言い訳置き場
言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。
2014'01.28.Tue
携帯の着信ランプに気がついたのは会議が終わった後だった。メッセージを送ってきたのはアルミンだ。考えてみれば一緒に暮らすようになってから、彼から連絡がくることは意外とない。大体のことは家にいるうちに口で伝えられるので、連絡があるとすれば急ぎだろうか。少し焦ってメッセージを開けば、ディスプレイに浮かぶのは情けない表情の絵文字だ。
『今日の帰り遅くなりますか?』
『鍵忘れて家には入れないので、駅前のコーヒーショップにいます。帰ったら教えてください』
どこかぎこちなさを感じる文面に思わず頬が緩んだ。口は達者である割に文章を書くのは苦手だというアルミンは、メールではなぜかいつも敬語になる。ついでに今朝いつもより早く家を出ると言っていたくせに寝坊して、寝癖をつけたまま飛び出していったことを思い出し、ジャンは笑わないように唇を噛んだ。
一緒に暮らすということに、まったく不安がなかったわけではない。つきあいは長く、お互いの性格や趣味を理解しているつもりではあっても、同じ家で過ごすとなればまた別の一面を見ることもあるだろう。それに幻滅することだって、あり得ない話ではない。
実際、アルミンはジャンが思っていたよりも遙かにだらしない男だった。いつも幼馴染みの世話を焼いている姿を見ていたのでしっかりしているのだと思っていたが、あれは自分のこととなるととんと無頓着になる。同居当初はがんばっていたようだが、少し気が抜けたときにジャンが手を出したせいか、取りつくろうのはすっかりやめてしまったらしい。
とはいえ、アルミンもジャンがそれを嫌がっていないことがわかるからそうしているのだ。悔しいかな、惚れた弱みとでもいうのか、アルミン以外であれば容赦なく怒鳴りつけるだろう。
メッセージが送られたのは一時間も前だったが、読書家である彼はどうせ暇つぶしになる本の一冊や二冊は持ち歩いているはずだ。それでもジャンはさっさと仕事を片づける。それを先輩にめざとく見つけられた。
「あれ、残業するって言ってなかった?」
「言ってないですよ。歯医者予約してるんで帰ります」
かわいい恋人のかわいい失敗を誰かに教えてやるほど、ジャンの心は広くなかった。
急いで向かったコーヒーショップの一番奥で、アルミンはソファーに埋もれるように小さくなって本を読んでいた。今日のお供は趣味ではなく商売道具なのか、テーブルには他にも何冊か本が積まれ、ノートと筆記用具も広げられている。テーブルの端に追いやられたトレイを見て、ジャンは思わず声を上げた。
「あっ、お前ケーキ食ったな!?」
「わっ!」
ジャンの声で気づいたアルミンは慌てて本を閉じた。ジャンを見上げてぱっと明るく笑ったのを見て一瞬許しそうになるが、ジャンは口元を引き締めて、コートも脱がず正面に座る。
「飯の前に食うなよ!」
「お腹すいたんだもん」
「もうお前の晩飯は知らねえ」
「今日なぁに?」
「牛丼のつもりだったけど知らねえ」
「食べる!」
「絶対全部食えねぇんだろ!いつも子どもみたいなことしやがって」
ジャンは怒ってみせるが、アルミンは気にせずけらけら笑っていた。ジャンが文句を言いながら食事を作ることなど、アルミンにとってはもう「いつものこと」なのだろう。
「ほら、帰るから片づけろ」
「はーい」
ジャンが完全に折れたこともすっかりお見通しで、アルミンは機嫌よくテキパキと荷物を片づけた。普段からこうであればどれほど楽か、と思わず思ったが、そうなると少し物足りなくなるのだろう。
