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言い訳置き場

言い訳を書いていきます。誤字の報告などあればありがたいです。 ※唐突にみゅネタややぎゅにおの外の人のかけ算が混ざるのでご注意下さい。 日常はリンクのブログから。

2024'05.18.Sat
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2012'09.15.Sat
途中までだけどデータが出てきた。
補足として
謙也と光は結婚。息子(敦士)あり。






「よし!終わります!帰ります!」
「……生徒よりはよ帰りたがる教師ってなんなん?」
「今更やろ」
残り3分が待てない講師が嫌いじゃないから、この塾に通っているのだ。塾講師である前に愛妻家である忍足先生は挨拶もそこそこに教室を飛び出していく。もうそんな姿に慣れている生徒はのんびりと帰り支度を始めた。あの講師――否、塾長が受け入れられない者はここをやめていく。講師としては優秀なのに、彼の頭の大半は愛する妻が占めていて、おまけに行動原理もほとんどが妻に関係がある。そんなんだから嫁が少し甘えれば授業中だろうが飛んで帰ることもあるし、問題を解きながら不意に嫁自慢を始めたりすることもあった。そもそもこの塾経営を始めたのも嫁の為なのだから、当然と言えば当然だ。
「最近光さん来ぃひんな」
「その代わり忍足先生が飛んで帰るんやろ。忍足先生の足が速いのは奥さんのためやねんて」
「何それ」
「なんか昔から足速かったらしいんやけど、奥さんと会うて自分の足が速いのは1秒でも速く会いに行くためやって思ったんやって」
「うわぁ……」
「車使ってズルしとるけどな」
笑っていると廊下がざわついてくる。何事かと顔を出せば、他の講師が走っていてただならぬ様子だ。
「先生、どうしたん?」
「忍足先生が階段から落ちた!」
「マジで?焦りすぎやろあの人」
「あほか、気ィ失っとるんや!洒落にならん!」
「えっ」
慌てて講師に着いて控え室へ走る。他の講師にソファーに寝かされた塾長はまるで寝ているようだが、部屋の緊張感に萎縮する。
「ヤバい、起きひん」
「救急車は?」
「呼んだ」
「うっ……嘘やぁっ!忍足先生っ!」
思わず駆け寄った生徒に慌てて講師は引き剥がす。しかしそれが効果をなしたのか、謙也が唸って目を開けた。
「先生!」
「あ~……何これ」
「よかったぁ……」
「もー、忍足先生階段から落ちてんで!気失っとったんや!」
「マジで?うわ、ごっついこぶできとる」
「ほんま焦りすぎやで」
「ほんまやなぁ。俺何でそんな焦っとったんやっけ」
「何でて、どうせはよ嫁さんに会いたかっただけやろ。いつものことやん」
「あ、救急車呼んでもたのどうすんの?」
「救急車ぁ?うわ、やめてや、ご近所に迷惑やん」
そう言っているうちに救急車の音が近づいてきて、謙也は溜息をついて立ち上がる。ただでさえうちの塾、講師の格好がフリーダムすぎて評判微妙やのに。金髪のあんたが言うか、塾長の愚痴につっこみながらも、どこも悪くなさそうで安心する。生徒たちを帰し、玄関で救急車を迎えるべく外へ出た。
「あ、そういやさっきの嫁って何?」
「何て、先生いっつも嫁さんに会うためダッシュで帰るやん。今まで階段から落ちんかった方が不思議やわ」
「嫁……?」
「……忍足先生?」
「嫁って……俺……おったっけ」
「……え?」
きょとんとする謙也の表情は嘘をついているように見えなくて、講師たちは立ち尽くす。どうしたん?と聞く様は普段の塾長に違いないのに。
塾の前に止まった救急車に、問答無用で塾長を押し込んだのは言うまでもなかった。
 

