン、ジャンの名前をどこで聞いたの?」
「えっ」
「さっきジャンと言ったね。それは、誰のこと?」
アルミンは困って、ジャンを見ようとしたが父親はしっかりアルミンの目をのぞき込んでいた。父のこんな真剣な目は見たことがない。あまり嘘の得意ではないアルミンは誤魔化しきれる気もしなかった。何より、この口振りでは、父もジャンを知っているかのようだ。
「お……お父さん、ジャンって、誰?」
「……いや、知らないならいいんだ」
「ジャンって、調査兵団の人?」
父がはっと息をつめた。アルミンがジャンを見ると父も振り返ったが、やはり驚いた顔のジャンのことは見えていないようだ。ジャンは何も言わず父を見ている。
「あの……あのね、お父さん、そこに幽霊がいるんだ。名前はね、ジャンっていうんだって。エレンがお祭りで着てたのと同じ服なんだ」
アルミン、とジャンが止めようとしたが、父は顔を上げてジャンを探している。
「ジャン?」
父に名を呼ばれてジャンは肩を揺らした。動揺を隠せない視線がさまよう。
「……アルミン、ジャンはやっぱり、調査兵団なのか?」
「……うん。壁の外で巨人と戦ったんだって。海が見たいって言ってて、それで、僕」
「ジャン」
肩に添えられた父の手が震えていた。彼の目に涙が浮かび、アルミンは驚いて息を飲む。
「ジャン!君はどうして調査兵団を選んだんだ!昔の文献を見て驚いた、君の名前が調査兵団に入ってて。ミスだと思ったんだ、だからずっと調べ続けた。なあ、ジャン、君を殺したのはオレか!?」
父の悲痛な叫びにアルミンはただ呆然としていた。どうしていいのかわからずにジャンを見れば、やはり今にも泣きそうに顔をゆがめている。しかしそれはどこか笑みにも似て、アルミンにはそれがどういう感情なのかわからない。静かに肩を落とし、ジャンは呆れたように笑う。
「アルミン、違うって言ってやってくれ。オレは自分で選んだ。お前が思ってるほどお利口さんじゃない」
「……お父さん、あのね、ジャンが違うって。自分で決めたって」
「……本当か?」
「うん」
「ああ……」
泣き崩れるように父はアルミンを抱きしめた。アルミンはさっきまで自分が泣いていたことなど忘れて、父の広い背中に精一杯手を回す。
「馬鹿だなマルコ、お前、こんなに平和で、こんな子どもまでいてさ、そんなこと考えてたのかよ」
「……ジャンは、お父さんのこと知ってるの?」
「さあな」
ジャンはきっと泣きたいのだ。それでもただ眉間のしわが深くなるばかりで、どうしてだかアルミンの目に涙が浮かぶ。ただ、もうジャンに会えないのだとわかっていた。
「アルミン、お前が選んだことはいつもお前がちゃんと考えて選んだ道だった。マルコだって、オレだってそうだ。あのときこうしておけばよかったなんて、何度考えたって仕方ない。もしそれが間違いでも、自分の尻拭いをするのは自分だ。……オレ、お前を守って死ぬとは思ってなかったけどな」
「ジャン、何のこと?」
「立体軌道、お前に似合うと思うぜ。自由の翼もな」
――それきり、幽霊は海風にさらわれてしまった。
父に連れられて帰宅したアルミンは母親にも散々泣かれてしまった。どうやら子どもひとりでの遠出は随分目立っていたらしく、そのためすぐに見つかったらしい。
ひとしきり母親に怒られた後、父はアルミンを書斎に連れていった。そこで見せられたものは、触れば崩れてしまうのではないかと思うほど古い本だった。父が慎重にページをめくり、開いたページのある場所を指さす。それは何かの名簿であるようで、沢山の名前が並んでいる。父の指が示すのは、ジャン・キルシュタイン。
「アルミン、もし君が大人になって、また彼の名前を思い出したら、お父さんと話をしよう」
「……ジャンのことは、忘れないよ」
「……そうだね」
父はまた泣きそうになり、あたたかい手でアルミンを抱いた。
ジャン・キルシュタイン。それは幼い心に住み着いた幽霊の名だ。
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