何も買わずに出るのも味気なく、ジャンはあたたかいコーヒーを買って店を出た。飲みながら帰るつもりがいつの間にかアルミンの手に移り、彼の手をあたためるカイロになってしまっている。体を縮めて冬の夜風に身震いするアルミンを見るとあとで冷めたコーヒーを飲むぐらいはどうでもよく思えた。我ながらアルミンに対して甘すぎると思わないでもない。しかし彼がここまで甘えるのはジャンだけだと気づいてしまい、それが嬉しくない男がいるだろうか。
「あっ、肉まん……」
「はいはい帰るぞ」
コンビニの明かりに誘われそうになるアルミンを捕まえる。甘いと言ってもすべてを許すわけではない。
「……あ、オリオン座だ」
空を見上げたアルミンが呟いた。続いてジャンも顔を上げたが、とっさに星座の形が浮かばない。しかし今日は天気も良く、澄んだ冬の寒さは星をよく見せていた。見上げながら吐く息は視界を白く横切る。
「……オリオンは、月の女神のアルテミスと恋に落ちた男の人なんだ」
「へえ」
「だけど周りに反対されて、騙されたアルテミスが動物と間違えてオリオンを弓で殺してしまって」
「一気に物騒になったな」
「神話の神様たちって悲しい恋愛多いんだよね。僕は神様じゃなくてよかったな」
アルミンが手を伸ばし、ジャンのコートのポケットにひっかけた。今更に思えるほど控えめな仕草に、弄ばれているのではないかと思ってしまう。
「周りの友達もみんな応援してくれてさ、こうしてジャンも一緒にいてくれるから、僕は贅沢すぎるほど幸せだな」
ジャンを見上げて笑うアルミンに驚かされた。時々こうしてひとりだけで納得しているからずるいのだ。静かに息を吐き、アルミンの手をポケットから払ってその手を取る。コーヒーのお陰であたたまった手は少しだけ躊躇ったようだったが、緩く握り返した。
「当たり前だ。こんな贅沢そうできるもんじゃねえぞ」
「……やっぱり今日は僕がご飯作ろうかな」
「いつになったら食えるのかわからないからやめてくれ」
「ジャンも僕を甘やかしすぎだなぁ」
ふたりで歩く帰り道はどこか少し懐かしい。変わらないつもりでも、生活が変わるとできなくなることはあるのだと実感した。アルミンは上機嫌で夜空を見上げている。
「……カニ食べたいな〜」
「……どういう連想かは聞かねえが、……また鍋でもするか」
「やった〜」
へらへらと気の抜けた笑みを浮かべるアルミンにつられて頬を緩めた。
『今日の帰り遅くなりますか?』
『鍵忘れて家には入れないので、駅前のコーヒーショップにいます。帰ったら教えてください』
どこかぎこちなさを感じる文面に思わず頬が緩んだ。口は達者である割に文章を書くのは苦手だというアルミンは、メールではなぜかいつも敬語になる。ついでに今朝いつもより早く家を出ると言っていたくせに寝坊して、寝癖をつけたまま飛び出していったことを思い出し、ジャンは笑わないように唇を噛んだ。
一緒に暮らすということに、まったく不安がなかったわけではない。つきあいは長く、お互いの性格や趣味を理解しているつもりではあっても、同じ家で過ごすとなればまた別の一面を見ることもあるだろう。それに幻滅することだって、あり得ない話ではない。
実際、アルミンはジャンが思っていたよりも遙かにだらしない男だった。いつも幼馴染みの世話を焼いている姿を見ていたのでしっかりしているのだと思っていたが、あれは自分のこととなるととんと無頓着になる。同居当初はがんばっていたようだが、少し気が抜けたときにジャンが手を出したせいか、取りつくろうのはすっかりやめてしまったらしい。
とはいえ、アルミンもジャンがそれを嫌がっていないことがわかるからそうしているのだ。悔しいかな、惚れた弱みとでもいうのか、アルミン以外であれば容赦なく怒鳴りつけるだろう。
メッセージが送られたのは一時間も前だったが、読書家である彼はどうせ暇つぶしになる本の一冊や二冊は持ち歩いているはずだ。それでもジャンはさっさと仕事を片づける。それを先輩にめざとく見つけられた。
「あれ、残業するって言ってなかった?」
「言ってないですよ。歯医者予約してるんで帰ります」