*
 

「……へえ。はい、そうですか。……いや、わかりましたから。ほんまなんでしょ。はいはい。頼んます。じゃ」
つまらなさそうに抑揚もなく声を出しきり、光は電話を切った。しかめっ面で敦士を振り返り、しばらくじっと見てから溜息をつく。
「しょーもな」
「どうしたん?」
「今から帰ってくる自分の父親に聞け」
はき捨てるように言って母親は台所へ戻った。今日は特に機嫌が悪いこともなかったが、さっきの電話が母親の気分を害したらしい。誰からだったのだろう。父親からならどんなにウザくても、こんな風に静かに怒ることは滅多にない。豚汁の鍋をかき回す姿は妙に姿勢が良くて、今下手に絡むとすべてを放棄しそうな気がした。
間もなく玄関のドアが開く音がして、動く気のなさそうな母親を横目に敦士が出迎えに行く。息子を見つけてただいま、と挨拶をする父親に違和感を覚えて、付き添うように入ってきた父親の友人を見た。
「敦士、財前おるか」
「……台所で、飯作っとる……なんで蔵ノ介くんがおんの?」
「なんか知らんけどついてくるってゆうて。聞ーてや敦士、俺今日階段からおっこちて気ィ失ってん」
「えっ!」
「初めて救急車乗ったわ」
「そ、それ大丈夫なん!?」
「なんも。こぶこさえただけ」
「謙也!」
「ああ、ちゃうか。なんか俺、記憶喪失らしいで」
「は……?」
「せやんなー、敦士がおるっちゅーことは母親がおるってことやもんなぁ……」
「おとん何言うてんの!?もっかい病院行ってきいや!」
「もうめちゃくちゃ検査受けさせられたっちゅーねん」
のんきに靴を脱いでへらへら笑う父親に脱力する。こんな父親は見たことがない。白石が部屋に入ったと思えば謙也を引きずるように台所へ向かう。慌てて追いかけるとそこでは母親と父親が対峙していて、無表情な母となぜかにこにこしている父に怖くなる。なんだ、これは。
「……こいつがお前の嫁さんや、世界で一番大切な嫁さんや!よう見て思い出せ!」
「嫁!?えっ、なんてゆうたっけ、光、やった?この人が俺の奥さんなん!?」
「そうや!」
「いや……男やん。ほんまからかわんといて」
「白石さん、もうええっすわ」
「財前」
「ええです。別に、忘れとるなら忘れとるで。わざわざ送ってもうてすんません」
「財前、それ本気で言うとるんか」
「……そいつが、忍足謙也なんやろ。そんなアホがふたりもおってたまるか、正真正銘の忍足謙也や。そんなら、その人の帰るうちはここだけやん。病人追い出したりしませんよ」
「……謙也、ほんまに思い出されへんねやな?」
「……ああ」
「……財前、ちょっとおいで」
白石に呼ばれて財前はコンロの火を止めた。謙也を横目に白石のそばへ行く。敦士が呆然とするのを謙也が困ったように見た。
「まいったな、俺ほんまに忘れとんの?」
「……嘘や……おとんがおかんのこと忘れるなんて……」
「敦士」
「嘘やろ!?ほんま笑えん冗談やめてや!?」
「いや……悪いけど」
「ありえへん……」
呆然とする息子を前に謙也は困って頭をかいた。その表情も仕草も、自分がよく知る父親と何も変わらない。いつも通りの父親だ。しかし同時に、こんな父親は有り得ない。母がいる前で母に背を向ける父親は、母が強制したのでなければ見られない姿だ。不安になって白石の話を聞いている母を見る。
「……せやし体はなんもないんやけど、記憶は……お前のこと以外にも忘れてることないか見とって。あと医者も定期的に来るようにって。後で影響出るかもしれんから、やって」
「はぁ、わかりました。」
「ほんまにわかっとるか?」
「わかってますよ。なんであんたがイライラしとんの」
「財前」
「あの人にとって俺が他人になった、ってことやろ?」
「ちゃう」
「なんで」
「ちゃうやろ!」
「……も、人の家庭の話やから、帰って。晩飯やから」
「財前、落ち着いてちゃんと考えや」
「……動揺しとるんはあんたやろ」
母親の態度はいつもと何も変わらない。変わらないはずがないからおかしいのだと気づいて、敦士はただ立ち尽くした。そんな敦士を気にしながらも、半ば光に追い出される形で白石は帰っていく。
「……あっくん、鍋にうどんぶっこんで」
「お、おかん」
「ちょおあちこち連絡せな。迷惑かけたやろからな」
「おかん」
「先食うといて」
「あ、俺するで」
「ええ。あんたは座っとけ」
鋭い光の声に謙也が硬直する。敦士も思わず体をかたくして、母親の視線に耐えた。
「敦士の飯がいい」
電話の子機を取り上げて光が部屋を出ていく。敦士の飯って、煮るだけやろ?ぽかんとする謙也を見ていると段々困惑よりも怒りが勝ってきた。
「ほんまに覚えてへんの?」
「敦士……お前もしつこいな。ちゅうか何あの態度、俺ら仲悪かったん?」
「……あんたが中学の時から愛しとった男やで!?自分なしで生活できんようにしてまで引き止めた!」
「何それ、意味わからん」
「ッ……もう知らん!」
台所へ戻った敦士は黙って夕食の続きを始める。謙也が溜息をついて着替えに行く。そんな態度にも腹が立って、苛立ちを誤魔化すように鍋をかき混ぜた。
 