かわいい恋人のかわいい失敗を誰かに教えてやるほど、ジャンの心は広くなかった。
急いで向かったコーヒーショップの一番奥で、アルミンはソファーに埋もれるように小さくなって本を読んでいた。今日のお供は趣味ではなく商売道具なのか、テーブルには他にも何冊か本が積まれ、ノートと筆記用具も広げられている。テーブルの端に追いやられたトレイを見て、ジャンは思わず声を上げた。
「あっ、お前ケーキ食ったな!?」
「わっ!」
ジャンの声で気づいたアルミンは慌てて本を閉じた。ジャンを見上げてぱっと明るく笑ったのを見て一瞬許しそうになるが、ジャンは口元を引き締めて、コートも脱がず正面に座る。
「飯の前に食うなよ!」
「お腹すいたんだもん」
「もうお前の晩飯は知らねえ」
「今日なぁに?」
「牛丼のつもりだったけど知らねえ」
「食べる!」
「絶対全部食えねぇんだろ!いつも子どもみたいなことしやがって」
ジャンは怒ってみせるが、アルミンは気にせずけらけら笑っていた。ジャンが文句を言いながら食事を作ることなど、アルミンにとってはもう「いつものこと」なのだろう。
「ほら、帰るから片づけろ」
「はーい」
ジャンが完全に折れたこともすっかりお見通しで、アルミンは機嫌よくテキパキと荷物を片づけた。普段からこうであればどれほど楽か、と思わず思ったが、そうなると少し物足りなくなるのだろう。
何も買わずに出るのも味気なく、ジャンはあたたかいコーヒーを買って店を出た。飲みながら帰るつもりがいつの間にかアルミンの手に移り、彼の手をあたためるカイロになってしまっている。体を縮めて冬の夜風に身震いするアルミンを見るとあとで冷めたコーヒーを飲むぐらいはどうでもよく思えた。我ながらアルミンに対して甘すぎると思わないでもない。しかし彼がここまで甘えるのはジャンだけだと気づいてしまい、それが嬉しくない男がいるだろうか。
「あっ、肉まん……」
「はいはい帰るぞ」
コンビニの明かりに誘われそうになるアルミンを捕まえる。甘いと言ってもすべてを許すわけではない。
「……あ、オリオン座だ」
空を見上げたアルミンが呟いた。続いてジャンも顔を上げたが、とっさに星座の形が浮かばない。しかし今日は天気も良く、澄んだ冬の寒さは星をよく見せていた。見上げながら吐く息は視界を白く横切る。
「……オリオンは、月の女神のアルテミスと恋に落ちた男の人なんだ」
「へえ」
「だけど周りに反対されて、騙されたアルテミスが動物と間違えてオリオンを弓で殺してしまって」
「一気に物騒になったな」
「神話の神様たちって悲しい恋愛多いんだよね。僕は神様じゃなくてよかったな」
アルミンが手を伸ばし、ジャンのコートのポケットにひっかけた。今更に思えるほど控えめな仕草に、弄ばれているのではないかと思ってしまう。
「周りの友達もみんな応援してくれてさ、こうしてジャンも一緒にいてくれるから、僕は贅沢すぎるほど幸せだな」
ジャンを見上げて笑うアルミンに驚かされた。時々こうしてひとりだけで納得しているからずるいのだ。静かに息を吐き、アルミンの手をポケットから払ってその手を取る。コーヒーのお陰であたたまった手は少しだけ躊躇ったようだったが、緩く握り返した。
「当たり前だ。こんな贅沢そうできるもんじゃねえぞ」
「……やっぱり今日は僕がご飯作ろうかな」
「いつになったら食えるのかわからないからやめてくれ」
「ジャンも僕を甘やかしすぎだなぁ」
ふたりで歩く帰り道はどこか少し懐かしい。変わらないつもりでも、生活が変わるとできなくなることはあるのだと実感した。アルミンは上機嫌で夜空を見上げている。
「……カニ食べたいな〜」
「……どういう連想かは聞かねえが、……また鍋でもするか」
「やった〜」
へらへらと気の抜けた笑みを浮かべるアルミンにつられて頬を緩めた。
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