*
 

「おはよー敦士」
「おはよ……おかんは?」
「まだ寝とんちゃう?」
「……ほな起きてきぃひんな」
「は?」
「起こす人おらんもんな!」
敦士の八つ当たりがわかって謙也は顔をしかめる。出した朝食も仏頂面で食べて、ろくに謙也の顔も見ずに出ていった。なんやねん、思わずぼやいて謙也の気分まで悪くなる。仕事に出る支度をしていると光が顔を出して、思わず身構えた。眠そうな表情にだらしない格好の、……「他人」が我が家にいるとしか思えない。
「お、おはよう」
「敦士は?」
「さぁ、洗面所ちゃう?」
「あ、おかんおはよう!」
「おはよう」
戻ってきた敦士はぱっと表情を明るくして光に近づく。そういえば敦士は自分より母親の方が好きだった、そんなことを思うが、それ以上のことが何も思い出せない。確かに敦士の母親はいる。だから自分にも好きになって結婚した人がいるはずだ。ぎゅっと母親を抱きしめる敦士に違和感はない。それなのに。
「あーせや、あっくん学校行ったら白石センセに謝っといてな。昨日はご迷惑おかけしましたって」
「う、うん」
「俺が言うたらまたうるさいからなぁ。ほな遅刻せんように学校行きや、俺も今日は出かけるし」
「ど、どこ行くん」
「実家。前から行くゆうとったやろ」
「あ、うん……帰ってくる、やんな?」
「当たり前や。他にどこに帰る家があんねん」
あきれた表情で敦士を見送り、光は洗面所へ向かう。……謙也を見もしなかった彼を、どうして妻と思えばいいのだろう。まともに話もしやしない。
「陰気なやつ!」
「せいぜい自分の趣味恨むんやな」
いつの間にか戻ってきた声に慌てて振り返る。つまらなさそうに眉をひそめた表情はただ謙也を見ているだけで、感情は何も読めない。
「えーっと、光くん?」
「……心配せんでも、そのうち出ていくわ」
「えっ」
「他人が自分ち入り込んどるのなんかきしょいやろ?俺かて嫌やわ」
「なっ、ん、思い出すかもしれんやん!」
「……お前の嫁は、それを待つほど優しくないで?」
 

*
 

「……お前それボケのつもりやったら命張ってんで?死ぬ気か」
「塾まで押し掛けてきてなんやそれ」
「……敦士大丈夫か?」「朝から不景気なツラして学校行ったで。ユウジ暇なん?」
仕事中に押し掛けてきた友人が昨日の白石とまったく同じで、心配してくれるのはありがたいが正直うっとうしい。さも謙也が悪いかのように言われるからかもしれない。
「俺、そんっなにあいつのこと好きやったん?めっちゃムカつくんやけど。俺ずっと睨まれとる」
「……ゆっとくけど、あいつ野放しにしたんお前やで。周りが止めるのも聞かんと甘やかして、ただでさえわがままやったのに手に負えなくさせたんやからな」
「……そうなん?」
「光にラケットより重いもん持たせんかったんはお前や。自分で塾立ち上げたんも立地こだわったんも全部光のためやん。それを何で忘れられんねん」
「……そんなこと言われたかて、知らんもんは知らん。知っとるふりなんかできひんし」
「……あかんかもな」
「何が」
「敦士なだめる心の準備でもしとき。もうお前の嫁は戻らんわ」
「……だってあいつ、旦那の心配なんかまったくせえへんで。なんであんなんが好きやったんか、わからん」
「それ中学んときからずっと周りが聞いとるわ」
「……俺、なんて?」
「『他の奴が好きになったら困るから教えへん!』って言うから、だぁれも知らん」
しょーもない最後やな、ユウジが立ち上がって荷物を手に取る。謙也が顔を上げると不機嫌な顔を向けてきた。
「思い出さん方が謙也は幸せかもな!」
「なんでユウジがキレんねん!」
「お前がおらんくなったら、光には何も残らんからや!」
言いたいことだけ言って帰っていくユウジに腹が立つ。ユウジがあんなに怒る理由も、言葉の意味もわからない。そこまで言うなら謙也と光がどんな関係だったのか、どんな出会いをしたのか、思い出すきっかけになるような話をしてくれた方がまだましだ。
塾の講師も光のことは知っているようで、自分がよほど普段と違うのか、生徒も含めて謙也を見る目がいつもと違う。受験生を不安にさせるのもよくないので仕方なしに早めに塾を出た。家に帰るとリビングのソファーで光と敦士が抱き合っていて、思わず鞄を落とす。その音で敦士が勢いよく顔を上げたが、謙也の表情を見て落胆した。
「な……何してん」
「あっくんがかわいそうやから慰めてます」
「かわいそうて」
「かわいそうやん」
敦士を撫でるその手つきも体勢も、とても親子だとは思えなかった。敦士は高校生だ、見た目だけなら大人と変わらない。恋人同士がするような抱擁は思わずどぎまぎするほどで、更に光が敦士の額にキスを落とすのでぎょっとする。
「今日はあっくんのご飯がええなぁ」
「……何食べたい?」
「肉ー」
「おかんも一緒に作って」
「何?今日は甘えたやなぁ」
「おかんから目ぇ離したくない」
「あ……敦士くん!?」
「……何」
「ちょ、ちょっと、こっち」
邪魔するなとばかりにこっちを睨む息子にひるんでしまう。それでも光に促され、敦士はしぶしぶ体を離した。まだ制服のままの敦士は父親に膨れっ面を向ける。
「何」
「おっ……おかん、やんな?」
「そうや」
「……え?」
「俺がおかんのこと大っ好きで、おとんに何か不都合なことあるか?ないやろ?」
「いや……だって……」
「あっくん、買いもん行こか。着替えてきぃ」
「うん」
敦士がリビングを出ていき、光がソファーから起きあがる。思わず視線を誘われてそっちを見た。なんすか、気のない声が届くのに緊張する。
「……今日、ユウジに怒られて」
「ふーん」
「……教えてくれん?俺と、お前のこと」
「嫌です」
「なんで……」
「時間の無駄」
「ッ……自分の旦那のことやろ?何でそんな態度なん?そんなんで思い出せるわけないやん!」
「誰が思い出せって言いました?」
「え……」
「あんた自分の立場わかってへんの?」
「立場……?」
「あんたは一番大事な男を俺から奪ったんやで。誰が愛想振りまくかっちゅー話や」
「……ひ」
「おかん!行こ!」
「男前が迎えに来たんで、ほな」
あっさりと謙也から視線を外し、光は敦士に呼ばれるまま部屋を出て行った。取り残された謙也の心臓は異常に脈打っている。奪った、だって?俺は俺のままなのに?楽しげに出ていく声は完全に謙也を受け入れる気がない。
「なんで~?」
住み慣れた自分の家なのに、この疎外感は何だろう。

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